霧の中に居るのは、ハジメと2匹のポケモンだけだった。1匹は、左耳が欠けている青い狼のようなポケモンであるザシアン。もう1匹は彼女と反対の右耳が欠けているポケモン、ザマゼンタ。
前世の知識では、それぞれ剣の英雄・盾の英雄と呼ばれしポケモンである。
『真なる神の力、その欠片を持つ者よ』
ハジメの頭の中に、凛とした女性の声が聞こえてきた。
「テレパシー……? この声はまさか、ザシアン?」
『いかにも。この樹海に、神の欠片を持つものが現れたと知り、こうして会いに来た』
だがよく見ると、その足先は若干透けている。前世のゲームと同じ、幻らしい。
「僕なんかのために、どうして?」
『お前が行くべき迷宮は、この先では無いからだ』
同じ凛々しさ、だが今度は男性の声だ。こちらはザマゼンタだろう。だが彼の言葉に、ハジメは首を傾げる。
「どう言うこと?」
ザマゼンタは続けた。
『この先の迷宮に求められる資格は、神の欠片1つだけではない』
ザシアンが弟の言葉を繋ぐ。
『中央を除く他の迷宮へ行けば、おのずとこの先の迷宮へ辿り着ける』
「他の迷宮へ……」
すると、2匹の姿が徐々に消えていく。ハジメは慌ててポーチからとあるアイテムを取り出す。王国の宝物庫を開放された時に手に入れた、『朽ちた剣』と『朽ちた盾』である。
「ま、待ってくれ! 僕は君たちの剣と盾を持っている! これは君たちに返すべきだ! せめて何処に居るのか教えてくれ!」
『ふ……。この人間は優しいな、姉よ』
『そうだな。だが、その剣と盾を出すのは今ではない』
「え……?」
『『来るべき戦いまで……』』
すると、白い光で目の前が見えなくなった。
「――メ! ―ジメ! ハジメ!」
「ハッ!?」
大きく肩を揺さぶられて、ハジメは意識を取り戻した。辺りを見渡すと霧は既に晴れており、目の前には枯れた巨大樹がある。
「ここは……」
「霧が一気に濃くなったかと思いきや、気付けば大樹の元に居ました。しかしハジメ殿がずっとボーッとしたままでして……」
「ハジメ、大丈夫?」
「……実は」
ハジメは、ザシアンとザマゼンタの名前を伏せて、不思議なポケモンの事を話した。話を聞いていく内に、シアやカムは驚きの表情になる。
「何と、まさか
「凄いですよ、ハジメさん! 英獣さまは私もお父様も、御伽噺でしか聞いたこと無いのに」
「御伽噺で?」
フェアベルゲン建国より、否、大迷宮が作られるよりも大昔に、空に『黒き災厄』が現れた。ポケモン達はその影響を受けて凶暴化し、亜人族の先祖達は自分達は滅びると諦めかけていた。しかし、2匹のポケモンが災厄に立ち向かい、さらに凶暴化したポケモンたちをも鎮めたと言う。
「(完全にガラルの英雄伝説じゃん!? いや、2匹だけで戦ったというのはトータスオリジナルかもしれないけども!)」
ゲーム知識なら、2人の男と共に2匹は戦っている。
そしてハジメは、ある疑問を抱いた。
「(黒き災厄ってのは、きっとムゲンダイナの事だ。やっぱりこの世界にも居るのか……? ゲームなら、ローズ社長が復活させて、そこから暴走してたけど……)」
だが、ムゲンダイナが眠ってる場所も分からない以上、どうすることも出来ない。ハジメは一先ず考えるのを後にした。
「けど、英獣様がそう告げたのなら、ここの大迷宮は後回しになるんでしょうか?」
「そうなるね……。あと近いのは、ライセン大迷宮かな?」
「そうですか……」
シアはそのまま、意を決した表情でハジメに告げた。
「ハジメさん。私もあなたの旅にお供させて下さい!」
「…………はいぃ!?」
思わず変な声を上げるハジメだが、そんなことも構わずシアは理由を話した。
「私、ポケモンと力を合わせるハジメさんの姿に、尊敬しました! いえ、しています! ユエさんとの特訓でも、アブソルとより繋がりを感じた気がするんです! ハジメさん。私にもっと、ポケモンの事を教えて下さい!」
勢いよく頭を下げるシア。ハジメはしどろもどろになる。ユエを見るのだが、彼女は頷いている。
「私は賛成。特訓の時、凄く積極的だった。未来視って能力も旅の役に立つと思う」
「ユエさん……!」
「ハジメ殿。私からもお願いします。私たちは、シアとアブソルを匿うことを優先にしていて、あまり外の世界を見せてあげられなかった。彼女に色んなものを見せてください。我々は応援しながら、帰りをお待ちしてますから」
「お父様、みんな……!」
旅の仲間に、そして身内にまで賛成されたのでは断れない。だがハジメは彼女に覚悟を問う。
「亜人族だからって白い目で見られるかもよ。それに、迷宮が与える試練はどれも厳しいかもしれない。過酷な旅だけど、本当に良いんだね?」
「勿論です。今まで守られてばかりだったから、今度は私が動きます!」
「……分かった。よろしくね、シア」
「っ! はい、ハジメさん!」
微笑みながら握手を差し出すハジメに、シアは嬉しさのあまり涙を流しながら握り返す。そんな娘の旅立ちを、カムは少し寂しく思いつつも笑って見送ったのだった。
次回は、ブルックの町を予定しています。