落雷による振動と轟音。それは飛行船内を大きく揺らし、中に居る者達をしゃがませてしまう程の威力であった。幸いなことに香織と鈴の結界が展開されたことによって、墜落から免れている。高火力の“かみなり”のインパクトから抜け出せたハジメはすぐに声を出して、仲間たちを立ち直らせる。
「損害確認! みんなで飛行船の各所を確かめて!」
「気球部分は妾が見てこよう。そのままユエと浩介に加勢する!」
ハジメの言葉に全員が頷き、この状況を打開しようと動き出した。
その頃、ユエと浩介も落雷の衝撃から立ち直った所であった。サンダーはと言うと、やはりハジメ達を試すつもりでいるのか、その場に留まり2人を睨んでいる。
「ユエ、テッカニン、大丈夫か?」
「何とか。ゴルーグが防いでくれた」
「テッカ!」
「ゴルル……!」
2人と1匹を守るように立ちはだかるゴルーグは、ジェットエンジンのように足から炎を噴き出しながら滞空していた。ゴルーグはゴーストと地面の複合タイプであり、それによって先ほどの大規模な攻撃を無効化したのである。
「そう言えばハジメが言っていた。ポケモンの技の中には、周囲の天候を変えることで、一部の技の威力を上げる技もあるって」
「てことは、この雨の状態だとサンダーに有利って事かよ!」
「でも、やるしかない! ゴルーグはテッカニンの防御役をお願い。“てだすけ”して」
「ゴルッ!」
「テッカニン、いざとなったらゴルーグに隠れるんだぞ」
「テカッ!」
2人と2匹は、再びサンダーと対峙した。
一方、飛行船の気球部分を確かめたティオ。だが飛行船の周囲を取り巻く環境は、お世辞にも良いとはいえなかった。
「雷雲に雨、そしてサンダーの羽ばたきによる強風……。これはキツい試練じゃの」
そう呟きながらも、ノイント戦以降威力の上がった炎を放つ。
「ユエ、浩介! 援護するぞ!」
だが炎は雨と風の影響によって掻き消されてしまう。
「ちぃっ!」
「ならこの雨を利用する! “破断”!」
ユエの放った水属性の魔法は、彼女に負担をかけずに発動された。雨と言う環境により威力も上がったウォーターカッターがサンダーを襲う! だがサンダーはこれを回避した。すかさずユエは指示を出す。
「ゴルーグは“ラスターカノン”!」
「ゴォル!!」
ゴルーグの目に見える部分から銀色の光線が放たれる。再び回避されるかと思われたが、それを阻止したのは先ほどの炎の失敗を挽回しようとするティオだった。
「お主の真似じゃ。“かみなり”!」
「クエッ……!」
数本の稲妻がサンダーを取り囲む。例え効果が薄くても、当たればその衝撃はサンダーの飛行を妨害する。人間を試すほどの知性を持っていたサンダーはその可能性も考えた結果、ほんの少しの間だけ動きを止めた。それによってゴルーグの“ラスターカノン”が命中した。
「今だテッカニン! その顔面に“メタルクロー”!」
「テッ……カァッ!!」
「キエエエエ!?」
持ち前のスピードを活かしてあっという間に距離を詰めたテッカニンが、サンダーの顔に爪を振り下ろした。生きている以上、目などと言った感覚器官の集中する頭部にダメージを負えば絶叫するのは必然。
そしてそれは相手に、「手強い相手」と意識させる切っ掛けにもなった。
「クァァァァ!」
「テッ……!?」
サンダーは、「舐めるな!」と言わんばかりに“ぼうふう”を発動した。虫タイプのテッカニンに飛行タイプの技は効果ばつぐんで、浩介の元まで吹き飛ばされると目を回して戦闘不能になってしまう。
「テカ~……」
「あぁっ! くっ、よく頑張った。戻ってくれ!」
「ゴルーグのメインはパンチ技だけど……! “シャドーボール”」
滞空状態のゴルーグが暗色の球体を放つ。サンダーは“こうそくいどう”で回避しながら、次の技を放つ。
「キュアァァァ!!」
「ゴッ……!?」
「え? 何が起きたの……?」
放ったのは青色の球体。それがゴルーグに命中した瞬間、滞空していた姿勢が大きく崩れた。
その技の名は、“ウェザーボール”。ノーマルタイプに分類されるが、天候によってタイプが変わると言う特徴を持つ。現在の天候は雨。これによって水タイプとなり、地面タイプを持つゴルーグに大ダメージを与えたのだ。
「戻って、ゴルーグ!」
「ヤバいぞ、どうするんだこの状況……!」
「いざとなれば妾が……!」
ユエと浩介の相棒2匹は戦闘不能。ティオとユエの魔法ならまだ戦えるだろうが、フィールドの天候とサンダーの持つタイプ相性を考えると、使える魔法は限られてくる。詰んでると言っても良い状態だった。
「みんな!」
そんな中、3人に駆け寄る者達がいた。雫、恵理、シアの3人だ。
「飛行船は大丈夫だったわ! あなた達は!?」
「それが、俺のテッカニンも、ユエのゴルーグもやられちまった……!」
「そんな!?」
「……なら、ボク達が戦うしかないよね」
恵理がサンダーを睨み付ける。シアも一瞬ポカンとしたが、好戦的な笑みに変わった。
「これが試練だと言うのなら、私たちはまだやれるって所を見せましょう! アブソル、出てきてください!」
「行くよ! ミミッキュ!」
「2人ともいきなりそんな……。あぁもう仕方ないわね! エルレイド、行くわよ!」
新たに3匹のポケモンが繰り出される。
「…………」
その様子を、サンダーは静かに見ていた。そして一瞬だけ目を閉じたかと思うと……。
「キョオオオオオオオン!!」
咆哮を上げた次の瞬間、先程のまでの雷雲が霧散していき、雨風も止んだ。
「え……?」
「どういうことじゃ……?」
困惑する一同。だがサンダーの鋭い目付きから、あるメッセージを感じ取った。
――合格だ。不屈の心、見せてもらったぞ。
そうしてサンダーは、空の彼方へと飛び去っていった。
操舵室。そこにはハジメと幸利がいた。彼らの相棒であるサイホーン、バサギリ、ガルーラは残念ながら重量や戦えるスペースの関係でバトルには出れなかった。
「見えてきたな、ハジメ」
「うん。あそこが、竜人族の故郷……!」
遥か天を目指すかのように聳え立つ塔と、その下に広がる和風建築な村が、眼前に見えていた。
次回から、竜人族の里になります。