裏路地にありながら、そこそこ大きな建物。二階建て木造建築にある一室は、敷物から壁飾りまで豪華な物で飾られていた。
しかし、その豪華な雰囲気とは打って変わって、部屋の主は非常に不機嫌だった。
「おい。まだ海人族のガキと魔物の卵は取り返せてねえのか」
「は、はい。下っ端の連中に探させていますが、連絡が全く……ぶげっ!?」
「ざっけんじゃねぇぞゴラァ! フリートホーフがガキ1人捕まえられないなんざ、笑い物だぞ!」
売買組織フリートホーフ。それが、ミュウとマナフィの卵を捕まえてオークションに掛けようとした組織の名前である。その頭であるハンセンは、苛立ちのままに部下を何度も蹴りたくる。
「ガキに500万ルタ、卵に800万ルタ、両方捕まえたら報酬金を上乗せすると下っ端共に伝えろ!」
「あ、が……!」
「早く行けや!」
「げぶぅ! は、はい! ……ガハァ!?」
動けないところを更に蹴られて、何とか部屋を出ようとする部下。だが彼にとって不幸だったのは、その扉が乱暴に開け放たれることだった。
「ノックしてもしもーし! 一発殴らせろぉ!」
「ハジメさん、顔は笑顔なのにセリフが物騒ですぅ……」
「よほど、ポケモン関連で怒っておるのじゃな」
倒れた部下を踏み、ハジメはハンセンのもとへ一気に近付く。突然のことに呆気にとられたハンセンだったが、我に返ると慌ててナイフを突き出す。
「テメェ、此処がフリートホーフの本拠地と知って、ふざけた態度してんのか!」
「勿論。本拠地の場所はお前の手下が吐いてくれたからね。素直で助かったよ。さて、お前の組織が主催するオークションは何処でやるのかな?」
「誰がガキなんかにグハァ!?」
「ごめん、手が滑っちゃった。もう一回答えてもらっても良い?」
「ふ、ふざけゲバァ!?」
「ごっめーん。もっかい答えて?」
そこから先の光景を、ミュウは見ることも聞くこともなかった。
――ありゃりゃ気絶したよ。ティオ、雷魔法
――了解じゃ。ほれ、起きんか
――アババババ!? も、もう止めグハァ!?
――答えてくれるまで止めないからね
彼の仲間は後にこう語る。
「あの時のハジメ、怖かった……」
「ミュウちゃんに見せも聞かせもしないで正解でしたね、あの時は」
「普段が大人しく、心優しい者ほど怒らせてはならぬ。ハジメはその典型例じゃな」
「うん。改めてハジメはポケモン馬鹿だなって感じたな。良い意味でだぞ?」
翌日。冒険者ギルドにあるイルワの執務室にて。イルワはハジメに対して大きなため息をついた。
「随分とまぁ派手にやったもんだねぇ。フリートホーフの構成員は全員が重傷、彼らと繋がってたと思われる貴族たちも大怪我。犯罪者の多いエリアでの倒壊した建物も数知れず。お陰でギルド職員はもれなく徹夜確定したわけだが」
「つ、ついカッとなって……」
あの後、ハンセンからオークション会場を聞き出したハジメは、捕らえられていた子供達や小さなポケモン達の保護を清水たちに任せた。ハジメ本人は、サイホーンとバサギリをモンスターボールから出して、汚職に手を染めてるであろう貴族たちの居る会場を滅茶苦茶に荒らし回ったのである。
牢屋の中にいる傷だらけの子供やポケモン達。その光景は、元々越えていたハジメの怒りの沸点を更に突破し、大爆発を引き起こした。
その怒り様は凄まじく、清水が影縫いで動きを止めて、ユエが水属性魔法を浴びせて漸く我に返った程だ。その時には、見上げれば夜空がクッキリと見えるほどに、建物が倒壊していたのだった。
「まぁ、今までトカゲの尻尾切りをされて、私たちもフリートホーフの情報を掴めなかったんだ。ギルドとしては大躍進と言った所だろう」
だが、とイルワは続ける。いくら後ろ楯を得たからとて、急に仕事を増やされては困るというもの。その為、ハジメにはペナルティを与えることにした。
「ギルドは今回の件に関して後始末をしなければならない。それに集中するため、君が保護したという海人族の子供に関して手続きを受けることは出来ない。君自身で親元へ送り届ける。それがペナルティだ」
「っ、はい!」
「そうそう。これはペナルティとは別件だが……」
イルワは封筒をハジメに手渡す。
「これは?」
「君の冒険者ランクを金ランクへ昇格させる事への、賛同要請だ。他の支部長からも賛同を得ることで、君は正式に金ランクとなる。今はあくまで候補に過ぎないから、そこは気をつけてくれ」
「分かりました。他の支部長となると……」
「宿場町ホルアドの支部長も、冒険者ギルド全体の中では強い立場にある。ホルアドに向かってみてはどうかな?」
「ホルアド、か……」
ハジメはふと、自分の恋人の事について思いを馳せた。
さあ、ハジメと香織、再会の時は近いです