アークナイツ トロフィー「雪ウサギは春に遊ぶ」取得RTA 作:春雨シオン
予告通りロープ姉貴視点で、ロドス加入までの過去編です。しかしこれ、今考えると安っぽい鶴見中尉だな?
しくじった。
最初の感想はそれだった。ボクはいつものように盗みを働こうとして、そこでドジを踏んだ。本当についてなかった。目を付けた獲物はすっごい胸の大きいお姉さん。なんでスラムにいるのかはよくわからなかったけど、多分観光か何かなんだと思った。そんなに大きくなれるほど余裕があるんなら、少しくらいもらってもバチは当たらないよねって思ったし、それにお姉さんみたいな綺麗な人がスラムに護衛もなしで一人でいたら、ボクよりずっと悪い奴に襲われたりしちゃうかもしれない。だからこれは勉強代ってことで許してね!
ボクは自慢じゃないけど長いことやってきたから、歩く姿を見ればどこに貴重品を持ってるのかなんてすぐにわかる。このお姉さんは…右のポケット!すれ違いざまに手を突っ込み、財布を抜き取って自然に離れる。最悪見つかったとしても、懐に忍ばせたロープですぐに離脱できるから、何の心配もないはずだった。
そのお姉さんが一瞬でボクの手をねじり上げて、地面に組み伏せるまでは。
「ういてててて!ちょ、ちょっとおねーさん、ギブギブ!!」
は、速っ!ボクの技を見切っただけじゃなくて、あっという間に押さえつけられた!昨日ちょっとしか食べてない手じゃ力があんまり出なかったって言うのもあるけど、もし昨日どころか毎日お腹いっぱい食べてても…いや、そんな日はありえないんだけど…とにかく、万全の状態でも勝てないってわかるくらい力強かった。
「なんだ、女の子だったのか。見たところ私と同じくらいなのに大したものだ。『声』がなければ、まんまと盗まれていたかもしれない。」
「え、えへへ…。感心してくれるなら、ついでに逃がしてくれると嬉しいなーなんて…ほら、お姉さんのもの、何も取ってないでしょ?」
「それとこれとは話が別だ。」
はあ、やっぱりダメか。これから督察隊の人たちを呼ばれて、また牢屋に入れられるんだろうな。それも、今日みたいな幸せな日に。
今日はナントカのお祭りの日だ。何のお祝いをする日なのかは全く知らないけど、ボクらにとっては大事な稼ぎ時、いわゆるかき入れ時ってやつ。皆いっぱいお金を持ってきてるし、綺麗なアクセサリーをつけてる人もたくさんいる。その上浮かれ気分で警戒心も薄くなってるとくれば、ボクらの格好の的だ。だから、ボクもこの日ばかりは神様に感謝する。皆の財布から、ボクの懐にお金を入れてくれてありがとねーって。
はあ、でも。このおねえさんにいきなり捕まっちゃった。牢屋自体はご飯も出るから嫌いじゃないけど、もう何枚作文させられたかわかんないくらいだしなー、と憂鬱な気分になっていた、その時だった。
「お前にはこれから、私の龍門観光に付き合ってもらう!ちょうどウタゲの予定が埋まってしまって暇だったんだ。」
…え?何を言ってるんだろう、このお姉さん。ボクを捕まえたのに督察隊に突き出すわけじゃなく、『観光に付き合え』?いくら何でも不用心がすぎるんじゃないの?でもそんなボクの困惑をよそに、お姉さんはどんどん進んでいってしまう。ボクの手を掴んだままにだ。
「ちょ、ちょっと!ちょっと待ってよお姉さん!観光ったって、ボクをわざわざ使わなくたって…。だってほら、ボクこんな汚い恰好なんだよ?これでスラムを出られるわけないじゃん!」
「ん?それなら、いいところがある。私の相棒から、『マストっしょ』とのお墨付きだ。とりあえずそこに行こうじゃないか。大丈夫、ちゃんと今日一日ガイドしてくれたら、それなりに給料はだすから。」
話ちゃんと聞いてるのかなこの人、と思いながら仕方なく引っ張られる。どのみち力で負けてるんだから抵抗なんてできっこない。ほんとにヤバいところに連れていかれそうになったら、このかぎ爪で…
(……って、思ってたんだけどなあ)
気が付けばボクは、キラキラとした炎国風ドレスがたっくさん並んでいる、服屋さん?に来ていた。あのお姉さんは自分で連れてきたクセに、右も左もわからないって顔をしながら、店員さんといろいろ話していた。その間、ボクはといえば別の店員さんにあれはどうですかこっちはいかがですかと、いわゆるセールストークにあって、すっかり目を回していた。一応、髪や体は公園なんかの水道で洗っていたから臭くはないはず…なんだけど、どうしても肩のあたりを抑えてしまう。
(あ~~、もう!!早く戻ってきてよお姉さん!)
