アークナイツ トロフィー「雪ウサギは春に遊ぶ」取得RTA 作:春雨シオン
アンブリエル姉貴視点で語られます。例によって捏造設定だらけなのは…ナオキです。
カミサマなんてほんとにいんの?
昔からこれがずっと疑問だった。いや、子供のころはまだ存在を信じてた気がする。まだ純朴で、世界の全部がキラキラして見えてたころ。世界に生れ落ちたことを感謝し、生を続けることが出来ることを感謝した。神様がみんなを作って、みんなを守ってくれていると本気で考えていたからだ。
その考えが覆されたのはいつだっただろうか?…やっぱはっきりしたことは覚えてない。でも、しっかり覚えてることもある。ばーちゃんが死んだ時だ。
あたしはその時にはもう、神様を疑ってたんじゃないかと思う。教会でお祈りしてる時も、ガッコ―で聖書を読まされる時も、あたしの心は疑問で埋め尽くされていた。でもそれを周りに言えば、決まってヘンな目で見られる。それだけならまだいい方で、乱暴な男子は手まで出してくることがあった。髪をつかんで引っ張られて「主に詫びろ!」だってさ。乱暴なくせに妙に信心深いの、マジでなんなんだろーね?子供だけじゃなく、大人もそんな風だった。両親はあたしが傷つけられたことより、あたしが神様を信じてない方を心配した。髪を引っ張られたことより、あたしを心配してくれないことのほうが悔しかった。
そんなあたしのことを唯一理解してくれたのがばーちゃんだった。あたしらとは少し離れたところに一人暮らしをしていた人だったけど、とても物知りで、何よりも優しい人だった。ばーちゃんのところにいるときだけが、あたしの心が休まるときだった。
ある日、ばーちゃんに聞いたことがある。あたしがずっと思ってたことについてだ。
「ねえ、ばーちゃん。あたし、おかしい子なのかな?」
「え?」
「友達もね、先生もね、お父さんもお母さんも、神様を疑っちゃダメっていうの。あたしは神様がほんとにいるのかどうか知りたいだけなのに。」
「そんなことないよ。アンブリエルはちょっと周りよりも頭がいいだけさ。現に、私だって神様が本当にいるのかどうかなんてわからないんだからね。」
「ほんと?あたし、変な子じゃない?
「ああ本当さ。でも、あなたにも良くなかったことがある。それは、
「信じることを?」
「そう。誰しも何かにすがって、何かに頼って生きてるんだ。頼りにしてるものを馬鹿にされたり疑われたら嫌な気持ちになるだろう?私らサンクタは特に信心深いから、みんながそう思うのも無理ないさ。現にアンブリエルだって、お父さんやお母さんをバカにされたら怒るだろう?」
そういわれて思い浮かべたのは2人の顔ではなく、目の前のばーちゃんの顔だった。こうしてみるとあたしめっちゃ親嫌いじゃん。
「…確かに、嫌かも。」
「そうだろう?アンブリエルはまだ、信仰の対象を見つけていないだけなのさ。そうすれば、皆のことがわかるはずだよ。」
「しんこうのたいしょう?…信じられるものってこと?それってなに?」
「おお、やっぱり賢い子だね。そうさね、もっと大きくなったらきっとわかるさ。アンブリエルならきっとできるよ。」
そう言って頭を優しくなでてくれる。ばーちゃんの手はふわふわのタオルで撫でられているような安心感があって、一番好きな時間だった。
「ほら、アンブリエル。おばあちゃんにさよならいいなさい。」
あれから多分2年くらいあとだったはずだ。ばーちゃんは風邪をこじらせて死んだ。あたしが10の時だったと思う。最初に見つけたのはあたしだった。家に行った時、寝てたみたいだったからそっとしておいた。それでもいつまでも起きてこないから、体を揺さぶってみたら、ばーちゃんの体はすっかり熱を失っていた。もっと、はやく。そう思うのは、当然のことだろう。ばーちゃんはやっぱり好かれてる人だったみたいで、たくさんの人が集まって別れを偲んだ。
