「タマンチュラの進化形って何だろう? アリアドスとかデンチュラみたくなるのかなぁ」
ワナイダーを見た作者
「お前も立つんかい!」
ミュウと別れて数日。再びグリューエン砂漠へと戻ってきたハジメ達は、少しでも早めに迷宮の手掛かりを手に入れようと急いでいた。ハジメと香織はサイホーン、シアはアブソルで砂地を駆け抜け、ティオと幸利はユエのゴルーグに乗せてもらい低空飛行している。
「もう少しでアンカジ公国だ。今夜はそこの宿を取って、一休みしよう」
ポケモンの侵入を拒むためか、高い防壁が築かれている。それがアンカジに近づいていると言う目印になっていた。ハジメの言葉に全員が頷くと、途中でポケモン達をボールに戻して、正門へと歩いていった。
そうして門番にステータスプレートを見せたハジメだが、それを見た門番は驚いた顔をしながらも告げる。
「ナグモ御一行さまですか! 領主さまより、もし再び来たらご案内するようにと命を受けております」
「僕たちを?」
「はい。お見せしたい物がある、とのことです」
ハジメは首を傾げるが、領主であるランズィからの呼び掛けに応じない訳にはいかない。門番の案内に従い、一行は宮殿へと向かうことにした。
案内を終えた門番がハジメ達に一礼して去っていくと、ある青年の姿が見えた。
「ハジメ殿!」
「ビィズさん!」
領主の息子であるビィズが、ハジメを見るなり嬉しそうな顔で駆け寄り握手してきた。いきなり握手された事よりも、満面の笑みを浮かべている事への戸惑いが大きくなる。
「どうしたんですか、そんなに笑顔で」
「これを見てくれ!」
ビィズが見せたのは、上半分の赤色と下半分の薄茶色で彩られた球体。あまりにも見慣れている『ソレ』にハジメは目を見開いた。
「それって……モンスターボール! 完成したんですか!?」
「あぁ! 君が教えてくれた作り方を、アンカジの錬成師たちも再現しようと研究し、ついに実現できたのさ!」
「まだ1ヶ月も経ってないのに……」
「物作りには、他国より一日の長があると私たちは自負しているよ」
あまりにも早いモンスターボールの完成に、ユエとシア、ティオも唖然とする。
彼の握るボールの中には、相棒であるフライゴンが入っているのだろう。機嫌が良いのは、ボールを常に身につける事で相棒と共に居れることへの嬉しさが滲み出ているのかもしれない。
「やはり話し込んでいたか」
「あ、ランズィさん」
呆れたような、しかし気持ちは分かると言わんばかりの苦笑を浮かべていた。どうやら、ハジメ達が来たと報せを受けたビィズが、待ちきれないと言わんばかりに執務室を飛び出し、ランズィはその後を追っていたようだ。
「ハジメ殿、改めてお礼を。貴殿がモンスターボールの作り方を教えてくれたお陰で、息子だけでなく、近衛の者達も安心してポケモンと傍に居る事が出来るようになった」
「いえ。僕はあくまで作り方を教えただけですし、実現できたのはアンカジの錬成師さん達や、材料を仕入れてくれたランズィさん達のお陰ですよ」
謙虚に行こうとしていたハジメだが、そこへ幸利が彼の肩を叩きながら言った。
「おいおいハジメ。こう言うのは、お前も誇れば良いんだよ」
「うん。作り方を教えただけって言ってるけど、ハジメが作るきっかけを与えてなかったら、この国はずっと教会に怯えていた。ハジメは誇って良い」
ユエも幸利の言葉に頷く。ハジメは戸惑いながら仲間達に顔を向けると、香織とシアとティオも、同意見なのか頷いている。
ハジメはそっと目を瞑り、小さく頷く。そして堂々とした顔でランズィへと向き直る。
「ありがとうございます。そのお礼、受けとります」
「うむ。より良い顔になったな」
更にランズィが言うには、モンスターボールの材料となる茶色ぼんぐりやたまいしを大量に確保できたとの事だ。たまいしはアンカジ公国で手に入るし、ぼんぐりは王国から輸入という形になるが、向こうでは価値が殆ど無いために超格安で大量輸入出来たとの事だった。
材料の多さからして、国民に行き渡るのもそう時間は掛からないだろうとも言われ、ハジメは嬉しさで胸が満たされていた。
モンスターボール完成の報告を受けたハジメ達だったが、宿を取ろうとしてる事を話すと、ならオススメを紹介しようとランズィとビィズ自ら案内役をかって出た。
そうして大通りを歩いていた彼らだったが、前方より公国とは違う装いの兵士達が走ってきた。その不穏な空気に一行は止まる。
