サイホーンの姿を見た瞬間のメルドの動きは迅速だった。
「アラン、生徒達を率いてガラガラの群れを突破しろ! カイルとイヴァンとベイルは、全力で障壁を張れ! 光輝たちは撤退するんだ!」
「待って下さい、俺たちも戦います! あのサイみたいな奴がヤバいのでしょう!? なら俺たちも!」
「馬鹿者! 今のお前達では、サイホーンを相手にするのは無理だ! 最強と謳われた冒険者ですら倒せなかったんだぞ!」
「ですが、置いてなんて行けません!」
「こんな時に我が儘を……!」
「ブルォォォォォォ!!」
サイホーンが大きく咆哮し、前足で地面を軽く蹴り始める。明らかに突進する合図だが、あの巨体ではあっという間に全滅するだろう。
「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず―――“聖絶”!!」」」
騎士団員たちが長い詠唱を終えて、時間は短くともあらゆる攻撃を防ぐ障壁を展開する。それと同時にサイホーンが一気に突進してきた。
もしハジメが見ていたら、魔物学によってその技を“スマートホーン”と判断していただろう。
その頃、生徒たちはパニックになりながらガラガラに攻撃をしていた。しかし65階層に相当する此処のガラガラたちも、それなりにレベルが高い。魔法攻撃を骨で弾き、お返しにと骨で殴ってくる。まだ技を放ってないあたり、本能で生徒達を格下だと見たのだろう。
「みんな落ち着け! 訓練での連携を思い出すんだ!」
「あいつには水属性の魔法が効く! だから落ち着いて!」
護衛の騎士アランが大声で呼び掛けても、ハジメが対抗策を叫んでも、混乱は収まらない。そこへ一体のガラガラが骨に力を溜め始めた。格下を相手に戦うのが面倒になったのか、技で倒すつもりのようだ。
「(骨が光ってる……? “ボーンラッシュ”か“ホネブーメラン”を放つつもりか!)」
そのガラガラの近くに居たのは、園部優花。
「あっ…………」
優花は恐怖のあまり足腰の力が抜けて、へたり込んでしまう。ガラガラの睨むような目付きが、彼女に死を悟らせてしまった。
「(私……死ぬんだ……)」
“ボーンラッシュ”が放たれる……その時だった。
「錬成ぇぇぇっ!!」
「ガラァッ!?」
「え……?」
突然、地面から棘のようなものが飛び出し、ガラガラを突き飛ばした。その攻撃をしたのは……ハジメだ。
「立てる!?」
「え、あ……」
「しっかり! 僕よりステータス高いんでしょ!?」
優花の腕を引っ張って立たせると、更に錬成を駆使してガラガラの群れを突き飛ばしていく。
「あ、ありが―――」
「もう、こんな時に天之河は何やってんだよ!」
お礼を言おうとした優花だったが、ハジメは真剣な顔のまま、未だにメルドと問答をしている光輝のもとへと向かってしまった。優花は名残惜しそうだったが、すぐにガラガラとの戦いに戻った。
サイホーンが突進を繰り返しており、障壁にどんどんヒビが入っていく。メルドはその事を察して光輝を説得する。
「もうもたないぞ! 光輝、早く撤退するんだ! お前達を死なせる訳にはいかないんだ!」
「嫌です! メルドさんを置いていく訳には行きません! 皆で絶対に生き残るんです!」」
「こんな時に我が儘を言うな! 力量の差を見ろ!」
「光輝、メルドさんの言う通りよ! ここは退くべきよ!」
「そうだぜ光輝! 俺でも分かる! アイツはヤバい!」
「みんなどうしたんだ!? 俺たちは世界を救わないといけないんだぞ!」
「いい加減にしてよ光輝くん! 私たちじゃ勝てないってメルド団長も言ってるんだよ!?」
「香織まで……! いや、大丈夫だ! 怖がる事なんて無い! 俺たちなら勝てる!」
自分の力に過信してるのか、根拠もなく戦おうとする光輝。雫の怒りが頂点に達しようとした、その時だった。
「何やってんだよ!」
「南雲、何で此処に!? ここは君の出る所じゃ――」
「もっと後ろも見ろよ! リーダーが居ないからみんなパニックになってる! 皆を守るって言ったよね!? なら、皆を落ち着かせてよ!」
ハジメの言葉に一瞬詰まるも、何かを言い返そうとした時だった。
「下がれぇぇぇ!!」
その瞬間、再び“スマートホーン”を放ったのか、最後の障壁が砕け散った。ハジメが咄嗟に壁を錬成した事で威力は下がる。
「……僕が足止めします」
「なっ! 坊主、無茶だ!」
「足止めだけです! それに、僕の知識が正しければ、アイツは今突進することしか考えてない。足元を崩せば時間稼ぎくらいは……!」
ハジメは、自分の錬成を岩・地面タイプの技と認識している。サイホーンは地面・岩タイプのポケモンであるため、“穴を掘る(人間ver”で足止めすることを考えたのだ。
「……分かった。必ず助けるからな!」
メルドは光輝の襟首を掴んで引き下がる。
「ハジメ君!」
「香織……必ず戻るから!」
両手を合わせ、地面に手をつける。
「錬成ぇ!!」
「グオオッ!?」
前足をつけている足元に穴が開き、地面に頭を打ち付けるような姿勢になるサイホーン。
「人間版ストーンエッジぃ!!」
前のめりに近い姿勢になった所を更に錬成し、サイホーンの背中を押さえつけるようにした。
「お前達、坊主を援護しろ!」
メルドと光輝によってガラガラ達を撃退出来た生徒たち。ところが、メルドの言葉に戸惑う。
「みんなお願い! ハジメ君が1人で戦ってるの!」
香織の言葉で石橋の方を見ると、ハジメがサイホーンを足止めしているのを見た。
「あの化け物が埋まってる……?」
「あの南雲がやったの……?」
その戸惑いがサイホーンにチャンスを与えてしまった。穴から抜け出し、押さえつけていた錬成物を破壊すると、ハジメを睨み付ける。
「やばっ……!」
「グルオアァァァ!!」
再び攻撃しようとするサイホーン。ハジメは咄嗟に逃げようとする。
「お前達なにをやってる! 坊主の脱出を手伝え!!」
メルドの一喝で、生徒達は魔法の詠唱を始める。風や炎など、タイプ相性を考えてはなかったが、足止めするには十分かもしれない。
「ハジメ君、早く!」
「ハジメ、急げ!」
香織や幸利が叫ぶ。多くの魔法が放たれる中を、ハジメは走り続ける。
その時だった。
「グオオオオオオ!!」
ハジメを逃がさないと言わんばかりに咆哮をあげると、何と小さくジャンプして大きな振動を与えた。
「(しまった……“じならし”か!)」
その振動で大きく体勢を崩して、走るのが止まってしまうハジメ。
そこへ1つの魔法がハジメに迫り……直撃した。
魔耐のステータスが低いハジメは、大きく吹き飛ぶ。
それと同時に、ハジメの錬成と“じならし”の影響で脆くなった橋が崩れ始める。
「(みんな……香織……!)」
手を伸ばすも、ハジメの体は奈落へと向かっていった。
ハジメ、奈落へ。しばらくはハジメ視点の話を書くつもりでいます。