とりあえずの後始末回。
◆ ◆ ◆
はぁ、と溜息。ただし、今回溜息を吐いたのは僕ではなく、ヒビキの方だ。
まあ、気持ちは分かる。さすがに話が荒唐無稽過ぎるので。
「前世の記憶、それに転生特典、か。……テンプレだよね。普通なら何かの冗談としか思えない話だけど」
ガタゴトと音を立てて走る電車の窓から、半壊した第三新東京市の風景が流れていく。いい加減SFじみている第三新東京市らしく様々な最新鋭のシステムが取り入れられているらしいが、そんな事情とは裏腹に、大雑把な構造は変わっていない電車の音は、前世紀と何一つ変わらない。
僕達以外の誰もいない車両の中、座席に二人並んで手を繋いで座り、僕とヒビキは電車の音の中に身を浸している。
「爆豪が土とガラスが混ざったミートペーストになったのは、夢でも幻覚でもないからな」
「……だよね」
そうして爆豪が死んでから、元の場所に戻って、普通の人間の振りをして、ヒビキと口裏を合わせた僕は、ネルフやストレイジの事情聴取を『よく分からない』『訳が分からない』の二言で乗り切った。まあ両組織もまさか大したバックもない普通の中学生が悪の巨人に変身していじめっ子を踏み潰した、などという真相に思い当たる事もなかったようで、事情聴取が終わったら特に疑いを掛けられる事もなく解放された。こういう時には、この世を支配する常識という絶対法則に感謝したいところだが、ともあれ。
死亡した中学生の父親とかいうネルフの警備部長から直々に繰り返し同じ話を聞かれたせいで随分と長引いたが、『どうしてカツキじゃなくてお前みたいなヤツが生き残ったんだ!?』などと質問された時に思わず失笑してしまったせいで一発殴られてしまい、周りにいた他のマトモな職員が制止してくれて、そこでようやく解散になってくれた。全く、親子揃って似た者同士のクズという事だな。解放してくれた他の職員は、普段は悪い人じゃないんだが、などと言っていたが、実害を受けた僕にとってはソイツと息子が人格者だろうが聖人だろうが知った事ではないし、むしろ悪のナントカ星人とかであった方が正義のヒーローに殺してもらえて無害化するから有難いくらいだ。
まあ、その辺の諸事情のおかげで事情聴取を終えた時にはもう五時になってしまったので、さっさと自宅である廃墟モドキのアパートへと帰る事にして。事情を説明するために、ヒビキも一緒だ。
「……ねえ、アカツキ。私を助けてくれた、って事でいいんだよね?」
繋いだ手が、ぎゅ、と握られる。不意に、ぽつり、とヒビキはそんな事を呟いた。
「まあ、そうなるかな。結果的には、というか、何というか……うん、普通に助けている、かな?」
欲得ずくとか、考えてる余裕もなかった。ヒビキが傷つくのが、ヒビキを傷つけられるのが許せなかった。まるで正義の味方みたいな言い分だ。僕には何一つ似合わないけど。
「ちょっとだけ格好よかったよ、アカツキ」
「…………そか」
ウルトラダークキラーに変身して、人間を踏み潰し、ウルトラマンと戦った。ある意味、全いじめられっ子の夢を叶えた、といえるだろうその犯行には、想像以上に現実感がなかった。いや……現実感というか、罪悪感とか、あるいは達成感とか、足りないのはそっちの方か。
まあ、それも仕方ない、か。巨大化して、自分から見れば小虫みたいにしか見えないサイズの相手を、大した苦労もなく踏み潰しただけなんだし。そりゃ、やってやった、とかそういう感覚がなくても仕方ない。
「でもまあ、それはそれとしてもこれで、これからは爆豪に殴られたり、金取られたり、とかそういう心配をする必要はなくなるな」
「そう、だね。よかった……って言うべきなのかな、この場合?」
少なくとも、生活が楽になる事には変わりない、か。なら、良かったのだろう。ここで“良かった”と結論付ける事は、つまり“殺して良かった”という意味になってしまうわけだが。