「それでは、皆さま。彼女の魂が主のもとに無事に旅立てるよう、祈りを捧げましょう。」
神父がそう言うと、一斉に目を閉じ、一心にみんな祈り始めた。あたしはさ、正直、冷めた目で見てたんだよね。大好きなばーちゃんが死んだ。神様なんてやっぱりいなかった。もしいるなら、なんで助けてくれなかったんだって。
でも、さ。
そんときにはもうあたしは、自分を偽ることを覚えてた。自分が周りからどう見られるかわかってるから、神様に祈るふりをしていた。人が死んだら何もない。あるのはただ、思い出だけ。だからあたしはずっとばーちゃんとの思い出に浸ってた。いつだって優しかったばーちゃんがもういないんだってことがはっきりわかって、自然と涙がこぼれた。
いつまでも泣いていたあたしを気遣ってなのか、母さんが慰めてくれた。おばあちゃんは運命に導かれたのだから、誰のせいでもないのよ、とか。主のもとに旅立ったのだから、何も心配はないわ、とか。こんな時でも神様かよって思った。今考えたら、多分この時家を出ようって思ったんだった。早く大きくなって、家を出ようって。
それからのことはほとんど覚えてない。だって、何の代わり映えもない生活だったから。ただ学校に行って、ただ家に帰ってくる。周りから自分がどう見られるのか、ってのをあたしはよくわかってたから常に理想の振る舞いが出来た。信心深くてお清楚なお嬢様。それがあそこでは一番受けが良かった。そのおかげで友達は多かったし、告ってくるオトコもたくさんいた。でも、さ。結局あたしのことを深くまで理解している人はいないから、どれも断った。この判断は間違ってなかったと思う。だってみんな、卒業式の日に誰も彼もが、今日この日を迎えられたことを主に感謝します、なんて言ってるんだもん。はっきり言って不気味だった。それで家に帰ってきたらまた、両親が主に感謝します、だもん。
あたしは進学はせず、パトロールの仕事についた。楽な仕事だったし、何より家を出られるのが大きかった。家には十字架だの聖水だのと、神を想起させるものばっかで、もう帰る気はさらさらなかった。
最初の数か月はめっちゃ楽しかった。あたしの好きな雑誌、あたしのセンスで選んだ家具、親から止められてたクッキー。あたしの自由がそこにはあった。仕事は同じことの繰り返しで息が詰まりそうなくらい退屈だったけど、家のことを思えば頑張れた。ここから新しいあたしが生まれるんだって希望を持てた。でもすぐに、それは仮初のものだったって気づかされた。
結局ラテラーノで物を買おうとすれば、どこもかしこも神様神様。洗剤にプリントされた聖母の絵。お菓子の箱には赤ちゃんを抱きかかえる聖人の絵。すぐにあたしの部屋は実家同様になってしまった。どいつもこいつも目を閉じてて、どういう感情なのか全くわかんない顔をしてるのに、なんでかこっちを見張ってるような気がした。
そこまできてよーやく気が付いた。ここにいても、何の刺激もないんだって。同じことをずっと繰り返しながら、おばーちゃんになるまで待つの?って思ったら、急いでここを出なきゃって思った。
だから、ロドスを選んだ。できたばっかりの新興企業ーとか、鉱石病の治療、根絶を目指してるーとか、そんな不安要素はいくらでもあったけど、はっきり言ってどうでもよかった。あたしをここから出してくれるならなんでもよかったんだ。
荷物はほとんどなかった。あたしがラテラーノで唯一気に入った古い型の長銃と、あたしのアーツを強めてくれるレーダーだけ。離れて暮らす親に手紙を送ろっかなーなんて迷った。常識的には送るべきなんだろーけど、言えば絶対に引き留められるに決まってるし、誰かを雇って探すようなこともないだろうと考えたからだ。あの人たちはどーせ、『おお主よ、どうかあの子を私たちにお返しください』なんて言うだけだろーなとも思った。…でも、もしかしたら。もしかしたらあたしを探してくれるかもしれないと思って、簡単な別れの挨拶だけ書いて送った。もちろん、帰ってくるなんて御免だけど。
