清水が失踪したという話を聞いてショックを受けたハジメだったが、何とか思考を切り替えた。
「僕たちは、ここから北にある山脈で行方不明になった冒険者達を探しに来ました。幸利も探しましょう」
「ありがとうございます!」
「……ところで、香織はどうなりましたか」
友人が居なくなってショックを受けたハジメだったが、自身の恋人はそれ以上かもしれない。だからこそ彼女の様子を尋ねた。
「南雲くんが生きている事を信じていました。だから、今受けている依頼を終えたら、会うべきだと思います」
「……そう、ですか」
ハジメの内心は複雑だった。今すぐにでも会いに行きたい。だが愛子の下に居ないと言うことは、光輝たちと共に居ると言うこと。その前線組の中には、檜山たちも居ることだろう。彼らに目をつけられるのが厄介だった。
「(……今は、目の前の事を考えよう)」
そうして愛子が退室した後、明日に備えて寝ることにした。
深夜。愛子は不思議な夢を見ていた。
「わぁ……!」
目の前に広がるのは、青色の花畑。見たことの無い花だが、不思議と目が惹かれる。
その時頭の中に声が響いた。
――人の子よ。
「っ!? 誰!」
花畑を見回すと、その中に“緑”がいた。その大きな頭はまるで王冠のようである。
――人の子よ。ヨの声が聞こえるならば聞いて欲しい。
「貴方は……」
――山に災いの芽が咲きつつある。災いを静める為に、力を貸して欲しい。
「待ってください! 貴方の名前を教えてください!」
――ヨの名は……
その瞬間、目の前が真っ白になった。
翌朝。出来るだけ早く探そうと考え、ハジメ達はまだ町の住人達が眠っている時間帯から出発しようと考えていた。町の外に出て、呼び出したポケモンに乗って山脈に向かおうとしていたのだが……。
「えっと、何で先生たちも居るんです?」
「夢を見たんです。山に災いが起きつつあると、不思議な生き物が言っていて……」
「山に災いが?」
「その調査に向かいます。勿論、清水くんも探します!」
「うーん……」
これから向かう北の山脈は、高ランクの冒険者でなければ危険と言われている。魔物が強いと言われているが、その通りならば高レベルのポケモンが居ると言うことだ。ライセン大峡谷と違って魔法の使える地帯のため、戦う手段は多い。それでも、戦闘から離れていた愛子と優花たちがマトモに戦えるとは思えなかった。
また、愛子だけに告げた不思議な生き物と言うのも気になる。
「……わかりました。一緒に行きましょう。ただし、条件があります」
「条件、ですか?」
「これからやる事に、口外しないでください」
ハジメが目を合わせると、ユエとシアも頷いて腰にあるモンスターボールを手に取る。ボールに気付いた優花が不思議そうに尋ねた。
「南雲? 何そのボール」
「僕たちの相棒さ。出ておいで、サイホーン!」
「おいで、ゴルーグ」
「走りますよ、アブソル!」
そうして現れたポケモンに、特にサイホーンが現れた瞬間、起こったのは当然ながら悲鳴だった。
「キャアァァァァ!?」
「うわぁぁ!? こ、こいつって!」
「大迷宮の時の!? 南雲あんた、何でソイツを連れてるのよ!?」
「こうなると思ったよ……」
橋から落ちた後に仲間になったと答えると、優花たちは信じられない物を見るような目になった。自分たちのトラウマでもあり、挫折を与えた存在。死を覚悟した魔物を仲間にした事に、「本当にコイツは南雲なのか?」と思ってしまう。
「私たちは、パートナーに乗って山脈に向かう。あなた達はどうするの」
「と言うか、山の中もポケモンだらけでしょうから、私たちの近くに居た方が安全かと……」
ユエとシアの言葉に、悩む優花たち。彼女たちを代表するように愛子が答えた。
「乗せてください。この子たちは、生徒に危害を加えないと……信じて良いんですよね?」
「それはあなた達次第。早く決めて。人を探してるなら早い方が良い」
その結果、愛子たちはそれぞれのポケモン達に乗せてもらうことになった。シアのアブソルは、少しでもスピードが落ちないために少人数ではあるが。
山脈へ向かう道中。ハジメのサイホーンに乗せてもらっている優花が、彼に尋ねた。
「南雲。さっきはごめんなさい。貴方のパートナーに悲鳴をあげちゃって」
「この子との戦いは、みんな必死だったからね。ああいう反応は仕方ないよ」
「それだけじゃない。南雲は覚えてる? サイホーンや他の魔物に私が襲われたとき、助けてくれたのを」
「大迷宮の時だから……ガラガラとの戦いか。そう言えばそうだったね」
「お礼よりも先に悲鳴なんて、失礼よね。だけど言わせて。あの時、助けてくれてありがとう。そしてごめんなさい。落ちたときに助けられなくて」
ハジメは黙ってその言葉を受け止める。橋から落ちた件に関しては、生徒達が避難してから自分の援護攻撃をしていたのだから、落ちたとしても咄嗟に手を掴むのは難しい距離だ。その事を指摘しようとも思ったが、彼女は責任を感じているらしい。言えばまた卑屈になってしまうだろう。
「……その言葉、確かに受け止めたよ」
「本当に……ありがとう……!」
ハジメは振り返らない。言いたいことを言えた解放からか嗚咽を漏らす彼女。その顔を見るのは失礼かもしれないと考えて。
「…………ミィ?」
草むらから、優花を見つめるポケモンがいる。見た目はハリネズミのようだが、その背中は小さな草が生えていて、ピンクの花が咲いている。
「ミィミィ!」
感謝の気持ちを感じ取ったそのポケモンは、テクテクと優花の背中を追った。
最後のシーンを登場させた経緯は、アニポケのサンムーン編にある、マオと母の回を参考にしました。彼女と優花は料理人繋がりでもありますし。
なお、その回を見たとき号泣しました。私、死ネタに弱いのです……。