そこで反撃すれば、アイツらと同じ場所に堕ちる。正義の味方なら何の嫌味もなく当たり前のように口に出しそうな言葉だが。それは所詮被害を受けない人間の言葉だろう、と。被害を受けている人間はこう思うのだ、善悪とかどうでもいいから、とにかく助けてくれ、って。
助けてくれないなら、自分で身を守るしかない。ごくごく当たり前の理屈でしかない。だってヒーローが助けに来てくれないのだ。なら僕としては、殺して良かった、と結論付けるしかないわけで。だってほら、辛くて苦しいなら自分で一歩を踏み出すしかないんだろう? 踏み出したんだから、文句言うなよ。
復讐と破壊は何も生み出さない。だからどうした、僕は自衛がしたいのだ、生産性とか知らん。
はぁ、と溜息吐いて、外の景色を見る。車窓から見える風景も随分と寂しいものになってきた。次の終点駅で降車だ。建物も疎らになり、高さも低くなってきて、打ちっぱなしのコンクリートで塗り潰されたかのような無機質な灰色と、剥き出しの地面の褐色に支配された風景。
やがて、電車の速度に乗って流れていく第三新東京市の風景もゆっくりと減速していき、駅に到着した電車が停車する。僕はヒビキの手を引いて電車から降り、改札を抜けて外に出る。この辺りはひたすら広い。ところどころに置かれている廃墟のような団地と、建設途中で作業が中断された、大絶賛放置中の工事現場で構成された第三新東京市でも端の方。
こんな辺鄙な場所では、店なんて駅前のコンビニくらいだ。そこで夕食を調達して、ボロアパートへと戻ってくる。辺りはすっかり暗くなっていて、暗い紺色の宵闇が隙間なく空を覆っている。そんな中に佇むコンクリートのアパートには入居者自体がほとんどいない事もあって人の気配といえるものがなく、その気配は廃墟と大差ない。ピカピカの中学校やゴテゴテのネルフ本部と比べれば粗末にも程がある住居だが、それでも慣れた我が家である事には変わりない。
その階段を上りコンクリートの通路を抜けて、ドアの前で鍵を取り出す。そこでようやく、ずっと繋いでいた手が離れた。その喪失感を誤魔化しながら、ドアを開けた僕はヒビキと二人で部屋に入る。
「ただいま」
「……いや、ヒビキがそれを言うのか」
僕の住処なのだが。
「ふふ、いいじゃないか。……お帰り、アカツキ」
「ああ、ただいま」
するり、と僕より先に部屋に入ったヒビキは、僕を出迎えるようにそんな事を言う。まるで二人で住んでいるかのようなやり取りだが、意外なほどに違和感がない。電気を点けると暗い部屋を蛍光灯が照らし出す。ダークネスフィアの中とはあまりにも違う、ありきたりの安物家具があるだけの何の変哲もないただの部屋だが、女の子が一人いるだけでも随分と雰囲気が変わって感じられた。
「今日は仕方ないけど、できるだけちゃんとしたものを食べる事。栄養バランスとか、色々あるんだから」
「あー……うん、気を付ける」
「仕方ないな。じゃ、これからはたまに私が面倒を見てあげるよ。私はお姉ちゃんだからね」
買ってきたコンビニ弁当をレンジに入れて一定時間。ペットボトルのお茶と割り箸を並べてしまえば、レンジが止まるまで他にやる事はないので。
「……それで、アカツキはこれからどうするの?」
「どうする、っていうか、何というか。まあ、一応の戦う目的くらいはある、けど」
「そっか。聞かせて」
まあ、別にここまでくれば、隠す意味があるような事でもない、か。言っても問題はなし、と。
「人類補完計画の阻止」
「人類……補完?」
「下らない、セルフ文明自滅ゲームみたいな計画だよ。止めないと人類が滅んで人類社会も消えてなくなるからね。将来のためにも、妨害するしか選択肢がない」
