アークナイツ トロフィー「雪ウサギは春に遊ぶ」取得RTA 作:春雨シオン
……長すぎっしょ。
一括再生的な機能ないの?
めちゃくちゃピンチですRTA、第26部はーじまーるよー!
前回、狂化兵と戦うブレイズ姉貴の支援に行こうとしたら、コキュートスとアーツバードが跋扈する地獄に叩き落されたところからですね。
前回説明したように、コキュートスが存在していると冷気によって体が鈍り、普段の半分のパフォーマンスしかできなくなります!幸い、今はブレイズ姉貴がアーツで程よく温めた空気の中にいるので、むしろちょっと暑いくらいの感じですね。
「2人とも、動かないでね!ドローンとレユニオンの奴らに同時に狙われたら、私も守ってあげられる保証ないから!」
「あたしらそこまで弱くないんだけど〜…なんて、ふざけてられないよね〜こりゃ。」
物陰に隠れ、ドローンの哨戒から逃れていますが…ここもそのうち発見されるでしょう。なんとか活路を見出さなくては…。
「ねー、マジでブリさんNGなの?こういう時ウッキウキで駆けつけるのに。」
確かに。要請したら「ウッス!すぐ行きまっす!」と言わんばかりに駆けつけるあの太もも天使、今何してるんでしょうか。「取り込み中」とのことだったので、何かがあったに違いないのですが…
――――――――――――
「…クリア。見える範囲に敵影ナーシ。」
あたしはこの龍門殲滅戦で、狙撃チームの一人として索敵、それと必要なら排除を任せられた。とりまビルの屋上に陣どって、いつものクッキーをポリポリ食べながらスコープを覗く。これが普通の仕事ならスポッターの子にガミガミ言われるとこだったろうけど、今日は一人だから気楽なもんだよね。
『こちらRaidian。了解、そのまま警戒を続けて。…それはいいけどアンブリエル?あなた、また任務にお菓子を持ち込んだでしょう?せっかくのロドスのおいしい食事が、お腹いっぱいで食べられなかったらもったいないと思わない?』
うげ、相変わらず勘のいい人。その上過保護っぽいところがあるから、あたしはこの人がちょっと苦手だった。通信部のトップらしいけど、別の人が出てくれればなあと思った。
「さーせーん。でも仕事はきちっとやってるからいいっしょー?」
『……はあ、まあそれは間違いないわね。あなたが仕事に手を抜いたことはないもの。それじゃあ、引き続きよろしくね。』
ういうーいと適当に返事をしながら、改めて下を見下ろす。どっかの凄い狙撃手は、『芸術家とスナイパーには共通点がある。ディテールだ。』って言った。つまりは、周囲に溶け込まない色を。あるべきでないものを見つけ出すかららしい。現にあたしも今、ここにあるべきでない影――敵を、見つけた。というより、
「こちらPoint4、アンブリエル。レユニオンの構成員4名を発見。対象は……なんか怯えてる?っぽい。ちらちら後ろ振り返って、何かから逃げてるみたい。どーする?撃ったがいいの?」
『こちらRaidian。おそらく彼らが逃げているのは、敵幹部メフィストの尖兵からよ。情報では敵味方の判断がつかず、手当たり次第に襲っているそうよ。危険な存在には変わりないわ。最優先目標に設定して。発砲も許可します。』
「りょーかい。それじゃ、終わったあとに。」
通信を切り、スコープを覗きこむ。ほぼ無風で、遮蔽物もなし。あたしの狙撃が外れる要素は一つもない。目標は走る化け物の内一人。そーんなだだっ広いところにいたら、撃ちたくなっちゃうじゃん。
目標の頭がセンターに入る。後は引き金を引けば、それで終わり。
―――けど、奴の頭を弾いたのは、あたしの弾丸じゃなかった。
どこからか飛んできた真っ黒な矢が、その特殊感染者の頭に突き刺さった。矢は文字通り頭を串刺しにして、一撃で絶命させてみせた。
「おー。上手いもんじゃん。」
ラテラーノの教官が言ってた「獲物に執着する狙撃手」ってのなら、自分の獲物を取られたとかってキレるとこなのかもだけど、あたしからしたら仕事を減らしてくれてラッキーって感じでしかない。多分狙撃チームの内の誰かなんだろう。あたしブリーフィングサボってイマイチ配置とか知らないから、誰がやったのかは知らんけど。
そうこうしてるうちに、次の矢がまた別の敵を射抜く。またも頭のど真ん中。やっぱりいい腕してる。
