World Trigger NOCTURNE 作:鏡狼 嵐星
これからもゆっくりではありますが確実に書いていきます。引退するときはちゃんとお知らせするんで、心配は必要ありませーん。
ヤンティアの方はちょっと書く意欲が減退しているので、また別作品でお茶を濁すかも。最終話まで書ける人マジですごいんだな……。
では、どうぞ。
ボーダー内、訓練室。その中には大量の食料と飲料が持ち込まれ、人修羅とその仲間たちが黙々とそれらを食べていた。人修羅、戦いに参加していたピクシー、ギリメカラ、クー・フーリンを始め、黒い妖精のような形を持つジャアクフロスト、宙に浮く緑色のドレスを着た妖精ティターニア、ピンク色のベールに身を包んだ神々しい女性パールヴァティ、巨大なハンマーを携える巨人トール、人と同じ背丈を持つ巨大な犬ケルベロスがその食事をともにしていた。
宙に浮いているもの、実在するようには見えない造形の理解不能の存在が食事をする。人修羅の仲間の名前どころか、それらが何なのかをほとんど知らないボーダー側の人間たちはそれを見て、監視室で戦々恐々としていた。
「どうだ、雷蔵。なにかわかったか?」
A級のリーダー達と鬼怒田開発室長、人修羅一行の解析に駆り出されたエンジニアたちは彼らに関する情報を少しでも得ようとしていた。
「正直に言って、わかんないことだらけですよ。トリオン量の測定は終わりましたんで、右上のディスプレイに映します」
映し出されたディスプレイには棒グラフのような形でトリオン量が表示された。
「あそこにいる全員、余裕で40を超えてます。あそこにはブラックトリガー級がポンポンいるってことですね」
「人修羅以外に、最低でもブラックトリガー級が8体か。……戦うとか無理じゃね?」
「追加で言えば、人修羅自身のトリオン量は『観測不能』なんで、軽く60以上でしょうね」
その場にいる全員の目が人修羅のトリオングラフへと目が行く。他のグラフは棒状で最大値が上下しているのに対し、人修羅のグラフは目盛りいっぱいまで上昇しており、最大値は上下していない。
「現状の技術で正確に図ることができるトリオン量って、どれだけ高く見積もっても60なんですよ。50を超えると一気に精度が落ちるので。人修羅のグラフは最大値の平均が変化していないので、60を軽く超えているってことしかわかりませんね」
「はっはっは。聞いたことないレベルの量に笑いが止まらないな。ブラックトリガーを持ったときの迅がいくつだったっけ? 風間さん」
「公式に残っている記録なら、37だ。迅のもともとのトリオン量が7のはずだから、人修羅がブラックトリガーを持っていると考えても異常な数字だな」
ブラックトリガーを持つことで、使用者のトリオン量が跳ね上がることは間違いない。だが、それを考慮しても、人修羅は雨取千佳が風刃をもったトリオン量並かそれ以上であることを意味しており、その桁違いさがわかる。
「この状況でも言わなきゃいけないんで言いますけど、トリオン量よりもやばいことがあるんで、鬼怒田さん、解説をお願いします」
雷蔵がコピー機から出てきた資料を鬼怒田開発室長に渡し、解析に戻る。そのお資料を見た彼は、苦虫を噛み潰したような顔をしながら、解説を始める。
「まず、あそこにいる連中はトリオン体ではない」
その場にいるA級リーダーたちの頭の上に?マークが浮かんだ。
「トリガーを起動したとき、トリオン体と入れ替わる形で、生身がトリガーホルダーに格納されるのは知っとるな?」
「当たり前の知識ね」
「だが、計測上、人修羅はトリオン体ではなく、生身だ。正確に言うなら、生身とトリオン体が同時に存在しておる状況だ」
加古の反応に、鬼怒田室長が返答する。が、それを理解することにA級ですら時間がかかっていた。
「……つまり、人修羅たちは生身のまま、トリオン体としての能力を有している、と?」
「そうだ。儂等の技術では見たこともない未知の存在だ。そして、それを立証したのがこいつだ」
鬼怒田室長が1枚の写真を全員に見えるように見せる。それはレントゲンのようなもので、人体の上半身が写っており、心臓らしきものが見える。だが、その心臓には何かが巻き付いているように見える。