宇宙から邪悪な意志を持った寄生体が侵略してきた、とかそういうわけでもないのに奇特な連中もいたものだ。まあ実際、あの世界全てが赤い海に呑み込まれて人類が消滅するあの滅亡エンドにどういう意味があるのか僕自身も分からないのだが、そこに意味があろうがなかろうが、あれが滅びであることに変わりはないだろう。
「ネルフとか、そういう人たちと協力するわけには行かないの?」
「そのネルフが敵だよ。黒幕はネルフの上位組織ゼーレ。ネルフは使徒殲滅という大義を隠れ蓑にした、人類補完計画の実行機関。ストレイジは……分からないね。もしかしたら目的は一緒なのかもしれないけど、今回の件で完全に敵に回したようなものだからね。期待しない方がいいと思うし、少なくとも僕は期待しない」
あのガチ殺し合いの空気から一定の信頼関係を構築して共闘に持っていくとか、零細オタで引き篭もりの、一介の不登校児でしかない僕に、そんなコミュ力、無いしね。最強の転生チートがあったとしても、それ以外のスペックは平凡以下だから、どうしようもない。力無き正義は無力、そして実行力が伴わない正論は無意味。要はそれだけの話だ。
「…………ごめん。それって、もしかしなくても私のせい、だよね」
「いや、それはない。もしあの場で君が助けてくれなくてもその内、最終的には僕の方が耐えられなくなって爆豪を殺していたと思うから。そう考えれば、今回の件は問題の解決が早まったって事だから、問題ないだろ」
早いか、遅いか。違いがそれだけなら、早い方がいい。結局はその程度の話。他人を守るために戦うのも、自分を守るために戦うのも、どちらにせよ降り掛かる理不尽を跳ね除けるという意味では何一つ変わりはしない。せいぜい、そこに格好いい大義名分がつくかどうか、その程度の差だ。
「……アカツキって、そうな風に考えるんだ。ネガティブなのか、ポジティブなのか分からないけど」
そこでレンジの加熱時間が過ぎた事を告げる電子音が鳴って、一旦話が中断される。とりあえずレンジの扉を開けて中身を出し、弁当のパッケージを開けて食事を始める。僕は唐揚げ弁当で、ヒビキはハンバーグ弁当、どちらも無難に一般的なメニューだ。
二人でコンビニ弁当を食べながら、使徒戦と人類補完計画を取り巻く現状を大雑把に説明し、その日のイベントは一通り終了となった。
◆ ◆ ◆
夜。
毛布の中から体を起こし、カーテンの合間から窓から外を覗けば、見えるのは昼間の破壊のせいでところどころ虫食い状態になった第三新東京市の夜景。見慣れた景色に空いた真っ黒な穴にはその穴の広さと同じだけの物的・人的被害があったはずだが、だというのにその実行犯である僕をして違和感以上のものを感じさせない。それがどうにも奇妙だった。
「はぁ……」
溜息。
すぐ隣、ベッドの上からはすやすやと穏やかな寝息が聞こえてくる。ごろり、と寝返りを打ったヒビキの綺麗な銀色の髪が乱れて、カーテンの隙間から細長く差し込む月光に反射して不規則なラインを描いていた。よく寝ているし、この様子ならすぐには起きないだろう。
スマホ画面の時刻表示を見れば、時刻は既に十二時を過ぎて、夜の一時になろうとしている。そのスマホを充電器のコードから外し、寝間着代わりのジャージのポケットに突っ込むと、僕はそのままドアを開けてアパートを出た。
コンクリートの廊下を辿ってアパートの側面に備え付けられている非常階段を上がり、そのまま屋上へと向かう。屋上の給水タンクの上に座って静かに僕を待っていた目的の相手は、屋上に現れた僕の姿に目を留めると、そのまま給水タンクを飛び降りる。
半ば重力を無視したかのようなゆったりとした速度で落下した彼女が地面に足を付けると同時に、その足元から波紋状に拡散した薄い闇の波動が周囲数メートルに拡散し、屋上を周囲の空間から切り離し、独立した結界を張り巡らせる。
「器用なものだな、綾波レイ────いや、ダークファウスト、か。まさか一日で乗っ取りが完了するとは思わなかったが」
