アークナイツ トロフィー「雪ウサギは春に遊ぶ」取得RTA   作:春雨シオン

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 新生活の季節なので初投稿です。最近基地の整備に目覚めまして、資源確保に理性を使いたいなあと思いつつもゲルを集める毎日です。実際、どっちがいいんでしかね?


ロスタイム サクラの世界で一番長い休暇 前半戦

「どうしてだ!さっきはいいって言ってくれたのに!」

 

 私は夜中だというのに大きな声を上げてしまった。そのことに気づいてから慌てて声を落とし、いつもの声量で抗議する。

 

「ドクターは私たちの指揮官だぞ。どんな人物なのか知るためにも、話をしてみるのはいい事だろう。」

 

 抗議の相手は私と同じオペレーターのウタゲ。小さいころからの付き合いであり、同居人であり、かけがえのない相棒だ。いつもは飄々として、余裕たっぷりという態度を崩さない彼女だったが、今目の前にいる彼女は険しい顔をしていた。

 

「それはわかってるけどさー。あんな風に顔を隠してる人、信用できないでしょ。もしかしたら顔を出せないレベルの悪党かもしれないわけじゃん?あんたが負けるとは思えないけど、心配するあたしも理解できるでしょ?ていうか、あんたは無防備すぎんの。ほんと戦場の時とは別人なんだから…。」

 

「何を言ってるんだ。私は常在戦場、気を抜いたことなんて、それこそお前と一緒にいるときくらいじゃないか。」

「ふーん、ガッコーで男子が見てるってのに呑気に着替えようとしたからって、あたしにボコボコにされたの覚えてないの?あん時、二度としませんって正座までさせたのに意味なかったわけ?」

 

 う、嫌な記憶を持ち出された。私はウタゲに言わせれば警戒心がなさすぎるらしく、それは彼女が私にべったりな一因でもあった。おそらく今回も、ドクターに襲われるのではないかとでも思っているのだろう。

 

 しかし、私には奇妙な確信があった。あの人は確かに怪しい風貌だが、きっと普通の人だ。その上私には、まだロクに会話を交わしたわけでもないあの人に、不思議と信頼を抱いていた。まるで今まで彼が歩んできた旅路を、隣で一緒に歩いてきたような親しみがあった。

 

「わかった、じゃあこうしよう。ウタゲ、お前もついてきてくれ。お前だって指揮官の能力くらい把握しておきたいだろう?」

「…それはそーだけどさ。でもどーやんのさ?指揮官として優れてるかどーかなんて、あたしらにわかるわけなくない?」

 

 その点に関しては何の問題もない。遠い、遠い記憶だが、確かに残っているものがある。家に帰ってきてから、母さんと楽しそうにそれに興じる父さんのことだ。

 

「私に任せろ。なんてったって、武士の娘だぞ?」

 

 

 

 

 私は、記憶を失っている。自分の名前や言語といった基本的な事項は覚えているが、大切なことは何も思い出せない。まるで記憶に濃い靄がかかっているかのようだ。

 

 私はロドスという組織に拾われた。どこかもわからない場所で目覚め、誰かもわからない少女に手を握られた。アーミヤと名乗る彼女に手を引かれるまま、戦場を駆け巡った。私はかつて優秀な指揮官だったらしく、指揮をとるよう頼まれた。なぜか戦術だけは頭に残っており、見様見真似で人を動かしたが、どうやらそれでよかったらしい。皆さすがドクターだと称賛の言葉を送ってくれたが、私の心は困惑に満ちていた。なぜ、人殺しの方法だけは忘れなかったんだ、と。

 

 私が今生きてここにいられるのは、Aceと名乗った大男や、彼の部下たちの死のおかげだ。その命に報いるため、私は今働いているといってもいい。アーミヤは「ドクターはまだ病み上がりですから」とあまり仕事を回してくれないが、暇をしていると不安に押しつぶされそうになる。自分がひどく無価値な人間に思えて、彼らの死を無駄にしているような気がしてならないのだ。

 

 だから最初にその声が響いたとき、私は本当に嬉しかった。

 

「あー、すみませーん。ドクターいますかー?」

「こら、上司だぞ。失礼します、ドクターはいらっしゃいますか?」

 

 聞き覚えのある声だ。どうぞ、と声をかけながらいそいそと書類を片付ける。すべてやるべきことは終わっているから、気兼ねなくキャビネットに仕舞える。

 

「失礼します。今、お時間大丈夫でしょうか?」

「ああ、大丈夫だよ。それに、そんなに堅苦しい敬語を使わなくてもいい。いつも通り、楽にしてくれ。」

「え、マジ―?サンキュードクター。最初は怪しいとか思ってたけど、けっこー話わかるじゃん。」

「ウタゲ…。まあ、本人がいいというのならいいか。改めて、初めましてドクター。私はオペレーターの一人、サクラだ。」

「同じくオペレーターのウタゲでーす。これからよろしくー。」

 