「これは人修羅の体内を観測した結果だが、心臓の部分にトリガーと思われるものが寄生していることがわかった。いや、わかったのはそれだけで、他のことは何もわかっとらん。だが、周りの連中も似たようなものだ。肉体の中にトリガーらしきものが埋め込まれとる。驚くことに、そのトリガーのようなものは胎動して、肉体の一部になっとる。これが起動し続け、生身をトリオン体にし続けていると考えられる」
トリガー技術は未知のものが大半だ。だが、これまでボーダーが研究・開発してきたものとは、ジャンルや常識が全く違うものであることが見て取れた。
「生身でトリオン体並に戦えるって、楽しそうだな」
「その感想はどうかと思うわ、太刀川くん。私達にとってのトリオン体が、彼らにとって、生身であるだけでしょ?」
「どちらにしろ、人修羅の戦闘能力が桁違いであることには変わりない。ボーダー側がやった取引次第で、今後のボーダーが存続できるかどうかが決まるぞ」
太刀川、加古、風間の話を聞きながら、三輪はガラス越しに人修羅を見つめる。
(……最強の
自身の
「お待たせしましたーっ、実力派エリートの迅悠一です。取引の準備ができました!」
監視室の扉が開き、迅の声が響く。後ろからは奇妙な顔をした小南がついてきており、その顔への不安が勝った嵐山は監視室に来てから初めて口を開く。
「迅。お前のことは信頼してるが、桐絵が微妙な顔をしているのはなんでだ?」
「それはもう少ししたら東さんが教えてくれるよ。風間さん、今から人修羅に会いに行くんだけど、風間隊全員でカメレオンを起動してついてきてくれない? あと俺と通信も繋いでほしい」
「構わないが、理由は?」
「そっちのほうが、いい未来になりそうだから。悪いけど、これ以上は言えない」
「わかった。すぐに用意させる」
「鬼怒太さん、ボーダーが持ってる汎用性トリガー全種類、一つずつ用意しておいてほしい。追加の取引で使う可能性があるみたい」
「わかった。無茶な要求は通すなよ!」
「エリート、了解!」
迅は言いたいことを言い、風間を連れ、監視室を去る。不思議な顔をした桐絵はそのままおいていかれた。
「そういえば、東さんは今でどこに?」
「東なら根付さんと調べ物をしてるはずだから、メディア対策室じゃないか?」
嵐山の疑問に、解析の手伝いをしていた冬島が答える。人修羅と直接交渉した東が調べ物をしているという事実から、なにか重要なことを調べているのかと感じた嵐山は、桐絵に迅の取引に対する準備について尋ねた。
「桐絵、迅は一体何を準備していたんだ?」
「…………墓よ」
「「「「墓?」」」」
嵐山も、話を聞いていた太刀川、冬島、加古の全員が聞き返した。人修羅画との取引内容は東と城戸司令、忍田本部長のみが知っており、その内容を推測するしかできないが、墓を用意する理由がどこを探してもなかった。
「なぜ墓を? 彼の仲間が死んだ訳でもないわよね?」
「ボーダー側も死者を出してないんだよな。というか、アフトクラトルを迎え撃つことに対する報酬が墓、か。何かしら理由があるんだとしても、おじさんには到底想像できんよ」
「人修羅の知り合いに地球人がいるとかじゃないのか?」
「そんなわけなかろう。人修羅みたいな異次元の存在が地球に来たら、ボーダーが感知できるわい」
取引の対価が墓であるという謎に対し、各々意見をぶつける中。
「失礼します」
件の重要人物、東春秋が関し室の中に入ってきた。隣に根付メディア対策室長が付いているが、様子が少し変だった。顔色が悪く、不安や理解できないという表情をしていた。
「お、東さん、調べ物終わったのか? 人修羅の取引について教えて……。って、根付さん、顔色悪いぜ?」
「あ、いや、ちょっと驚愕の事実がわかりまして……」
根付室長の様子がおかしいことに気づいた太刀川を制して、東は全員に座るように指示して、持っていた紙束を一枚ずつ配った。それは新聞で、かつて第一次近界民侵攻が起こったときよりも更に前、今から5年前の記事だった。
「なにこれ? 古い記事ね。えっと、『三門中央病院から、患者と見舞い人が謎の失踪』?」
「入院していた三門高校の講師一人とその見舞いに来た生徒三人が突如として、失踪したという事件だ。全員、病院内のカメラで存在が確認できた数分後に、突如としてそのカメラの前から消えたという奇妙な事件で、警察が解決できず、
東は紙束の一番うしろにあった、四枚の写真らしきものを取り出す。
「一人目、高尾祐子。三門高校の教師。二人目、新田勇。高尾祐子が担任するクラスの生徒。三人目、橘千明。新田勇と同じクラスメート。そして……」