華奢な体躯に、透き通るように白い肌、水晶のように透明度の高い白髪。そんな色彩の一切を失ったかのような白の中に一点だけ、普段は何の感情も映していなかったガラスのような赤い瞳の中に、今は本来の彼女では有り得なかった虚ろな闇が宿っている。
僕の前まで歩いてきた“綾波レイ”は、そこで地面に膝を突くと、そのまま跪いて臣下の礼を取る。その姿はまさしく忠実な配下以外の何物でもない。実際、イヴィライザーで召喚した存在と僕の意識の間には超常的なリンクが形成されており、その繋がりを通して相手の意識や状態を読み取る事も難しい事ではない。だから、こうして目の前に立たせてみれば、ダークファウストであり、そして今や綾波レイそのものですらある彼女が僕の忠実な配下である事も、はっきりと理解できた。
彼女にとって僕は本体であり中枢。手足が脳に逆らう事は決してなく、忠実にその指令を実行する。その在り方は、ちょうどダークファウストが元来の支配者であるダークザギに対してそのように機能していた事とも無関係ではないだろう。
「この綾波レイという精神は、自分の意志や感情といったものを持たない乳児のようなもの。数ヶ月も真っ当な人間と交流していれば自己を確立し、あるいは心に目覚めて光を身に宿した可能性もあったけれど、“私”を賜った時点で“綾波レイ”にあったのはほぼ無色の、白紙に等しい精神」
「ダークファウストという色で真っ黒に塗り潰すのはそれほど難しくない、と」
今や、ダークファウストこそが“綾波レイ”の精神だ。単に肉体を乗っ取ったのではなく、綾波レイの意志を黒く塗り潰してその本質そのものとなった。だから、今ここにいる綾波レイを殺害して、その魂をネルフ本部地下に保管されている新たなクローン体へと転移させたとしても、そこで復活する“綾波レイ”が依然としてダークファウストである事に変わりはない。
もし綾波レイを完全に元に戻して彼女を救う事が可能な手段が存在するのであれば、それは時間それ自体を逆行させるような力であるか、あるいは魂そのものに干渉して“綾波レイ”とダークファウストに切り分ける必要があるだろう。もしそうなったとしてもイヴィライザーの仕様上ダークファウストは僕の手元に戻ってくる事になるし、それを再び新たな綾波クローンに移植する事で“綾波レイ”であるダークファウストを復活させる事が可能になる、か。
「でも、どこまで忠実に言う事を聞いてくれるのか。例えば、服を脱げ、と言えば聞いてくれるのか」
「お望みならば、今この場ででも構いません」
「……いや、いい。確認しただけだ」
しゅるり、と制服のネクタイを抜き取って肌を晒そうとするファウストを制止する。……本音を言えば、目の前にいる綾波レイの洗脳とか、爆豪カツキの殺害とか、割と外道な真似を重ねている分際で今さら善人ぶるつもりもないし、そもそも据え膳を喰わずに済ませるような精神力があるわけでもないのだが、何となく気が進まなかった。
「……ふむ」
僕の隣に座ってネクタイを結び直すファウストの様子を眺めながら右腕を上げて掌を掲げると、その腕の上に黒紫色の光が渦巻いてイヴィライザーが顕現する。クリスタルを装填していないジャイロをそのまま回転させると、そのジャイロから立ち昇る黒紫色の光が一点に凝集し、イヴィライザーを色違いにしたような新たなジャイロユニット『マリスライザー』と化して、僕の掌の中に具現化する。それをファウストに向かって手渡すと、ファウストは恭しくそれを受け取って、自身の右腕に装着した。
「それじゃ、とりあえず適当なクリスタルを渡すから、明日にでもダークネスフィアまで来てもらうよ」
「はい。その後はどうしましょうか?」
「そうだな……とりあえずネルフに色々と仕掛けてもらうつもりだったけど、ストレイジなんて連中も出てきたから方針を練り直したい。やって欲しい事ができたらこっちから連絡するから、しばらくは待機しておいてくれ」
