ポケットモンスター トータス   作:G大佐

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前の話はちょっとややこし過ぎたのか、お気に入り数が減っていて、「やっちまったなぁ」と思いました。
今回は、前半は戦闘導入、後半はゼンセの真意となるようにしています。


影の語る真実

「お前ら、憑依転生って聞いたことあるか?」

 

 シュネー大迷宮の大部屋。其処では、ゼンセによる説明がされていた。転生という、これまたファンタジーな言葉に困惑する香織たちだが、幸利と浩介が前に出た。

 

「漫画とかのキャラクターに憑依して、本来辿る悲劇とかを回避したりするジャンルだろ」

 

「それがどうしたってんだ。俺達は漫画でもアニメのキャラでもない。ちゃんと此処に居る現実の人間だ!」

 

 2人の剣幕にもゼンセは動じず、不敵な笑みを浮かべるだけだった。

 

「何も漫画だけに起こるとは限らないだろ。こうやって、目の前で憑依転生した魂が、ハジメの身体を使って話してるんだからよぉ」

 

 ゼンセは小声で「まさかハジメがこういう姿になるとは思わなかったけども」と呟いたが、それを聞き取った者は居なかった。

 香織はゼンセを睨みながら問い掛けた。

 

「貴方は……何が目的なの」

 

「ハジメの真実を話すためさ。どうして一人だけポケモンに関して豊富に知識があるのか、疑問に思ったことは無いのか?」

 

「それは……」

 

「別に学力が優れてる訳でもない普通の人間が、突然151を超えるポケモン達のイラストを書き上げて、伝説ポケモンに関する神話まで網羅してる……。おかしいと思ったことは一度も無いのか?」

 

 言葉に詰まる、香織を始めとしたハジメの親友たち。確かに、初めて彼の描くポケモンを見たときは驚愕し、細かい設定に対しても「コイツの頭の中はどうなってるのか?」と疑問に思ったこともある。

 

「でもそれ以上に、『面白い』って思ってたから……! だから疑問なんて!」

 

「……そうかよ」

 

「(……え? 今、あのゼンセって奴、笑った?)」

 

 まるで身内が褒められたかのようにゼンセが微笑みを浮かべていたのを、ユエは見ていた。

 

「ハジメの持つ大量のポケモンの知識。その源流となるのがこの俺、ゼンセのお陰だと知ったら?」

 

「どう言うことだ!」

 

「簡単な話だ。この俺が、ハジメの無意識に干渉してポケモンを描かせていたんだよ!」

 

 演技のように大きく両腕を広げ、オカルト染みた事を語るゼンセ。光輝が聖剣を抜いてゼンセに向けながら、問い掛けた。

 

「なぜわざわざそんな事を!」

 

「お前達の住む地球は退屈過ぎるんだよ。俺の好きなジャンルが無いからな」

 

「好きなジャンル? ……まさか!」

 

「お、察したかポニーテール侍。そうだ。俺の居た地球では、ポケモンは世界的に超メジャーで、漫画にアニメにカードゲームなどなど大きく幅を利かせてる偉大なジャンルだったのさ。俺が生きていた頃は、それで世界は楽しく思えていたってのに……」

 

「それでも答えになってない! わざわざハジメの無意識に干渉しなくても、最初からお前が出ていれば……!」

 

 するとゼンセは、嘲笑するような――しかし何処か寂しそうな――表情になる。

 

「元々の肉体の主導権は、ハジメにあったからな。そうするのが精一杯だったのさ」

 

「(あの顔……寂しそう? 何かこの人……嘘ついてる)」

 

 すぐに表情が不敵な笑みに戻る。そこに香織は違和感を覚えた。

 

「俺も予想外だったよ。まさかプレートを集めている内に、ハジメの魂だけじゃなく、俺の魂も強化されていったんだからなぁ!」

 

「それで肉体の主導権を得たって事かよ!」

 

「元々、この迷宮は自分の心の闇を具現化……つまりはもう一人の自分を生み出す魔法も掛けられてるらしい。それをちょいと応用させてもらった」

 