 二人の自己紹介を聞いてこちらも返さなければとした時、何もしゃべれることがないと気づき、愕然としてしまう。そんな私の表情はバイザーが隠してくれたと信じ、言葉を紡ぐ。

 

「…初めまして。私は…皆からはドクターと呼ばれているから、君たちもそう呼んでくれればいい。二人にはあの戦場で助けられたからね。改めてお礼を言わせてほしい。」

「そんなに畏まらなくてもいいってー。そんなことより、さ。ドクター記憶がないってマジなの?」

 

 ウタゲ、と名乗った方の少女の雰囲気が変わり、目が細められる。美しい菫色の瞳はこちらを探るような目つきになった。

 

「…ああ、その通りだ。私にはほとんどの記憶がない。子供のころの記憶も、今まで何をしてきたのかもだ。アーミヤや一部の人たちは私の過去を知っているようだが…何も、教えてもらえない。」

 

 しばらく沈黙の時間が流れる。サクラの方はゆったりと構えているが、ウタゲの方はこちらをじっと見つめ、緊張感が途切れることがない。まるで刀を首筋にあてられているかのような時間が流れ、私が思わず息をのんだその時だった。

 

「…そっか。ま、信じられるかなー。ビビらせちゃったらごめんね。あたし他の人に言わせたら本気の時怖すぎらしいからさー。」

 

 ふぅ、と思わず安堵のため息をもらす。

 

「だから言ったじゃないかウタゲ。ドクターは信用していいと。」

「わかったわかったってば。まあ人間的にはそれでいいけどさ。指揮官としてはどーなのってのはあんたが見てくれるんでしょ?結局何すんのかあたし聞かされてないけどどーすんの?」

 

「ああ、すまないなドクター。実は私たちは、あなたのもとに配属願いを出そうかと思っていてな。それで、あなたの指揮の腕を見せてほしいと思ってこれを持ってきたんだ。」

 

 そう言いながらサクラが何か薄い板のようなものを取り出す。見ると、そこには格子状に線が引かれており、その上に彼女は小さな木片のようなものをばらまいた。

 

「げ、サクラ指揮の腕ってこれ?あたしが子供のころやってたやつだよ?」

「それより遥かに複雑なものだから心配するな。…おっと、説明がまだだったな。ドクター、これは極東で遊ばれている盤上遊戯、それをさらに複雑化したものだ。それぞれのコマに役割があって、上手く使いながら相手の将をとった方の勝ちというゲームだ。」

 

「これで、あなたの指揮を見せてほしい。最初の相手は私が務めよう。これは複雑なものだからな、ウタゲには任せられん。」

「ちょっと、それはひどくなーい?てかドクターだってそれは同じでしょ、勝負になんないんじゃないの?」

 

「問題ないさ。ドクター、まずは説明を…。」

 

 そういった彼女からゲームの説明を受ける。コマの動き方、能力、反則…一通りの説明で理解できたあたり、私の能力が高かったいうのは本当らしい。

 

「よし、それでは早速はじめよう!言っておくが私は両親から手ほどきを受けたからな、簡単には勝たせないぞ。」

「…」

 

 うきうきとしているサクラに比べ、ウタゲはどこか冷めた目をしている。先ほどまでそんな雰囲気はなかったのに、と思ったがひとまず勝負に集中することにした。

 

 数十分後。

 

「…参りました。」

 

 私の軍が未だ大勢を残しているのに対し、サクラの駒は将一人のみ。誰が見てもわかる、明らかな勝利だった。

 

「うわーサクラ!うわー!まさか反則までやって負けるとかドン引きだよ。ちょっとこれダサすぎない?」

「あ、ば、ばか!いわなきゃバレないのに!」

「…反則?」

「そ-だよー。ドクターの方に強い駒が一個少なかったんだよねー。それをさ、こいつしれっと自分の軍に入れてんの。何食わぬ顔して入れてるからこっち笑いをこらえるのマジ大変だったんだかんね。」

 

 なるほど。あの時冷めた目に思えたのは単純に笑いをこらえていてああなったのか。

 

「し、仕方ないだろう!いくらドクターが相手でも、経験者の私が負けたら形無しじゃないか!こうなったらもう一戦だ!ドクター、次は駒を二つもらうからな!」

 

 また数十分後。

 

 彼女の盤面はまたもや壊滅的な被害を受け、勝負は既に決していた。起死回生の奇襲として放った遊撃隊が、敵陣のど真ん中で孤立したまま自陣が崩壊していくのを眺めることしかできない様子には物寂しいものがあった。

 

「ちょっとサクラ弱すぎでしょ。あのポツンと立ってる駒死に体じゃん。」

「う、うるさい!あの駒、実は超強い部隊だから!伝説の兵士たちだからこっから逆転するんだよ!」

「にしたって将が取られる方が先だと思うがな…。」

 

