シアを仲間として歓迎し、樹海を離れたハジメ一行。すぐにでもライセン大迷宮に行きたい所だが、その前に寄り道することになった。
「ブルックの町、ですか?」
「うん。ポーチの中で要らない物を売って、お金を稼ごうかと思っててね。どうせなら冒険者として登録すれば、買い取り額アップとか宿泊費割引とか、旅として色々お得だし」
「お金で食料とかも買えれば、ご飯にも困らない」
「そう言うこと」
シアは納得したように頷く。そこへハジメは、彼女にとって迷いの選択を与える。
「だけどねシア。町に行くわけだから、当然君は目立つわけだ」
「え? ……あ、そうでした。亜人は人間から見れば奴隷でした……」
「だから、君が変な視線を受けないためにも、これを着ける必要がある」
ハジメがポーチから出したのは、首輪。それを見たシアは顔がひきつる。
「えっと、冗談ですよね? その黒い首輪を着けるなんて事は……」
「………………」
「いや、あはは、まさかですよね~。心優しいハジメさんが仲間にそんなこと……」
「………………」
「……グスン」
泣き顔になるシアだったが、ユエが慰める。
「意外と似合うかもしれない」
「フォローになってませんよぉ!!」
その後、ハジメは何とか彼女を説得して、首輪を着けさせたのだった。
そうしてブルックの門に着いたハジメ達だが、彼が代表してステータスプレートを見せることになった。その数字を見た門番は驚く。
「すっげぇな! 何だこのステータス!? 見た目の割にあんためちゃくちゃ強いんだな!」
「見た目の割に、は余計だよ」
「悪い悪い。でもそんな強いから、白髪の亜人とか金髪のかわいこちゃんをお供に出来るのか?」
「さぁねえ? ところで、冒険者登録したいんだけど、ギルドとか何処にあるかな?」
「それなら道なりに進めば、デカい看板があるから、そこに行きな。地図も貰えるし」
「分かった。ありがとう」
ギルドへ向かう道中、何人かがシアの事を見ていた。中には彼女を手に入れようと思い付く者もいたが、首輪がハジメの所有物である事を証明しているため、舌打ちして去っていく。
「……ね? 首輪着けた方が正解でしょ?」
「納得はしましたけど複雑です……」
そうしてギルドへ辿り着くハジメ達。そこには、恰幅の良いおばちゃんが居た。ハジメは少し安心していた。シアもユエも美少女であるため、これで受付嬢まで美少女だったりすれば「トータスってポケモンではなくてハーレムゲームの世界では?」と疑うところだったからだ。
「美人じゃなくてガッカリかい?」
「まさか。むしろご近所さんみたいな安心感がありますよ」
「上手いこと言う子だ。さて、ご用件は?」
「冒険者登録と、素材の買い取りを。買い取り額から登録手続きの料金を差っ引いてくれると助かります」
「もしかして文無しかい? 別嬪さん2人も連れて何やってんだい」
軽い説教を受けている光景を見て、周りの冒険者たちも「あぁ、アイツもお説教くらったか~」と暖かい視線を送っていた。
「あはは、強い魔物から逃げる時に落としちゃったみたいで……」
「まったく……。それじゃあ、どんな素材か見せてもらおうかね」
ハジメがポーチから取り出したのは、『おおきなキノコ』や『ふっかつそう』など、樹海の道中で採取したものである。おばちゃんの目が驚きに変わる。
「こりゃまた、上質な物を持ってきたね。ふっかつそうなんて薬の材料になるから高く買い取れるよ。それをこんなに沢山採れるとなれば……。樹海産と見た」
「手続き料として足りますかね?」
「お釣りだけでも、買い物に困らなくなるくらいの額になるね。心配無用さ」
トータスにおける通貨単位は、ルタである。不思議なことに日本円と同じで、1ルタ=1円と換算できるのだ。
