フリードが意識を取り戻した時、目にしたのは荒れ果てた神殿だった。
「っ! こ、これは……!?」
目の前に広がる灰色の景色。だがそれは徐々に色を取り戻していく。
「そもそも私は……」
痛む頭に顔をしかめながら、改めて状況を掴もうとした……その時だった。
「フリードぉぉぉぉぉ!!」
「ぐあっ!? がっ、はっ、カト、レア……!?」
「よくも……よくもよくもよくもぉぉ!」
何者かに飛び掛かられ、地面を転げ回った後、フリードは何者かに押し倒されるような状態になる。下手人の顔を見ると、それは自身の配下の1人であるカトレアが、鬼のような形相で首を絞めようとしていた。
「うっ、くっ、あぁぁぁ……!」
「よくもアタシを殺そうとしてくれたね! あんたはアタシ達を裏切った! その報いを受けな!」
「ま、て、カトレア……!」
「命乞いなんて聞きたくないよ!」
カトレアの力が強くなり、フリードは口をパクパクと動かしながらも彼女を止めようと手を伸ばす。だが、そんな彼女の肩を掴み止める者がいた。
「カトレア、落ち着け」
「止めないでくれ、レイス! あんただってこの男に生命を吸われただろう! 『破壊の繭』の生け贄として!」
「!?」
レイスに注意を向けた事で力が緩み、さらにカトレアから聞き逃せない単語が発せられ、驚くように飛び起きる。
「ゲホッ、ゴホッ! ……『破壊の繭』だと?」
「そうさ。あんたが蘇らせようとした魔物さ」
「貴方は、我々の命と魔力を『アレ』に捧げたのだ」
「私は、そんなこと望んでいない!」
「「……は?」」
そこらのチンピラの命乞いとは違う、真剣な表情による叫び。そこからフリードの独白は続く。
「私は確かに、『破壊の繭』を復活させよと神託を受けた。だが何処にあるのかを知るために、大昔の資料や伝記を調べていく内に気付いたのだ。『破壊の繭』は、そう簡単に操れるものではない。目覚めさせれば、人間も我らも見境無く滅ぼされると言うことを悟った! だと言うのに……うぐっ!?」
突如フリードを襲う頭痛。それは、
「
フリードの脳内に呼び起こされるのは、『破壊の繭』の危険性を主神アルヴヘイトに伝えようと神殿を訪れた記憶。そこへ銀髪のシスターが現れた所までだった。
「シスターに出会ってからの記憶が無い……。まさか!? カトレア、レイス、教えてくれ。
顔を青ざめさせながら叫ぶフリード。演技とは思えないその迫真ぶりに2人は顔を見合わせると、小さく頷いてフリードに全てを話した。
己のしでかした事を知ったフリードは、ガクリと膝をついて俯いてしまった。
「なんと言う事だ……! ではこの荒れ果てた景色も、全ては私が引き起こしたと言う事なのか……」
そして彼の心に芽生えるのは、神への不信であった。
なぜ信仰する者をも滅ぼす存在を復活させようとしたのか?
『破壊の繭』によって魔人族の国ガーランドは滅ぼされたというのに、なぜアルヴは救いの手を差し伸べなかったのか?
「……この世界は、どこかおかしい」
そしてフリードの頭に、ある仮説が思い浮かんだ。
「まさか、かの『反逆者』たちは既に世界の真実に気が付いて……!? ならば大迷宮に、その答えがあるかもしれない」
立ち上がると、カトレアとレイスの2人を見て頭を下げた。
「カトレア、レイス。申し訳なかった。恐らく私は、何者かに操られていたと思う。それでもお前たちを1度は殺したと言う罪は消えない。そしてこの国を滅ぼす切っ掛けを作ったのもな……」
頭を上げると、2人の目を見るようにフリードは宣言する。
「都合の良い事を言っているとは思う。だが、世界の真実を知るためにも助けが要る。……力を貸して欲しい」
沈黙が訪れる。ただ風の音が寂しく響いていた。
「……私でよろしければ、このレイス。再び貴方の下に」
「……先ほどまでの無礼、申し訳ありませんでした。カトレア、貴方の下に」
その光景を眺めているのは、ゼルネアスだった。灰となったガーランドを復活させたのは彼女である。
『(ハジメ達と同様に、偽神に立ち向かう者が現れましたか)』
優しく微笑むと、ゼルネアスは自身の眠るハルツィナ大迷宮へと向かっていった。
次回から、ハジメ達の視点に戻ります。