ウサ耳の少女シアを助けるために、やむを得ずイワークと戦うことになったハジメ達。先攻はユエだ。
「ゴルーグ、“シャドーボール”!」
「ゴ、ル!」
「グゥ……!」
イワークに命中はするものの、倒すまでには至っていない。だがそれとは違う点でユエは違和感を感じていた。
「威力が落ちてる……?」
それに、“シャドーボール”特有の黒い球を生成することに、ゴルーグはかなり力を込めてるように思えた。普段ならば瞬時に発動する筈なのに。
まさかと思い、ユエは適当な魔法を使おうとした。
「……やっぱり。力が分散される」
しかし、奈落での戦いと同じ感覚で放とうとしても、力が体の外へ流れるように感じた。
そしてユエは思い出した。ハジメが、ここライセン大峡谷では何故か魔法が使えないと言っていたことを。
「ハジメ! ここ、魔法が使えない! それにポケモンの技も威力が落ちてる!」
「何だって!? サイホーン、“マッドショット”を撃てるかい?」
「グ、ア……!」
サイホーンも、技を出すのに苦労をしている感じがした。もしやと思い、ハジメは別の技を指示する。
「“ドリルライナー”!」
「ッ! ガァァァァ!!」
「イワァァァァ!?」
今度は瞬時に発動し、効果抜群の技をイワークに叩き込む。その威力に恐れをなしたのか、イワークは慌てて地面の中へ潜り逃げていった。
「何で……?」
「……僕の推測なんだけど、もしかしたら技の種類に関係あるのかもしれない」
「技の種類?」
「うん。ポケモンの技には、物理技・特殊技・変化技の3種類があるんだ。ゴルーグの“シャドーボール”やサイホーンが放とうとした“マッドショット”は、特殊技に分類される」
「もしかしてこのエリアって、ポケモンにとって特殊技の威力が下がる場所? だからさっきの“ドリルライナー”なんかはそのまま使えた?」
「そうなるかもね。ポケモンの技は、炎や電気なんかを放つ時点で魔法染みてるけど、特殊技はとくにそういうイメージがあるかも。変化技なんかもきっと、此処だと影響受けるんじゃないかな」
実はハジメの推測は当たっている。ライセン大峡谷は、ゲームに例えるとかなり厄介な場所で、特殊技の威力が下がってしまう。変化技なら、天気や“リフレクター”、“グラスフィールド”などのターン数が減少するのだ。
しかも、
「さて、イワークを撃破した訳だけども……」
2人は、先程から黙り込んでいるシアを見る。その表情から察するに、唖然としていたようだ。
「色々と教えてもらおうかな?」
「ひゃ、ひゃい!」
我に返ったシアは、耳をピクンッと動かして返事をするのだった。
シア・ハウリアは、亜人族の中でも特に争いを好まない兎人族の少女である。彼女は特別であった。本来なら亜人族には持たない筈の魔力を持って産まれたのである。
だが、兎人族改めハウリア族は、本来ならば「忌み子」と呼ばれ処刑されるシアを匿った。一族みな家族という風に考えていたからだ。
匿われながらも、周りから愛を注がれて育った彼女。そんな時、あるポケモンと出会う。
「それが、アブソルなんです」
シアがアブソルを優しく撫でると、彼もまた嬉しそうに目を細めて撫でられる。その光景にハジメとユエはほっこりしていた。
「本当に仲良しなんだね」
「幼い頃に、樹海の中で怪我していたのを見つけて、それ以来私が匿いました。……この子たちは、災いを呼ぶと言われてますが」
「それは間違いだ」
アブソル。わざわいポケモンとも呼ばれ、人間に忌み嫌われ、このトータスでも危険視されているポケモンである。
だが、ハジメは知っていた。アブソルは災害などを予知して、それを知らせるために人里に下りているのだ。それを人間が、災いを呼んでいると勘違いしてしまった。とんでもない冤罪である。
「っ! 貴方も、アブソルは災いを呼んでいないと信じてくれるんですか!?」
「知識として、この子は悪くないと知ってるんだ。そっか……。君も気付いたんだね。この子の事に」
だが、とうとうシアとアブソルの存在がバレてしまった。気付かない所から姿を見られたらしい。
「みんな私とアブソルを殺そうとしました。けど、お父様を始めとした一族みんなが、助けてくれたんです」
そもそも、アブソルを匿うことにハウリア族全員が反対しなかった。何と彼らも、怪我をしたポケモンたちを手当てし匿っていたのだ。これも明るみになり、一族全員がハルツィナ樹海にある亜人族の国フェアベルゲンから追放されてしまった。
そもそも、亜人族が差別されている理由は、魔力がなくエヒトから見放された存在だからと言われているが、それだけではない。
シアが語るには、遥か昔、一部の人間がエヒト教から離れてポケモンと生活していた。異なる種族であるにも関わらず結婚し、そして子を成した。人間とポケモンのハーフがまた子を作り、その子がまた新たな子孫を作る。そうしていく内に動物のような特徴を持ちつつも魔力を持たない亜人族になったと言う。
だがエヒト教から見れば、魔物と子を成すなど言語道断である。その歴史を否定するために差別しているのだ。
そして現在の亜人族の考えは、ポケモンを根絶する事ではない。
確かに先祖が魔物と結婚しなければ差別されなかったかもしれない。だが今の姿があるのは魔物の恩恵とも言える。憎しみと感謝が混ざって生まれた考えが、『我々と魔物は離れて暮らすべきである』というものだった。
ハウリア族は、その考えに背いた。だから追放されたのだ。
話を戻そう。
さらに不運は続き、傭兵から成り立った国、ヘルシャー帝国の兵士までもが追ってきた。彼らは亜人族に対する奴隷狩りを行なっており、特にハウリア族はその見た目から、愛玩目的で拐われることが多いという。少しでも仲間を逃がそうと若い男たちが戦ったが、戦闘経験の差は圧倒的。殆どなにも出来ずに捕まったと言う。
「お願いします! 私の家族を助けてください!」
土下座するシアと、頭を下げるアブソル。此処までされるとは思わず、2人は固まってしまう。
「(う、うーん。まさか一族レベルの問題だなんてなぁ……)」
だが、ハジメとしては見捨てたくなかった。土下座までされて断るほど冷酷ではなかった事と、ハルツィナ樹海にある大迷宮を知りたかった事もある。
そして何より……ポケモン達を匿おうとする優しさに、何処か惹かれたのだ。
「ユエ。僕は……」
「分かってる。私は、ハジメに着いていくって決めたから」
「……ありがとう。シア。逃げた人たちがどこに居るのか、教えてほしい。帝国兵が何処に行ったのかも知りたい」
「っ! 本当ですか!? ありがとうございます! ううっ、本当に良かったよぉ……!」
涙を流すシア。その様子にハジメは、香織はどうしてるだろうかと想いを馳せた。
亜人族の設定は、ポケモン要素を混ぜ合わせた捏造設定です。シンオウ昔話にある、人とポケモンが結婚していた話から出しています。