その言葉が通じたのか、ようやくお姉さんが戻ってきた。手には真っ赤なドレスが抱えられており、ボクが獲物を探っているときに見かけるような、キラキラした輝きを放っていた。
「あ!ちょっとちょっと、どこいってたのさ!ボク、何もわかんなかったんだよ!?」
「いや悪かったな。私の体に合うサイズがなかなか見つからなくてな…。ぴったりと張り付くのが特徴の服なのだから、胸のせいでダボッとなってはいかんらしい。」
なんだかよくわからないことを言いながら、それでもお姉さんは目ざとくボクの持ってた服に目を付けた。
「おっ、お前も何か気に入ったのがあったのか?それなら会計を済ませるから持ってきてくれ。」
「…は、え、会計?お姉さんこれ買うの?二着も?」
「いや、ここのはレンタル品だから借りるだな。それに二着もって当たり前だろ。一つはお前が着るんだから。」
「え?」
この時、びっくりしすぎて服を落とさなかったボクを褒めてあげたい。もし弁償なんて要求されたら、ボクに払う手段なんてないからだ。
「ちょ、ちょっと何言ってるのさ。ボクお金なんて持ってないよ?」
「私が払うんだから問題ないだろう。心配しなくても、師匠からたっぷりもらったから大丈夫だ。」
またよくわからないことを言いながら、さっさとお姉さんが支払いを済ませてしまった。ボクはその間、それを呆然と見ていることしかできなかったけど、無理はない…よね?
「さ、早く着替えて出かけよう。幸い、背中のファスナーを止めればいいだけのやつだからな。」
ボクの疑問が尽きる前に、さっさとお姉さんはボクを更衣室に押し込んだ。ボクは狭い部屋の中、キラキラした服と一緒。思わず、ちらりと窓に目をやった。更衣室は壁沿いにあるから、簡単に手が届く。ボクの専門はスリではあるけど、それ以外の盗みが出来ないってわけじゃない。それこそかぎ縄も持ってるわけだし、いくらお店が3階にあるからって、あの窓のへりにひっかけて脱出するのは簡単なはずだ。それこそ、この服をもらってまたスラムに引っ込めばいい。そうすれば、売ってお金にできるかもしれないし、冬に凍え死ぬことに怯えながら、眠らないようにする必要もなくなるかもしれない。改めて、手の中の服を見る。真っ黒な服の上に金色の刺繍が施されたその服は、とっても高いものだって誰でもわかる。
(…よし、決めた。)
ボクは腹をくくり、これからの行動を決めた。
「お、出てきたか。」
「まあお客様!大変お似合いでございます!」
「そ、そうかな。えへへ……。」
なんでかボクは、その服を着てしまった。こんなに目立つ格好じゃ、簡単には追跡も振り切れないっていうのに。つまり、もう行くところまで行くってこと。何があるのかはわからないけど、ひとまずはこのお姉さんについて行くことにした。
「よし、それじゃいよいよ観光だ!えーと…なんて呼べばいい?」
「…ボクの名前なんてどうだっていいじゃん!それよりお姉さんの名前教えてよ。ずっとお姉さんっていうのは面倒だしね!」
「む、そうか。私のことはサクラと呼んでくれ。それじゃあひとまず…お前のことは『ロープ』と呼ぶとしよう。ちょうどロープを持ってるわけだしな。」
ロープ。ロープか。ふふっ、結構悪くないかもしれない。これからは督察隊に捕まった時も、ロープって名乗ってやろうかな。
「ん、何してるんだロープ。早く行くぞ。」
「あっ、ごめんごめん。すぐ行くよ。」
なんだか名前を呼ばれるというのはむず痒い感じがする。それでも、お姉さん――改めサクラについて行く足は軽やかだったし、なんだか皆に見てほしいような気分だった。今まで着ていたぼろきれとは違って肌触りもいいし、なによりとっても綺麗だ。足首まですっぽりと覆ってくれるところもすごくいい。なんだかこれを着ていると、ボクも普通の女の子になれたのかもしれないって思えた。
「本当にすごい活気だな…!あいつらも来たがっていたのに残念だ。」