とりあえず本拠であるダークネスフィアと地上を行き来するために、転移用のクリスタルを渡す事にする。今の手持ちで転移ができるのはケムール人とゼットン。どちらも一枚で複数かつ便利な能力を使える強力なクリスタルだが、ここはどちらを渡すべきか。
少しだけ考えて、ゼットンの方を渡す事にする。転移以外にも強力極まりない一兆度のゼットン火球や、高い防御力を誇るエネルギー障壁ゼットンシャッターなど、強力で多彩な能力を扱える。また、単純に召喚用として使っても初代ウルトラマンを圧倒した絶大な戦闘能力は頼りになるはずだ。
「さて、これでできる事が割と増えた……かなぁ?」
綾波レイはネルフの主要戦力であるエヴァンゲリオンのパイロットだ。碇シンジがネルフに加入していない以上、ネルフでエヴァンゲリオンを動かせるのは彼女だけであり、そのため彼女の身柄は最重要事項としてネルフによって厳重に管理されている。……まあ、その割にこの辺の廃墟同然のアパートで独り暮らしなのだが。
ともあれ、そのため使徒や怪獣が出現した際には当然ネルフ本部で出撃に備えて待機している必要があるし、戦闘中はネルフ本部から厳重にモニタリングされているエントリープラグの中なので、まずエントリープラグをどうにかしない限りダークファウストとしての姿を現す事は出来ない。
「……色々と、難しいものだよねえ」
考える事が多過ぎる。頭が痛くなったので、ファウストにクリスタルを渡したらさっさと寝よう。
◆ ◆ ◆
翌日。シャムシエル戦までまだまだ時間があるので、その前に可能な限り態勢を整えて、できるだけの準備をしておく。情報収集もしておきたいところだが、その前にまずはこっちの準備だ。そんなわけで、今日は学校休み。
ダークネスフィア内部には、ただひたすらに暗澹とした荒野が広がっている。それを眺めながら、溜息一つ。あまりにも殺風景で、見ていて気が滅入る。これが魂の底から闇に染まったエンペラ星人であればまだしも、僕には合わないので、今回の作業に合わせてとりあえず住みやすい環境に変えてしまう事にする。
「とりあえず最初に使うクリスタルは三枚、と……」
荒野の真ん中に佇む玉座に腰掛けたまま、ダークネスフィアの亜空間から取り出した怪獣クリスタルを三枚。選んだのは『ウルトラマンガイア』に登場する環境コントロールマシン『テンカイ』『エンザン』『シンリョク』、放り投げると同時に、周囲の地面から円盤状の台座型召喚器が出現して、クリスタルを取り込み、召喚を開始する。
【ライブ────テンカイ、エンザン、シンリョク!】
現れるのは鈍い銀色の装甲に覆われた三体の機械兵器。怪獣というにはいささか無機質なその機体は、形でいえば縄文土器によく似ていた。未来の人間が自身の存在に絶望し、人類自身を滅ぼした後に地球環境を再生するために作られた……などという、僕にとっては少々理解が及ばない目的のために製造された機体だが、環境再生という本来の機能は普通に使用できる。
それぞれ大気浄化、気温制御、植物増殖という能力を持ち、それらでもってダークネスフィア内部の環境を作り変えていく。濁った大気を浄化し、冷え切った気温が暖められ、植物が増えていく。環境改造は十分もしない内に完了するはずだ。
「さて、それじゃあ次に、と」
手を叩くと、さらにその場に追加で百基の召喚器が出現し、そこに亜空間からクリスタルが直接投入される。投入したクリスタルは破滅魔虫『カイザードビシ』。無数の蟲型怪獣の群れによって巨体を形成する群体型怪獣であり、その気になれば闇の力など関係なく純粋に圧倒的な物量だけで空を覆い、太陽を遮る程の数こそを最大の力とする。
【【【【【【【【【【【【【【ライブ────カイザードビシ!】】】】】】】】】】】】】】