 気づけば、私まで砕けたしゃべり方になっていた。彼女たちにつられてしまったのだろうか?それまで持っていた鬱屈とした気分はどこか遠くに行ったようで、心から笑うことができた。

 

「クソ、こうなったらもっと強い奴を召喚するしかない!首を洗って待っていろ、ドクター!」

「ちょーい、それダサすぎるでしょサクラー。まあでも面白そうだからついてこ!ちょい待ちねドクター。」

 

 気づけば私の執務室は、人であふれかえっていた。連れてこられた人たちはみな最初は不安だったようだが、いつの間にか緊張もほぐれて盤を前に頭をひねっていた。その周りで既に負かした人たちがあーでもないこーでもないと口を出し、私の一手ごとに悲鳴が上がる。こうなってくると楽しいものだ。

 

 盤の前に座りながら思ったことだが、ここには本当にたくさんの人がいる。数が、という意味ではなく個性が、という意味だ。慎重に考え抜いて手をうつ者。周りの意見を参考にしながら考える者。そもそもルールが覚えられなかった者。

 

 私の不安は、もうとっくになくなっていた。それまでは役に立たなくては、とそればかりを考えていた。指揮が出来なければ、仕事が出来なければ、私は生きている意味などないとすら考えていた。だが、今はどうだろう?こんなにたくさんの人がいて、皆が楽しく生きていられるのだ。それなら私の入れるスペースも、一つくらいはあるだろう。

 

「サクラ。」

「ん?」

 

 作戦会議のふりをして、彼女を少し離れたところに呼ぶ。今私の相手をしているムービースターは、今がチャンスだとばかりに相談を始めた。それなのに大騒ぎになっているのだから、大した策はできないだろう。

 

「どうしたドクター?私の頭脳が必要か?あなたにボコボコにされた身だがな。」

「ああ、それはいいんだ。それより、お礼を言いたかった。ありがとう。君のおかげだ。」

「? 変な奴だな。ほら、さっさと戻らないと皆ドクターを待ってるぞ。」

 

 振り返ると作戦会議は終わったのか、皆ニヤニヤと笑顔でこちらを見ていた。これは何か、素晴らしいものができたのかもしれない。胸の高鳴りを感じながら席につき、相手の駒が動くのを待つ。自信満々といった様子で彼女が駒を手に取り、会心の一手を――――――

 

「皆さん?まだ終わってない仕事がたくさんあるはずですよ?」

 

 壊れたブリキ人形のようにゆっくりと皆が振り向く。そこにはあの時からは考えられないような異常な威圧感を放つアーミヤが、にっこりと笑って立っていた。しかしよくよく見ると目の奥はまったく笑っておらず…。

 

 結論から言うと、私の仕事は何倍にも増えた。隣には「遊ぶような余裕があるんですから平気ですよね?」とコータスの少女が変わらぬ笑顔で立っている。うず高く積まれた書類の山を前にして、私は暇が嫌いだなどと心の中で思っていたことを深く深く後悔するのであった。

 

 

 

 

「へー、じゃあアーミヤちゃんに見つかってこってり絞られたんだ。そりゃー大変だわ。あたし的にはちょっとウケるけど。」

「全く笑えないぞ…。戦場にいた時よりもよっぽど怖かったんだからな。」

「まー、あたしも散々叱られたから気持ちはわかるけどね。そんで?ひょっとして、残りの休暇全カットされたとか?」

「いや、さすがにそこまで鬼ではなかった…。代わりにドクターが割を食ったらしいがな。悪いことをした。」

「ふーん、まあいーじゃん、アーミヤちゃんもドクターと長いこと一緒にいられて嬉しいでしょ。winwinってやつだって。」

 

 そんなものだろうかと首を振るサクラ。どうやらあたしの義人は、けっこー来てるらしい。これチャンスじゃねー?と思って仕掛ける。

 

「じゃーさ、サクラ。そういう時はパーッと楽しんで忘れるに限るって。だからさ、約束、今果たしてよ。」

「約束?」

 

 首をひねって、何のことだろうかと考え込んでいるらしい。あたしはめっちゃ楽しみにしてたのに、と温度差を感じるが構わず攻める。温度ってのは高い方から低い方にしか行かないらしいし。あたしの熱であっためてやればいいだけの話。そう思って彼女にあるものを握らせる。薄っぺらくて、それでいてとても大切なもの。

 

 あたしの部屋の、カードキー。

 

「ね、サクラ。」

 

 いまだに困惑している様子の相手。狙撃ってのは混乱してるときが一番やりやすい。まともな判断ができないから、遮蔽に逃げないど素人だってたくさんいる。そんな隙を逃すほど、あたしは甘くないんだよね。

 

「おうちデート、しよ?」

 

 

 




 というわけで次回はおうちデート回かつ、アンブリエル姉貴メイン回です。幼少期のころからの付き合いであるウタゲ姉貴との親密さに、どこまで迫れるかこうご期待。

次回作、どっちがいいんすか?

  • 強面トレーナー、TSする。
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