「まっ、これならあたしがサボっててももーまんたいっしょ。いちおー監視だけしとけば……ん。」
追いつかれた。さっきから逃げていたレユニオンの奴だ。いつの間にか既に一人やられてて、残りの奴らにも群がろうとしている。かなりキモイ光景だ。
「うげー、完全に総攻撃の体制じゃん。ありゃ全滅かな。」
あたしとしては特に手を出す理由はない。そもそもあたしたちの仕事はレユニオンの排除だ。説得で引き返せる段階はとっくに過ぎてる。あいつら自身が放棄してる。なんせここはスラムに一番近い場所だ。作戦ではスラムに逃げ込まれないようにしなきゃいけないわけだから、ここに来ちゃったんならもう道は一つしかない。
(どっちにしろ殺さなきゃなら、楽な方を殺した方がいいに決まってんじゃん。)
レユニオン兵たちを殺したあと、あいつらは多分目的を失ってゾンビみたいになるはず。今の激しく動くあいつらを撃つより、動かない奴を撃った方がずっといい。あたしは見とくことにして、クッキーの次の小袋を開けた。
しかし、そう考えていない奴もいた。
(! あの黒い矢……。)
例の狙撃手だ。さっきまでとは違って、連射することに重点を置いた狙撃をしているらしい。頭だけじゃなくて、背中やら足やら、とにかく刺さりまくる。それでもレユニオンの奴らに当ててないのはすごいけど。
サクラは『刀を交えれば人となりがわかる』って言ってたけど、狙撃手だって同じだ。得物やら殺しかたやら、結構個性や感情がでる。今の黒矢の狙撃手の感情は明らかに“焦ってる”だ。
「……はぁ~~。鬼めんどいけどさ。サクラなら多分、そうするっしょ……。」
あたしはやると決めたらけっこー速い。すぐにスコープを覗きこみ、一つ一つ群れの頭を弾いていく。一発で一人、外れナシ。7発撃ったらリロードして、また撃つ。マガジンはたっぷり持ってきたけど、まさかこんなに使うとは思わなかった。
黒矢の狙撃は一瞬止まった。これは多分困惑だろう。その後すぐ撃ち始めたから、特に問題があったわけではないはず。そうして腕がへとへとになるまで撃ち続け、黒い矢が最後の一つを吹っ飛ばした。あんなにたくさんいたはずの群れは、いつの間にか一つ残らず死体に変わっていた。そりゃ誰も逃げようとしないんだもん。ひたすらに腕が疲れるだけの狙撃だった。
「これでもう、撃つべきものはないかなーっと……。」
そうぼやきながら、あるいは祈りながら。群れの中心部をスコープ越しに覗く。
「……。」
あいつらとは違い、真っ赤な色が流れている。胸は大きく上下して、少しでも酸素を取り入れようとしている。そして何より―――腹から、ピンク色の何かが漏れている。
あたしは黙って、次のマガジンを装填する。弾を弾倉に送り込み、ゆっくり狙いを頭に定める。そしたらゆっくり、慎重に。万が一にも外さないように、丁寧に引き金を引いた。弾丸が頭蓋に穴を開けると同時に、ほんのちょっとだけ体がビクンって跳ねて。そしたら、動かなくなった。黒い矢の狙撃手もわかってるみたいで、残りの二人を撃ちぬいた。
そうしたらもう、誰も動くものはいなくて。さっきまで発砲音でうるさかったビルの森は、死と静寂に満ちていた。
「…こちらアンブリエル。レユニオンと例の化け物は全部片づけた。無駄弾も撃ち漏らしもナシ。か~んぺき。」
『こちらRaidian。アンブリエル、状況は正確に報告して。レユニオン4名はいいとしても、特殊感染者は何人いたの?』
まったく、せっかく人がしんみりしてるってときに細かい人だ。そもそもあたしとあの黒い矢の奴でやったんだからいちいち数えてらんねーっつーの。スコープから目を離し、ちょっとムカつきながらしゃべる。
「あたしの方はイマイチ覚えてないから、他の狙撃オペに聞いてくだしゃーす。」
『……他の?』
うげ、ちょっとミスったかな。後で怒られたらめんどいからとりあえずフォローを入れておく。
「そーですそーです。あたしと一緒に撃ちまくった狙撃手がいるでしょ?名前はわかんないけど、やたら腕のいい奴。そいつと一緒に撃ったから…」
『待って、アンブリエル!』
うわ、急に大声。これはガチ説教かなー。萎えるわ~。
『
……は?え、じゃあ何。あいつひょっとして幽霊か何か?
