ゼルネアスから与えられた、『聖剣士に認められる』という試練。幸利チームが進んでいる間、光輝チームも行動を開始していた。
「んふふ……。今の私はツタージャかぁ……♪」
だが、ツタージャの姿となっている雫の機嫌が良く、光輝と浩介は困惑していた。彼女の印象は『クールな剣士』というもので、地球ではソウルシスターズと言う彼女のファンクラブが居る程だ。穏やかな香織と冷静な雫とで、二大女神とすら呼ばれている。
ところが今の彼女は、ご機嫌に鼻歌すら歌っていて、まさに年相応の少女となっていた。
「えっと、雫……? 何でそんなに機嫌が良いんだ?」
「あら、意外? ツタージャって結構可愛いじゃない。可愛くなって喜ばない女の子は居ないんじゃないかしら?」
「そう言えば八重樫さん、ハジメの描いたイラストだとイーブイ系とか気に入ってたな」
雫の推しポケモンはエルレイドだが、地球に居た頃は香織と共にハジメの描いたイラストを見ていた。イーブイ系列を見た時はぬいぐるみがあったら抱き締めたくなったし、エネコやエネコロロは猫吸いしたくなった程だ。なお、ヒメグマを見た時はキュンとしたが、進化形のリングマを見た瞬間に虚無顔になったのは余談である。
「そうだったのか……」
「……あー、そう言えば光輝は知らなかったわね。うん、今の貴方になら話せるかも」
「え?」
そうして雫が語ったのは、自分の過去だった。当時の同年代からすれば地味で、言うなれば女の子らしくなかった。それなのに光輝と近かった事で嫉妬を買い、虐められたこと。そして相手から言われた……「女の子だったの?」という言葉に、酷く傷付いたことを。
それを聞いた光輝は顔が青ざめ、瞳は震え、歯をガチガチと鳴らすほどに震えていた。確かに彼女から相談を受けたことがある。だが当時の彼は虐める側に注意をして解決したと思っていた。それが結局彼女にトドメを刺しただけだった。
「お、俺は……俺は……!」
後悔の念が押し寄せ、光輝の頭の中は真っ白になる。そして身体が勝手に動き出した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「ちょ、おい!」
「光輝!?」
耐えられなくなったように叫びながら、光輝は脇目も振らずに走り出す。突然のことで直ぐに止めることは出来ず、2人との距離は大きく離れてしまった。
「どうしよう!? あそこまでショックを受けるなんて……!」
「どうしようって、追うしか無いだろ!? 行くぞ!」
雫と浩介も慌てて光輝の後を追った。
森の中にあるからなのか、この迷宮には小川の流れる場所もあった。その側で光輝は蹲っていた。
「(俺は……そんなに昔から雫たちに迷惑を掛けてたのか……)」
光輝には、尊敬する人物が居る。弁護士として活躍した自身の祖父だ。彼の様々な話を聞き、自分もあぁなりたいと願っていた。
だが祖父が急逝したことで、光輝は知ることがなかった。必ずしも輝かしい内容ばかりではない。その裏では後ろめたい事があったという事を、彼は知らないまま高校生まで成長してしまった。
その結果が、空回りする善意である。彼が良かれと思って行動しても、良い影響だけでなく帳尻を合わせるように何処かで迷惑が掛かっていた。その後始末を香織や雫がしてくれていたのだ。
「(俺なんて……俺なんて勇者じゃない!)」
水面に映る自分の顔があまりにも情けなくて、硬く目を瞑って俯いてしまう。その時、リオルの波導を感じ取る力が、光輝に何者かが近付いた事を悟らせた。
『はぁ、はぁ、疲れたぁ』
「……?」
それは、見た目で言うならば若駒のように見えた。額に生えた小さな一本角は、まるでユニコーンのようにも見える。そんなポケモンが光輝の側に座った。
『ん? 君、ニンゲンって奴か?』
「え、何で……。今はポケモンの姿なのに……」
『なんとな~く雰囲気が他の皆と違うし、そもそも今は修行中だから皆は居ないからね』
先程から野生のポケモン達に遭遇しないのは、目の前のポケモンと何者かが修行をしていたからだそうだ。
『僕はケルディオ! 君は?』
「俺は……光輝」
『コウキか! 宜しく!』
ニコリと笑うケルディオに、釣られて微笑む光輝。気付けば2人はお互いの事を話していた。
『そっか。友達を知らないうちに傷付けてたんだ』
「うん……。俺は解決したと思っていたけど、そんな事無くて……。今までやってきた事が間違ってたのかって思うと……」
『なら、そのシズクって女の子に謝れば良いじゃないか』
「謝っても、きっと許してくれないよ……」
『なんで?』
