オスカー・オルクスの部屋を後にしてから、ハジメは書斎に籠るようになった。いま彼が読んでいるのは、オスカーが残したアイテムのレシピである。
「ぼんぐり、良し。たまいし、良し」
茶色のぼんぐりと、赤い石を1つずつ作業台に並べる。それに手をかざすと、魔力を流し込むと同時に、
「クラフト!」
そうして一瞬の光が放たれると、作られたのは、ハジメが求めてやまなかったアイテムがあった。
「出来た……モンスターボール!!」
思わず歓喜の声を上げてガッツポーズをするハジメ。彼が読んでいた本には、このような事が書いてあった。
―――魔物が小さくなれる性質を見つけた私は、大きな体格をしていても共に居れる道具を作った。私は、全ての魔物が悪だとは思えない。彼らは私たちの言葉を理解する事が出来る。パートナーとして共に居れば、その傾向は強いだろう。だがこの世界の人々は魔物に怯える。彼らが害されない為にも、この道具は必要不可欠であろう。
ハジメはその文を読み、涙した。ポケモンを思ってくれる人間が、遥か昔に居たことに。そしてそんな彼が反逆者として迫害され、孤独に死んでいったことに。
「(オスカーさん。貴方が遺してくれた技能であるクラフト、必ず使いこなして見せます!)」
今のハジメのステータスは、次のようになっていた。
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル8
天職:錬成師、魔物学、テイマー
筋力:100
体力:1100
耐性:40(+990)
敏捷:100
魔力:180
魔耐:40(+990)
技能:言語理解(真)、錬成(+クラフト)、回避行動、背面取り、魔物攻撃耐性
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奈落でのサバイバルによってレベルが上がり、魔力に至ってはステータスプレートを渡された時の光輝よりも上になっていた。戦闘しながら錬成を続けていた賜物だろう。
そして注目すべきは、錬成の派生技能として「クラフト」と言うものが追加されていた。
クラフトは、有機物も対象として新たな物を作り出す技能である。具体的には、薬草や木の実を材料に薬を作り出せる。しかも、先程のモンスターボールのように、鉱物と有機物を混ぜ合わせることも可能なのだ。他にも、クラフト台のような場所も、クラフトキットのようなかさばる物も必要としない。その場でアイテムを作ることが可能なのだ。
「オスカーさん、本当に凄いな……」
彼が残した書物の中には、ステータスプレートの偽装方法も書いてあった。それによって、ハジメの天職にあった「魔物使い」を、「テイマー」に変更した。地上に出た時に魔物使いのままだと、下手すればエヒト教の異端者として扱われそうな気がしたからだ。
「……良し、行こう」
クラフトの練習として作った、モンスターボールやキズぐすりをポーチにしまっていく。
一見小さなポーチに道具が次々としまえる理由は、ハジメが着けている指輪にある。これは、オスカーが遺したアーティファクトで、書物には宝物庫と書かれていた。かなりの数の道具をしまうことが可能で、ハジメはそこに「朽ちた剣」と「朽ちた盾」も入れている。
そうしていると、ユエが書斎に入ってきた。
「ハジメ、前に言ってたモンスターボール、出来た?」
「うん。これで、サイホーンやゴルーグを安全に連れていけるよ」
「……本当に大丈夫?」
「彼らには、移動手段としてボールから出すこともあるから、閉じ込めっぱなしにはならないよ」
「ん、信じる」
2人が建物から出ると、サイホーンとゴルーグがそれぞれの相棒の元へ歩いてきた。
「サイホーン、聞いてくれ。これから先の旅で、君の事を怖がる人たちが多いんだ。一緒に旅する為にも、ボールに入ってくれる?」
「ゴルーグ、私と一緒に来てくれる?」
すると、2匹とも同時に頷いた。ハジメとユエは安心した顔をすると、相棒たちへボールを近付ける。するとサイホーン達は光に包まれ、ボールに収まる。蒸気を出しながら大きく揺れると、小さな花火が上がった。
「よし、改めて……サイホーン、ゲットだぜ!」
「ゴルーグ、ゲット……だぜー」
ずっと言いたかった台詞を言うハジメ。ユエも真似するが、照れるあまり棒読みになったのだった。
ハジメ達は再び書斎へと戻ってきていた。と言うのも、オスカーが作った「神の力への試練」の場所は、この部屋にある隠し扉の奥なのだ。
なぜ隠し扉の場所が分かったのか。それは、1つの本棚に、オスカーが身に着けていた指輪と同じ紋章があったからだ。
「……準備は良い?」
「ん。私たちなら、出来る」
ハジメが指輪をかざすと、本棚の紋章が淡い光を放つ。そして本棚はゆっくりと横へスライドし、通路を露にした。2人が通路の奥へ消えていくと、ゆっくりと本棚は元に戻っていった。
そうしてたどり着いたのは、大広間のような場所。その床には、丸いパネルのような物が敷かれている。何よりも、広間の奥に鎮座する像に、ハジメは目を見開いた。
「(この部屋、そして奥にある像って、もしかして……!)」
「ハジメ。石板に何か書いてある」
ユエの言葉にハッとして、近くにあった石板に目を通す。
だが、それを目にしたユエは顔をしかめた。
「……何これ。全然読めない」
黒い点だけで作られた、文章らしき物。見た目とは裏腹に長寿であるユエですら読んだことの無い文字であった。
ところが、ここでハジメの技能が発揮される。
「『神の力を求めし者よ。真の覚悟があるならば、巨人の目を光で満たせ』」
「……ハジメ、読めるの?」
「う、うん。これ、僕たちの世界では点字って言うんだけど……何か、読めちゃった」
これが、ハジメの技能にあった、言語理解(真)の効果である。聖教教会によって弾圧され、消えていった古代文字。それを瞬時に解読できるのだ。
「古代文字も読めるって、凄く便利」
「いや~、それ程でも……って、とにかくこのパネルを光らせれば良い感じだね」
「巨人は、たぶんあの像のこと。その目と同じ形に光らせれば良いってこと?」
「そうなるね。……行こう」
「ん」
そうして、2人で床のパネルを光らせていく。奥の像と同じ配置で光らせた瞬間……部屋の空気が変わった。像の目がゆっくりと光り出す。
――じ・じ・ぜ・じ・ぞ
レジ系の戦闘BGM、大好きです。
なお、目が光る演出は、オメガルビー・アルファサファイアの演出をイメージして頂ければ幸いです。
次回は、レジスチル戦です。お楽しみに。