――――いや、一つしかありえないっしょ。
「レユニオン……!」
それに気づいた瞬間、あたしの守護銃に強い衝撃が走り、スコープが吹っ飛んだ。見慣れた黒い矢が、あたしのスコープを貫通していた。
――――――――――
クゥーン…(子犬)。あれから全く打開策も見つからないまま、ここで待機しています。しかしそろそろ、気づかれてしまいそうです!こうなったらドクター、どうにかしろ(ムチャぶり)。
『……ブレイズ。アーツで温める空気の範囲は、もうそれで限界か?』
「え。い、いやまだ大きくできるけど…。でも無茶だよ!あの感染者の相手をしながら、ドローンまで対処するのは不可能だって!」
そこなんですよねえ。我々前衛三人組、いくら相手が特殊感染者といえども、普段通りの動きができるなら何の問題もありません。それこそ20人以上?30人以下?が相手でも余裕で対処できるでしょう。
ですが、ドローンの連中が絡んでくるなら話は別です。コキュートスだけでも厄介なのに、アーツバードの狙撃まで警戒しなくてはならないと来れば、いずれ感染者の数の暴力に押し切られるでしょう。アーツバードの注意を逸らすことが出来れば、なんっとかなるのに……。
『……そうか、ありがとう。なら、地上の方を頼んだ。
「……!? 何言って、ドクター!?」
突然、物陰から黒衣を翻し、一人の男が飛び出した。その走り方を一目見れば、誰もが気づいたはずだ。『この人は、運動があまり得意ではないのだ』と。その不格好な走り方で、極寒の中を突き進む彼に。
「ハァ!?」「ドクター!?」「―――クソッ!!」
三人の少女は驚きの声を上げつつも、示し合わせたように己の仕事を全うした。
ブレイズはすぐにアーツを全力で展開し、辺り一帯を温められるほどの熱のドームを形成した。
ウタゲはすぐに特殊感染者の群れに突っ込み、押し寄せる敵を必死に押しとどめた。
―――そしてサクラは、ドクターのもとに一目散に駆けつけた。
「ドクター!!」
走りながら何とか射撃を躱すドクターを横に担ぎ上げ、逆方向に全力で走る。腕を羽毛を持つ翼に変化させて、ドクターの体をかばうように覆う。それが役に立つときは、意外なほど早く訪れた。
「ッ!! 痛ッ!?」
羽毛を焼き焦がすような痛みが走り、思わず顔をしかめる。もし相手の射撃が実弾によるものであれば、羽毛のガードなど容易に貫通してドクターを貫いただろうが、アーツ攻撃なら話は別だ。電流の如く、最初に触れたものにダメージを与える仕様になっているため、面積を増やせば庇える可能性も上がるのだ。
「サクラ!!そこのビルに飛び込んでくれ!」
「!? りょ、了解!」
ひどく薄暗いビルに飛び込むサクラとドクター。それを追撃しようと、アーツバードたちが入口に殺到する。それを見た時の二人の目の色ははっきりと分かれた。
―――驚愕と警戒。もう片方は氷のような冷静さと、策に嵌った敵を見る、ほんの少しの興奮と安堵、そして侮蔑。
「ここまで降りてきた……!これなら、斬れる!!」
アーツバードたちが回路内で疑似詠唱をする暇もなく、片っ端から真っ二つにされていく。空を飛んでいるという圧倒的アドバンテージを自ら捨てた末路だ。刀が届く、斬れるとなればもはや敵ではなく、あっという間にアーツバードだったものがあたり一面に転がった。
ぬわあああん疲れたもおおおおん!やめたくなりますよーアドリブ―…。ドクターも策があるならあると言ってくれれば、もう少し落ち着いて準備が出来たというのに!強制的にオリチャーに持ってかれるなんてやってたら、そのうち身が持たなくなるよ!疲れたのでとりあえず黙りますか…。なんか、いい感じにコミュしてくれるやろの精神です。こういうのを専門用語で、サボりといいます。
アーツバードのプロペラ音が完全になくなったのを確認したサクラは、刀を納めてドクターを見やる。
「流石だドクター。まさか、アーツバードたちを地上に引きずり下ろすとは。」
頬を上気させながら称賛を惜しまない彼女とは対照的に、ドクターの表情(直接見えたわけではないが)はうかなかった。