そうやってあたしはラテラーノを出て、ロドスに就職した。何でも自営部隊を持ってるとかで、あたしはそこの狙撃小隊に配属された。最初の方はあたしの銃が旧式だからってあんまりいい顔はされなかったけど、ちょっと腕をみせてやったらだんまりだった。ちょっとスカッとしてざまあって感じ。
ラテラーノとは違って自分を偽る必要がなかったから、あたしは存分にだらけた。何人かのオペレーターと仲良くなって、色んな場所の色んなものを手に入れた。あたしの気に入ったものがたくさん詰め込まれたあたしの部屋は、あの時よりずっとずっといいものになった。
本当にラテラーノと比べれば随分とマシになった環境だったけど、不満がないわけではなかった。ロドスの空気が、なんとなく悪かったのだ。みんなどことなく不安そうというか、暗い顔をしているというか。話を聞く限り、ドクターと呼ばれる人物が深く関わっているらしい。その人がいないから、皆不安そうなのだと。その話を聞いたとき、ばーちゃんを思い出した。きっとロドスのみんなにとって、そのドクターが信仰の対象、なのだろう。
「なーんかさ、不思議なもんだよねー。」
「…いったい何がですか?」
たまたま会ったプリュムに一人ごちる。彼女はリーベリだが同じラテラーノ出身で、あたしとは真逆に真面目な仕事人間って感じ。ランチに選んだメニューもあたしが好きなものばっかなのに対して、きっちりバランス考えて作られてるやつ。でもそういう奴の方がこの話をするのには向いてる気がした。
「あたしはさー、そういう何かを信仰してるかんじ?それしか見えて無い感じ?が嫌でラテラーノから出てきたのにさー。そーいうのがなかったらなかったで皆暗い顔してるし。上手くいかないもんだねー。」
「なるほど…確かに、今のロドスは主を失ったラテラーノのようなものなのかもしれませんね。いえ、しかし…それだともっと荒れ果てているような気がします。ラテラーノは…いえ、やめておきましょう。」
「やはり誰しも、何かに頼らないと生きていけない、とそういう事なのでしょう。私はラテラーノを出てから、今までとの違いに翻弄されるばかりですので…。そういった事には全く気づきませんでした。しかし私は、自分が磨いたこの技術に誇りを持っています。この技がある限り、私は生きていけると信じられます。これも一つの信仰なのかもしれませんね。アンブリエルさんも、そうではないですか?」
「えーあたしー?」
「はい。あなたの狙撃は、まったく畑違いのこちらのチームにまでその評判が届いていますから。何でも、瓶のふたに命中させて飲み口を空けたこともあるとか…。」
「ハハ、ウケる。そんな鬼めんどいことあたしがするわけないじゃん。」
「そうですか…。少し、見てみたいような気もしたんですが…。あっ、そろそろ昼休みも終わりですね。アンブリエルさんはこれから訓練ですか?」
「あーそうそう。まあほとんど自主練みたいなもんだけど。」
「では、私も仕事に戻ります。訓練、頑張ってくださいね!」
はいはーいと生返事をしながらプリュムを見送る。やっぱり、楽しい。ここに来なければきっと出会うこともなかった人との交流。同じ国にいたのに、100%出会わなかったと断言できるあの閉塞感から抜け出せたのは間違いなくいいことだった。それでも、結局モヤモヤが消えることは無くて、ほんと萎える。そういうめんどい事は考えない方がマシってわかってるはずなのに。
「ま、訓練室にいきますかー。」
