フューレンの冒険者ギルド。そこでハジメはトラブルに巻き込まれていた。
「ひゃ、百万ルタやる。そ、その兎よこせ。き、金髪のガキは妾にしてやる」
「お引き取りを。僕のパーティーメンバーですので」
シアとユエは、ハジメから見ても美少女である。目の前の男は、服の豪華さを見たところ貴族だろう。それも自分が言えば相手は従うと思い込んでいるタチの悪いタイプのようだ。いきなりハジメ達の元へやって来て、冒頭の台詞を言ったのである。
「お、お前、私をミン家の男だと知りながら断るか!?」
「名家ならば尚更、いきなり人の仲間を引き抜こうとはしない筈ですが」
「こ、このガキぃ! レガニドぉ!」
脂肪が詰まった腹を揺らしながら大声で叫ぶと、一人の男が立ち塞がった。
「い、痛い目に遭わせてやれ! ガキに身の程を教えてやれ!」
「流石にこれは坊ちゃんが不利じゃねえですかい? まだ向こうは何も手ぇ出してないが……」
「良いからやれぇ! 金は払う!」
「やれやれ……。という訳だボウズ。ちょいと殴られてくれや。俺も生活があるしよ」
周りの冒険者たちによれば、目の前のレガニドという男は「暴風」の二つ名を持ち、冒険者ランクは黒だと言う。
トータスにおける冒険者にはランクが存在する。下から順に、青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金となっている。
ハジメが冒険者ランク青に対して、レガニドは黒。上から3番目というかなりの実力者と言えるだろう。もっとも、金払いが良ければどんな人間の依頼も引き受けることから、「金好き」とも呼ばれてるらしいが。
「……分かりました。でも優しくお願いしますね?」
「そいつは、お前さんのステータスにもよるが……なっ!!」
勢いよく拳が振るわれる。シアは思わず目を瞑り、ユエも駆け寄ろうとする。だが、予想外の展開が起こった。
「いっ、でぇぇぇぇぇぇ!?」
レガニドの拳からゴキリと嫌な音が鳴り、手首から先がブラブラと力無く揺れていた。ハジメの方は微動だにしていない。
そのとき、シアはある事に気付いてユエに小声で話しかける。
「ユエさん。ハジメさんの手の甲に紋様が浮かんでますね」
「熊の亜人に殴られた時と同じ紋様。あの男の拳、たぶん折れたんだと思う」
「ハジメさん、プレートの力をこっそり発動したんですね……」
骨が大惨事になった手を押さえながら、レガニドはハジメを恐怖の目で見る。
「て、てめぇ、ランクはどれくらいだ……?」
「青ですが」
「とんだバケモンが冒険者になりたてかよ……。俺も観察眼が衰えやがったか……。坊ちゃん、悪いが報酬金じゃなくて治療費の方を頼むぜ。ボウズの相手を指示したのはあんただからな……」
「ふ、ふざけるなぁ!」
貴族の男が吠える中、一連の騒ぎを報告した受付嬢のリシーが、眼鏡をかけた知的な男性を連れてきていた。
「ミン男爵。この騒ぎは何事ですか」
「そ、それは……」
「坊ちゃんが、そこのボウズの仲間を引き抜こうとしたんだ。ボウズがそれを断ったから、殴れって俺が指示された。そんなところだ」
「レガニド!? お前、裏切るのか!?」
「裏切りなんかじゃねえ! 冒険者の資格を取り上げられたら、俺だっておしまいなんだ!」
レガニドとミン男爵と呼ばれた男が言い争っている中、リシーがハジメの対応をする。
「無抵抗でしたし罪には問われないと思いますが、事情聴取には応じて頂けますか?」
「はぁ……やれやれ。分かりました」
面倒なことになったと、ハジメはため息をついた。
その後の事情聴取でハジメは、嘘偽り無く事の経緯を話した。周りの証言とレガニドの証言も相まって、ミン男爵には何かしらの処罰が下るとの事だった。勿論、殴った実行犯であるレガニドにも罰則はあるのだが、少なくとも資格剥奪にはならないらしい。
