置き場所どうしようと悩みつつ、ゼンセ戦です。現実だとこうだろうなぁと考えながらの戦闘シーンなので、ゲームとは異なってる箇所あります。
シュネー雪原の深奥。そこに待ち受けるキュレムは、近くに侍る2体のポケモンからの報告を受けていた。
『この迷宮に干渉して、新たな試練を作り出した奴が居るか』
フリーザーとレジアイス。いずれも本来ならば、自分自身と向き合えた挑戦者に対して力の試練を与える立場だった。しかし今は、ゼンセが迷宮の特性を応用して自分自身を具現化した為、イレギュラーな事態になっていたのである。
『おもしれぇ……。ならば最終試練は、俺だけでなくお前らも混じえた戦いとしようじゃねえか……!』
ニィッと口角を上げるキュレム。その隙間から僅かに冷気が漏れ、「ヒュラララ……!」と音を奏でた。
「“ドラゴンクロー”」
氷に囲まれた大広間で、ガブリアスの影が香織たちを襲う。影ガブリアスに指示するのは、ハジメに憑依したと語る男、ゼンセ。ポケットに手を突っ込んだまま立っており、余裕の態度を見せている。マッハポケモンの名に恥じぬスピードで迫りくる影ガブリアスを、雫が瞬時にエルレイドを出して指示した。
「エルレイド、“リフレクター”!」
「エェルッ!」
「ガブリアス、攻撃中止。“スケイルショット”に切り替えろ」
「ガブァァ!!」
「くっ……!」
至近距離で飛ばされた鱗に、エルレイドは防御の姿勢を取るしか無い。そこへ香織のピンプクが飛び出した。
「“チャームボイス”!」
「プックゥゥゥ!!」
「(飛ばした鱗を声で落としやがったか)。だがピンプク程度、一撃で落ちる。“ドラゴンクロー”」
「やらせないわ! エルレイド、“きりさく”攻撃!」
影ガブリアスとエルレイドの腕の刃が鍔迫り合い、ギリギリと音を立てる。その隙を突こうとする二人組がいた。
「行くよダーリン! アイツが幽霊ならゴースト技は通じる筈!」
「ハジメを解放するためだ、仕方ねえ!」
恵里と幸利が畳み掛けてきた。幸利が技能である「影縫い」でゼンセの動きを止め、恵里はミミッキュとカゲボウズを出して、3人で“シャドーボール”を放とうとする。しかしゼンセは即座に振り向いた。
「トレーナーへの直接攻撃か。まぁ現実ならやる奴が居てもおかしくねえか。……ガブリアス、“じならし”」
「なっ、振り向くの早っ……!」
「カゲッ!?」
「ミキュッ!?」
「カゲボウズ、ミミッキュ!」
ミミッキュは特性『ばけのかわ』が既に剥がれていた。カゲボウズはまだまだ実戦経験が浅い。そのため恵里のポケモンは2匹とも倒れてしまう。しかし、幸利は何とか「影縫い」を緩めること無く、ゼンセの動きを封じる事が出来ていた。
「ポケモンの生態を踏まえた戦い方って奴だ。ハジメから教わらなかったのか? ガブリアスの頭の突起はセンサーの役割をしている。しかもコイツは俺の生命力で出来ているから、視界や気配の察知を共有していたって訳さ」
「だから後ろからの攻撃も対処できたって訳か、クソッ! だがお前自身は動けねえ! ハジメを返してもらうぜ! ガルーラぁ!」
ガルーラを呼び出すと、彼女は冷気を纏った拳でガブリアスを殴りつける。攻撃を受けた瞬間、ゼンセは腹を抑えた。
「ぐっ! “れいとうパンチ”か……。(技マシンで覚える技も素で使えるあたり、やっぱり現実とゲームとは技の仕様も違うか……)」
「まだまだ! モクロー、“ふいうち”!」
「ポポー!」
「何っ!? がっ、はぁ!」