「……すまない、君に負傷させてしまった。もっと上手くやれたかもしれないのに…。」
「何を言ってるんだ。この…『窓のないビルに誘導する』なんて策、私なら想像もできなかった。いったいどうやって……いや、その話は走りながら聞こう。ドクター、ウタゲ達が心配だ。」
先にサクラが出て周囲を警戒し、安全を確保したのちドクターを抱えて走り出す。あの二人がいて負けることはないと思うが、何が起こるか分かったものではないからだ。
「ドクター、あの窓のないビルのことは把握してたのか?」
「ああ。ひょっとしたら何かに使えるのではないかと思ってね。それでも、私の方に君が走ってくるとは思わなかったが…。」
その言葉を聞き、サクラは目を見開いた。言葉の裏に存在する真意を掴んだからだ。
「まさか、ドクター!自分を犠牲にするつもりだったんじゃないだろうな!」
「い、いや待ってくれ。何とか逃げ切れるんじゃないかと思ったんだ。まあ結果は全く上手くいかなかったが……。」
申し訳なさげなドクターの言葉を聞き、サクラは大きなため息を吐いた。足を止めることなく、ドクターを諭すように話す。
「ドクター、次からはこんな無茶をしないでくれ。何よりも自分の命を最優先に考えるんだ。」
「……しかし、私にはそれくらいしかできない。君たちのように戦うことが出来ない身で、君たちのことを守ろうと思うのなら……多少のリスクを怖がってはいられない。」
ぽつりぽつりと話すドクターの声は、次第に震え出した。
「君たちが傷つくのは耐えられない。私の考えた作戦で――もちろんそんなことが起きないようにしているが――もし君たちが大けがを負ったら?仮に死んでしまったら?」
「私はまだ付き合いが浅いが、君たちが善良な人たちだってことはわかる。……その善良な人々の中に、自分が入っていないことも。だから…。だから……!」
サクラはその言葉を聞いて、ほんの少しだけ走る速度を緩めた。そして今までにないほど優しい声色で、ゆっくりと話し始める。
「ドクター……。私たちは、あなたのことをもうとっくに仲間だと思っている。いや、上司にこんなこと言ったらいけないかもしれないが。」
「少なくとも私はそうだし、ウタゲやブレイズもそうだろう。目の前で死にそうな人を見捨てられるほど、薄情な奴らじゃない。というか、あなたが仮に飛び出したなら、必ず誰かが庇いにいくさ。そうなったら逆に危険だろう?」
「……すまない。」
「謝らないでくれ。むしろ、私たちのことをそこまで考えてくれていて嬉しいかぎりだ。…それに、あなたに死んでもらっては困る。
「……!! 来て、いるのか?ここに?」
「私の勘だ。……でも、彼女ならレユニオンの仲間たちを見捨てられない。そうだろう?」
「…その通りだ。彼女を救うために、彼女に勝ちたいんだな?」
「ああ。ドクターならまさか、断ることはないだろう?」
「もちろんだ。…そうか、それならこんなところで消耗するわけにはいかないな!」
ドクターの声に力が戻った。サクラを負傷させた負い目や、今まで感じていた疎外感から解き放たれたからだろう。まるで彼らの未来を象徴するかのように、サクラはビルの隙間から飛び出し、開けた戦場に舞い戻る。
「ウタゲ!ブレイズ!今援護に……。」
勇ましい声はしかし、困惑に変わる。死闘を演じているだろうと思っていた二人は、すでにあらかたの敵を片付けたあとだった。
「あ、サクラおっつー。こっちはもう終わってるよー。」
「お疲れサクラちゃん!それとドクター!後はあたしに任せて、そのあたりで休んでて!」
二人が、なんというかニマニマした顔をしている。サクラは『ウタゲはきっと心配しているだろう』と思っていたし、ドクターはブレイズに自分の行動について問い詰められた時の言い訳を考えていたというのに。
ポカンとしているうちに戦闘は終わり、4人は改めて集合したのち、廃ビルと化した物陰で休憩を取る。その間にも、二人はニヤニヤしながらドクターをチラチラと見ている。ドクターもそれに気づいていたのだろう。ためらいがちに話しかける。