「なんでって……」
『やってみなくちゃ分からないだろ? ……って、これ先輩たちの受け売りだけど』
照れるようにケルディオは前脚で地面を軽く掻いた。
『僕、聖剣士を目指してるんだ』
「聖剣士、だって!?」
『だから先輩たちに稽古をつけてもらってるんだけど、テラキオン先輩に言われたんだ。やってもいない癖に出来ないと決めつけるな!って。まぁコバルオン先輩からは、無闇に挑むのは無謀だって言われたけど』
だからさ、とケルディオは続ける。
『謝るくらいは出来るんじゃないかな?』
「ケルディオ……」
悩みを打ち明けたお陰で、光輝の心の中は軽くなっていた。謝ることを決意して立ち上がろうとした、その瞬間だった。
『ゴラァァァァ! ケルディオォォォ!』
野太い怒声が空気を震わせた。光輝は思わず振り返って、本能のままに構えを取る。一方のケルディオは、サボりがバレたかのように悲鳴を上げた。
『ひいいい! テラキオン先輩!』
『貴様ぁ! 修行はまだ終わってないというのに、何サボってんだぁ!……む?』
テラキオンと呼ばれたポケモンが光輝の姿に気付いた。最初は首を傾げていたが、思い出したかのように笑い出した。
『あぁ! ゼルネアス様が人間に試練を行なうと言っていたな。すっかり忘れてた、ガッハッハ!』
「えぇー……」
どうやらケルディオの修行に集中し過ぎて、試練の事を忘れていたらしい。思わず呆れてしまった光輝だったが、そこへ雫と浩介が駆けつけた。
「光輝!」
「雫……それに遠藤も」
「ぜえ、ぜえ……! ようやく追いつけた……」
感動の再会と行きたいところだが、状況は許してくれない。テラキオンは「よぉし!」と何かを思いついたかのように話し始めた。
『そこの3人が迷宮の挑戦者だな! ならば、ケルディオと共に俺に打ち込んで来い!』
『えぇ!? 良いの!?』
『さっきまでの修行よりも本気出すからな! 覚悟しとけ、特にケルディオ!』
『ひいいいいい!』
まさかの、修行ついでの試練である。光輝たちは内心驚きながらも、戦闘態勢を見せるテラキオンに対して構えを取った。
テラキオンによる試練。彼はその見た目通りのパワフルな攻撃を仕掛けてきた。前脚を勢いよく叩きつけ、“ストーンエッジ”を放つ。
『どおりゃあぁぁぁ!!』
『せぇぇぇいっ!』
ケルディオは負けじと、蹄から水を放出して“アクアジェット”によって岩石の刃を粉砕していく。だがテラキオンの放った技の範囲は広く、光輝たちにも迫っていた。
「ふっ、はあっ!」
「せぇいりゃあぁぁっ!」
光輝は“いわくだき”を連発し、雫は尻尾を振るって“リーフブレード”を放って岩を砕く。
「遠藤!」
「まっかせろぉぉ!」
テラキオンへの道が開かれ、浩介が“でんこうせっか”を利用して一気に駆け抜ける。ケルディオと同時にテラキオンの下へ辿り着くと、出会ったばかりだと言うのにお互いに頷いた。
『「てやぁぁぁぁ!!」』
ケルディオが“アクアテール”を、浩介が“みすでっぽう”を放つ。岩・格闘タイプを持つテラキオンに、水タイプの技は効果抜群である。だが、彼も伊達に『聖剣士』と呼ばれていない。体を回転させ、その後ろ脚で“にどげり”を放つ。
『うわぁっ!』
「うぐぅっ!」
『即興にしては見事だ! むぅんっ!』
そのまま“とっしん”で突き飛ばすと、光輝たちを見る。
『来い、小僧! 抱えている悩みごとぶつけて来い!』
「っ!」
光輝は“でんこうせっか”で駆け抜け、“メタルクロー”を振るう。テラキオンは敢えて反撃せず、角で受け止める。光輝はそれで止まらず、ただひたすらに“いわくだき”を連発した。
「(打ちこめ! ただ、ひたすらに!)」
拳をひたすらに打ち込みながら、光輝は実感する。今までの自分は、『正義の味方であれ』という思いに縛られ続けていたのだ。それが今ではどうか。無心でただ打ち込むだけだと言うのに、体が簡単に動けている。
『ぜぇいやぁぁぁ!!』
ケルディオが“アクアテール”で光輝を手助けする。
「やあぁぁぁぁ!」
雫が“リーフブレード”で追撃する。
「そぉらよぉぉ!」
浩介が“みずのはどう”を放った。それでもテラキオンは倒れない。
『ガッハッハッハッ! 良い打ち込みだった! だがそろそろ、終いにしなければな』
テラキオンの角が光り輝き、“せいなるつるぎ”を発動する。そして、3人を一瞬で叩き伏せた。瞬く間に3人の意識が刈り取られる。
『合格だ、挑戦者たち』
テラキオンの優しさと逞しさの籠もった声が、光輝が気を失う前に聞いた言葉だった。
次回はハジメチームです。お楽しみに。