「あれって、神殿騎士じゃないですか?」
目の良いシアが捉えたのは、兵士達の正体。聖教教会の武装集団が何故こんなところに? 困惑している間に騎士たちはハジメ達を囲む。そして集団の中から白い豪奢な服を着た初老の男が現れた。ただ事ではないと察したランズィが咄嗟に男とハジメの間に入る。
「ゼンゲン公、こちらへ。彼らは危険だ」
「フォルビン司教、これはどういう事ですかな。彼らが危険? このように剣を向けられるような事を、彼らはしていないのだが?」
ランズィの言葉にフォルビンはふっと鼻で笑う。
「彼らは既に、聖教教会より異端認定を受けている。例え犯行に及んでいなくとも、異端者ならばそれだけで重罪だ」
「異端認定だと!? 馬鹿な、私は何も聞いていない!」
ランズィとビィズは大きく驚いているが、ハジメは最初こそ動揺したがすぐに落ち着いた。
「(ポケモンを連れてる事を天之河辺りが教会にチクったか、それより早く教会に気付かれたか……)」
いずれにせよ、異端認定を受けたということは此処に留まるのは危険だと悟る。
「今朝方に発表されたからなぁ。まさか向こうから来るとは、これもエヒト様の思し召しか? くくっ、これで私も中央の上層部に……」
「(小声で言ってるつもりだろうけど聞こえてるんだよなぁ)」
「さて、神敵を討つ時だ。これだけの神殿騎士を相手に耐えられまい。ゼンゲン公よ、邪魔をしてくれるなよ? 貴国とて王国と聖教教会を相手に、事を構えたくあるまい?」
ニヤニヤと笑うフォルビン。見ると、香織たち女性陣に対して邪な気配を感じさせる騎士も居た。
「(うん、ぶっ飛ばそう)」
恋人が他の男に変な目で見られるのが気にくわないハジメは、プレートの力を使って騎士達を殴り飛ばそうかと考えていた。だが此処で予想外の言葉が放たれる。
「断る」
「……何?」
「え? ランズィさん……?」
先程まで黙っていたランズィが、フォルビンの前に立ち塞がったのだ。まさか味方されるとは思わずハジメ達は目を丸くする。
「我々は彼らに多大な恩がある。それに仇で返すことなど出来ようものか」
「き、貴様正気か! 教会に逆らうことがどういう事か、分かっているだろう!」
「そもそも、我々アンカジの民は教会にうんざりしてきていたのだよ。砂漠の過酷さも知らぬくせして、やれもっと商品を多くしろだの、出来なければ関税を引き上げるだの……! 王国としての書状ならばともかく、教会が
「貴様ぁ……! 異端者を庇うだけでなく、我ら聖教教会を気に入らんだと! それは我らへの敵対宣言と見て良いのだな!?」
「中央に言えるのならば言うが良い! アンカジで作られしインテリアは王国の貴族に浸透し、エリセンの特産品は我々が中継している! 我々の産物でお前たちも得してきたのだろう。それが二度と手に入らなくても良いのか! そもそも、魔人族との戦争にあらゆる物を割いている王国に、この公国と事を構える余裕があるのかね!?」
魔人族は、一人一人が強力な魔法を使ってくる。それ故に数で攻めるしかない王国では、教会の力は強くとも、敵を増やす余裕はないのである。
そして、事のあらましを聞いていた野次馬たちもランズィの味方に回っており、囲む立場であった神殿騎士たちは、いつの間にかアンカジ国民に囲まれていた。
「ぐ、ぬぬ、ぬぬぬぬぬ! 後悔するぞ貴様ら!」
捨て台詞を吐いて退散しようとするフォルビン。神殿騎士達も慌ててついていく。だからハジメは、その背中に対して攻撃することにした。
「レディを変な目で見た罰だよ!」
パン!と小気味良い音を立てて両手を合わせる。
「錬成!」
がんせきプレートの力により消費魔力が抑えられ、それで水道管を錬成。
「水よ!」
瞬時にしずくのプレートの効果の1つを発動。魔力によって地下を流れる水が操られ、その勢いは増していく。
「放てぇ!」
『『『ギャアァァァァァァァ!?』』』
その瞬間、水道管から凄まじい勢いで水が放たれ、神殿騎士たちとフォルビンは流されていった。
「改めて思うと、プレートの力って万能じゃのぉ」
「某錬金術師の漫画でこんなシーン見たなぁ……」
「水で流されるだけ温情じゃありません?」
「うん。こうてつプレートの力とかで殴られるよりマシ」
なお香織は、自分のために怒ってくれたのだと悟り、胸をキュンキュンさせていた。
最後のハジメによる放水シーンは、鋼の錬金術師の第一巻にて、汽車を占拠したテロリストに水ぶっかけるシーンを参考にしました。