「そ、その…私の顔に、何かついているのだろうか?」
「いや~別に?というか、何かついてるってより、何もついてないかもしれないじゃん?そのバイザーずっとしてるから、ひょっとしたら鼻も目もなかったりしない?」
「いや普通についているが…そ、それならなぜ私を見てくるんだ?」
「そりゃあだって…ねぇ?ウタゲちゃん教えてあげてよ。」
「だって…ねぇ?プロポーズまがいのこと、恥ずかしげもなく言っちゃうんだもんねえ?黒歴史確定っしょ。」
そこまで聞いてようやくサクラも気が付いた。彼女らの視線が一瞬だけドクターの胸元に動くのだ。ドクターは男だし、胸元に何かあるのか……?
「ま、まさか…聞かれてた?」
「お、サクラせいかーい。ドクターが通信切り忘れててさ、あんたらの会話全部筒抜けだったんだよ?」
「いやーまさかさ、あそこまで情熱的なセリフが出てくるとは思わなかったよね。『君たちが傷つくのは耐えられない』とか『君たちを守りたい』とかさ。私はそういうの、嫌いじゃないけど!」
へああと変な声を出しながらうずくまるドクター。さすがにこれは恥ずかしすぎたのだろう。だがそれと引き換えに、確かな信頼を掴んだらしい。
信頼を掴んだのはいいですが痛いですね…これは痛い…(嘲笑)。うずくまって恥ずかしがるドクター、あざといですね…。神か鬼神かという天才的な指揮を見せるのに、ふとした瞬間こういう普通の人間っぽい一面が出るギャップ。多分その辺がドクターがモテる要因なんじゃないですかね?ヨグワガンナイケドネ。
「よっし、それじゃあさ!サクラちゃんも戻ってきたことだし、そろそろあのうざったいドローン落としちゃおっか!他の敵はみんな片付けたから、あとはあいつをやるだけだしね!」
「とはいうけどさー姐さん。どうやってやるの?あいつ飛んでるけど。」
ブレイズがチェーンソーのエンジンを起動させ、辺りにドルンドルンという駆動音が響く。
「まあ任せちゃってよ!邪魔が入らなかったらこのくらいできるってところ見せてあげるから!あ、そうだ。アーツ切っちゃうけどいい?ちょっとだけ寒いの我慢してて?」
「それなら私の方に寄るといい。ほらウタゲ、ドクターこっちに来てくれ。羽毛で包んでやる。」
サクラは両腕を翼に変化させ、二人を抱き寄せた。ウタゲと自分の胸がおしつぶされて窮屈だったが、背に腹は代えられない。
いやー、さっきもやりましたけどこの能力、ほんと便利ですね。サイレンス姉貴しかやってるとこ見たことないけど、驚かれてる様子もないし多分リーベリなら皆できるんでしょうね。サクラはおそらくヘビクイワシモデルなので、真っ白な羽根がふつくしいです。
「お、ウタゲなんだか体温が高いな。これなら余裕で耐えられそうだ。」
「…あー、うん……そりゃよかったね……。」
顔を真っ赤にしながら俯くウタゲだったが、サクラは全く気付いていない。目の前で繰り広げられる大先輩の大立ち回りを見逃すまいと、視線を前に向けて動かさなかったからだ。
「あはは、こりゃ早く終わらせないとウタゲちゃんが沸騰しちゃうかな?それじゃ見せてあげる、あたしのアーツの応用法!」
言うが早いが飛び出したブレイズは、フェリーンらしい跳躍力で大きく上に跳びあがる。それだけでも正直いって驚異的なジャンプ力なのだが、それでもまだコキュートスには届かない。
「そう、こっからが大盛り上がりだよ!」
「―――――ー!!?」
空中に跳びあがり、もはや落下していくだけと思われたブレイズ。しかし彼女は、そこからさらに上昇する。それも、信じられないほどのスピードで。
「……マジか。自分の下で空気を膨張させて、それで上にぶっ飛んだのか。」
「とんでもないバランス感覚だな…。いや、それ以上にバカげたタフネスだ。」
何だあれは…。たまげたなあ……。爆弾人間かなにか?黒髪なところと性別くらいしか共通点ないけど。あっそうだ(唐突)。チェーンソーマン2部開始おめでとナス!
