一瞬だけ、その場の時間が止まったかのように静かになる。誰も察せなかった。誰も動けなかった。あまりにも突然過ぎて目の前の状況を信じられなかった。
ハジメが、剣で貫かれている。
「ハジメ君っ!!」
「テメェェェェェ!!」
香織が駆け寄り、幸利達がノイントに攻撃しようとする。だが彼女は周囲の怒りを気にも留めず、ハジメから剣を引き抜いた。彼の体から血が噴出する。
「ゴバッ!?」
「我が主の力、返して頂きます。……が、その前に準イレギュラーの排除を」
ノイントが振り返る。だが、すぐに彼女の中に「?」が浮かぶ。先ほどまで殺気を感じた筈の準イレギュラー……幸利達が、攻撃の構えを取ったまま固まっているからだ。彼らの視線はノイントではなく、その背後に向けられている。
「甘いな、天使擬きが……!」
地の底から響くような声。その声の主は、排除した筈の存在。
「ッ!」
急いで振り返ると、香織が治癒魔法を掛けながら「彼」を支えていた。肉体は確かに南雲ハジメだ。しかし、その目は赤く光り、髪が半分だけ銀髪になっている。
「……何者ですか」
「ハハッ! イレギュラーを始末したと思い込んでる姿はお笑いものだったぜ! この俺、ゼンセ様が本当のイレギュラーだって気付かなかったんだからなぁ!」
そう。今ハジメの肉体の主導権を握っているのは、シュネー雪原で大きく力を失ったはずのゼンセ。しかし、傷付いた肉体のダメージを共有してるのかその顔には脂汗が浮かんでいる。ハジメの意識が暗転したのは、ゼンセが無理やり主導権を握ったからである。
「(ゼンセさん、まさか無理して……)」
「よーく見ておけ天使擬き! テメェが我が主我が主と崇めていた奴が持っていた力の、本当の所有者が目覚める瞬間をよぉ!」
ゼンセがプレートを取り出すと、まるで吸い寄せられるかのようにアルセウスの像へと浮かんで行く。見た目の質感が嘘のように、プレートが吸い込まれた瞬間には水のような波紋が浮かんだ。
「み、皆さん、伏せて下さい!」
「っ! 幸利、恵里、早く!」
シアの未来視が発動した。それは、目覚めし神の姿。しかしそれは映像越しですら彼女の膝が震えるほど。ユエがその事にいち早く気付き、幸利と恵里を伏せさせる。
その瞬間、像にヒビが入る。その隙間から漏れ出るは金色の光。ゼンセ達の居る空間が、震える。
ドドギュウウーン!!
神が、永き時を経て、再び目覚めた。
穢れを知らぬと言わんばかりの純白。荘厳を思わせる金色の輪。不敬を許さぬ赤き瞳。そうぞうポケモン、アルセウスが復活した。目覚めた瞬間に衝撃波が放たれるが、不思議なことに、伏せていなかったゼンセ(ハジメ)と香織に害は無く、ノイントだけが壁に叩きつけられる。
「グハッ……!?」
『お前たちの行いは、我が力の欠片を通して見ていたぞ』
脳内に響く厳かな声。ノイントに向けられるその瞳に向けられるのは、怒りではない。あらゆる意味で侮辱とも取れる、哀れみの感情であった。
『この場に貴様は不要。……去ね』
彼女に向かって放たれたのは“はかいこうせん”。神の力なのかノイントをわざわざ浮かばせてから、それを放つ。悲鳴を上げる暇も無く、ノイントは壁を突き破って退場させられた。
『さて』
アルセウスの目は、今度はゼンセ達に向けられる。だが、ゼンセは安心したような笑みを浮かべると、膝をついてしまう。
「ゼンセさん!」
「は、はは……。気合と根性で頑張ったが……此処までのようだ」
苦しい筈なのに、ゼンセは笑みを絶やさない。
「だが、ハジメは死なせねぇよ……!」
その瞬間、彼の肉体が光り始めた。
ノイントは退場。ですが死んでません。頑丈ですからね。
そして……復ッ活! アルセウス復活! アルセウス復活!
しかし、ゼンセの様子が……?