目の前に現れた2体のポケモン。白い竜の名はレシラム。黒い竜の名はゼクロム。それぞれ、真実を司る英雄と理想を司る英雄である。
『真なる神の力、その欠片を集めし者よ』
『問おう。お前は何を願い、その欠片を集める』
前世の知識では、イッシュ地方の建国神話に出てくる2体。その建国神話では、王である兄弟が対立し、最終的には兄弟は争いを止めた。しかしその子孫が争いを再び始めた時、ゼクロムとレシラムは怒り、イッシュ地方を焼け野原にしたと言う。
つまり、この試練で嘘偽りは許されない。目の前の2匹を怒らせれば、自分はおろか後ろの仲間達も消し炭にされてしまうだろう。
「僕は……」
2体の英雄からのプレッシャーで、息が詰まりそうになる。だが改めて、自分の想いを打ち明ける。
「僕は、アルセウスを解放して、ポケモンと人が一緒に生活できる世界にしたい!」
言った。言ってやった。ゼクロムが口を開くまで時間は掛かっていないが、やけに長く感じた。
『ほう。この星の生命との共存を願うか』
感心したような声を出したゼクロム。だがまだ合格と言われた訳ではない。レシラムが現実を突きつける。
『だが偽りの神に惑わされた人間達は、我らを害あるものとして傷付けている』
「知っている。そしてそれが、長く続いていることも」
『長く続いた思想は強固なものとなる。大衆に立ち向かうために、真なる神の目覚めを願うか?』
「違う! 人間の思想に変革を与えるのは、人間の仕事だ! 僕がアルセウスに求めるのは、エヒトから神の座を取り戻す事と、ディアルガ達三体の神の怒りを静めてほしい事だ!」
人間は神の駒ではない。人間には、自分で考えて行動し、自分の想いを伝える力がある。それなのに神に依存する構想にしたエヒトは、神の座に相応しくないと。ハジメはそう叫んだ。
レシラムが小さく頷くと、今度はゼクロムが前に出る。
『お前が真なる神の解放を願う理由、
「え……」
『偽りの神は、己の都合に合わせて人間達を支配している。しかし、あやつが人間達に与えし魔法によって、国が発展したのもまた事実。偽りの神の終焉は、人間達に大いなる混乱を招く。その混乱が善き新時代へと進展するかは、我らをもってしても分からぬ。その過程で消え行く命もあるだろう』
ゼクロムの赤い目が、ハジメに対して「負の側面から目を逸らすな」と警告する。
『お前は、その責務を背負う覚悟はあるか?』
ハジメの肩に、ズッシリと重い「何か」がのし掛かる。腕が震え、足が震えて膝も着きそうだ。
「1人じゃないよ!」
突然響いた叫び声。ハジメが顔を向けると、そこには愛しい人……香織が隣に立っていた。
「私たちはアンカジで、ポケモン達と一緒に暮らす様子を見てきた!」
それに勇気付けられたように、シア、ユエ、幸利と次々に仲間がハジメと並ぶ。
「そうです! お父様も同族の皆さんも、みんなポケモン達と仲良くなり、弱小と言われていたにも関わらず、強くなりました!」
「アンカジの人々は、自分達で工夫して、魔法だけじゃなくてポケモンの力も借りて生きている!」
「もうとっくに、エヒトの野郎から一人立ちしようとしてる奴らが居るんだよ!」
そして、この男も前に出た。
「俺は……この世界に召喚されてから、ポケモンは全部悪だと思ってた」
光輝はゼクロムとレシラムから目を逸らさない。
「だけど、ようやく分かったんだ! そうじゃないって! 地球人ですら分かることが出来たんだ! だったらトータスの人たちも、分かることが出来る筈だ!」
「みんな……!」
その時だ。ゼクロムとレシラムは天に向かって叫んだ。
『『ギュオオオオオオオオン!!』』
雷のバチバチとした音と、巻き上がる炎のゴオゴオとした音。それらが大広間を埋め尽くす。その衝撃から顔を腕で守るハジメ達。その後に顔を上げると、2体の纏う雰囲気は喜びに満ちていた。
『良かろう! お前達の叫び、確かに聞いた!』
『故に我らは認めよう!』
『お前達の覚悟は理想を見せる!』
『お前達の勇気は真実となる!』
――
ゼクロムとレシラムに認められたハジメ達。2体の向こうにある扉が音を立てて開いた。風が吹き込み、頂上が近いのだろう。
『その先に、この塔の最後の試練が待ち構えている』
『行け。試練の主が、神の力の欠片を持っている』
「ありがとう。ゼクロム、レシラム」
『もう1つ、これを持っていくが良い』
ハジメの手元に現れたのは、フリージオと言うポケモンを模したようなアイテムだった。ペンダントのようにも見える。
『我らは元々、1つの竜である』
『そこから我らが分れたが、残された骸も命を持った』
『冷気と虚無を司りし竜。奴は、氷の大迷宮にて待っている』
『その証が、奴の元へと汝を導くだろう』
「それって、まさか……! 本当にありがとう! さぁみんな、行こう!」
ハジメが扉の向こうへと行くが、ティオだけは動かなかった。
「……ティオ?」
「妾はちと、このお二方に用がある。先に行っててくれ」
「……分かった」
真剣な顔をしているティオを断れる筈もなく、ハジメ達は先へと進んだ。
そして、残されたティオは……。
『我らが加護を与えし娘よ』
『大きくなったものだ』
「光栄でございます。ですが、わたくしは偽りの神の使徒との戦いにて、半ば暴走の形でお二方の加護を使用しました。故に稽古をつけて頂きたく」
頭を下げるティオに対する返答は、雷と炎を溜める音で返された。
塔の頂上。内部に入る前は快晴だった筈だが、ハジメ達の目の前には暗雲が立ち込めていた。
周りに巨大な白色のクリスタルが立ち並ぶこのエリアに、1匹のポケモンが舞い降りた。
『よくぞ来た、人間よ!』
「レックウザ……!」
「凄い……。あれが、ティオ達が崇める『龍神様』……!」
レックウザはハジメ達を見ると、空に向かって咆哮した。その瞬間、周囲のクリスタルが輝き始める。クリスタルに浮かび上がるは、
「このクリスタル、まさか……!」
クリスタルからポケモンへと光線が当てられ、その姿が大きく変化する。
「メガシンカ……!」
『余計な前置きは不要! さぁ、我が試練を乗り越えて見せよ!!』
最終試練「
ゼクロム&レシラムとティオの場面で不穏を感じた方はご安心ください。2匹による修行を受けてるだけで死んでません。
次回、ハジメ達vsメガレックウザ!