一枚ずつ、その写真をテーブルの上においていく。そして、最後の一枚となる。
「間薙シン。写真を見たら、この記事を持ってきた理由がわかると思う」
机の上に置かれた写真を見て、全員の表情が一変する。なにせ、間薙シンは、体から入れ墨を消した人修羅その人だったからだ。
「これは……!」
「えっ、ガチか?」
「……さっきの墓の問題、これで解けたんじゃないかしら? まさかの太刀川くんが正解だったけど」
その反応を見ながら、東は更に決定的な証拠を喋る。
「人修羅の仲間は、人修羅をシンと呼び、この星を地球と呼んだ。アフトクラトルが、この星を
眉を細めながら、根付が付け加える。
「彼のことを公表しないわけにはいきません。なにせ、一般人が彼らに助けられていますし、C級にも彼らは姿を見られている。もし本当に人修羅が間薙シンと同一人物なら、彼はこの世界で『
しばらく沈黙が続く。三輪は人修羅が地球人であったことに、驚愕していた。ついさっきまで、彼を
「……東さん、契約ってどういったものなんですか?」
「単純だ。ボーダーの願いを叶える代わりに、人修羅の願いを叶えること。重要なのは、一つ願いを叶えたら、叶えてもらったほうが次に願いを叶えるという順番だ。先程の大規模侵攻で、ボーダーはアフトクラトルの排除を願い、人修羅はそれを叶えた。次に答えなければならないのは俺たちの方だが、緊急だったこともあって、肝心のその願いに関してはまだ
根付と鬼怒太が顔を曇らせる。あのときは緊急時であり、人修羅の協力が得られるという魅力が、人修羅が願いを考える時間を省いてでも、ボーダーは欲しかった。人修羅がボーダーに対してなんでも要求できるという現状は、担任たちに頬を引くつかせるには十分な知らせだった。
「だから、その件に関しては迅にどうにかするように通達を出した。我々も最大限協力をしとるから、迅の『ボーダーの持つトリガー全種類用意しろ』なんていう無茶苦茶な要求に許可を出した。食事が出とるのは、あくまでも歓迎の態度を見せるためだ。あれは向こうが要求しとらん」
鬼怒太がため息を付きながら、迅の要求を通した理由を話す。
「とにかく。今、俺たちにできるのはいざという時のために待機することだけだ。忍田本部長がスカウトに出ている部隊全てに帰還命令を出している。迅を待とう」
訓練室の扉が開き、迅はその中に入る。中ではおよそこの世のものとは思えない光景が広がっている。だが、彼は怯むことなく、人修羅の前まで歩いていく。
「はじめまして。俺は迅悠一。今回、君の取引の確認とそれを達成しに来た」
人修羅たちが食事を止め、迅を一瞥する。見定めるようにみるもの、興味をなくして食事に戻るもの、様々であったが、人修羅が口を指で拭い、立ち上がる。クッキーを咥えたピクシーが、慌てて人修羅の肩に飛び乗る。
「もぐもぐ、あなたね、んぐんぐ、一人で、んゴクッ、シンの願いを叶えられるわけ?」
クッキーを食べながら質問するピクシーに、人修羅が手を挙げて、続けようとするピクシーを止める。
「……もう用意はできているんだろう、未来予知?」
「もちろん。山の中だけど、景色がいい場所に小さなお墓を用意させてもらった。名前は刻んでないよ」
「……わかった。ピクシー、行くぞ」
人修羅があっさり迅のサイドエフェクトである未来予知を言い当て、迅はそれが何もなかったかのように流し、交渉を成立させた。風間はあまりの自然さに眉をひそめ、三上と歌川が声を失う中、菊地原は風間たちに迅に一切の同様がないことを伝える。
(迅、人修羅がお前のサイドエフェクトを知っていることぐらいは俺たちに伝えろ)
(いやいや、可能性は半々だったからさ)
実際は嘘だ。迅が見た未来の中で、サイドエフェクトの内容を言い当てられなかった未来はない。だが、サイドエフェクトの内容を知られているという事実をボーダーに伝えた未来の結果は悪い場合が多かった。そのため、迅はあえて伝えなかった。
「一応外だからさ、上着を渡したいんだけど、サイズを測ってもいい?」
「……必要ない」
人修羅は胸に手を近づけると、いつの間にか手の中に鈴らしきものが握られていた。人修羅はそれを一回鳴らす。すると、人修羅とピクシーの気配が薄れ、一瞬見失いそうになる。
「よほど感知能力に優れていなければ見つからない」
