ファイヤーの猛攻を潜り抜け、グリューエン大火山の迷宮内へと突入したハジメ達。だが、洞窟であるため熱が籠り、外よりも暑さが酷い状態になっていた。
「あぢぃ……」
「こんなところにポケモンとか住めるんですかぁ……?」
「住めちゃうんだなぁ、これが。ほらあそこ」
ハジメが指さしたのは、道の両脇を流れる溶岩の川。そこからコッソリと顔を出しているのは、ようがんポケモンのマグマッグである。
「溶岩そのものが生き物になってるみたい」
「襲ってこないのが幸運じゃな」
人間を初めて見るのか、襲わずにただ見つめてくるマグマッグ。その様子が何だか可愛らしくて、女性陣はホッコリとした気分になった。
道なりに進むと、何やら争うような音が聞こえた。
「何だ、この音?」
「バトルしてる音、でしょうか?」
そうして歩き続けていると、争っているポケモンの姿が見えてきた。
「コォォォス!」
「ロッゴォォ!」
陸亀のようなポケモンと、石炭を積んだトロッコのようなポケモンが“こうそくスピン”でぶつかり合っていた。
「コータスに、トロッゴン?」
「迷宮の中だから共生してると思ってたけど……」
「コータスの主食は石炭なんだ。それで争ってるのかな?」
単なる縄張り争いか、それとも食うか食われるかの戦いなのか、ハジメには分からない。だが、2匹とも近付くだけで暑いポケモンなので、出来る限りの戦闘は避けたかった。
「……足音立てずに、コッソリと行こう」
「「「賛成」」」
汗をダラダラと流しながら、全員が頷いた。なおティオは汗をかいていない。
「それにしても暑いですねぇ……」
「シア、暑いと思うから暑い。暑くないと思えば暑く感じない。ほら全然あつくないアハハハハ」
シアの言葉にユエが応えるが、その目は虚ろで乾いた笑いを浮かべていた。
「ハ、ハジメさぁん! ユエさんが壊れちゃいましたぁ!」
「それは大変だ。どこかで洞窟作って休まないと」
「うぉい! 俺はシアじゃねえよ!」
ハジメがシアの悲鳴に反応する。だが彼も目が虚ろの状態で、シアと幸利を間違えると言う状態になっていた。
「流石のハジメでもキツいのかもしれんな」
「ハジメ君、錬成で穴を掘れば休めるよ」
香織がハジメを支え、近くの壁に誘導する。そうして錬成で穴を掘らせると、今度はユエに魔法で氷を作らせた。ティオが魔法で風を起こすことで洞窟内に冷風が回る。
「はふぅ……。涼しい」
「ポケモン達は襲ってこないけど、暑さが脅威だね」
迷宮内のポケモンは、人間を見るのが珍しいのかハジメ達を観察する程度で、積極的に襲ってくることは無かった。
ティオは、ふむと少し考えた後に迷宮の目的について語った。
「解放者達が“試練”と称して造り上げた迷宮じゃ。何かしらのテーマがあるのじゃろう。旅の道中の話を聞くに、オルクス大迷宮は『様々な地帯の様々なポケモンに対応する術』、ライセン大迷宮は『魔法が使えない状況下での戦闘』かもしれん。そしてこのグリューエン大火山の迷宮のテーマは……『集中力』」
「集中力……」
「暑さに気を取られ過ぎると、咄嗟の判断が出来ないってこと?」
「けどポケモン達は襲ってきてませんよね?」
ユエ、香織、シアの順に発せられた言葉に、冷風によって正気を取り戻したハジメは考える。
「解放者達がエヒトと戦ってる間、人々はポケモンの事を一概に害獣と決めつけていた。この迷宮でむやみに戦えば、暑さで体力を余計に消耗する。だから、此方から襲わなければ向こうも襲ってこない。……そう言うことを伝えたかったのかも」
「俺たちは、ハジメを中心としてポケモンの事を信用してる。だからこうやってサクサクと進めているってことか」
幸利の言葉に全員が納得した。こうして休憩を取った後、一行は再び進み始めたのだった。
ハジメ達が辿り着いたのは、大きな広間。周りをぐるりと溶岩が取り囲んでいるだけで、障害物も何もない。
「壁に何やら文字があるの」
「これ……ローマ字?」
「形は微妙に違うけどな」
「っ! 見せて!」