お祭りにたくさん集まった人の群れを前にして、サクラは驚きとも興奮ともとれる声を上げる。ボクも正直言って、指がうずうずしてきた。でも今のボクはサクラのガイド、しっかりお仕事しなくちゃね。
「ロープ!あれはなんていうんだ?」
「あ!あれ、すっごくおいしい奴だよ!監獄の中で一回だけ食べたことあるんだ。」
「そうかそうか、なら早速食べに行かないとな!」
サクラは何か食べ物の屋台を見つけると、すぐに飛びついていった。ボクを捕まえたときはあんなにかっこよかったのに、何か別の人みたいに見える。飴、小籠包、月餅。ボクが遠くから見て名前だけ知ってる食べ物たちが次々に買われていって、ボクとサクラが座ったテーブルの上は、あっという間にいっぱいになった。
「ゴクリ…ね、ねえサクラ?これさ、ぜーんぶ一人で食べるってわけにもいかなくない?だからさ、ほんの一口だけでもいいから食べさせてもらえないかな~なんて…。」
白状しちゃうと、もうボクは我慢の限界だった。昨日食べたごはんはちいさな缶詰が一つだけ。それもあんまりおいしくないやつだったから、どうしても熱々で、色とりどりで、とっても美味しそうな目の前のご飯を目にしたら、ついそんな言葉が口をついて出た。
「何言ってるんだ、ロープ。」
「そ、そうだよね。ゴメンゴメン…」
「これはお前の働きに対して買ったものなんだぞ。いわばお給料だ。二人しかいないんだ、半分こしよう。」
「え!?いいの!!?」
思わず大声を出してしまった。自分で言っておいてなんだけど、そんなこと認められるわけがないと思ってた。
「も、もう取り消せないからね!ほんとに食べちゃうからね!」
「まあ待て、ちゃんと手を合わせてからだ。」
いただきますの声もそこそこに、ボクらのパーティーが始まった。なにせ、今まで遠くから見ることしかできなかったおいしそうな食べ物たちが、今はボクの前で食べて食べてと騒いでいるのだ。小籠包は噛むと中から熱々の汁が口の中に広がってすごくおいしいし、月餅はすごくお腹にたまる。炒飯も、お茶も、焼きビーフンも。全部が想像もできないほどのおいしさだった。こんなの食べちゃったらボク、明日からご飯食べれないかもと思いながら、すぐに飴を口の中に突っ込む。とっても甘くて幸せの味がして、ボクは冗談抜きで今日死んでもいいとさえ思った。
「うまいか?ロープ。」
「! うん!すごくおいしい!」」
「そうかそうか、ならこれも食べていいぞ。」
「いいの!?ありがとうサクラ!」
差し出されたおにぎりにかぶりつく。さっきの飴とちがってしっかり塩が効いてておいしい。夢中になりながら食べて、最後のひとかけらを飲み込んだ時、ボクはすっかりお腹いっぱいになっていた。ボクが生きてる間、絶対になることはないだろうと思っていた満腹に、今日まさになったんだ。生まれて初めて、満腹になった。やっぱり今日はツイてる日だったみたいだ。それもとびっきり。
「お姉さん、ほんっとにありがと!ボク、今日のこと一生忘れないからね!」
「ふふ、調子のいい奴だ。まあ、次は何やらパレードがあるそうだし、それを見に行くとしよう。はぐれないように手でもつなぐか?」
サクラがふざけながらこっちに手を差し伸べる。ボクは一瞬、その手を取りそうになって…そして、やめた。
「い、いやいや!ボクそんなに子供じゃないって!」
「そうか?まあ確かに、私と同じくらいに見えるしな。」
サクラは納得した様子で手を引っ込め、パレードのある方へ歩き出した。本当にたくさんの人ごみの中、サクラはなんの障害もないようにスイスイ歩いていく。ボクの方はついて行くだけで精いっぱいだっていうのに。がんばってついて行きながら、バレないようにこっそり自分のふとももをなでる。――やっぱり、ある。いつかきっとこうなるってわかってたし、なったときだって納得できた鉱石病。人から人に感染するものなのかは知らないけど、もし万が一そうなら、サクラに感染すわけにはいかない。
―――でも、もし。もしこの病気にかかってなかったら、あの手を取って歩けたのかな?
