リリアーナが目を覚ますと、そこは廃墟であった。
「こ、これは……!?」
辺りを見回す。見慣れた豪奢な部屋ではなく、あるのは瓦礫ばかり。その中にポツポツと点在するのは石像。しかし……。
「ひぃっ! お、お父様……!」
その姿は自分の父であった。その顔は何かに恐怖したまま固められたかのような、恐ろしい形相だ。
「お母様……。ランデル……」
家族が全員、恐怖しながら石化した光景にリリアーナは絶望する。
『ギュオオオオオオン!!』
鳥のような、しかしそうでない様な鳴き声に釣られて空を見上げると……赤と黒の巨大な翼を広げた魔物がいた。魔物はリリアーナを見て、獲物を見つけたと言わんばかりに襲い掛かる。
「い、嫌……嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」
「っ! はぁ、はぁ……夢……?」
汗で髪がべったりと張りつき、不快な朝を迎えたリリアーナ。瓦礫の山は無く、見慣れた部屋の中だった。
「そう、よね……。あれは悪い夢よ……。夢なのよ……」
だが、彼女のそんな拙い言い聞かせは儚くも無駄となる。
「(また、この夢……)」
それからもリリアーナは、眠る度に悪夢を見た。
自分に「あれは夢だ」と言い聞かせたその日の夜は、家族だけでなく自分に仕えてくれている使用人達が石化した夢だった。
その次の日は、メルド率いる騎士団が石化した。その次の日は国民までもが石化した。
さらに別の日。今度は石化する瞬間を見てしまった。
『助けてくれ! 誰か、誰かァァァ……!』
『死にたくない! 私にはまだやることが……!』
誰もが自分に助けを求めようと手を伸ばし、間に合わずに石化する。その光景が脳内から離れない。
「(今度は何が石になるの? 全部、全部が石になって、今回は私?)」
だが、目の前に現れたのは石像ではなかった。
「あれは……!」
漆黒の身体。
白い髪のような頭部と青い目。
風にたなびく赤いマフラーのような物。
「悪夢の化身……!」
教会の教えの中で、最も忌むべき存在として教えられている、
「あなたが……! あなたがこの悪夢を見せているのね!?」
『……………………』
「何で私にだけこんな物を見せるの! もう止めて! 私は何もしてないのに!」
『……………………』
ダークライは何も言わない。リリアーナの睨むような目も、怒りの混じった声も、何も反応しない。ダークライは彼女に背を向けると何処かへ飛んでいく。
「待ちなさい!」
リリアーナも追う。ダークライが向かった先、そこに居たのはいつも悪夢の最後に出てくる鳥の魔物。だがいつもと違うのは、その魔物に立ち向かう人たちが居ると言うことだ。
「香織……? それにあの2人は確かシミズって人と、香織の恋人のハジメさん……?」
他にも3人の女性もいて、全員が魔物を引き連れて立ち向かっている。
『……』
「……彼らのもとへ、向かえば良いのね?」
『…………』
ダークライは何も応えず、しかしいつもと違い視界は穏やかなまま暗くなっていった。
次の日の夜。リリアーナは乱雑にドレスを脱ぎ捨てて、粗末な服に着替えていた。
「(おかしい……! 明らかにおかしい! 教会も、お父様も!)」
夢の中でダークライと出会った翌日。聖教教会からの発表があると召集をかけられ、リリアーナも出席した。
教皇イシュタルからの発表。それは、先日に起きたオルクス大迷宮での魔人族襲撃の際に、生存が判明した南雲ハジメとその一行。彼らを異端者として認定することであった。
同じ席にいた愛子が抗議をしつつも理由を尋ねると、亜人族と行動を共にしているという時点で、神の使徒として相応しくないという理由が挙げられた。
異端認定をするには軽すぎるその理由に愛子は抗議を続けたが、神殿騎士達に連行されてしまう。
「(あの席に、勇者である光輝さん達は居なかった。彼なら、連行される愛子さんを助けようと抗議するだろうし、教会は反故に出来ない。勇者の願いをねじ曲げたと世間体が悪くなるから。だから愛子さんだけを出席させたのね)」
だがその後、愛子の護衛をしていた優花たちを始めとして、雫や浩介、恵里までもが捕らえられた。この時点で、教会に対するリリアーナの不信は最高となった。
「(っ……。お父様……)」
ズキリと、左頬が痛む。今回の教会の暴走にリリアーナは抗議をし、父であり国王でもあるエリヒドに訴えたのだが聞く耳を持たず。挙げ句の果てには「くどい!」と怒鳴られ平手打ちされたのだ。
「(この国はもう……駄目なのかもしれない……)」
だが悪夢の中で見た、石化した人々。そこには老若男女の区別は無かった。
だが教会の暴走で、王族の不始末で、罪なき国民達が死に絶える。そんな結末をリリアーナは認めたくなかった。
「(だからこそ、夢の中にいたハジメさん達。彼らを見つけないと!)」
フードを深く被り、粗末だが歩きやすい靴を履き、リリアーナは城から抜け出した。
その後彼女は、冒険者ギルドから情報を聞き出し、ユンケル商会の馬車に乗せてもらい、アンカジへと向かっていく事になる。
『………………』
その様子を、ダークライは文字通り「影から」見守っていた。
次回より、原作でいうならば王都侵攻の部分になります。