振り下ろされるガルーラの腕。清水は回避しようとするが、身体中を痛みが走りマトモに動けない。
「(やっべ、マジで死ぬんじゃねえの? これ)」
その光景がやけにスローモーションのように感じ、何とか体に力を入れようとしても動いてくれない。
「クソが……!」
レイスを睨み付けるが、彼は嘲笑うだけ。悔しさが胸に溢れる。その時だった。
「幸利ぃぃぃ!!」
「アブソル、“ふいうち”です!」
清水の前にハジメとサイホーンが庇うように立ち、ガルーラの後方からアブソルが茂みから飛び出し攻撃。体勢を崩した。
「ちぃっ! 人間に亜人共め!」
「ハジメ……!」
「色々言いたいけど、それは後! 今は……魔人族! お前をぶっ飛ばす!」
「グルァウ!」
シアが清水に治療を施し、その2人を守るようにアブソルは威嚇する。だが一番前に立っているのは、ハジメとサイホーンだった。
「神の鎖も無く、どうやって勝つと言うのだね」
「逆に言えば、神の鎖が無ければ君たちはなにも出来ない……そう言うことでしょ?」
「黙れ! 神の鎖を扱えるのは選ばれた者だけだ! その一人である私に勝てると思うなぁ! やれ、ガルーラ!!」
「サイホーン、“とっしん”だ!」
ガルーラが“ほのおのパンチ”を繰り出すが、岩タイプ持つサイホーンに効果はいまひとつ。その光景にレイスは怪訝な顔を浮かべる。
「(なぜ鎖も無く、あの魔物はガキの指示を聞いた? 人間にも、魔物を従える術が開発されたとでも言うのか?)」
あり得ないとレイスは首を振る。自分達を束ねる将軍は、神より直々に神託を受け、そして鎖の作り方を己のものにした男だ。人間の国に忍び込んでいる同胞によれば異世界の勇者を召喚したと聞いてはいた。だが魔物の方が強力だ。だから戦えるはずが無いのだ。
「何をしている、ガルーラ! とっとと殺せぇ!」
「サイホーン、“スマートホーン”!」
鋼タイプの突進を受け、ガルーラの体を覆う鎖にヒビが入る。だがハジメは、レイスの戦い方に違和感を覚えていた。
「(何であいつは、ガルーラに指示を出さない? まさか覚えている技が分からないのか? こう考えるのは癪だけど、仮に兵器のように扱うのならば、どんな力を持ってるのか把握しておくのが指揮官の役目だろうに!)」
そう。ハジメやユエやシアと言った旅の仲間たちは、ポケモンとの絆があることでお互いに繋がり、トレーナーは覚えている技を把握できていた。
だが魔人族は違う。あかいくさりで無理やり従えて、無理やり戦わせているに過ぎない。そこに絆などあるわけが無く、魔人族はポケモンの覚えている技を知らないのだ。
「サイホーン、今度は“ロックブラスト”だ!」
「グルァ!」
岩石を放ち、更に鎖にヒビが入っていく。レイスは思うような一方的な戦いが出来ずに苛ついていた。
だからこそ、ハジメの背後にいるシアと清水と子ガルーラに目を向けた。
「ガルーラ! ソイツは無視して、あのガキ共を狙えぇ!」
「っ! 母親に子供殺しをさせるつもりか!」
「ガルルルルルル!」
あかいくさり擬きが発光し、ガルーラは“メガトンパンチ”で地面に亀裂を走らせる攻撃をしようとした。
ところが、この時に立ち上がったのは清水だった。
「もう止めろって、ガルーラ! あんたが殺そうとしてるのは、自分の子供だぞ!!」
「ガルッ……!」
地面に拳が着くギリギリの所で、ガルーラの動きが止まった。
「何をしている!? 神の力に、魔物風情が逆らうと言うのか!」
「カルル! カル、カルー!」
レイスがあり得ないようなものを見る目つきで声を荒げるが、ガルーラは動かない。
そんなガルーラの前に、シアの制止を振り切った子ガルーラがトテトテと走り寄り、鳴き声を上げた。
『お母さん! 目を覚まして!』
まるでそう言ってるかのように見える。
「ガ、ルゥ……!」
感情の無い瞳から、ポロポロと大粒の涙が溢れ出す。そしてその腕で子ガルーラを抱きしめようとした。その時だ。
「えぇい、使えない奴め! ならば私が直々に殺してやる! 親子もろともなぁ!!」
魔方陣を展開したレイスが、親子目掛けて魔法を放とうとする。だが、そんな無粋な行為を清水は見逃さない。
「なっ……!? 体が、体が動かない……!」
「俺の天職は闇術師。ハジメと同じように、色んな漫画やアニメをイメージして、ようやく編み出した技だ……!」
清水の指先から黒い糸のような物が出ており、それがレイスの影に突き刺さっている。レイスは動こうともがくが、一歩も進めていない。
「名付けるなら、“影縫い”か?」
「貴様ぁ!」
「ハジメ、やれぇ! そんな鎖なんか砕いちまえ!」
「一緒に行くよ、サイホーン! “ストーンエッジ”!!」
「グオオオオン!!」
ハジメの錬成とサイホーンによる岩石の刃が、ガルーラのあかいくさり擬きを粉々に砕いた。
「カルルー!」
「ガル……!」
嬉しそうに駆け寄る子ガルーラを、親ガルーラは苦笑いしながら抱き、そして自分のポケットに入れる。自分の定位置に戻れた安心感からか、子ガルーラの目は気持ち良さそうにしていた。
「うふふ、可愛いですね」
「親子の再会じゃ。感動するものがあるのぉ」
「うん。そして……アイツが、親子を引き裂こうとした」
合流したティオとユエ。感動の再会にホッコリしつつも、未だに清水の影縫いで動けずにいるレイスを睨む。
そんなレイスを、ハジメは冷たい目で睨みながら尋問をしていた。
「……話す気が無いと?」
「神の鎖を砕く不敬な輩に、ましてや人間に誰が話すか!」
「ハジメ、諦めろって。何度も同じ答えが帰ってくるんじゃ埒が明かねえよ」
「……はぁ、仕方ない。なら最後は、ポケモンによる罰を受けて貰おうか。苦しめた罰として、ね」
清水が声を掛けると、ガルーラ親子が彼のもとへやって来た。正気に戻っているガルーラに、レイスは小さく悲鳴を漏らした。
「死なない程度に、だけどかなり遠くへぶっ飛ばせないか?」
「ガル! ガルガル!」
清水の言葉に快く頷くと、ガルーラはレイスに怒りの視線を向けた。そして拳を光らせながら、レイスに近付いていく。
「や、止めろ! 私は神の鎖を操るエリートだぞ!? 魔物ごときが、エリートの私に逆らって良いとでも――」
その瞬間、レイスはガルーラに勢い良く殴り飛ばされ、空の彼方へ消えていった。これで捨て台詞が「ヤな感じ~!」とかならハジメは笑ってたが、彼が放ったのは某映画で「あれは嘘だ」と言われた男の断末魔だった。
魔人族レイス、撃破。一応死んでません。