そんなありえないことを考えながら、ボクとサクラは巨大な龍の飾りが練り歩くパレードを眺めていた。
「いやー、楽しかったな!もうすっかり夜になってしまったが。」
気が付けば、ボクたちは日が暮れるまでたっぷり遊んでいた。射的をやったり、くじ引きをしたり、何の意味があるのかわからないおもちゃを買ったり…そんな『普通の子』がするようなお祭りの楽しみ方を、ボクたちは満喫していた。
「さあロープ、今日一日の締めくくりだ!予約をとってる店があるからそこにいこう!」
「おー、いこいこー!」
そのころにはボクはすっかり調子にのって、軽~くサクラについていった。その店が、すごくちゃんとしたお店だってことも知らないままに。
「サ、サクラ…?ここ、すっごいお高いところなんじゃ…?」
「気にするなって。せっかく龍門に来たんだから、こういうことも経験しときたかったんだよ。」
ボクは今日2度目のガチガチを経験していた。家具や食器のすべて一流品だとわかるそれらは、触るだけでも緊張してしまう。もし落としっちゃたりしたらどうなるんだろう、と思うと指先が震えるみたいだった。
「失礼いたします。こちら、前菜でございます。」
品のいいウェイターさんが料理を運んでくる。色鮮やかな料理たちが、たくさんの小皿にのってやってくる。見てるだけでよだれが出てきそう。
「サ、サクラ…これほんとに食べていいの?」
「もともと二名の予約だったからな…。お前が食べてくれなきゃ、私が2人分食べる羽目になってしまう。」
そういいながら料理を口に運ぶサクラ。ボクの方も、久々に使うお箸に苦戦しながらなんとか魚の切り身を掴み、口の中にゆっくりと落とす。とっても辛いのに嫌じゃないというか、体がポカポカしてきてもっと食べたいって気分になる。昼間もあんなに食べたのに、ボクのお腹はあっという間に空っぽになったらしい。せっかくサクラと一緒にいるのに、話をするのも忘れて食べ物を詰め込んだ。
「湯(たん)でございます。」「主菜でございます。」「主食でございます。」……
あっという間に料理はテーブルから消えていって、気が付いたらあとは点心だけになった。ボクはそこでやっと、ほとんどサクラと話していないことに気が付いた。
「そ、そーだサクラ!せっかくこんなところまで連れてきてもらったんだから、何かお話ししないとね!えーとカモになりそうな人の見分け方…とかは興味ないよね……。」
「…」
「あ、ご、ゴメンね!ほら、もっと普通の女の子がしゃべるようなことの方がいいよね!えーとえーと、確か最近新しい服が入荷したんだって!そこに行こうって騒いでるおばさんたちがいて、そのお財布をちょーっと拝借しちゃおうかなーなんて…いや、そうじゃなくって…。」
「…」
「あ、あの…サクラ……?」
ボクは思わず、黙々と料理を食べるサクラの顔を覗き込んだ。ひょっとしたら怒らせちゃったのかな、そしたらここのお金払ってもらえないかもしれない!もしそうなったらボクはきっとボコボコにされちゃうんだ、と思ってたんだ。その時は本当に怖かった。
「…ん、あ、ああ!悪いロープ、聞いてなかった。つい料理に夢中になってしまって…。それで、何の話だったかな?」
ほっぺたにご飯粒をつけながら、そんなとぼけたことを言われたボクのその時の気持ち、わかる?緊張がゆるんで体がへなへなってなった後、口から愛想笑いよりも乾いた笑いが出たボクの気持ち。でもそれよりもおかしかったのは、ボクのその姿を見たサクラ。ものすごく慌てて、食べれば元気が出るか!?って言いながら、ボクの口に点心を詰め込もうとしてくるんだよ。笑いと抵抗とでボクはいっぱいいっぱいになって、それで、
油断した。
ガシャーン!って大きな音が近くでしたかと思うと、ボクの体に、熱々のあんがかかった。
「あ、あっつ!!」
「ロープ!大丈夫か!?」
「ハン!獣以下の感染者が、いっちょ前に痛がってんじゃねえ!」
感染者。その言葉を聞いてボクは、震えが止まらなくなった。バレた。バレた。バレた。どうしてか、なんて考える暇もなく、別のお皿が飛んでくる。
