愛子がバドレックスの名を口にした時、ハジメはすぐに察する事が出来た。
「(そうか! 先生の天職は作農師だ! そしてバドレックスは豊穣の王。天職とポケモンの能力が奇跡的に噛み合って、夢という形で繋がりを持てたのかもしれない!)」
愛子の事を馬上……ブリザポスの上から見つめているバドレックス。愛子も彼から目を離せないでいた。
――お主が、ヨの呼び掛けに応じた人の子か。
「っ! はい、バドレックスさん。私の名前は愛子。あなたが教えてくれた『災い』の調査と、教え子の行方を探しに来ました」
頭の中に響く声。それに応じるように愛子も話をするのだが、周りから見るとそれは変わって見えた。
「リンラ、カムルゥイ?」
「はい。この子達と同じくらいの、男の子です」
「……ねぇ南雲。私、あの頭の大きな魔物の言ってることが分からないんだけど」
「豊穣繋がりなのか、先生しか言葉が通じてないのかもね」
「カム! ルゥラ!」
「へ? 私の体を通じて、ですか?」
「先生、どうしたんですか?」
ふとバドレックスがハジメ達を見て、何かを提案するかのように愛子に語る。その通訳を彼女はそのまま話した。
「私の体を通じて、皆さんにも言葉を届けたいそうなんです。この山で起きていることについて、教えたいと」
バドレックスが頷く。愛子も彼を見て頷くと、目を瞑る。
てゅわわわ~ん
『……ふむ。やはりアイコと私は相性が良いようだ』
「せ、先生が……!」
「光りながら浮かんでる……!?」
菅原妙子と宮崎奈々が驚くが、愛子もといバドレックスは語りかけた。
『ヨの名はバドレックス。遥か昔、豊穣の王と呼ばれた者である。……もっとも、人間からの信仰は、あの余所者に奪われてしまったがな』
悲しそうに目を伏せるバドレックス。この時ハジメは、彼の言う余所者とはエヒトの事だろうと悟った。
『アイコが既に伝えたとは思うが、この山々に災いが振りかかろうとしている』
「? それは馬のようなポケモンが暴れてることじゃないの?」
道中見かけた、荒らされた木々やクレーター。それが災いじゃないかとユエは尋ねるが、バドレックスは首を横に振る。
『それは、災いを感知したヨの友が暴走した結果なのだ』
「バドレックスさんのお友達、ですか?」
「っ! そうか、そう言うことか! 何で気付かなかったんだ僕は!」
『ふむ。そこの人の子は、ヨの友の事を知っているようだな』
「確かに、静寂を好む彼なら……レイスポスなら、あれ程の荒れ具合を起こせても不思議じゃない!」
ハジメの言葉にバドレックスは頷くと、山脈地帯で起きていることを語った。
元々この山は、ポケモン達による生態系も築かれた豊かな場所だった。しかしある日突然、「異質な力」が山に持ち込まれた。バドレックスはこの事を察して「異質な力」を調べようと動いていたのだが、静寂を好んでいるレイスポスが、自身の静寂を荒らされたと激昂し暴れ始めたのだ。
『ブリザポスも同様だったが、こちらはヨが何とか宥めたのだ。だがレイスポスは完全に激昂しており、ヨが何度説得しても聞く耳を持たない。さらに、異質な力は徐々に大きくなりつつある。そちらの調査もしたいのだが、手が回らなくてな……』
ハジメ達は考える。
「ハジメさん、どう思いますか?」
「たぶん、魔物の群れって言うのは、さっき言った異質な力って奴の仕業かもしれない」
「異質な力を何とかすれば、レイスポスってポケモンも落ち着く?」
「かもしれない。けど相手は暴れん坊だから、力には力で対抗した方が……」
「バクロォーッス!!」
辺りに響く嘶き。だがその声量はもはや咆哮と言っても過言ではなかった。優花たちは腰を抜かし、ユエとシアは辺りを見渡し、愛子(バドレックス)とハジメは目を見開く。
「今の鳴き声って、まさかレイスポス!?」
『向こうか! あそこには確か、滝があった筈!』
「みんな、行くよ!」
ユエとシアが腰を抜かした生徒達を立ち上がらせると、一行は鳴き声のあった方角へと足を急がせた。
ハジメ達がやって来た滝。そこは水量が多いのだが、滝と崖の間に距離が出来ている。そのため滝の裏側に行くことが出来るようだ。さらに、浸食によるものなのか洞窟も存在していた。彼らが見たのは、レイスポスが滝の裏の洞窟を凝視している所であった。
「何を見てるのかしら……」
「滝の裏に何かある、とか?」
「見てください! あそこ、人が居ます!」
シアが指をさした場所を見ると、そこには女性と男性の2人がレイスポスと対峙していた。
『いかん! レイスポスめ、あの2人を犯人だと睨んでおるようだ!』
女性の方は日本人かと思うほどの美しい黒髪をしているのだが、その金色の目は鋭くレイスポスを睨んでいる。
だが、男性の方。そちらを見たハジメは大きく目を見開いた。
「幸利……?」
愛子達が、そしてハジメが探していた清水の姿が、そこにあった。
ついに清水と再会したハジメ達。果たして清水が失踪した理由とは? 次回をお待ちください