 すると、待機していたガブリアス擬きがゼンセの隣に立つ。

 

「さーて、お喋りは終わりだ。俺からハジメを取り戻したければ、この影ポケモンを倒してみるんだな!」

 

 影ガブリアスの咆哮に、全員がモンスターボールを握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、自分が赤ん坊になっていたのは驚いた。新作のポケモンソフトを買いに行こうと歩いてた筈なのに、気付いたら病室の天井、 それも赤ん坊の姿と来た。

 あまりにも突然過ぎてパニックになりそうだったが、どういう訳か息苦しくて、徐々に視界が暗くなっていった時は非常に恐ろしく感じた。完全に暗くなる前に聞こえたのは、何かの医療機械が鳴らす不快な警告音と、看護師らしき人物が慌てて誰かを呼ぶ声だった。

 

 完全な闇。自分が人間の姿をしているかすら分からない、何も感じない世界。そんな俺の目の前に、今にも消えそうな小さな火の玉があった。

 

 そう、お前だよ。ハジメ。

 

 誰かに教えられた訳でもないのに、目の前の火の玉が、先程の赤ん坊に宿るべき魂だと判った。だが、泣き声を上げる事はおろか、呼吸すら出来ないのではと思うほど、ハジメの魂は弱々しかった。

 お前の魂が消えるのを見届ければ、俺はまた赤ん坊の体に戻り、第二の人生を歩むことが出来るだろう。

 だが……俺は、子供を見殺しに出来るほど、残酷な性格では無かったらしい。

 

 だから俺は、自分の魂を分けることにした。

 

 水の入ったグラスから隣にある空のグラスに移すように、自分の生命力を分けた。見る見る内にハジメの魂は、火の玉は大きくなり、やがて赤ん坊の肉体へと戻っていった。一方の俺は、ハジメが感じることも出来ない程の、小さな火の玉になった。

 そこからハジメはどんどん大きくなった。だが中学生の頃に、俺の予想だにしない事が起きた。

 俺の生命力と共に前世の記憶も流れ込み、ハジメの記憶と混濁してしまったのだ。

 ハジメは俺を知覚できていない。そのため、転生者でないにも関わらず、自分を転生者だと思うようになってしまった。

 

 トータスに召喚され、プレートを集めるようになってから、更なる予想外が起きた。

 プレートの持つ力が凄まじく、ハジメだけでなく、俺の魂まで強くなっていったのだ。

 それが顕著に現れたのは、メガレックウザとの戦闘を終えてから。プレートを通じシンオウ三神の怒りを見てハジメが気絶した瞬間、俺の魂が表面に出てきた。まさかの事態に混乱したが、すぐにハジメが目を覚ましそうだった為、急いでメガストーンとキーストーンを作り出した。

 トドメとなったのは、ゼルネアスからフェアリーのプレートを受け取った時。これによって、俺は好きなタイミングで肉体の主導権を握れるようになってしまった。

 

 本来、肉体に収まるべき魂は1つだけ。今までは俺の魂が小さかった為に何も異常は起こらなかったが、今後はどうなるか分からない。下手すれば死すらあり得る。

 俺は、少なくとも成人式を迎えて社会に出始めた記憶までは持っている。俺より若くして死ぬことは許さない。

 

 だから、迷宮の特性を利用させてもらった。あり余った生命力でガブリアス擬きを作り出し、敵として振る舞う。

 ハジメが肉体の主導権を取り戻せるレベルまで、俺の、ゼンセの生命力を削る必要があるのだ。

 

 だから……戦え。ハジメを救うために。

 

 




もう少し分かりやすくしますと……

死にかけのハジメ(赤ちゃん)の魂に、ゼンセは自分の生命力を分け与えた。

その影響でゼンセの記憶が混入。ハジメは自分を転生者だと思いこむように。

プレートを集める内にゼンセの魂も強くなっていき、肉体が容量オーバー寸前に。

ゼンセが自分の命を削ることで容量を減らし、ハジメの肉体の安定化を図る。

という事です。

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