「しかし、まさかキャサリン先生の紹介状を持つ者が現れるなんてねぇ」
「僕だって驚きですよ。あの人がそんなに凄い人だったなんて」
ハジメと談笑しているのは、冒険者ギルドフューレン支部の支部長であるイルワ・チャング。
なぜ支部長と会話をするに至ったか。それは、先の事情聴取にて、ハジメ達の身分証明を求められた事がきっかけだ。ハジメはステータスプレートがあるため問題無かったのだが、ユエとシアはステータスプレートを持っていない。どうしたものかと考えた時に、ユエから手紙を出すことを提案されたのだ。ブルックの町で冒険者ギルドのキャサリンから貰った手紙である。
それを提示したところ、ギルド長が出てきて内容を確認。無事に3人の身分証明が成されたのである。
「キャサリンさん、恰幅の良いおばちゃんじゃなかったんですねぇ……」
「ギルド本部でギルドマスターの秘書長やって、そこから運営の教育係。今の支部長の半分は教え子……。経歴が凄い」
シアとユエは、イルワから聞いたキャサリンの素性に唖然とする。しかも憧れのマドンナと言われる程の美人で、彼女の結婚報告に王都が荒れたと言うのだから、とんでもない影響力である。
「しかし、今回は私がキャサリン先生の教え子だから良かったものの、次の行き先がそうだとは限らない。さっき言ったことを逆に言えば、残り半分は彼女の教え子じゃないからね」
「やっぱり、2人分のステータスプレートが必要ですか……」
「そうなるね。2人分を作ってないと言うことは、何か隠したい事があるのかもしれないが……」
「うっ」
ハジメがサイホーンを相棒にした時、ステータスプレートに「魔物使い」と表示された。おそらくユエとシアにステータスプレートを使うと、同じような事が起こるだろう。国の殆どが聖教教会の信者である以上、魔物を悪と説く教会によって異端認定される恐れがある。だから作っていなかったのだ。
「どうだろうか。私の依頼を引き受けてくれたら、ステータスプレートの発行料はタダにするし、その内容について秘匿しよう」
「……依頼の内容にもよりますよ? 僕たちはステータスが高いだけで、冒険者としての経験は浅いんですから」
「人捜しをして欲しいんだ」
話を聞くと、フューレンから北にある山脈地帯で魔物の群れが確認され、それを調査に向かった冒険者一行が行方不明になったという。その一行に飛び入り参加したのが、捜索対象のウィル・クデタとのことだ。
「冒険者になると家出同然に飛び出してね……。現実を見て、冒険者に向いてないことを知ってほしい。その意味を込めて私が同行を許可したんだ。友人の息子を送り出した以上、私にも責任はある」
「北の山脈地帯と言えばかなりの危険地帯と聞きます。僕のランクは青ですよ?」
「ユンケル商会のモットー氏から聞いたよ。余計な戦闘をせず、被害無く護衛を成功させたと。彼とキャサリン先生の評価を見て、君なら大丈夫だと思っているんだ。頼む、どうか引き受けてくれないだろうか」
イルワは深く頭を下げる。ハジメは考えた。
「(山脈地帯で、魔物……ポケモンの群れが現れたって言うのが気になるな。ゲームでも大量発生のイベントはあったけど、その類いかな?)」
イルワは更に、他の場所でトラブルになった時の後ろ楯にもなると言い出した。それ程までに心配なのだろう。
「……分かりました。けどもしその、駄目だったら……」
「その時は、遺品だけでも持ってきて欲しい」
「了解です。引き受けましょう」
イルワが提示した依頼書を見て、報酬などに偽りが無いことを確認した上でハジメがサインした。これで契約完了だ。
「よし、行こう。北の山脈へ」
こうしてハジメ達は山脈へ……その途中にあるウルの町へ出発したのだった。
次回。ハジメ達はいよいよ、ウルの町へ向かいます。