壁に刻まれていたのは、アルファベットに似た独特な文字だった。シアやユエは読めずに首を傾げているが、ここでハジメの技能である、言語理解(真)が活かされる。
「アンノーン文字だ……! こんなところでお目にかかれるなんて……」
「(妾の里に伝わる古代文字と一緒じゃ。ハジメが解読できると言うのなら……ふむ)」
「何て書いてあるんですか?」
「えっとね……」
――太陽の使者の愛を見届けよ
「だってさ」
「太陽の使者……?」
「見るだけで良いのかよ?」
そんな時だった。何処からか鳴き声のようなものが聞こえてきた。
「ウルル~」
「ウルモ~」
非常に高い天井からゆっくりと現れたのは、2匹のポケモン。ハジメはそのポケモンを見て、古代文字の意味を理解した。
「太陽の使者だからもしやと思ったけど、やっぱり! ウルガモスか!」
「綺麗……!」
「何と神々しい……。まさに太陽の使いじゃな」
更にハジメの技能の魔物学が、2匹の関係を明らかにする。
「なるほど。あの2匹は、番なんだ」
「うふふ。だから、あんなに仲良しなんですね」
「愛を見届けよってのは、この2匹を見守れってことなのか?」
「戦わない試練ってことね」
折角だからとハジメは錬成で石の腰掛けを作った。先ほどと同じようにユエが氷を作り、ティオが風を起こす。だけども今回は、ウルガモス夫婦の邪魔をしないようにほんのり微風で涼みながら、夫婦の舞を鑑賞することにした。
「(とっても綺麗……)」
ふと、香織は隣にいるハジメを見る。感動した様子でウルガモス達を見ていたのだが、視線に気付いたのか香織の方を見た。そして小さく微笑むと、コッソリと彼女に手を差しのべた。香織はその意図を察し、彼と手を繋ぐ。
「……いつか僕たちも、あんな風になれると良いなぁ」
「えっ、それって……!」
「…………」
照れ隠しのようにウルガモスへと視線を戻すハジメ。香織は顔が熱くなるのを感じながら、ギュッと彼の手を強く握った。
ウルガモス達が舞を終えて、大広間の遥か高い天井へと飛び去ると同時に、対岸の扉が開き、そこへの道が溶岩の中から現れた。
開いた扉の奥から、強い気配を感じる。
「……行こう」
「うん」
そうしてハジメ達が扉の奥へ進むと、部屋に入った瞬間に再び扉が閉められた。試練を終えるまで出さないと言うことだろう。
「ハジメ。何かある」
「祭壇……かの?」
「祭壇の上に何かありますね。何でしょうか、あれ?」
慎重に近付いて、祭壇に置かれている物体を確かめる。
「これは……石?」
「何つーか、溶岩を閉じ込めたって感じの石だな」
「祭壇に文字があるね。ハジメ君、読んでくれる?」
「う、うん……」
ハジメは、その石の事を前世の知識で知っていた。だからこそ、この部屋の主の正体を察したのだが、仲間がパニックにならないように冷静に振る舞う。
――火山の秘宝に力を込めよ
「かざんのおきいしに、力を……。みんな、この部屋では戦うことになる。周囲を警戒しておいて」
「ハジメ? ……分かった。そうする」
リーダーの真剣な顔に全員が、何かが起こると察した。それぞれのポケモンを呼び出したり、いつでも魔法を放てるような態勢を取る。
「すぅー……はぁー……」
錬成を行うように魔力を祭壇に流し込む。その瞬間、かざんのおきいしが輝き始めた。
「……足音が聞こえてこないか?」
「何処から?」
「……全員、上じゃ!」
よく見ると、部屋の天井近くの壁には無数の穴がある。そこからドシドシと音が聞こえてきた。ティオの声で見上げた瞬間、1つの穴からポケモンが飛び出してきた。そのポケモンがズシンと音を立てて着地すると、祭壇はゆっくりと地面の中へ格納される。
そして、壁一面にアンノーン文字が現れ、その文章が光りだす。
――神の力を求めし者よ
――火山の番人に認められよ
「プレートの番人はお前か……ヒードラン!!」
「ゴッ、ゴボッ、ゴボボッ!!」
プレートの試練が始まった。
次回は、プレートの試練ことヒードラン戦です。