なんと、ガルーラのお腹の袋からモクローが飛び出してきた。子ガルーラが押し出したこともあって勢いが付き、影ガブリアスに“ふいうち”を食らわせる。
「モクッ……」
「え、どうしたモクロー!」
「このガブリアスの特性は『さめはだ』。触れた奴にダメージを与えさせる。特性のことも理解しとくんだな。(エルレイドに撃った“スケイルショット”も、鮫肌の鱗を飛ばしてるからか、普通より威力が上がっている気がする。これはかなり頭を使う戦闘になりそうだ)」
だが、モクローがダメージを受けた事に動揺してしまい、ゼンセを縛る「影縫い」が緩んでしまった。
「ハジメの錬成とやらを試させてもらおうか」
ゼンセは頭の中に“ストーンエッジ”をイメージし、地面を錬成する。元々肉体が慣れていたからか、すんなりと岩石の刃が錬成され、幸利と恵里を突き飛ばしてゼンセは距離を取ることが出来た。
圧倒。その2文字が具現化しているようだと、光輝は思っていた。ポケモンの生態や特性を利用した戦法。ハジメに干渉して知識を与えたという言葉に、信憑性が出ていた。
「どうすれば……!」
「リオ……」
傍らには、バトルに備えて呼び出したリオルがいた。ケルディオはキュレムとの戦いに備えたかった為、ボールに一時的に戻って貰っている。
ゼンセの戦い方を見て光輝が思考を巡らせる中、リオルはふとその目を通じて、彼の「波導」を読み取った。
「ォル? リオッ! リオッ!」
「リオル? どうしたんだ?」
「ルォォ……!」
右手を光輝に当て、波導を練るリオル。
「っ!? これは!?」
光輝の視界に見えたのは波だった。ゼンセと思われる黒い立体物を中心に、まるで敵意を思わせるような赤く荒々しい波が放たれている。それだけならば、敵ということで事情は片付く。しかしゼンセの内側にあるもの。それはとても穏やかで緑色をした波が一箇所に留まっていた。
「あのゼンセって男……。攻撃は力強く重いけど、内心は誰かを思っているのか? あの優しい色合いをした波こそが、奴の本心なのか……?」
ゼルネアスの試練でリオルになった事、元々勉学や運動において才能を秘めていた光輝。リオルからの波導を受け取ったことで、彼は「1つの才能」が目覚めようとしていた。
数で押そうと鈴や龍太郎、浩介も攻撃に加わる中、香織はサイドン達に話し掛けていた。
「お願い。ハジメ君を助けるために、力を貸して」
「グル?」
「私、あのゼンセって男の人が悪い人には思えないの。何か隠してるような気がするの」
「クゥン……」
「でも相手は本気で来てる。だから私達も全力で行く。その為には貴方たちの力も必要なの。……お願い!」
香織が頭を下げると、最初に鳴いたのはバサギリだった。
「バルァ」
早く指示を出せと言わんばかりに一鳴きする。続けてサイドンとイワンコも声を上げた。
「グルゥゥ」
「ワン!」
「皆……ありがとう!」
即席パーティとして、ハジメのポケモンは香織の指示を聞くようになった。香織は頭の中で情報をまとめる。
「(ガブリアス。ドラゴンの技を多めに覚えてる辺り、やっぱりドラゴンタイプだよね。けど、さっきガルーラの“れいとうパンチ”を受けた時に結構大きくダメージを受けてたから、ドラゴンともう一つタイプがある。特性の関係で、直接攻撃したポケモンは傷付くとも言ってた。でも、ゼンセがゲームの知識を頼りに戦っているのなら……)」
香織はサイドンを見る。その硬い甲殻を。
「……うん! これならきっと!」
香織は鋭い視線を、ゼンセと影ガブリアスに向けた。
次回もゼンセ戦を予定しています。