エヒトとの戦いが終わってから、1週間が経とうとしていた。主神として崇めていた存在が世界を壊そうとしたあの日。始めこそ、世界に神が君臨し人々は喜びに満ちた。しかし、その神が禍々しい龍を召喚した所から、困惑が生まれ始める。
そして繰り広げられる大激戦。ハイリヒ王国内はパニック状態となった。ひたすらエヒトに対して「神よ何故」と慟哭する者、荷物を纏めて早く逃げようと動き出す者、どうせ死ぬならと自棄になって強盗に成り下がろうとする者……。しかし、それを収めた人物がいた。
「私は、リリアーナ・S・B・ハイリヒ! 民よ、静まりなさい!!」
リリアーナは騎士団長メルドを傍らに、民衆の前に立ち上がった。彼女の幸運は、国民の心理状態が、神への戸惑いから王族への憎悪へ方針転換する前だった事だろう。
「我々が崇めし神は、偽りであった! 教会の語る慈悲深き神であるならば、万能の神であるならば! 神への反逆者に対し裁きを下す為だけに、何故我らが巻き込まれなければならない!」
国民達の思いは纏まっていく。何故自分たちが。その思いがエヒトから心が離れる切っ掛けとなった。
やがて激戦が終わり、戻ってくる夜空。そこから現れる神々しい光。国民達は気づけば両膝を付き、祈りの姿勢を取っていた。
「さて……。忙しくなりますね」
戦いの終わりを悟ったリリアーナは、そう呟いた。
戦いを終えてから、ハジメ達は疲れを癒すために休養を取っていた。キョダイマックスの影響を受けていた国や都市は、住民たちの逞しい根性によって復興が進みつつある。冒険者ギルドが冒険者を派遣しているのも、功を奏しているのだろう。
その日も、ハジメは宿の一室にて眠りについた。その筈であった。
「此処は何処だろう……」
前後左右、上と下と周囲を見回しても、目の前に広がるのは星空。まるで宇宙にいるかのような状態であった。
『ハジメ』
空間に響く声。振り返ると、目の前が眩しさに包まれる。
「うわっ!?」
『よくぞ、1つの宇宙を救いました』
突然の光に驚いたが、やがてハジメはゆっくりと目を開ける。この光を自分は知っている。厳しくも何処か優しくもあるこの光を、1週間前に体感したばかりであった。
「アルセウス?」
『然り。人は私を、アルセウスと呼びます。しかしながらあなたの出会ったアルセウスとは異なる存在』
「……あなたは一体誰?」
『この光景を見れば、あなたは私のことを理解するでしょう』
水面に雫が落ちるような音がした。足元を見ると、先ほどの宇宙空間に惑星が現れていた。
「地球? いや、この地形は……カントー地方!?」
カントーだけではない。ジョウトにホウエン、シンオウにイッシュにカロス、アローラにガラルと、ゲームにて冒険した地形が広がっていた。
しかし、景色が遠ざかると新たな惑星に突入する。
「この光景は、それにあの人達の装備はまさか、ポケモンレンジャー!」
再び新たな惑星へ。
「不思議のダンジョン!」
新たな惑星へ。
「サトシ君ってことは、アニメの世界!?」
新たな地方へ。
「ここはさっきの惑星? ……って、草タイプのネコに炎タイプのワニ、水タイプのアヒル……新しい地方なの!?」
新たな時代へ。
「シンオウに似てる……。まさか、大昔の!?」
再び宇宙空間へと戻る。ハジメの表情は、出会った時の困惑から驚きへと変わる。
「まさか、あなたは全てのアルセウスの……!?」
『ハジメが救ったアルセウスも、私の分身の1つ。さあ、本題に入りましょう』
光はやがて金色のアルセウスへと姿を変える。
『あなたは1つの宇宙を救いました。アルセウスとは即ち宇宙。アルセウスを救うことは宇宙の救済に匹敵するのです。あなたは英雄と呼ばれても過言ではない存在となりました』
「……僕は、英雄と呼ばれたいから助けたんじゃない。ただポケモンが虐げられるのが嫌だったから、そして元の世界に帰りたかったからって言うのが、最初だった」
けれど、とハジメは続ける。
「ドサイドン達と旅をして、色んなところを旅して、この世界をエヒトの思うがままにしたくないって感じた。それも理由だよ」
『なるほど。……さて。あなたの功績に対して、私は褒美を与えようと思っています。あなたの望みを叶えましょう』
「え……?」
『あなたの願いを言ってみてください。あなたは1つの宇宙を救ったのです。その功績の大きさは、1つだけ叶えるなどという範囲では収まりません』
全ポケモンの知識または能力。永遠の命。そして……死者の蘇生。
『あなたの思いつく限りの願いを、全て叶えましょう。さあ、言ってごらんなさい、ハジメ』
それはまるで、神の誘惑のようであった。ハジメは目を閉じて思案する。
――俺の知識は、お前に託す! お前のポケモンへの愛情も、これからの人生も、全てお前自身の物だ!
――生きろ、ハジメ! お前の物語はまだまだ続くんだ!
「僕の、願いは……!」
ハジメが願いを言うと、アルセウスは頷いた。
今回出てきたのは、LEGENDSアルセウスに出てきた「分身体を託したアルセウス」です。「トータスのアルセウス」とは違います。
個人的には、様々なポケモンの世界にアルセウスは居て、それ等を統括している上位存在的なものこそが、LEGENDSのオープニングに出てきた光なんじゃないかなと考えています。私たちの知るアルセウスの姿すら仮のもの……みたいな。
次回、最終話となります。