玉座の周囲を残して環境改変が進む荒野だった場所の只中に百体の巨影が浮かび、それらはすぐさま無数の蟲の群れへと分解して、たった今凄まじい速度で成長していく森の中へと姿を隠してしまう。
このカイザードビシ達が、ダークネスフィアの防衛戦力として警備を行う事になる。いくら異空間に存在しているからといって、転移能力さえあればいくらでも侵入できてしまう現状は、少し不安があったからな。テレポートができるウルトラマンとか、割といるからな。現状その存在が確認されているウルトラマンエックスにせよ、世界間転移能力を持つウルトラマンゼロアーマーなんてのを持っていたくらいだし。まあカイザードビシだけでも少しばかり心配ではあるのだが、それでもウルトラマン相手の遅滞戦闘においてはカイザードビシの物量に勝る最適解は存在しないだろう。
「で、最後は、と……これはさすがに自分で召喚するか」
さらに亜空間から取り出した怪獣クリスタルを掌に握り込んで体内に渦巻く闇のエネルギーを集中させると、過剰なエネルギーを注ぎ込まれたクリスタルが砕け、その破片が三つの塊として寄り集まって再構成され、新たに三枚のクリスタルとなって完成する。その三枚をそれぞれイヴィライザーに装填し、ジャイロを回し。
【イヴィルライブ────チブル星人、チブル星人、チブル星人!】
現れる宇宙人は三体。人型というのもおこがましい、強いて言うなら逆さにして顔を付けたパイナップル。その下に申し訳程度に短い触手が生えているような、奇妙な体格の宇宙人。肉体的素養の大半を頭脳に割り振った結果がこの姿、という科学力超特化型宇宙人『チブル星人』。その脆弱な身体能力を大型のパワードスーツ『チブローダー』で補っている。
クリスタルを通じて召喚されるのはダークファウストのような例外を除き、自律した意志と知性を持たない操り人形のような存在だが、ウルトラダークキラーの本体でもある暗黒邪念体『キラープラズマ』を注ぎ込む事で、僕の端末であるかのような疑似人格を持った存在として使役できる。そうすれば、チブル星人が持つ知識と技術も好きなように引き出せる。
「さて、それじゃ君らは色々と研究開発をやってもらおうか。とりあえず今は……量産型の兵隊と、イヴィライザーの簡易版でも作ってもらおうかな」
それぞれに命令を出すと、ダークネスフィアのシステムにアクセスして、研究・開発施設としての設備を備えた亜空間を作り出し、そこにチブル星人を放り込んでおく。後はチブル星人のクリスタルをダークネスフィアの召喚器に放り込んでイヴィライザーのスロットを開ける、と。これでよし。
「まあ、ひとまずの懸念はこんなものだろう、と……おや」
玉座のちょうど正面当たりの空間が歪んで黒いエネルギーの渦が発生し、その中から赤い光球が出現する。出現と同時に光球は弾けるように消滅して、中から現れたダークファウスト=綾波レイが、その場で跪いて臣下の礼を取った。
「お邪魔でしたか、我が主」
「いや、ちょうどいいタイミングで来てくれたよ、ファウスト。今、一通り作業が終わったところなんだ」
手招きすると、玉座の傍らに寄り添うようにして綾波レイは地面に腰を下ろした。まあ確かに、他に座る場所もないか。これはこっちの手落ちになるな。
「綾波、椅子の一つくらいは出すけど……」
「いえ、結構です。この位置も中々悪くありませんから」
ちょうど玉座に腰掛けた僕に身を寄せるような形になるが、その表情はどことなく満足げに見える。
「……そうか。座布団くらいならこうして用意できるからな」
「はい、感謝します」
軽く手を一つ叩くと、出てくるのは座布団代わりの円形のクッションだ。水色の、ペンギンの絵柄が描いてある感じのヤツ。どういうわけかダークネスフィアの亜空間に色々なものと一緒に格納されていたが、こんなものまで入っているとか、一体この亜空間の中身はどうなっているのか。一度しっかり確認しておく必要はあるか。