こういうときは狙撃に限る。集中して的を狙ってれば、余計なことは頭から抜けていくし。そう思っていつものように構えをとる。スコープをのぞき込み、距離と弾道を計算する。定まったとき、引き金に指をかけ、放つ。ビーッと音がして的が赤く染まる。命中の証だ。そのまま無心で引き金を引き続ける。発砲音、その後ブザー。その繰り返しがしばらくあった後、すべての的が赤く染まった。
「無駄玉はナシ。かーんぺき。」
いつものようにセリフを吐き、撤収作業に入る。いつものあたしならまた繰り返しをしてる、と萎えるところだったが、今日は違った。
「な、なあ君!さっきから見てたがすごかったな!あれはどういう奴なんだ?アーツなのか?良ければ教えてくれないか!?」
「…え、何この子?」
思わず声が出てしまう。いきなりすごいテンションで声をかけられたのだから当然っしょ。あたしに声をかけてきたのは紫色の長い髪を、後ろで束ねた女の子だった。腰には刀をぶら下げていて、そこから上に目線をあげれば、女のあたしでも目を引かれるくらい立派な胸。そこから目を離して目を見ると、光を反射してキラキラしてるような真っ赤な目。それを大きく見開いて、ご主人様が帰ってきた犬みたいに興味津々ってかんじで見つめてきた。
「あーメンゴメンゴ。この子うちの子なんだよねー。いつの間にかリードが外れちゃったみたいでさー。」
「おい待てウタゲ。私はリーベリであって犬じゃないし、お前の腹にいた記憶もないぞ。」
「サクラはちょっと黙っててねー。ゴメンねほんと、普段はいい子なんだけどねー。」
「それじゃ犯人のことインタビューされてるみたいじゃないか。私は清廉潔白…ってわけでもないな。」
どうやら紫髪の方がサクラ、新しく入ってきた金髪の方がウタゲ、というらしい。そういやどっかで聞いたような気がする。忘れたけど。まあ、でも。あからさまに落ち込むサクラの方を見て、悪い奴らじゃなさそうだと思った。
「そういえばさー、アンブリエルっちのその服って自前なの?シックで落ち着いてて、めっちゃいいじゃん。ロドスの制服もこんぐらいセンスあったらなー。あ、でもでも最近のトレンドは…」
うお、マジか。このウタゲって子、めっちゃ詳しい。狙撃手ってのがそういう奴らだからなのか、あたしのチームにファッションの話ができる奴なんていなかったから、つい話し込んでしまう。それに、新顔っていう刺激はあたしの好みだ。
そうやって話しているとレンジャーのじっちゃんが入ってきた。あたしがすっかり忘れてた任務に呼びに来てくれたのだ。CEOが待っていると言われて思い起こされるのはあの日のトラウマ。あたしのサボりがひどすぎるってんで、呼び出されて掌を向けられたかと思うと、色んな声で頭の中に直接、なんかの言語をガンガンに響かされたあの記憶。必死の思いで二人を巻き込んで、なんとか回避できた。マジであれだけは二度とされたくないやつだよ。
任務のメンバーは顔なじみばかりだ。それに内容もごく簡単なもの。こりゃラクショーっしょ。そう思いながら、野宿のキャンプ地で見張りをする。辺りになんもない荒野なんだから、ほんとーに退屈。
「お待たせしました、本日最後のメニューとなります。」
サクラっちがふざけて料理人のマネをする。出されたメニューは野菜がたっぷり入ったシチュー。食べてみるとかなりおいしい。ガヴィルのおおざっぱすぎる料理や、エフイーターの辛すぎる料理を覚悟していたあたしからしたらラッキーそのものだ。神様ありがとー、なんて。あたしはもう神様のことをからかうくらいになっていた。狙撃の敵に対しても、家までおくろっかー?なんていうくらいには。
キャンプ地についてからの任務も順調そのもの。なーんもいう事ないくらい。サクラっちとウタゲっちはめちゃくちゃ強くて、あっさり終わっちゃった。
そうやってさっさと帰ろーなんて思っていたら、村の方から煙が上がっているのを見つけた。え?煙?