急激に加速すれば、慣性の法則に従って体は強い力を受ける。ブレイズにも当然加速の代償がかかったはずだが、意にも介さず跳びあがる。
「これで終わり――っと!!」
ギャアアアアアアアとチェーンソーがコキュートスの鋼鉄のボディを切断する音が響く。それはあたかも、冥界から響く断末魔のようであった。のたうち回って抵抗するコキュートスだったが、一度始まった切断作業は止まらない。やがてボディを切り裂き、比較的柔らかな内部回路を真っ二つにされると、力を失ってふらふらと墜落した。そしてブレイズの方はというと、アーツで再び空気を加熱、膨張させてクッションのように着地の衝撃を軽減。傷一つつけることなく、安全な着陸をしてみせた。彼女よりずっと早くに落ちたコキュートスの無残な残骸をみれば、彼女のやったことがどれほど驚異的なのかは推して知るべしである。
「イエーイ完全勝利ー!」
こちらに向かってピースサインを向けてくる彼女。まさしく太陽のように、周りの人を温めてくれる存在だ。3人の体がじんわりと暖まっていくのはきっと、コキュートスが落ちたからだけではない。
「…いや、ほんとにたまげたなあ…。脱帽だ。」
「ひゅーひゅー流石姐さん、超強い!チェーンソーの音気持ちよすぎでしょ!」
「すごいな…!今のはもう一度…いや、何度でも見てみたいな!」
「ちょっともう~!照れるからやめれ~!」
朗らかに、賑やかに。今この場所ではありえないほどに、“普通”の時間が過ぎていく。……そう、誰もが忘れていたのだ。ここが、
「―――――ーえ?」
サクラがそれに気づいたのは、ただの運だった。こちらに音もなく接近するドローン。なにか、青くて、円筒状のものを抱えて……
その時、サクラの頭に『声』が走った。
――――あれを撃たせたらマズいですよ!
まずいですよ!ドローンが出てきた時点で若干嫌な予感はしてましたが、あのゴミクソカスうんちのエントリーです!喰らえば大ダメージとおそらくリアル的な意味では凍傷まで喰らいます!本番前にそんなデバフを背負えるわけないだろ!いい加減にしろ!最悪、倍速中の交流でもらった『秘密兵器』の使用も検討しなくては…!
この時、サクラには二つの選択肢があった。
一つは、自分がとっさにその場所を離れ、あのドローンの注意をこっちに向けること。……しかし、サクラはあのドローンの習性を知らない。仮にそのまま撃ち込んできた場合、サクラは一人だけ逃げた形になり、仲間たちが危険だ。よってこれはすぐに却下された。
もう一つの選択肢は、シンプルだ。シンプル故に、難易度もリスクも高すぎた。
―――――あれを、何とか撃ち落とすしかない!!
サクラがそれを理解し、刀を抜こうとした手に、固い何かが触れる。それをサクラが掴んだ瞬間、ドローン――ヒョウバクバチから、空色のミサイルが放たれた。
――――――――――
『アンブリエル!?応答して、アンブリエル!!?』
通信機からRaidianの焦った声が聞こえる。…正直、体の方はもーまんたい。それなのにあたしが応答しないのは、あの狙撃の意味をずっと考えていたから。
「……聞こえてるよ。あたしは無事、なんともナシ。ただ、スコープが吹っ飛ばされた。替えは持ってきてないけど、そっちに予備ある?」
『アンブリエル!あぁ、本当によかった!怪我はないのね、安心したわ!』
「いや、あの予備は」
『待っててちょうだい。すぐにそっちに支援部隊を送るわ。その時にスコープも持って行かせるから、あなたはそこを動かないで頂戴!』
お、ちゃんと話は聞いてたっぽい。まあそうでもないと通信部隊の隊長なんてやってらんないか。でもあたしだって聞き逃せないワードがあった。
「……待って、支援?それ多分無理っしょ。あいつが許すわけないもん。」
『あいつ?あいつって、まさか…。』
あの黒い矢の狙撃手。あいつは今、レユニオンの狙撃手だと――敵だと分かった。なら、のこのこやってくるロドスのオペレーターを、みすみす逃すようなことをするだろうか?
