聖教教会の人間から異端認定を受けたハジメ達。異端扱いされた事はともかく、恋人の香織を邪な目で見た神殿騎士達にキレたハジメは、即席の水道管を錬成して放水することで追い払った。
だが、ここで思わぬ問題が発生した。水道管を錬成する際に公国の地下水脈と繋げて放水したのだが、それがいけなかった。水が貴重な地で景気よく放った結果、別の箇所では一時的な断水が起きてしまったのである。
「申し訳ありませんでしたぁぁ!!」
「もう! アンカジでは水は貴重なんだからね! 勝手に魔法で水脈を変えないどくれ!」
そのため、ハジメは断水の起きた地域に顔出しして土下座で謝り倒し、水脈を修復する羽目になったのだった。
それから数日後。住人達への謝罪や地下水脈の修復を終えたハジメ達は、アンカジを出発しようとしていた。なお、ずっとそのような事をし続けていた訳ではなく、踊り子の格好をした香織にハジメが前屈みになるといった話もあったのだが、割愛する。
「次の行き先は……」
ハジメが地図を広げて行き先を決めようとした、その時だった。
「香織!」
「ひゃあっ!?」
突如、フードを被った人間が香織に抱きついた。これが男性だったなら、ハジメと幸利がすぐに『正当防衛』として手荒に引き離していたのだが、その人物の声は女性のものだった。
「え、嘘。その声……リリィ!?」
『『『…………誰?』』』
残念ながら、ハジメはトータスの歪さについて調べるのに夢中で、幸利は檜山達に絡まれないように必死であった為、リリィと呼ばれた女性との接点は薄い。当然ながら、ずっと奈落に封印されていたユエや、フェアベルゲンから出たことのないシア、遠い地で暮らしていたティオも彼女の事を知らない。
香織がリリィと呼んだ女性の本名は、リリアーナ・S・B・ハイリヒ。
ハイリヒ王国の王女である。
一行は先程まで泊まっていた宿に戻り、王女であるリリアーナが護衛も連れずにアンカジまで来た理由を尋ねた。
「事のきっかけは、ある『悪夢』を見た事でした……」
リリアーナが見た悪夢。それは彼女以外の家族、つまり王族が全員石になっているという内容だった。リリアーナが呆然としていると、どこからか鳥のような魔物が現れて彼女に襲い掛かろうとした所で、夢は終わる。
悪夢は毎日のように続いた。それも、家族から使用人、騎士団、教会関係、ついには国民までもが石に変わってしまう。日に連れて夢の中の規模は大きくなっていき、彼女の精神はガリガリと削れていった。
さらに、人々が石になる直前の断末魔や恐怖の表情が、彼女の脳内に強く焼き付いてしまい、不眠状態になってしまった。現にハジメ達と向かい合うように座るリリアーナの目の下には、酷い隈が出来ている。
「しかし、ある日悪夢の内容が変わりました。私の目の前に『青い目をした影』が現れたのです」
案内をするように何処かへと向かっていく影。その先に、鳥の魔物と戦う他の魔物やハジメ達の姿があったと言う。
「その翌日でした。聖教教会が、ハジメさん達を異端認定したのは。その時にウルの町から魔物の襲撃を受けた愛子さんの報告もあったのですが、彼女の抗議もあっさりと却下したのです」
そしてリリアーナは、最悪の事態を告げた。
「その結果、教会に抗議した愛子さんだけでなく、彼女を護衛していた皆さんも、さらには雫、中村さん、遠藤さんも牢へと連行されました」
ハジメ達は一瞬だけその意味が理解できずに硬直し、やや遅れて詰め寄った。
「な、何でですか!? どうしてその様な事に!」
「イシュタル教皇は、神のご意志に逆らうと言うことは神の使徒ではないからであると言っていました。お父様もそれに強く頷いていて……」
リリアーナも強く抗議した。更にエリヒドには悪夢を見た事も告げ、対策を練ることを奨めるも、敵を見るような目で「くだらない」と切り捨てられた。それでも諦めきれずに提案したが、平手打ちされて終わったと言う。
「酷いです! 血の繋がってる娘よりも、教会の方を優先するなんて!」
「私の事は良いんです。けれど私は……怖い! 今の王国も、教会も、どうなるか分からない。だけど! このままでは破滅するのは確かです!」
そしてリリアーナは床に座り込み、指先揃えてハジメに頭を下げる。
「お願いします! 勝手に召喚し、勝手に戦わせて、それに対して何も言わなかった私ですが……! 身勝手なのは承知です! だけど……助けて下さい…………!」
その彼女の影から、『青い目』が見守っていた。
なお、リリアーナをアンカジまで連れたのは、モットー・ユンケルの商隊です。原作なら賊に襲われてましたが、リリアーナを守る『影』のお陰で無事に国まで着きました。