中村恵里は、天之河光輝に惚れている女子だった。そう、『だった』のだ。
父親を交通事故で亡くし、母親に虐待され、再婚相手に性的暴行を受けそうになった彼女。川へ飛び込もうとした時に話し掛けてきたのが光輝だったのだ。
それ以降、彼女は彼の『特別』になりたいと思っていた。だからこそ、彼の幼馴染みである八重樫雫や白崎香織が邪魔で仕方なかった。何なら殺してしまいたい程に。
だからトータスに来れば、日本の法律に縛られずに好きに出来る。そう思っていた。
「ミミッキュ~。今日も疲れたから癒して~」
「ミキュッ!」
ハイリヒ王国より与えられた自室にて、恵里はとあるポケモン……ミミッキュを抱きしめていた。
どういうわけか知らないが、自分について来ていたポケモン。最初こそビックリしたのだが、何かを模した袋のような物を被っている姿が、猫を被っている自分と似ている感じがしたのだ。何より、「キュ~」と言う鳴き声が可愛く、教会の信者たちが語る魔物とは思えなかったのだ。恵里とて女の子、可愛い物を愛でたいという感性までは失われていなかった。
流石に他人にバレると殺されるかもしれないため、こうして自室に匿っているのである。
「はーあ……。今日も光輝くん、香織~香織~って彼女に声掛けてたなぁ。何だか幻滅だよ」
光輝に女子の幼馴染みが2人も居ると知った時は嫉妬で狂いそうになったが、そんな彼女に朗報もあった。香織には惚れている男子がおり、その男子も惚れている。つまり2人は両想いなのだと。
香織は光輝を恋愛対象に見ていない。だから自分にもチャンスが来る。そう思っていたのに、光輝は自分を見てもらおうと香織にアピールしている。
特に、オルクス大迷宮でのサイホーンとの戦いでハジメが落下してから、その頻度は多くなった。
まるで邪魔物が消えた瞬間に勢いが増した小者のようなイメージになってしまい、恵里の光輝に対する想いは冷めつつあったのだ。
「はーあ……。光輝くんの為に、色々頑張ってきたのに。あんな様子じゃ八重樫さんにも同情するよ」
「キュ~……」
香織というライバルが居なくなり、残りは雫だけ。そう思っていたのだが、光輝に幻滅した今の状態で彼女を見ると、まぁ苦労してるオーラが滲み出ていた。暴走しがちな光輝のストッパーになり、更にほかのクラスメイトの相談も引き受けている。恵里から見ても疲れているのが明白であり、そんな彼女に同情しつつある。最近では、ヘルシャー帝国の皇帝に、愛人にならないかと誘われたとも聞いた。ますます彼女は苦労するかもしれない。
「失恋、かなぁ……」
「キュッキュッ」
「慰めてくれるの? ……ふふ、ありがとう」
恵里の気分が沈んでいるのを察したのか、袋の下から黒い手のような物を出して、ミミッキュは彼女の頭を撫でた。ちなみにメスである。
ミミッキュと過ごすようになってから、不思議と心が落ち着くようになってきた恵里。そこである提案をした。
「そうだ、ミミッキュ。何時も部屋ばかりじゃ退屈だろうから、今度一緒に迷宮探索に行かない?」
「ミキュ?」
「君がどんな力を持ってるのか、知りたいんだ」
「キュ~……。キュッ!」
「来てくれるの? ありがとう! さ、ご飯持ってきたから食べよっか」
「ミー!」
嬉しそうにすり寄るミミッキュ。この時の恵里は気付いていなかった。鏡を見たら驚くほどに、優しい笑みを浮かべているということを。
「ところで、その袋の中身ってどうなってるの?」
「ミッ!」
「あ痛っ! そんなに見せたくないんだね……」
次回はハジメsideに戻ります。いよいよ、あの娘が登場です。