「ここまで来んのに遮蔽もほとんどないし、仮に車で来ても運転者がぶち抜かれて終わりっしょ。……それなら、あたしがここでカタをつける。この狙撃手はあたしがやる。OK?」
まあ、んなわけないよねー。レユニオンからしたら、ロドスはにっくき仇も同然なんだし。だから、あたしがやる必要がある。幸い、あたしのスコープに未だ突き刺さった矢から、相手の位置はだいたいわかる。あたしの銃を向けていた方向と、矢がスコープを綺麗に貫通したという事実。つまり、奴の位置は…。
「……あのビルの上のどっか。今のところはね。」
すぐにレーダーを起動し、敵の位置を探る。対象は成人したくらいの人間。それ以下にすれば鳥とかリスとか引っかかっちゃってわけわかんなくなるし。一応、敵が子供の狙撃手ならアーツに引っかからないこともあるかもだけど、少なくとも今回はセーフ。
(……みっけ。)
敵がいたであろうビルから、急いで移動する反応がある。ビルからビルに、遮蔽から遮蔽にジグザグに走る反応は、間違いなくスナイパーからの逃げ方を知ってる奴だ。こいつを狙い撃つのに最適なタイミングを探りながら、アイアンサイト越しに見つめる。このくらいの距離なら問題はない。そして、その時は訪れた。
(! 2つ先の角から飛び出せば、あたしの射程距離を通過する。そこで終わらせるのがいいかな。)
敵の逃げるパターンから、遮蔽から遮蔽への最短距離を進んでいることがわかった。もちろんこれは普通のスナイパーが相手なら最善手。でも、それを完璧に追跡できるのがあたし。悪いけど、運がなかったと思ってもらうしかない。
(出てくるまで3・2・1…)
その瞬間が訪れる。
「はいはい、お迎えの時間だよー……。」
あたしは引き金を引いて、敵の頭がふっとんで終わり。
その、はずだった。
「見え…ない……?」
確かにアーツの反応はあるのに、誰の姿も見えなかったのだ。スコープがないからとかそんな話じゃない。まっさらなキャンパスみたいに、何もいないのだ。しかし、アーツは反応をやめない。何があってんのか全く分からないけど、とにかく反応に向かって撃つしかない。そう思って引き金を引いた、その時だった。
ガキッ!!
「!? ウッソマジ!?ジャムった!」
弾詰まりだ。あたしの使うボルトアクションのライフルは、自動で排莢してくれる銃と違ってほとんど弾詰まりしない。つーか、あたしがマズい使い方しない限りありえない。すぐに頭を引っ込め、詰まった弾丸を取り出さないと。固定された銃座からライフルを外し、チェンバーをいじらないと。それにしても運悪すぎっしょ。神様のことさんざんにこき下ろしたのが良くなかったかな。
そう思いながら頭を下げた、その瞬間。あたしの頭上を、超高速で何かが通り過ぎて行った。
「!! …今の、100パー狙撃じゃん……。」
命拾いした。そうだ、あたしは今、間違いなく命拾いしたのだ。ジャムって運が悪い?逆だ。むしろ、今の状況だと……。
「撃ってたら、死んでた……。撃ったあと、的の状態を見ようとしてたら……。」
そう。間違いなくあの矢があたしの顔を吹っ飛ばして、超特急で主のもとに送ってただろう。たまたまジャムって、たまたま撃たなかったから、今あたしは生きている。
体がガタガタと震え出す。寒くもないのに、歯がガチガチと音を立ててうるさい。今の今まで、あたしにとって死は遠いものだった。古臭いけどそれがいいライフルで、ただ当然のように敵の頭を吹っ飛ばす。それを恐ろしいと思ったことはなかったけど、自分がその対象になるとこんなにも怖いのか。
(死にたくない…!死にたくないよ……!)