「ひっ!や、やめて!」
「おいお前!何するんだ!」
「お前こそ何感染者をかばってんだよ!こんなやつらと一緒じゃ、飯がマズくなるだろうが!」
「…あっ!」
そこまできてやっと気が付いた。ボクの着ていた服には切れ目が入ってて、そこからボクの足に生えた石が見えてしまっていたんだ。サクラと楽しく話していたから全く気付かなかった。…ボクは、頭が真っ白になった。
「…お客様、ご退席願えますでしょうか。」
騒ぎを聞きつけたのか、さっきまで笑顔で料理を運んでくれた人が、僕たちの前に立ちふさがった。その目はまるで、汚いものを見るようで、いつもボクに向けられていた目と同じで―――
「ご、ごめん。ごめん、なさい。」
ボクは気が付いたらポロポロと泣いていた。止めようと思っても止まらなかった。ボクを叱る人が怖かった。ボクのせいで、サクラまで怒られるのが怖かった。
「…行こう、ロープ。」
「あ……サクラ、ボク、ボク……。」
「何も言わなくていい。さあ、行こう。」
サクラがボクの手を取ってくれた。震える手に触れたそれはとても暖かくて、思わず強く握ってしまう。
「お愛想だ。」
「…いいえ、結構です。ですからこの事はどうか、ご内密に…。」
「…そうか。」
ボクの手を握ったまま、ボクにお皿を投げつけた人の横を通り過ぎる。その人はニヤニヤしながらサクラを見つめ、その手を掴んだ。
「おうお前!なかなかいい体してんじゃねえか。この後付き合えよ。もちろんそこの泥うさぎはどっかに離してからな。そうすりゃ、俺が天国を見せてやるぜ?」
「悪いが忙しい。後にしろ。」
「おいおいそんなつれないこと言ってんじゃねえよ…ほぉら!」
男がテーブルのナイフを掴み、サクラの喉に突きつける。サクラ、と叫びたいのに声が出ない。
「な?大人しくしてれば、悪いようにはしねえって。」
「…そうか、私はどっちみちこうするつもりだった。」
サクラがナイフを三本指でつかんだ、次の瞬間だった。
「!!?!!????!!!?」
男の体がビクビクと震えたかと思うと、声も出せずに力尽きた。男は何も理解できてなかったんじゃないかと思うけど、ボクにはわかった。きっとこれは、サクラがやったんだって。
「…天国は見られたか?」
サクラはボクの手を引っ張って外に出るとき、確かにそう呟いた。その目はひどく冷たくて、それでいて輝いて見えた。何かによく似ている気がして、ボクはうっとりと見つめていた。
「すまなかった、ロープ。」
ボクらはあの後、お互いにしゃべることもなく歩き続けた。あんがかかった服はクリーニング代を上乗せして料金を払うことになり、ボクは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。サクラは何も気にするなと言ってくれたけど、それでも考えることをやめられない。そのうち点心を食べてなかったな、とサクラが言い出し、小さな屋台に立ち寄った。ものすごく顔の怖い人がやってたお店だったから、大丈夫かなと思ったけど、出された魚団子のスープはとてもやさしい味で、ボクはついため息をついてしまった。きっとサクラが謝ったのは、それを聞いたからだと思う。
「せっかくの食事を台無しにしてしまった。これはいい思い出になるはずだったのに。」
「そんな、サクラのせいじゃないよ!悪いのは…悪いのは……。」
そうだよ、わかってるじゃん。
「ロープ?」
誰が悪いのかも。ボクが何をするべきなのかも。
「ねえ、サクラ。」
本当はもっとしゃべりたいことはいっぱいある。お父さんとお母さんに捨てられた時、本当はボクも泣きたかったこと。女の子はお客さんをとれるからって連れていかれて、でもそれが嫌だったから男の子のふりをしてるってことも。
でも、ダメだって。
「ありがとう。今日はほんっとうに、楽しかったよ。楽しかったし、嬉しかった。幸せだった。」
わかってる、けど。でもさ。
「あのね、サクラ。」
もう一度を。次を。願うくらいはいいよね?
