ハウリア族の処刑が免れた後、アルフレリックから仮の拠点を与えられた。フェアベルゲンでは最も外側に位置する場所で、ハジメは『ハウリア族育成計画』を立てた。
彼らは確かに処刑は免れた。だが、全ての亜人族が「奴隷にすることで死亡扱いになったので処刑しない」という結果に納得する筈がない。ハジメはその事を察していた。
「(仲間とポケモンを守るため。だからポケモンバトルの指導をしてたんだけど……)」
今のハジメの顔は渋い顔をしている。というのも、ハウリア族の気質にあった。彼らは争いを好まず博愛的だ。だが、その限度が過ぎるのだ。
「あぁぁ、すまんケムッソ! 痛かったよなぁ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! でも戦うしかないのぉぉぉ!」
ダメージを受ければ悲鳴をあげ、ダメージを与えても悲鳴をあげる。少しでも攻撃を受けたら回復アイテムを使用する程である。
「いや、これは流石になぁ……」
「申し訳ありません、ハジメ殿……」
呆れの表情を隠せないハジメに、カムは謝るほか無い。バトルの訓練を申し出たのに、彼も相棒のキャタピーを戦わせることに、躊躇いがあったのだから。
「自身の家族が傷つくと思うと、どうしても……」
「そうかもしれませんけど、ポケモン達の表情とか見た方が良いかもしれませんね」
「表情、ですか?」
カムのきょとんとした顔に、ハジメは頷く。
「特訓を見てると、どのポケモンも『まだ戦えるのに』『この傷は大したことないのに』って鬱陶しがってる顔をしてるんですよ」
「なんと……」
だが言葉で伝えても、彼らの気質が変わることは中々無いだろう。そこでハジメはあることを閃いたのだが、そのタイミングでカムが尋ねた。
「ところで、シアは何処ですかな? ユエ殿も見当たりませんが」
「ちょうど良かった。彼女達のバトルを見せたかったんですよ」
シアはやはり特別らしい。彼女はバトルに対して積極的だったのだから。
ハジメ達とは離れた場所。そこでシアのアブソルと、ユエのゴルーグがバトルをしていた。
シアは、ハジメ達に助けられた時から、ポケモンと協力して戦う姿に憧れた。一目惚れとも言える。そして他の亜人族に睨まれた時にアブソルに助けられた事が、自分の情けなさを自覚させた。彼は他の者たちから嫌われていたのに、怯えることも隠れることもせず、立ち向かおうとしたのだから。
だからこそ、ハジメのポケモンバトル講座に積極的であり、それを認めたハジメは彼女の担当をユエに任せたのだ。
「アブソル、“でんこうせっか”です!」
「アブッ!」
「それはノーマルタイプの技。ゴーストタイプを持つゴルーグには効かない。“きあいパンチ”」
「ゴォォ……!」
力を溜め始めたゴルーグを見て、シアはニヤリと笑った。
「そんなの、最初のバトルから経験済みです! “つじぎり”ですよ!」
「しまった!」
「アァァ、ブッ!」
「ゴゴォ!?」
初めの“でんこうせっか”は、あくまで距離を詰めるため。本命はゴルーグに効果抜群である悪タイプの技であった。“きあいパンチ”のために力を溜めていた事もあって、その姿勢をゴルーグは大きく崩される。
「だけど、私のゴルーグは……強い!」
「ゴルウウウウウウ!!」
雄叫びを上げると、“つじぎり”のために近くにいたアブソルが大きく吹き飛ばされた。
「な、何が……!」
「“ばかぢから”……私とゴルーグはまだまだ戦える」
一方のアブソルは、効果抜群の格闘タイプの技を受けてボロボロだった。シアは悲痛な気持ちで彼を見る。
「(アブソルがあんなに傷だらけに……)」
脳裏に浮かぶのは、初めて彼と出会った時のこと。他のポケモンと争ったのか、それとも誰かに意図的に傷つけられたのか。理由は不明だが怪我をしていたアブソルを見つけたのが始まりだった。弱々しい声を上げていた頃のことを思い出して、シアの動きが止まりそうになる。
「アブソル……。もう……」
「アッブッ!」
顔をこちらに向けて鳴き声を一つあげるアブソル。その眼はシアにこう語っていた。
―――大丈夫。まだいける。
それを察したシアは目を大きく見開き、そして一瞬だけ閉じる。再びゆっくりと開かれたその目は……諦めが消えていた。
「アブソル、今です!」
「何する気……! “メガトンパンチ”で迎え撃って!」
アブソルが一気に駆け抜ける。ユエの指示通りに拳を振り上げるが、シアはすかさず指示を飛ばす。
「背中に回り込んで!」
「アブ!」
拳が当たる寸前に回避し、背中へ回り込む。ゴルーグのパンチでクレーターが出来上がった。
「そのまま“しっぺがえし”!」
「グゴォォォォ!?」
「ゴルーグ!」
片膝をついてしまうゴルーグ。お互いに、ゲームで言うならば体力ゲージが黄色または赤色になってるだろう。
「そこまで! そろそろ休憩だよ」
ハジメの声が聞こえ、2人が視線を向けると……ハウリア族たちが感銘を受けたような顔で観ていた。
「なんと言うバトル……お互いに諦めないとは! 感動した!」
「ただ傷付けるだけじゃなかったのか……」
「(良かった。これで、少しは積極的になってくれるかな)」
ハウリア族から拍手喝采を受けて照れているユエとシア。そんな2人を見て、ハジメも微笑んでいた。
久々にポケモンバトルを書いたような感じがしました。次回はハウリア族の変化と、区切りがよければ樹海の迷宮へ向かう場面にしようかと思っています。