「な、なんあれ。あんなん最初なかったよね?」
「ねえサクラ、これって…」
は?は?は?マジでわけわかんない。え?煙?いやひょっとしたらご飯炊く用の火かもしれないし。なんか不幸な火事かもしれないし。いやでもいきなり火事が起こるなんてやっぱりなんかおかしくてあれ?あれ?なんだっけ。
「アンブリエル。さっきと同じように、偵察してくれないか?」
はっとする。見ると、サクラっちがこちらを緊張した顔でじっと見ていた。その目は何かを察しているような、何かを決意しているような。とてもきれいな瞳だった。
「アンブリエル?」
「あ、そ、そうだよね。偵察だよねー。」
二度目でようやく見とれるのが終わって仕事に取り掛かる。急いで岩に登り、スコープをのぞき込む。黒円の中には武器を持って走り回る男たち。反射的に引き金に力をこめるけど、ここからじゃ遠すぎる。そう判断して、二人のもとに戻る。
「やっぱりな。まあ、ありがちな話だ。」
「そだねー。まあ、やりそーな面構えだったし、大丈夫っしょ。」
二人は全く動じていない。あたしの方が先輩なのに?と思うと、スーッと頭の中がクリアになっていく。
「よし、じゃあプランAはこうだ。私とウタゲがあの中に突っ込んで皆を救出。アンブリエルがそれを援護だ。」
「へー、一応聞くけどプランBは?」
「あぁ?ねぇよんなもん。」
「だよねー、知ってたー。」
「さすがウタゲ。私のことはお見通しだな。」
イェーイなんてハイタッチをする後輩二人。状況わかってんのこいつら?そう思って確認したけど、マジらしい。それなら、止める意味はない。そう思って、銃の準備をする。微かに震える指先は、狙撃の時までには収まるはずだ。
「アンブリエル。」
いきなりサクラっちに声をかけられる。まだ何かあるんだろうか?
「私たちなら大丈夫だ。
「!」
その言葉を聞いたとき、ドグンと胸を打つ音が聞こえた。いつの間にか震えは収まり、体中に勇気が満ちていた。確実。あたしがいつも、欲しがっているなにか。それを目の前の彼女は、見せてくれるというのだ。
少ししたのち、二人は戦場に突入していった。狙撃ポイントについたあたしにもはや震えはなく、代わりにじっとりとした汗が体を濡らした。それはこの暑さによるものだけでなく、どこか心地よいものであった。
夢中で敵を撃ちまくった後、通信が入る。サクラっちの声だ。
「騒動を収束させることに成功。全員無事だ。追って連絡する。」
それだけ言って一方的に切られる。ただそれだけのものなのに、あたしには福音のように聞こえた。フーっと大きく息を吐き、銃をおろす。いつものあたしならこれで終わり。あとは撤収までサボってればいい。そう思ったとき、ものすごい頭痛が襲った。
「な、なんこれ…!」
すぐに原因はわかった。アーツだ。レーダーで高めたアーツの範囲に、何か大量の生物が入ってきたから、あたしの脳みそが大量の情報に悲鳴をあげたんだ。急いでレーダーのスイッチを切り、あたりを見渡す。きっとなんかの群れが横切っただけだ。そうに決まっている。そう思いながら…いや、祈りながら?あたりを見渡す。でも、あたしは忘れていた。神様なんていないんだってことを。
「…うそ、でしょ。」
その言葉をひねり出すのが精いっぱいだった。こちらに向かって迫ってくる、規格外のオリジムシの群れ。原因、規模、何もわからない中、一つだけはっきりしているのは、あれに飲み込まれれば、100%死ぬ、という事。それを理解した後すぐに動けたのはさすがあたしってところか。
急いで無線を繋ぎ、状況を告げる。さっさと逃げないとヤバいぞってことも。これだけ伝えれば、後はあいつらがうまいことやってくれるはず。そう思って、急いで撤退の準備をする。レーダーを片付けた後、再び通信が入る。撤収準備が終わったってことかな?と思って急いでつなぐ。しかし、サクラっちの声で告げられたのは撤退命令ではなく、狂気とも言えるような作戦だった。
まさしく一か八かって感じの作戦。メンバーの誰がしくじっても、全員仲良くムシの海の中。いや、別に、嫌ってわけじゃない。あたしの狙撃なら、
「その代わり!一つ教えてよ。なんであんた、そこまでできんの?なんで見ず知らずの人らのために、命まで懸けれんの?」
そう、彼女の理由だ。それが聞きたい。狙撃の準備を完了し、命令を待つときのような緊張感で彼女の返答を待つ。少しした後、ゆっくりとしゃべりだした。
「理由、か…。アンブリエル、君は、どういったら喜ぶ?私がどんな理由で戦っていたら嬉しいんだ?教えてくれ。」
「は?」
思わず声が出る。何言ってんの、この子?
