こうして階層主を突破したハジメ一行は、戦闘エリアを抜けた先の光景に圧倒されていた。
「太陽? 馬鹿な、ここは地下の筈なのに……」
洞窟の天井には、暖かい光を放つ球体が浮かんでいた。さらに壁からは小さな滝が流れており、よく見るとコイキングやトサキントが泳いでいる。
「っ! あれは……!」
畑と思われる場所には、ハジメが途中の階層で見つけたクスリソウやゲンキノツボミ、キングリーフを始めとした様々な薬草が生い茂っていた。そこにもハジメは驚いたが、もう1つの畑に驚いたのだ。
「木の実だけじゃない、ぼんぐりの木まである……!」
丸くて硬い、まるでドングリのような木の実、ぼんぐりまであった。
「ハジメ、あそこ」
「あれは……家?」
3階建ての、そこそこ大きな家と思われる建物。そこから導いた答えが、ハジメの口から漏れた。
「ここ、もしかして反逆者の住み処なのか?」
ハジメの呟きは、滝の音でかき消された。
「はぁぁ~! 久し振りのお風呂だぁ!」
歓喜の声をあげながら両足を伸ばすハジメ。畑や川とは反対側の石造りの建物にあったのは、湯船だった。オスのカエンジシを模した置物に魔力を注ぐと、お湯が出る仕組みになっている。
水で軽く体を拭くだけの日が続いていたため、汗や土埃の汚れが気になっていた。探索の疲れを癒すためにも、ハジメはありがたく利用させてもらっていたのだ。
「……まさかユエも入るとは思わなかったけど」
「タオル巻いてるから問題ない。あって良かった」
ユエも熱帯雨林エリアで汗をかき、更にサザンドラ達との戦いで土埃にまみれている。我慢できなかったのは彼女も同じだった。
「ハジメ」
「ん?」
「私に、ポケモンの事をもっと教えてほしい。今までの戦いを見て、ポケモンの事をもっと知りたくなった。だから……」
「ユエ……」
ハジメは胸が暖かくなった。この感覚を知っている。
――私にも、ポケモンの事を教えてくれるかしら?
――お前があんな面白いイラスト描いてたのかよ!? ならもっと教えてくれよ! 俺、清水幸利っていうんだ。
――お前のイラスト見たけどさ、すっげぇ面白いよ!
雫、幸利、浩介。地上にいる友人達と同じ、ポケモンに興味を持ってくれたと言う嬉しさだった。
「勿論さ! ポケモンを知りたいと思ってくれるだけで、すっごく嬉しいよ!」
その時、彼の頬に水滴が1粒流れていた。
その後、ベッドへ潜りぐっすりと眠ったハジメ達。なおラッキースケベ等は起きていない。
彼らは建物の奥にある部屋へと訪れていた。床には魔方陣が広がっている。しかしその向こう側にある豪華な椅子。これが問題だった。
「白骨化してる……。この人が反逆者なのかな」
「どうして、寝室じゃなくてこの部屋を選んだんだろう」
俯くように座り込む骸。この人物は、この奈落の奥底で何を思って生活していたのか。
「……魔方陣を調べよう」
「うん」
2人が魔方陣の中心へ歩くと、陣が光り始める。あまりの眩しさに目を瞑るが、すぐに光は収まる。
そして2人の前に現れたのは、半透明の黒衣の青年だった。
『私の名前はオスカー・オルクス。この大迷宮を造った者だ。恐らく後世では、反逆者として伝えられているだろう。だが、どうか私の話を聞いてほしい』
ハジメは、ごくりと生唾を飲み込んだ。
オスカーは語る。トータスの狂いし神々を。反逆者……否、解放者たちは、トータスが神々の遊技場となっている事を知った。魔人族も人間も神託で誑かし、争わせ、形あるものが壊れることを愉悦としていると言う。
『だが、私たちは知ったのだ。エヒト達よりも遥か昔から、この世界に住まいし神々が居ることを』
それは、辛うじてエヒトから「神の力」の一部を奪い取る事に成功した時だった。その「神の力」を通じて、解放者たちは世界の更なる真実を知ったのだ。
『エヒトは神ではない。真の神から力を奪い取った、盗人に過ぎないのだ!』
――そして、その真の神は消えていない!
オスカーのその言葉に、ハジメは目を見開いた。
『神の力……いや、石板を通じて私たちは知った。真の神、アルセウス。かの者の存在は消えてしまった訳ではない。力を奪われ、石化した状態で封印されているのだ』
「アルセウスが、生きている……!」
『神代魔法を授けようとも思ったが、アルセウスの力を残しているエヒトを倒すのは至難の技だろう。だから、アルセウスの石板を授けるための、試練を与える』
「アルセウスのプレートを……」
『この建物には書斎がある。私が考案したアイテムや、魔法を記した書物があるから、存分に活用して、そして試練に挑んでくれ。……世界に、本当の平和を』
そうして映像が消えた。
「……書斎に行こう」
「……ん」
2人はオスカー・オルクスの骸へ顔を向ける。本当は丁寧に弔いたいが、それはプレートを手に入れた後からだと、背を向けた。
次回は、プレートの試練を予定しています。
更新予定日は未定ですが、お楽しみに。