「ボクたち、また会えるかな?」
サクラはきっと、わかってたんだと思う。これからボクが何をするつもりなのか。だから、きっとああ言ってくれたんだ。
「さあな。でもまた会えたら、その時改めて友達になろう。…そしたら、私の本当の名前も教えてあげよう。」
ああ、友達か。いいなあ、それ。生まれて初めての、友達。
「…そうだね!じゃあ、また会ったら!その時はまた、ロープって呼んで!」
「ああ!約束だ!」
バイバイ、サクラ。一日だけでも、ボクに夢を見せてくれた人。最後まで、夢にかけてくれた人。
ボクは力強く地面を蹴って、いつものようにかぎ縄を使って、スラムの闇に溶けていった。
「っていうのがボクの思い出。いいでしょ、おまわりさん!」
「……よくできた話だな、ロープ。それなら思想教育の作文もさっさと書けるだろう。早いところここから出ていくんだな。」
「ぶー、作り話じゃないってのに。それにもう少しくらいここにいさせてくれたっていいじゃん、毎日ご飯も出ることだしさ!」
「…やれやれ。」
あの後、数日後にボクは盗みに失敗してしょっ引かれていた。盗みって言うのはハングリー精神から来るものだから、満たされたボクじゃ精度が落ちるってもんだよね。まあでも心配しなくても、そのうちお腹は減るから大丈夫。少しすれば、またいつも通りに戻れるはずだ。
そんなことを考えながら、今日の安いゴハンにありついていると、サクラとちょっと雰囲気の似たお姉さんが入ってきた。髪は深い藍色で、目の色なんかはおんなじだった。
「お前がロープだな?優れた技能を持っていると聞いた。」
「は、はいっ!ボク、じゃなかったわたくしが…」
「畏まらなくていい。それより、お前には今日からロドスに就職してもらう。少なくとも、スラムで盗みを働くよりもまともな暮らしができるだろう。」
ロドス。ロドスかあ。聞いたことない場所だ。でもボク、どうせ行くところもないから別にいいよね。
「はいっ!誠心誠意努めさせていただくであります!」
「…いいと言ったんだがな。」
がちゃりと手錠を外され、檻から出される。なんやかんや言って、この瞬間は嫌いじゃない。軽くなった手なら、何でも盗めそうな気がするからだ。
「この先の部屋に、ロドスからの案内役がいる。私もついているが、最後の判断は自分で決めろ。いいな?」
「は、はい。わかりました。」
案内役かあ。どんな人なんだろう。怖い人じゃないといいな。
そう思いながらドアノブをひねり、一歩前へ進む。
差し込んだ光がまぶしくて、少しだけ目をつぶったあとゆっくりと開く。
そうして次の瞬間、ボクは思わず崩れ落ちちゃったんだ。何でって?
「また会ったな、ロープ。」
そんなこと、言われちゃったらさ。しょうがないよね!
最初のタイトルはスティッキィ・フィンガーズだったけどいまいちこじつけられませんでした…(反省)。
次回からようやく6章突入です。いよいよ終わりが見えてきたぞ~コレ^
次回作、どっちがいいんすか?
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強面トレーナー、TSする。
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パワプロRTA北雪高校モテモテチャート