そしてポケモンの登場については、もう暫しお待ちを……!
ステータスが明らかになってから数日。ハジメは図書館で、この世界についての勉強をしていた。ハジメの天職である錬成師を活かすには、鉱石など素材を知る必要があるからなのか、司書から歓迎された。
「(やっぱり、宗教が権力を持つとロクでもないことになるな……。この本も、か)」
ハジメが読んでいたのは、エヒトに関する話だった。ポケモン好きなハジメにとって、ポケモン世界の創造神とはアルセウスである。だが召喚された時に見えた、アルセウスがエヒトに倒されると言う絵画を見て、トータスでのアルセウスの扱いが気になって調べていたのだ。
その結果、真実かどうかはさておき、以下の事が分かった。
・元々トータスにおける創造神はエヒトである。
・そこへ、自らを神と騙るアルセウスが、エヒトに対して牙を向いた。
・エヒトは大きく傷つきながらも、アルセウスから力を奪い取って封印することに成功した。
・ところが、ある人間たちによる反逆が起こり、それによって、神の力の一部を奪われた。
・反逆者たちは倒されたが、今もどこかに彼らが奪った神の力が眠っている。
ハジメとしてはこれが本当だとは思えなかったが、どの本もアルセウスを「神に刃向かった愚かな獣」として扱っている。内心怒りのままに破き捨ててしまいたかったが、そんなことをすれば図書館の利用を禁止されるかもしれないし、教会から始末されるかもしれない。ハジメはぐっと堪えた。
「(それにしても、魔物に関しても悪いことしか書いてないな……。どんな方法で攻撃してくるか、て事しか書いてないぞ)」
例えば、はちのこポケモンのミツハニー。このポケモンはその名の通り、とても甘い蜜を作る。だが今読んでいる魔物図鑑には、風を起こして攻撃するとか、炎の攻撃が有効といったことしか書いていない。戦う分には良いかもしれないが、生態や人間へのメリットなどは全く書かれていなかった。
「(この世界は、ゲームのようなポケモン世界じゃない。僕のポケモンに関する知識が、どこまで通用するかだなぁ……)」
勉強を切り上げ、司書に礼を言ってから図書館を出ていった。
次にハジメは、人の少ない訓練場へやって来た。
彼は図書館で勉強してばかりかと言うと、そうでもない。漫画に対する知識を応用して、錬成を攻撃手段にする特訓をしていた。主な参考作品は、漫画「〇の錬金術師」である。
「錬成!」
イメージしやすいように両手を合わせ、そこから地面に両手をつける。そのまま地面に魔力を流し込んで錬成すると、狙った場所に大きな穴が開いた。
「よしっ! イメージ通り!」
単なる落とし穴だとつまらないので、「穴を掘る(人間ver)」と名付けた。ポケモンの場合は本当に穴を掘って地中から攻撃するが、この場合は相手を落として身動きを封じるという物である。ゲームだったら素早さが下がる効果が付くだろう。
「錬成、ストーンエッジ!」
穴を修復したあと、今度は先程よりも攻撃的な、地面から棘が生えるイメージで錬成する。毎日錬成の訓練をしてるため魔力のステータスも伸びてきてはいるが、それでも想像より狭い範囲でしか錬成出来ていない。
「想像と現実は違う、か……」
そこから、人間版ストーンエッジを繰り返し、夕方になるまで特訓した。
しかし、部屋へと戻ろうとする途中で、それは起こった。
「おーっと、足が滑ったぁ!」
「うわっ!?」
突然檜山が足を出してきて、ハジメは転びそうになる。
「おいおい鈍くせぇなぁ、南雲ぉ?」
「そんなんじゃ足手纏いだからよ、俺たちで鍛えてやろうぜ?」
「信治やっさしぃ~! そんじゃあ一発目いくぜぇ! ここに焼撃を望む―――“火球”!」
中野が火属性の魔法を放ってきた。魔耐や耐性のステータスは、条件付きで数値がプラスされる筈なのだが、まだ条件が開放されてないのかダメージは大きい。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」
「思えばあの時も、俺たちの事をボコしてくれたよなぁ? ここに風撃を望む―――“風球”!」
「ぐふぅっ!?」
「おいおい、マジで弱すぎだわコイツ。こんな奴に俺たちは殴られたってのか、よ!」
「が、あぁ……!」
「偉そうにしてくれやがって、コイツ!」
「がはっ!」
「立てよ、オラ! 鳩尾ぃ!」
「ぐっ、ふっ……」
風の塊を腹部に叩きつけられ、過去の仕返しと言わんばかりに檜山に背中を踏みつけられるハジメ。そこから次々と殴られ続けた。ハジメの意識が朦朧とし始めた頃に、救世主がやって来た。
「あなた達、何やってるのよ!」
「八重樫、さん……」
雫を先頭に、龍太郎や光輝、香織がやって来た。流石の檜山たちも顔を青ざめる。
「ハジメ君、しっかり! 今治療するからね!」
「おうテメェ等、随分と派手にやったじゃねえか、あぁ?」
天職に治癒師を持つ香織が急いで駆け寄り、治癒魔法をかける。ハジメの努力を知っている龍太郎が檜山たちを睨む。
「ち、ちげえよ! 俺たちは南雲を鍛えようとしてただけで……」
「その割には一方的だったみたいだけど?」
「それは、南雲があまりにも弱いから……」
「だからと言ってやり過ぎだ。俺たちは世界を救うために戦うんだぞ? その力をクラスメイトに向けるんじゃない」
光輝に言われてしまい、悔しそうに黙る小悪党グループ。だが、彼はハジメにも顔を向けた。
「南雲も南雲だ。いつも皆が訓練してる時だけ図書館に行って本ばかり読んで、訓練してると言ってもほんの少しじゃないか。だから檜山たちが絡んでくるんだぞ?」
「ちょっと光輝! 何て事言うのよ! 悪いのは明らかに檜山じゃない!」
「雫、そう言って南雲を甘やかすのは良くない。地球とは違う世界だからこそ、一致団結するべきじゃないのか?」
「そうじゃないわよ! あなたの目線で物事を決めつけるなって、前に私言ったじゃない!」
「光輝、その言い方は無いぜ。南雲だって錬成で戦おうと努力してるんだぞ?」
雫と龍太郎がハジメを庇おうとするが、光輝は聞く耳を持たない。幼馴染みのあんまりな言い方に、香織もカチンと来たのだが、傷の癒えたハジメが手で制した。
「ありがとう、香織。もう良くなったから大丈夫」
「ごめんね……気付かなくて……! それに光輝くんが本当にごめんね……!」
「大丈夫さ……僕は僕なりにやってるからさ。あいつの言葉に怒るのが、体力の無駄だよ」
泣きそうになる香織を軽く撫でると、立ち上がって歩き始める。
「南雲。次からは真面目に訓練に……」
「君の訓練は剣を使ったりするでしょ? 魔法が向いてる奴に、剣の訓練をやらせようとするのが間違いじゃないの?」
――君みたいに完璧じゃないんだからさ。
そう言ってハジメは自室へと戻っていった。
次回、ホルアドでの香織とのやり取りと、迷宮探索。絶対にポケモン出します!