「マメバッタ……お前、立つんか……」
『それ』は、ただ眠りについているだけだった。
自身が司るものは、生きる物全てが背負う宿命。だからこそ流れに任せ、目が覚めたなら『死』を振る舞い、眠る時が来たならば大人しく眠る。
それが彼……
――何だ……?
ふと訪れた違和感が、彼の微睡みを妨害する。自身が目覚めるのは、『対となるアイツ』や『調停者』が目覚めた時だ。だがその2体の気配を感じない。ならば何故自分は目覚めかけているのだろうか。
――命が、俺に注がれている……?
感じるのは、自身の技によって他者の命が吸われた時。己の身に満たされていくあの感覚だ。
――だが俺は何もしていない。
つまり、自分は何者かによって起こされている。その事をイベルタルは悟った。
「ギュオオオオオオン!!」
自身を包む繭を破り、その下手人を探す。だが飛ぶ手間が省けた。目の前にいる2本足の生き物。そこから邪な感情を察した。
「ついに目覚めたか破壊の繭よ! 喜べ! 貴様は我らが神、アルヴ様の御意志で選ばれたのだ!」
――選ばれた、だと?
「さぁ、この鎖に従え! そして忌々しき人間を滅ぼすのだ!」
2本足が取り出した赤い鎖。それがイベルタルに巻き付いた。無理やり流される未知の力。そこから、3匹の生き物の姿が見えた気がした。
《止まって!》
――む?
イベルタルの脳内に響く声。それは彼に興味を抱かせた。
《私はユクシー。知識を司るもの。どうかこの声が届いていたら、聞いてほしい》
イベルタルの脳内に、映像が流れ込む。エヒトがアルセウスの力を奪い、神の座を盗んでいる事。そして長きに渡る戦争と文明の崩壊。それを見て悦に浸るエヒト達。
――不敬な。
自然の流れに任せず、意図的に崩壊を引き起こすエヒト達の所業に、そして今、その端末として自分が目覚めさせられた事にイベルタルは憤りを覚えた。
《私の名はエムリット。貴方はこれを見て、何を思う?》
――なるほど、これが怒りと言うものか。
《私の名はアグノム。知識を得た。感情を覚えた。2つを得て貴方は何をする?》
――その不敬者に天誅を!
イベルタルは一気に力を解放する。
「ギュルァァァァァァン!!」
パキン、と音を立てて赤い鎖は粉々に砕かれる。
「ば、馬鹿な!? 神の鎖が砕かれるだと!? 魔物風情が神に逆らうか!」
2本足の生き物……フリードは戸惑い、声を荒げる。
無理やり作らされた赤い鎖。それを通じてフリードを見ていたエムリットは、ため息をつく。
《当たり前よ。死と破壊の化身を、不完全なそれで繋ぎ止められるわけがない》
アグノムは語る。
《だけどもフリード。貴方も被害者》
ユクシーは告げる。
《今の貴方は偽神の傀儡。目が覚めた時に、
フリードが最期に見たもの。それは、赤黒い光線が自身に迫る光景だった。
目の前のものを吸い尽くしたイベルタル。だが、自身を目覚めさせようとした黒幕を討たねば、彼の気は済まない。
――あそこに居るのか。
彼が顔を向けた先。脳内の映像から感じた気配を、はるか北から感じた。
気配を感じたイベルタルは、すぐに翼を羽ばたかせて、ハイリヒ王国へと飛んで行った。
イベルタルの“デスウイング”によって、灰色と化した魔国ガーランド。そこに建てられていた神殿の最奥から3匹のポケモンが飛び出した。
《行きましょう。エムリット、アグノム》
《えぇ。イベルタルのお陰で、私たちを縛っていた術式も壊された》
《三神さまの怒りを、少しでも静めねば》
そうして3匹はその場から、一瞬で姿を消した。
とうとう、イベルタル復活。しかしそのドサクサで、かの3匹も逃げ出したようです。