殆どのパーティーメンバーが、ゴースト達の“したでなめる”攻撃によって体が麻痺し、動けなくなった。その中で浩介は、なぜかミミッキュを仲間にしている恵里に賭けて、上の階層で待機しているメルド達の元へ向かっていた。
「あった、転移陣!」
本来はトラップとして存在する転移陣。だが、それを光輝たちは敢えて移動用として使うことで90階層まで辿り着けたのだ。浩介はメルド達のいる階層まで転移すると、大声で彼を呼んだ。
「メルドさん!」
「うお、浩介か!? しかしその状態は……何かあったのか!?」
「はい! 大変なんです!」
浩介は、事の顛末をメルドに伝えた。その緊急を要する事態に、メルドだけでなく他の騎士たちも目を見開いて驚く。
「浩介、よく伝えてくれた。お前はこのまま地上へ行き、冒険者を募ってくれ。一人でありながらそれ程の強さを持つ魔物達を連れているなら、我々も数で押すしかない!」
「わ、分かりました!」
「それと、移動したら転移陣を壊せ」
「え……。そんなことしたら、メルドさん達は!」
「地上に魔人族の率いる魔物達が現れては、それこそ終わりだ! 戦う術を持たない者達を守るためにも、俺たちを見捨てる勇気を持て! いいな!」
「……っ! 絶対に、絶対に戻ってきますから!」
前髪で浩介の目は見えないが、彼の頬を伝う涙をメルドは見た。再び走り出す浩介の背中を見届けると、騎士団は剣を握り進み出す。
「行くぞ!」
「「「応っ!!」」」
視点は再び光輝たちへ戻る。そこでは、恵里とミミッキュが奮闘していた。
「(不思議な感じだ。僕とミミッキュが繋がってるような……。どんな技を使えるのか分かる!)」
それは、恵里がミミッキュの真のパートナーとなった瞬間であった。彼女に向かって、ゴースト達が“シャドーパンチ”を放つ。だが恵里が手をかざした。
「『止まれ』!」
「ググッ!?」
「今だよミミッキュ! “シャドークロー”!」
「ミィィッ、キュッ!」
恵里の声に従うかのように動かなくなるゴースト。そこへミミッキュの技が命中。それを見たカトレアは舌打ちする。
「降霊術の使い手……! 幽霊系の魔物にも効果を発揮するのかい!」
その言葉に応えず、恵里は辺りを見回す。
「(ゴーストって名前からして降霊術が効くかどうかは賭けだったけどね……)」
別のゴーストが“シャドーボール”を放つ。
「ミキュウッ!」
「ミミッキュ!」
恵里は悲鳴を上げるが、彼女は健在だ。だがその時、ポキンっとミミッキュの首が折れる。特性『ばけのかわ』が剥がれた音だ。
「うわぁぁ!? 首、首がぁ!?」
「ミッキュウ……!」
「後で直してあげるからね! アイツに“シャドーボール”!」
だがまだまだゴーストは出てくる。さらにテッカニンの群れにハガネールとバクガメス、そしてエルレイドまで居る。
「(ミミッキュも、技を出し続けて疲れてる……。終わりが見えないよ……!)」
テッカニンはまだ何とかなる。エルレイドも、今は雫が戦っている。問題はハガネールとバクガメスだ。どちらも見た目どおり頑丈らしく、ハガネールに至っては光輝の聖剣ですらまともにダメージを与えられていない。
「(早く動けるようになってよ、みんな! 人手が足りな過ぎる……!)」
その頃、雫はエルレイドとひたすら鍔迫り合いを繰り広げていた。名刀にも勝る切れ味と言われるエルレイドの刃と未だに戦えているのは、雫の実力があってのものだろう。
「エルレイド、目を覚まして!」
「エル……!」
「南雲くんから、貴方の事を教えてもらった時、私は思ったのよ。貴方は礼儀正しく、武人のようなポケモン。守るためにしかその刃を使わないって!」
チクチクと痛む心を無理やり押さえ込んで、彼の胴体へ攻撃しようとする雫。それすらも止められる。
「今の貴方は……見てられない!」
「エルゥァ!」
「キャアァァァ!」
“サイケこうせん”によって大きく吹き飛ばされる雫。香織が駆け出して、彼女を受け止めた。
「雫ちゃん!」
「ぐ、う……」
「鈴ちゃん、結界を!」
「任せて!」
「雫……! くそ、魔物め! 龍太郎、2人で畳み掛けるぞ!」
「了解だ!」
光輝と龍太郎が突撃するが、2人に立ちはだかるのはテッカニンの群れ。彼らは一斉に“かげぶんしん”をする。
「増えただと!?」
「落ち着くんだ龍太郎! 恐らくこれは分身! 本体を攻撃すれば……」
「て言ったって、この数から探せってのかよ!」
その瞬間、龍太郎は背中から攻撃を受ける。“メタルクロー”による攻撃だ。
「うぐぁっ!」
「龍太郎! くそっ、どうすれば……!」
辺りを囲むテッカニン達と、カトレアを守るように立ちはだかるハガネールとバクガメス、そしてエルレイド。それらを光輝は睨み付ける。
そこへ、カトレアがニヤニヤと笑いながら話しかける。
「どうだい? これが最後のチャンスだ。私たちに投降してついて来ないかい?」
「断る……!」
「はぁ、やれやれ。状況の見えてない坊やだね! 仲間の半分は麻痺して動けない。戦える面子も負傷してる。この状況でまだそんな事が言えるのかい!」
「俺たちは人間の希望なんだ! 俺たちを信じる人達を裏切るなんてことはしない!」
「……その信じる人たちって連中の為に、仲間を見捨てるってのかい。あんたは、こちら側に引き入れても危険しかなさそうだ。殺っちまいな!」
「させん!!」
光輝の目の前で、炎や氷など、様々な魔法がテッカニンの群れを襲った。その声の持ち主に、光輝は嬉しさのあまり声を上げる。
「メルドさん!」
「ちっ! いつの間に応援を!」
カトレアは、浩介がこの場に居ないことに気付いていなかった。彼の影の薄さのお陰である。
「王国の騎士団長か……! こっちに集中しすぎた……!」
「光輝、下がれ! 一度体勢を立て直すんだ! カオリが他の連中の麻痺を治してる!」
「わ、分かりました!」
メルドは魔人族を睨むが、未だに魔物が健在な状況を見て汗を一筋流す。
「(さて、何処まで抗えるか……)」
自然と、剣を握る力が強くなった。
次回は、再びハジメ視点に戻ります。