今回、名前は無いものの今回限りのオリキャラ登場です。
アンカジ公国にて、ハイリヒ王国王女のリリアーナと再会したハジメ達。彼女が告げた悪夢の内容や聖教教会の強行など、王国がかなり危険な状態にあることが明らかになった。
友達である遠藤浩介や八重樫雫が捕らわれたと聞いた彼らは、すぐに出発することを決定。全速力で王国へと向かっていたのだった。
「リリィさん、風とか大丈夫ですか!?」
「はい! 私にはお構い無く!」
速度ならばジェット噴射で飛べるゴルーグが良いのだが、流石に7人も乗せて飛ぶとなるとスピードが落ちてしまう。そこで名乗り出たのがティオだった。
『妾の竜化が、このように役に立てるとはの』
竜人族であるティオは、技能によって竜の姿になることが出来る。それによって巨大化することで全員が乗り込めたのである。
王国の人間であるリリアーナが彼女を忌避しないか心配だったのだが、「国の一大事にそんなことを気にしてられますか!」と答えていた。
そうしてグリューエン砂漠からハイリヒ王国まで、文字通り飛んできたのだが、流石に飛び続けていると疲れる上に、夕陽が地平線に沈もうとしていた。
『流石に、この姿のまま王国に突入するわけにはいかないの。ハジメよ、近くで降りるとするか?』
「そうだね。そろそろ暗くなるだろうし、降りてキャンプの準備しなくちゃ」
『承知した。ではしっかり掴まっておれ』
こうしてハイリヒ王国の近くに降りたハジメ達は、テントを立てたり、焚き火を起こしたりと準備を始めたのだった。
そうして、夜。買い込んでおいた食材をシアと香織が料理し、全員が平らげた後だった。リリアーナがふと呟いた。
「私は、今まで魔物……いえポケモンを、悪だと思っていました」
今のキャンプ地には、サイホーンにバサギリにゴルーグ、アブソルにガルーラもモンスターボールから出していた。最初こそ驚いた彼女だったが、美味しそうに夕飯を食べ人間と笑いあっている光景を見て、思うことがあったようだ。
「ですがハジメさん達を見ると、とても人間に仇なす存在とは思えないのです。教会の教えがまるで嘘だったかのように……いえ、もしかしたら嘘だらけだったのかもしれません」
「…………」
バサギリの石斧の状態を確かめていたハジメは、リリアーナの語りに耳を傾ける。彼女は王族故に滅多に外に出られないのだろう。初めて見る外の世界に、ましてや今まで敵だと思われていたポケモンが人間と仲良く出来ているのを見て、固定観念が崩れてきてるのかもしれない。
「……出ておいでよ」
「ハジメさん?」
ふとハジメは、暗闇の向こうへ声をかけた。リリアーナだけでなく、香織や清水達も不思議そうにしていたが、その声に応えるように闇から『ソレ』は姿を現した。
「………………」
「っ! あなたは! どうして!?」
リリアーナが驚いた声を上げるのも無理はない。姿を現したのは、あんこくポケモンのダークライ。リリアーナに悪夢を見せていた張本人だからだ。
「ユンケル商会の人たちがトラブルなく公国まで来れたことを、不思議に思ってたんだ。普通なら商会の荷車なんて盗賊からすれば格好の的だし、食料品なら匂いとかでポケモンに狙われる筈なんだもん」
「つまり、どう言うことです?」
「シア。答えは簡単。あのポケモンが王女さまを守っていたってこと」
「そう、なんですか……?」
ユエの言葉を聞いて、リリアーナはダークライに尋ねる。だが彼は何も答えない。
「無口な奴なのか?」
「でも、何だか格好良いかも。影ながら守っていたなんて」
「彼女を守っていた理由は、彼のみぞ知ると言うことかの」
周りが色々と言うなか、ダークライは過去に思いを馳せていた。
ダークライの目の前にいる女性。彼女は、遥か昔の『あの娘』にソックリだった。
「………………」
今から数百年前の事である。
――あら? 不思議なお客様が居たのね。お茶でも如何かしら?
初めて会った時の印象は『不思議な奴』だった。長く生きている彼は、憎しみや恐怖の感情を向けられることに慣れていた。
だが、『あの娘』は違った。たまたま体を休めていた所を見つかったのだが、彼女はダークライを追い出さなかったのだ。
――あなたは優しいのね。教会の教えが嘘みたい。
『あの娘』が成人となった頃のこと。彼女はロズレイドの毒トゲに触れてしまったことがある。花の美しさに惹かれて手を伸ばしたのが原因だった。
その時ダークライはひどく動揺し、すぐにモモンの実を差し出した。解毒作用のある木の実を食べたことで大事には至らなかったが、その事を強く感謝された。それ程までに、『あの娘』はダークライの印象に強く残ったのだ。悪夢を見せないように離れようとする程には。
――あなたに、お願いがあるの……。
ある日、彼女は倒れた。まだ若く、しかし子供を産んで母親となった頃の事だった。それまでは何もなかった筈なのに。
ベッドの上で荒い呼吸をしながらも、誰もいない所を見計らって現れたダークライに、『あの娘』は手を伸ばした。
――私の子孫が危なくなったら……守ってあげて……!
伸ばした手を掴もうとしたが、その前に彼女は事切れた。
あれから時は流れた。偽りの神によって繰り返し引き起こされてきた争い。その中で、ダークライは『あの娘』の血筋の者達を守ってきた。
だが、とうとう状況が変わった。偽りの神が別世界から別の人間を召喚した。そう、ハジメ達が召喚された事によって。一時的とはいえ、大きな空間の揺らぎが起こったのだ。それによって神と呼ばれし数多のポケモン達が、目を覚まし始めたのだ。
だからダークライは、リリアーナに悪夢を見せた。自分では対処しきれない。人間の力も借りなければ、世界が文字通り崩壊するために。
「ダークライは、影からずっと守ってきたんじゃないかな」
「そう、なんですか?」
「…………」
「あの、ありがとうございます。夢の中では怒鳴ってしまって、ごめんなさい」
頭を下げるリリアーナ。ダークライにとって謝られる筋合いはない。世界の危機を告げるために悪夢を見せたに過ぎないから。
「もし宜しければ……私に、力を貸して頂けないでしょうか」
握手をしようと腕を伸ばすリリアーナ。ダークライはふと、『あの娘』の最期を思い出す。
「(約束、ダカラナ)」
ダークライはそっと、その黒い腕で彼女の手を握った。
~裏設定 『あの娘』について~
リリアーナの先祖。非常におっとりとした性格で、たまたま城の庭園で休んでいたダークライを追い出さず、そのまま受け入れた。
しかし出産後、ダークライを受け入れていた事が「エヒトの使徒」にバレてしまい、毒を盛られる。最期にダークライに子孫を守ってほしいと託し、この世を去った。