クッションを受け取った綾波は、ぬいぐるみでも抱き締めるように両腕でクッションを抱えて、どこか上機嫌に見える。座るために出したんだが、という突っ込みは無粋だろうから黙っておこう。今の彼女の本質は闇の巨人の一柱ダークファウストであるが、そのメインフレームとなっているのは間違いなく“綾波レイ”だ。ヒトとの繋がりを求める綾波レイの性質がこういった形で表出している、という可能性もあるのか。
ともあれ、座った綾波に対して異空間から取り出したクリスタルを合計九枚、ちょうど彼女の変身ツールであるマリスライザーのパレットが一杯になる数だけ手渡した。戦闘用、便利用とどれも相応に使えるはずのものを選んで渡しているので、まあ色々と役に立てて欲しい。
そして、それから、ともう一枚のクリスタルを取り出し、それも綾波に渡す。
「それと、一つ頼まれてくれるか。ある場所でこのクリスタルを召喚に使って、仕掛けてきて欲しいものがあるんだが────」
“綾波レイ”という立場を持つ彼女にとっては、別に難しい事じゃあない。簡単に片付く作業だ。だが、それよりも重要なのは────次の使徒が来るまで、あと三週間近い時間があるって事だ。毎週必ず一回地底とか宇宙とかどっかしらから凶悪な怪獣や宇宙人が攻めてくるウルトラマンの世界と比べれば実に平和極まりない。
次の使徒は第五使徒シャムシエルといったか。シャムシエルといえばヘブライの聖書神話だか、あるいはその直系ともいえるキリスト教のマイナーな伝承だかで太陽を司る天使だとか、そんな感じの神話だったはずだが、どこをどう見ても太陽的な要素は見られない、イカだか何だかよく分からない形をした使徒だった。能力もATフィールドの鞭とかいう、太陽の要素そっちのけな代物だし。
だが、確か原作通りのスケジュールならシャムシエルが第三新東京市に来るのは前回のサキエル戦から約三週間。これに関してはシンジ君がスーパーになっていようが第二特務機関があろうが全く関係なく、人間側から使徒のスケジュールに干渉する手段など無きに等しいわけだから、そうそうずれ込む事はないだろう。
と、なれば次のシャムシエル戦までおよそ三週間。この時間を有効活用しない手はないだろう。具体的には、第二の特務機関ストレイジにちょっかいを掛け、彼らとウルトラマンエックスの性能をチェックする。で、そのために仕掛けるテロ行為の吟味だが。
「ストレイジの主戦力はゴーバスターズ。ただしそれ以外にも専用の戦闘機とか色々と持ってるのは知ってる」
“綾波レイ”であるファウストが仲間に加わった事により、前回のサキエル戦におけるネルフ側の事情もある程度見えてきたのだが。こちらでも一つ、これ以上ないレベルの想定外が起きている事が判明した。具体的には『碇シンジがストレイジのメンバーだった』という事。
サキエル戦で僕が変身したダークキラーが先にサキエルを倒してしまった、その後。半ば入れ違いのような形でネルフ総司令碇ゲンドウの手によって第三新東京市に呼び寄せられた碇シンジだが、碇シンジは既に第二特務機関ストレイジに参加しているパイロット兼技術者となっており、命令系統が異なるネルフの命令を拒否し、彼を拘束しようとするネルフ保安部の保安要員を実力で薙ぎ倒し、ストレイジの本拠エリアルベースへと去っていったようだ。
その後のネルフによる碇シンジの身柄引き渡し要求はストレイジによって拒否され、逆にサキエル戦で全く役に立たなかった事、そして何よりダークキラーとの交戦により唯一稼働可能なエヴァンゲリオン初号機の修復に時間が掛かる事をストレイジに突っ込まれ、次の使徒戦における優先交戦権をもぎ取られてしまったらしい。
