淡い緑色の光が満ちる洞窟にて、戦闘の音が激しく響く。
「万象切り裂く光、吹きすさぶ断絶の風、舞い散る百花の如く渦巻き、光嵐となりて敵を刻め! 天翔裂破!」
光輝の聖剣が、ドーベルマンを思わせるような体格のポケモン……ヘルガーを切りつける。ポケモン達は大きく弱ると、自身の体を大きく縮ませる特徴を持っている。大ダメージを受けたヘルガーは、弱々しい声を上げながら目に見えない大きさまで小さくなった。なお、この光景は光輝たちには消えたように見えている。
「炎を吐く犬……やはり異世界という感じがするな」
「(確か、ハジメが描いてたイラストにあったな。あれはヘルガーだっけ。それにしても白崎さん、無理してなきゃ良いけど……)」
清水と同様にハジメの影響でポケモンに詳しい遠藤浩介。倒したポケモンの名前を確認しつつ、親友の恋人である香織を見る。
ハジメが行方不明になった後、ひどく落ち込むと思われていた彼女だったが、それがかえって火をつけたのか、ステータスは急成長を見せた。
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白崎香織 17歳 女 レベル72
天職:治癒師
筋力:280
体力:460
耐性:360
敏捷:380
魔力:1380
魔耐:1380
技能:回復魔法(+効果上昇+回復速度上昇+イメージ補強力上昇+浸透看破+範囲効果上昇+遠隔回復効果上昇+状態異常回復効果上昇+消費魔力減少+魔力効率上昇+連続発動+複数同時発動+遅延発動+付加発動)、光属性適性(+発動速度上昇+効果上昇+持続時間上昇+連続発動+複数同時発動+遅延発動)、高速魔力回復(+瞑想)、言語理解
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光輝は香織がハジメの死を乗り越えたと思っているが、それは違う。生きていると信じるからこそ迷宮探索に積極的になり、ステータスが大幅に上がったのだ。
そんな彼女は、檜山と近藤の回復を終えると、再びハジメへ想いを馳せる。
「(ここから先は90階層。けど、ハジメ君の手がかりは見つかってない。もっともっと下に居るの?)」
「香織……」
「大丈夫だよ雫ちゃん。生きて会えることが、一番嬉しいことだから」
心配そうに声をかける雫に、香織は微笑んで答えるが、内心はただ一言を呟いていた。
「(会いたいよ、ハジメ君……)」
一方、パーティーメンバーの最後尾では、恵里が小声で呟いていた。
「ミミッキュ、さっきはありがとね。背中を守ってくれると助かるよ」
「ミキュ」
彼女は小さなカバンを背負っているが、その中にはミミッキュが居る。基本的な戦闘は光輝たちが前衛になっているため彼女自らが出ることは無いが、時には背後から奇襲を仕掛けてくるポケモンも居る。そんな時、ミミッキュが“シャドークロー”で撃退していたのだ。
「(今のところ戦闘の音が激しいから気付かれてないけど、このまま大丈夫だよね……?)」
恵里は自身の相棒が、光輝たちによって危険にさらされないかが不安で仕方がなかった。
90階層へと突入した光輝たち。3時間ほど経過し、今いるエリアの半分を探索し終えた所で、一行は違和感に気づいた。
「……なんで魔物が居ないんだ?」
今までなら、ポケモンに阻まれて探索が遅れることもあったのに、今は順調過ぎるほどに進んでいる。それが却って違和感を覚えさせたのだ。
「流石におかしいよな? 暴れたような跡は至るところにあったのに、魔物の姿も見えねえ」
「気配すら感じないなんて不気味よ。光輝、ここは一旦戻りましょう? メルドさんに聞いてみるべきよ」
龍太郎の言葉に鈴や恵里たち後衛組も話し合うが、なぜ敵が居ないのかという答えは出てこない。雫の言葉に光輝は戻るべきか考えるが、89階層まで来れたのなら進みたいと言う気持ちもあったため、すぐに応えることは出来なかった。
その時だった。前方からカツカツと靴の音が響いてきた。今いる階層には自分達しか居ない筈。全員が警戒を強める。
現れたのは、赤い髪の妙齢の女。だが光輝達が目を見開いたのは、その特徴だ。浅黒い肌に、尖った耳。それは聖教教会から座学で教えられた神敵にして、彼らがおいおい戦うことになる相手。
「魔人族……!」
その女性は、赤色の鎖で武装したポケモン達を背に、うっすらと冷たい笑みを浮かべた。
原作と違う点は、道中にあった血痕のシーンは無い所でしょうか。かなり微妙な相違点だと思いますが。
さてさて、カトレアが操るポケモン達は何か、次回をお待ちください。