サンダーの試練を乗り越え、何とか竜人族の里に辿り着いたハジメ達。初めて見る気球と、『人間は亜人族を見下している』という偏見から警戒されていたが、ティオが現れた事で空気が変わった。
「ティオ様!」
「ティオ様が戻られたぞ!」
「でも、何で人間や他の亜人族も一緒に……?」
「ねえねえハジメ君。もしかしてさ、ティオってこの里のお姫様だったりするのかな」
「伝承とかにも詳しいし、何ならあの塔……大迷宮のことを知っている。あり得るかもね」
ハジメと香織は小声で話をする一方で、ティオは警戒の色を見せる竜人族に事情を説明していた。
「まぁ待て、落ち着くのじゃ。人間だからと即座に敵意を剥き出しにしては、我らの品格が疑われるぞ? 現にお主らが連れているポケモン達に対して敵意を見せておらんでは無いか」
竜と共に生きると謳うだけあり、竜人族たちが連れているのはフカマルやナックラー、ヌメラなど後に強力なドラゴンポケモンになる個体が圧倒的に多かった。しかし中には、
「(あのバレリーナみたいなポケモン、何だろう? ドレディアに似てるけど……。それに狛犬みたいなポケモンも初めて見るな……)」
そんな興味津々な様子を見せるハジメ、ヌメラを見て「可愛い!」とはしゃぐ鈴、何故か見つめ合うナックラーとユエなど、明らかにポケモンを害する様子を見せないことに、竜人族は毒気が抜けた。
「ま、まぁ確かに、彼らは我々が思うような人間とは違うかもしれませんな……」
「そうじゃろう。さて、妾は彼らをお祖父様の所へ案内せねばならぬ。道を開けてくれぬか?」
「し、失礼いたしました!」
そうしてハジメ達は、里の中で最も高台にある屋敷へと案内された。
謁見の場とも言える大広間。その玉座に座る男が、頭を下げるティオとハジメ達に声をかけた。
「よく無事に戻ってきたな、ティオ」
「はい。お祖父様」
「そして客人よ。我が名はアドゥル・クラルス。この里の長を務めると共に、ティオの祖父である。この辺境までよく来たな」
「ありがとうございます」
ティオが頭を上げるように促したことで、ハジメ達も改めてアドゥルの表情を伺うことが出来た。今の彼は孫娘が無事である安堵だけではない、不思議な笑みを浮かべていた。
「ティオよ。此度はなぜ、人間をこの里へ連れてきたのだ?」
「この者……ハジメとその仲間達が、『竜の塔』へと挑むに値すると判断したからです」
アドゥルは驚いたように目を見開くが、どこか演技臭い。
「ほう。この里の者ですら立ち入りを禁じている塔に、人間が相応しいと?」
「ハジメは既に、オルクス、ライセン、グリューエン、メルジーネと4つの迷宮を踏破しております。更にはウルにて豊穣の王より、千宙腕さまの力の欠片を託されております。塔へと挑むに、これ程相応しい人間は居ないかと」
「ふむ……。ハジメよ。かの大迷宮には、全てを創造せし千宙腕さまの力の欠片……プレートが眠っている。本当に認められたのならば、そのプレートを私に見せてみよ」
「……はい」
ハジメが取り出したのは、これ迄の旅で手に入れたプレート達。取り出した瞬間、プレート同士の共鳴によって、目映い光を放った。アドゥルは思わず玉座から身を乗り出し、初めてプレートを目にした光輝たちはその神秘性に圧倒される。
「おぉぉ……! この光、まさにプレートの光だ!」
「すっげぇ……」
「(俺たちがオルクス大迷宮で戦ってる間、南雲たちはそんなに沢山の迷宮を回ってたのか……)」
ハジメがプレートをバッグに戻したことにより、場の空気は元に戻る。知らず知らず緊張したためか、アドゥルは玉座に座り直すと、感嘆したかのように大きく息を吐いた。
「はぁぁぁ……。実はなティオよ。お主たちが来る前に、空の一画が雷雲に変わったのを見たのだ」
「っ! それは!」
「解放者たちが大迷宮を創設後に聞いた話だ。『大迷宮に挑む者に、3羽の鳥が試練を与える』と。その鳥たちが司るは炎、雷、そして氷だ」
ティオですら聞いたことが無かったのか、彼女も驚きのあまり声が出せない。
「あの雷雲を見た時、私はふとそれを思い出したのだ。まさかとは思っていたが……ティオと共に人間たちがやって来た。この時私は確信したよ。あぁ、この者たちはプレートが眠りし『竜の塔』へ挑みに来たのだと」
「ではお祖父様! まさかそれを知った上で……」
「プレートは強大だ。不相応な力を持ったが故に、偽りの神はより傲慢となったのだ。だがハジメを見て、その力に呑まれていない事を確認して安心することが出来た」
長い時を生きるからこそ成せる、年長者の微笑み。それはハジメ達に勇気と安心感を与えた。
「だがあの塔は、挑戦者に『三つの試練』を与えると言う。万全に挑むためにも、今日は休んでいきなさい」
「お祖父様……! ありがとうございます!」
祖父と孫で話すこともあるのだろう。ティオはそのまま屋敷に残り、ハジメ達は宿へと案内された。
光輝たちはポカンとしていた。
「この子がドレディア!? 僕の知ってる子はもっとお姫様っぽいけど、この子はお転婆な感じがするな。で、こっちはガーディ! ちょこんとある角は岩なんですか! え、このヌメイルは殻を持ってる! すみません、もうちょっと取材させてください!」
里の民が引き連れているポケモン達に目を輝かせながら、取材をしているハジメ。最初こそ戸惑っていた民たちも、悪意がないことを察してか快く応じていた。
「南雲くんのあんな姿、初めて見たわ……」
「南雲ですら知らないポケモン……。ポケモンって何種類居るんだ?」
「下手すると1000種類は越えてるかもな」
幸利がケラケラと笑う。香織はと言うと、ハジメのその姿に苦笑いしてるが、嫌悪はしていなかった。
「なんと言うか、南雲って子供っぽいな。俺たちはもう高校生だぞ?」
「そんなこと無いよ光輝くん。私はね、ハジメ君のそんな所に惚れたんだ」
「え? そ、そうなのか?」
「好きなものに、ひたすら真っ直ぐ好きでいられる。こうやって本物のポケモンに会えて目を輝かせるハジメ君に、私も嬉しくなっちゃうんだ」
「……そう、なのか」
頬を少し赤くしてハジメを見る香織。そんな姿を見て光輝は、少しモヤモヤとした気持ちになった。
ハジメのポケモン知識は剣盾までなので、彼にとってLEGENDSとスカーレット・バイオレットのポケモンは初見です。
さぁ、次回から大迷宮に突入です。