「オッケー。それで大丈夫。場所なんだけど、ボーダーの裏側にある山腹の真ん中あたりにあるから、ちょっと歩くよ」
訓練室を出て、通路を通り、外に出る。その過程で何人か職員とすれ違ったが、人修羅に反応することはなかった。山に向かう道すがら、迅は懐からぼんち揚げの袋を取り出し、それをかじっていると、ピクシーが人修羅の肩からぼんち揚げをガン見している事に気づき、中から一つ差し出す。ピクシーはそれをかじり、その美味しさに驚きながら、渡された一枚の一部を人修羅に食べるように促す。人修羅は表情を変えなかったが、差し出されたぼんち揚げを大人しく口に入れた。
「うまいだろ?」
「……あぁ」
袋の中からぼんち揚げがなくなる頃、山の中腹にある開けた場所に出る。そこには小さな墓が一つおいてあり、そこには名前は刻まれていない。人修羅はその前に立つと、胸に手をかざす。すると、手のひらにボロボロになった黒い帽子、ジーンズの断片らしきもの、古びた指輪のようなものが現れる。人修羅はその3つを、墓の前に穴を彫り、埋めた。そして、人修羅は墓に手を合わせる。
(墓を買った理由はこれか……。人修羅が日本人であるなら、死んだ人間の弔いをすること自体に違和感はない。だが、大規模進行を止めた報酬がこれか。人修羅の実力を考えれば、何を要求されても文句を言えないはず。不気味だな)
「これで、大規模侵攻で助けてもらったことに対する契約は達成されたってことでいいんだよな?」
「問題ない」
「なら、改めて、一つ交渉がしたい」
人修羅が人の方へと振り向く。その評定ははじめ見たときからほとんど変わらないが、その金の双眸は改めて迅という男を推し量る用に見えた。
「ボーダーと同盟を組まないか?」
「……同盟、か」
「ボーダーとしては、君の力を放っておく訳にはいかないし、かと言って君の不評を買うことはしたくない。君の下につくこともできないし、君を部下にできるなんて微塵も思っていない。なら、一番現実的なのは、ボーダーと人修羅との対等な関係での同盟だって思ったんだ」
「ちょっと待ちなさいよ」
人の提案をピクシーが遮る。
「シンの強さを知ってるのに、自分たちが下の立場だってわかってるのに、対等な関係になりたいって、あなた達ワガママすぎるんじゃないの? シンが本気を出せば、こんな街消し飛ばせるのよ?」
「ワガママなのは自覚しているさ。ただ、一応、ボーダーっていうのは
人修羅は表情を変えない。だが、迅は続ける。
「同盟といっても、ボーダーが君たちに要求するのはせいぜい共闘か戦闘訓練ぐらいさ。逆に君たちの要求はできる限り叶える。君たちがやりたくないことを強制することは絶対にない」
「……悪くない条件だが、肝心な部分を確認したい」
人修羅の意図を汲み、迅が答える。
「ボーダー側から君たちを裏切ることはない。というか、こちら側からすれば裏切ることにメリットがないよね」
「……わかった。同盟を組もう」
「ちょっと、シン、忘れたの!? 千明や勇があなたに何をしたのか! コイツラも同じ人間なのよ!? 今だって、シンを監視するために3人も潜ませてるのに!」
(うっわ、普通にバレてる。どうするのさ)
(大丈夫。そのために呼んだから)
菊地原と歌川が戦闘態勢に入ろうとするのを、迅が止める。
「未来予知能力を持つこいつが、俺に嘘の情報を渡すことはない。渡したところで、未来がどうなるかわかるはずだ。それに……」
人修羅はもう一度墓を見る。
「ここに帰ってこれたのは先生のおかげでもある。なら、その願いくらい叶えてもいいんじゃないか?」
ピクシーは頬を膨らませたまま、しばらく唸る。表情をコロコロ変え、最終的にはうなずいた。
「シンがいいなら文句は言わないわ。でも、こいつらがシンの仲魔になるには私達のチェックが必要よ!」
ピクシーが満面の笑みで、迅を見る。迅はそれによって見えた未来に頬を引くつかせるしかなかった。
間薙シンを今まで『かんなぎシン』って呼んでました。『まなぎシン』なんですね。
追記
小説版の名前をそのまま持ってきたんですが、どっちとも読めるらしいです。なので、今後の展開次第では読み方が変わるかもしれません。
この作品における人修羅の過去に関して(さらわれた後から地球に戻ってくるまで)
-
設定として早めに上げる
-
次以降の話でストーリーに組み込む
-
どっちでもいいぞ
-
早く次を上げるんだ、あくしろよ