「それと、地図を貰えますか? 門番さんに此処で貰えるって聞いたんですけど」
「ちょいと待っておくれ。今持ってくるからね」
そうして渡された地図の中身に、今度はハジメが驚いた。とても精巧に描かれており、十分に金を取れるクオリティだからだ。
「こんな上等な物がタダなんて、マジで言ってます?」
「あたしは書士の天職を持ってるからね。趣味で描いた物だし、落書きみたいなもんさ」
「これが落書きって……」
何気におばちゃんが高スペックな事に、ハジメは驚くしか無かった。
「(しかしこの子たち……かなり優秀かもね)」
一方のおばちゃんは、ハジメ達を面白そうに見つめていた。
冒険者登録を済ませたハジメ達。だが、あくまで登録したのはハジメだけである。ユエは、見た目こそ人間の少女だがその中身は高位の吸血鬼。ステータスプレートで能力を表示すれば異常な数値を示すだろう。流石に、渡されてすぐに数値を変えるなんて高等技術は持っていない。もしそうなれば、ハジメは、おばちゃんがユエの事について尋ねたら、おばちゃん相手に嘘はつけないと思っている。
シアも似たようなもの。ましてや、相棒ポケモンと仲が深まってると、ステータスプレートには「魔物使い」と表示されてしまうらしい。おばちゃんがそうとは思えないが、他の者から異端者と見られる事を警戒したのだ。
「(それこそ、ギルドのトップとかに恩を売れば、口外しない条件に作れるかもしれないけどさ)」
そのようなことを考えつつ、3人は宿へ向かう。
「いらっしゃいませ! マサカの宿へようこそ! ご宿泊ですか?」
15歳くらいの少女が受付をしているらしい。かなり活発な子のようだ。
「はい。この地図を見て来たんですけど、料金とか合ってますか?」
「その地図、キャサリンさんのですね。はい、記載されてる通りですよ!」
「(あの人、キャサリンって言うんだ。意外とよくありそうな名前だったな……)」
おばちゃんの名前が分かったところで、手続きを進める。
「食事とお風呂付きのプランでお願いします。一泊で」
「畏まりました。お風呂は15分100ルタですが、どのくらい入りますか?」
そこでハジメは悩む。ライセン大峡谷やハルツィナ樹海での戦闘で、やはり埃は被ってるし汗もかいている。ゆっくりと湯船に浸かって疲れを癒したい気分でもあった。
「うーん、2人はどうする? 僕は長めに取って1時間とかそのくらいにしたいけど」
「私たちは髪とかも手入れしたいから、2時間くらいが良い」
「あ、私もユエさんとガールズトークって言うのをやってみたいです! そのくらいで!」
「それもそっか。じゃあ2時間で」
「に、2時間……。意外と綺麗好きなんですね」
少女は予定表に書いていく。
「部屋は……どうしよ? 部屋代が安い3人部屋とか?」
その時、ユエとシアの目が鋭く光った。
「駄目。ハジメは男の子。男女別にすべき」
「そうですよ! ハジメさんには、カオリさんと言う心に決めてる人がいるじゃないですか!」
「私たちは、2人が再会するのを応援してる。それなのに私たちと1つの部屋で寝たって聞いたら……」
ハジメは背筋を震わせた。香織は優しいのだが、たまに光輝の暴走の後始末を語る時の笑顔が、非常に恐ろしかったからだ。美少女2人を連れてると言う状況に加えてそのような事になれば、修羅場は確実である。
「じゃ、じゃあ男女別で」
「畏まりました! それと、私も応援してます!」
少女……ソーナ・マサカは、目の前の青年の恋愛事情に興味津々のようであった。
なお、この時食事場にいた他の冒険者たちは、主に2つの反応をしていた。1つはハジメが美少女を連れてることに嫉妬する若者。もう1つは「恋人と再会」という言葉で事情を察し、心の中でハジメを応援する年長者たちであった。
次回もブルックの町を予定しています。