まあ、その辺の顛末は第二特務機関ものの御約束だな。むしろこの展開それ自体よりも、ここまで事態が御約束通りに進んでいる事の方が驚きだ。国連の中で特務機関を設立する事自体にもそれ相応に金や人間が動くのに、それをネルフやその裏にいるゼーレに気取られなかった事とか、かなりの実務能力があっても難しい。ましてや浮遊要塞エリアルベースやゴーバスターズの巨大ロボなどといった巨大兵器の運用を前提とするなら尚更に目立つはずだ。
……あるいは、組織そのものが転生チートだったりするのだろうか。
ま、その辺はぶっちゃけどうでもいいのだが。
「スーパー戦隊に仮面ライダー、そしてウルトラマン。これで後はゴジラまで揃っていたら日本の特撮四天王がパーフェクトに揃った感じだが……エヴァ以外の戦力が何一つないネルフよりも、ストレイジを相手にする方が厄介かもしれないな」
ネルフ、ストレイジ双方共に、使徒殲滅、という作業を行う上では僕とも一見は協力の余地があるように思えるが、少なくともネルフは敵だ。綾波情報によれば前回のサキエル戦以来、ネルフ上層部ではダークキラーを排除すべし、という意見で全員一致しているらしい。
まあ、当然だろう。ネルフ上層部とその上である人類補完委員会、もしくは秘密結社にとって使徒殲滅はあくまでも人類補完計画における儀式手順の一環に過ぎず、人類存続は表向きの御題目に過ぎない。彼らにとって使徒退治を行うのはエヴァでなければならないのだから、彼らにとってそれを邪魔する僕は敵だ。
ネルフの裏を知らない下部構成員達にしたって、何の罪もない(?) 中学生を踏んで殺したダークキラーは許し難い存在だろうし。
その一方、ストレイジの方はその辺に関して沈黙を守っているのだが……これは様子見でもやっているのだろうかね。向こうからしても、いきなり使徒戦に割り込んできた上にサキエルを処刑するだけして何も言わずにその場を立ち去って消息不明のウルトラダークキラーなんて、意味不明以外の何物でもないだろうし。前の戦いにしたって、中途半端にさっさと退場したし。
あるいはストレイジの上層部に僕と同じ転生者がいるのなら、ダークキラーが使徒殲滅を行った事に関して、自分たちと同じく使徒を殲滅して人類の存続を望む転生者の存在を頭に浮かべずにはいられないだろうし。
「で、さらに所属が不明瞭なウルトラマンエックスについては……どうしたものかね、と」
この世界に元々存在するウルトラマンなのか、それとも力を持っているだけの転生者なのか、それとももっと別の何かであるのか。特にウルトラマンエックスの能力をどこまで使えるのか、とか、原作知識とかその辺の有無とか、その辺は割と気になるところだ。
まあ考えたところでその辺は判断材料も何もあったものではないので、試してみる他ない、か。つまりそれは、こっちから仕掛けてみるという事で。多分、町に怪獣の一頭でも放てば普通に出てくるだろうし、試しに戦わせてみれば何かしら分かるだろうが、ネルフやストレイジの対応はどうなんだろうかね。
この話、最初は綾波レイがヒロインの予定だった。
そこから主人公のキャラクター像を掘り下げて設定していく内にヒビキの設定が生えてきて、いつの間にやら綾波を押しのけていた感じ。
彼女が”響”なのは、主人公がアカツキなので、暁といったら響だろ、という程度の話。
主人公であるアカツキのキャラクター像は「最強チートを持っていてもそれ以外はあくまで普通の人」であり、「悪い意味での等身大の主人公」。そして「ウルトラマン主人公としては有り得ないぼっち」。
それと対比する感じでライバルポジションである碇シンジが「最強ではないが原作でのエヴァパイロット、今作でのウルトラマンXとして二重の意味で選ばれた存在」であり、「正しく特撮ヒーローのような存在」、「頼りになる大勢の仲間たちと強い絆で結ばれた超正統派ウルトラマン主人公」という感じに設定が組み上がった。