「ちょっとサクラっち?あたしはあんたの戦う理由が知りたいんであってさ」
「私の戦う理由は、きっと君…いや、お前の戦う理由だろう?アンブリエル。」
ドグンッ!また、あれだ。また胸を打つ感覚。
「な、何言ってんのさ。わけわかんないこと言ってんじゃ…」
「お前は私が戦うと言ったことに対して、すぐに乗ってくれた。お前の中に、はっきりした理由がないのにだ。だからお前は私に理由を聞いたんだ。だから私はお前に理由を聞いているんだ。私が何か適当に…『困っている人を見捨てられない』とか言えば、お前はきっとそれに乗る。『だから自分も戦うんだ』ってね。昨日、キャンプしているとき、お前が話してくれたこと。もっと確実な何かが欲しいってやつ。あれも多分、そうだ。お前は『理由』が欲しいんだ。」
何を、何を言ってんの?あたしが欲しい確実ってのはもっとこう何か…。
「お前は多分、理由を知って、納得したいんだ。納得があれば、人は自由に生きられる。」
違う。違うんだって。そう否定したいのに。心が、うるさく跳ねる心臓が。その言葉を肯定する。
神様なんてほんとにいるの? なんでいもしない神様を信仰しなきゃいけないの? なんでばーちゃんが死ななきゃいけなかったの? なんであたしは満たされないの?
理由がないからだ。納得できる、理由がないからだ。
その言葉はまるで神託のようにあたしの心に染みわたり、全身に力を与えていく。心はきっと胸にあるんだ。なぜなら、現に、胸から温かみが前身にいきわたっていくのを感じるのだから。熱が、言葉が、勇気を与えてくれる。
「でも今、お前は自分で理由を見つけられていない。仕方のないことだ。今はただ、時間がないのだからね。…だがこの理由では、お前を納得させられない。今はあり合わせでいい。お前に力を、勇気を与えられる、最も嬉しい理由を教えてくれ。最もお前の納得に近い、戦う理由を教えてくれ。」
ああ、そうか。これが。ばーちゃん、これの事だったんだね。
ゆっくりと唇を動かし、言葉を紡ぐ。
「サクラが…あなたが、望むからっていうので。」
「…本当に、それでいいのか?」
少し驚いたような声で無線の声がしゃべる。もうすぐ射程距離にムシが入る。ムシたちの地鳴りのような足音が響くが、あたしの耳には届かなかった。今はただ、この神託に従うのみ。
「お願い。それで勇気が出るから。あたしに、撃てって命じて。」
「…わかった。では、アンブリエル。事前に伝えた通り、目標を狙撃してくれ!」
その声を聞いたとき、心臓がひときわ大きく跳ねる。周囲の音は完全に消え、ムシの波がもはや止まって見える。こんなにも、静かなら。
「ばーちゃん。これが、信仰の対象、なんだね。」
いよいよ目標が入る!あたしは完全にハイになって、無線にもう一度唱える。あたしの望む言葉をかけてくれる、魔法の鏡のようなそれに。
「サクラ!もっかい、撃てって言って!」
「撃て!アンブリエル!この戦い、絶対に勝つぞ!!」
これが神を得たサンクタ。頭上の蛍光灯は熱を伴うほどに輝きを増し、背中の翼は天を衝き、今にもはばたかんとする。つまらない授業で覚えた中で、唯一覚えていた単語を呟き、引き金を引く。
「Deo volente(神の御心のままに)!」
最後のセリフはエクシア姉貴のスキルボイスです。「ディオ・ヴォ―レント」と発音するらしいっすよ?あとサブタイトルも探したらぴったりのがあって非常においしい。
次回作、どっちがいいんすか?
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強面トレーナー、TSする。
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パワプロRTA北雪高校モテモテチャート