ポケットモンスター トータス【本編完結】   作:G大佐

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書いててかなり辛かったですが、書きました。




「う、あ……?」

 

 気怠さと共に目の前がゆっくりと明るくなる。ハジメの視界に映ったのは、泣きそうな顔をしている香織だった。

 

「ハジメ君!」

 

「かお、り……?」

 

 体を起こそうとするも思ったように力が入らず、香織の介助でやっと起き上がる事が出来た。香織の他にもシアやユエ、幸利に恵里と、全員がハジメを見ている。

 

「僕は……」

 

『やっと目が覚めたかよ』

 

「……え?」

 

 声の聞こえた場所に、イレギュラーが居た。棒人間と間違えそうな程に胴と手足は細く、その頭は炎の形となって揺らめいてる。とても細身な人間の形をした炎とも言える存在がいた。しかし、『彼』は本来この場には存在していない筈なのだ。

 

「ゼンセ、兄さん……?」

 

『おう。肉体の方も回復したようだな。良かった良かった』

 

「何で……!? 兄さんは僕の身体の中に居たんじゃ……!」

 

 本来ならば精神世界に於いてのみ会話をする事が出来たゼンセが、現実世界に存在している。彼の影響でそれなりに賢くなっているハジメを以てしても驚いた。一方のゼンセは、困ったように苦笑いする。

 

『まあ、何だ。色んな意味で天使擬きのお陰とも言えるかな』

 

「天使擬きって、あのシスター……!?」

 

 状況が分からず混乱するハジメ。しかし、ゼンセは苦笑いから一転して真剣な顔になると、結論のみを伝えた。

 

 

『此処でお別れだ、ハジメ』

 

 

 一瞬の静寂。ハジメはポカンとしていたが、やがて口を開く。

 

「え、ど、どういう事……? お別れってそんな、突然言われても……」

 

『天使擬きに刺された事で、お前の肉体は死んだ。そう、一度は“死んだ”んだ』

 

 混乱するハジメと、動揺する仲間たち。しかしゼンセは容赦なく事実のみを語る。

 

『本来なら、肉体が死ねばその身に宿る魂も切り離され、その魂もやがては消える。……本来ならな』

 

 ゼンセの輪郭が徐々にボヤケていく。

 

『だが、俺とハジメは1つの肉体を共有していた。ゲームみたく言えば、魂の残機みたいなのがあったと思えば良い』

 

「ゼンセ兄さん、身体が……透けて……!」

 

『だから、天使擬きが刺した瞬間、俺は肉体との繋がりを断ち切った』

 

「っ、南雲くんの死を、肩代わりしたって事……!?」

 

『まあ、天使擬きにカウンターぶち込めたのは大きかったよ。なぁ、アルセウス様?』

 

 ゼンセが向けた視線の先をハジメも追う。そこには、ノイントを退場させた時とは違い、周囲に配慮してプレッシャーを抑え込んでいるアルセウスが佇んでいた。

 

「アルセウス……!」

 

 ハジメは目を見開くと、アルセウスの側まで走る。

 

「アルセウス、お願いだ! ゼンセ兄さんを、ゼンセ兄さんを助けて! 創造神の貴方なら……!」

 

『……それは無理だ、ハジメよ』

 

 しかし、厳かな声で告げられたのは残酷な拒否であった。端から見ればそれは神の無慈悲。だがアルセウスに心が無いかと言えば、否である。

 

『ゼンセの語る肉体と魂の関係は事実。肉体の死と魂の分離は必定。その理をねじ曲げれば、1つの例外が遥か遠くに大きな影響を与えてしまう』

 

『ま、バタフライエフェクトって奴だな』

 

「そんな……!」

 

 視界が滲み、ゼンセの姿がよりボヤケて見える。袖で拭おうとしても涙は止まらず、嗚咽が漏れる。

 ふと、頭に手が乗せられた。見た目は細い筈なのに、炎に包まれている筈なのに、その手は大きく暖かい。

 

『ハジメ。ありがとうな、泣いてくれて。俺は自分が死ぬ瞬間を覚えてねえ。だから泣いてくれる人の顔すら思い出せねえんだ』

 

「兄さん……!」

 

『俺の物語はとっくに終わったんだ。きっと、お前を支える裏方の役目を与えられたから、こうして憑依転生みたいな形になったんだろうな』

 

「嫌だよ……! 逝かないで……!」

 

『だから……俺の知識は、お前に託す! お前のポケモンへの愛情も、これからの人生も、全てお前自身の物だ!』

 

 撫でられている感覚が、次第に薄れていく。消えていくというのに、ゼンセの顔は何処までも穏やかだった。

 

『生きろ、ハジメ! お前の物語はまだまだ続くんだ!』

 

 胴体も手足も消え、とうとう頭も消えていく。

 

『じゃあな、ハジメ。俺の……弟……』

 

 そうして、声も聞こえなくなった。

 

 

「ゼンセ兄さぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後悔が無いかと言われれば、嘘になる。泣かせてまで別れることじゃ無かった筈だとも思っている。

 

 だが、アイツには仲間たちが居る。恋人が居る。そしてトータスを旅して、色んな願いが生まれた筈だ。

 

 だから、俺がアイツの魂を蝕むようなことは、あってはならないんだ。

 

 ……あぁ、それでも。

 

 消えたく、無いなぁ……!

 

 この気持ちも、記憶も、全部が消えてしまう。改めて思う。死とは何て残酷なんだと。

 

 だからまぁ、せめて……願い事は言ってみるか。

 

 アルセウスと会えたんだ。だからきっと、転生を司る神様だって居る筈さ。

 

 だから、もしも叶えてくれるなら……。

 

 

 俺もハジメ達と同じく、ポケモンと旅をしてみたいな。

 

 

 




ゼンセ、消滅。しかし肉体と魂のルールに則った彼はきっと、何処かで生まれ変わるでしょう。

ポケモンとのクロスオーバーなのに最近ポケモン達が空気になってきているので、次回からもう少し要素をまた増やしていこうと思っています。
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