まだ、やりたいことだって山ほどある。新作のクッキーが出るたびに友達ときゃあきゃあ言いながら食べて。カワイイ服を皆で吟味して。いつか。そう、いつかでいい。誰か本当に好きになった人を、デートに誘って……。
(助けて……!誰か、誰か……!!)
その時、いきなり通信が飛び込んできた。あたしは震える指で、縋るようにONにする。
『アンブリエル!!今からこっち来れるか!?』
「……!!」
サクラ!サクラだ!!
『アンブリエル!?今、こっちにドローンが来てやばいです!すぐ来れますか!?』
その声を聞いたとき、スーッと震えが収まっていくのがわかった。今まで感じていた死の恐怖はどこかへ行ってしまって、できたスペースにサクラが入り込んでいく。そうだ、私にはサクラがいるじゃないか。
そして同時に、勇気がグングン湧いてきた。あの声を聞くだけで…そう、姿を少し見るだけでも、あたしの心は勇気で満ちる。……本当に、何でもお見通しなんじゃないだろうか。あたしが一番ヤバいときに、こうして見計らったように通信を入れる。サクラを義人としたあたしは間違ってなかった。
『……アンブリエル?』
「…マジごめんサクラ。今取り込み中。」
『なんだって…!?』
その驚いた声にこれ以上ないほど胸が痛む。どうしてあたしがこんなことをしなくてはならないのか。
決まっている。
「……あの狙撃手のせいでしょ。そりゃ。」
サクラの声を聞いて落ち着いたら、だんだんムカついてきた。あの狙撃手のせいであたしは死にたくないってブルってたわけだし、そのせいでサクラの援護に行けない。冷静になって考えたら、あたしの事めちゃくちゃにしてんじゃん、あいつ。
「でも大丈夫。サクラの声聞いたら行ける気がしてきたから。パパっと終わらせてそっち行くからちょい待ち!」
めちゃくちゃ意識して明るい声を出す。そうしないと、今の最低な気分の低い声を聞かせてしまいそうだったから。
『わ、わかった…。お前がそう言うんだ、大変なことになっているんだろう。だが、必ず生きて合流するぞ!いいな!』
必ず生きて、合流するぞ。その言葉が甘い痺れと共に体を駆け巡り、指先一本一本に至るまで、あたしの心は勇気で満ちた。
「……あんたのこの、一発目。
―――――――
「……何だ。」
薄汚れたローブを纏った男が、無線に応答する。彼の手には巨大なボウガンと呼ぶべきものがあり、荘厳な雰囲気を纏っていた。
『何だ、じゃない。あの狙撃のことだ。あんたが2度も失敗するとは思えない。』
相手もまた、レユニオンの仲間のようだ。もっとも落ち着き払った狙撃手に比べ、いささか未熟といった印象はぬぐえない。
「……。」
『あんたが何を考えて…あの一発目を、外したのかはわからない。だが忠告するぞ、そんなものは不要だ。レユニオンのため、感染者のために、ただ敵を殺し続ければいい。あのサヴラの子供がそうするようにな。』
「……奴は」
『はぁ?』
「……奴は、淡々と殺しが出来るわけではない。少しずつ、少しづつ。己の中に澱みを溜めている。…そのうち、弾けるか萎むかするだろう。」
『……ちっ、そんなことはどうでもいいんだ。それで、次はどうするんだ。もう一度同じことをやるのか?』
「ああ。早くしろ。」
短い返事を返しながら、男は照準器をのぞき込む。おそろしいことに、そのボウガンにはスコープがついていなかった。…彼の特異なアーツは姿を光学迷彩のように隠し、彼の優れた視力はスコープがなくとも遠くの敵を把握できた。……はっきり言って、狙撃手になるために生まれてきたとしか思えない男だった。
その男は今、スポッターとしてつけられた男を囮にしての狙撃を敢行しようとしていた。はっきり言ってこれに引っかかるわけもないのだが、それでも接近する敵を無視できるほど、図太い精神もしていないだろう。必ず、奴を撃つために動く。そこを撃つ。男の天敵ともいえる感知系のアーツ……それを使う狙撃手は、間違いなく最優先排除目標といえた。
『よし、行くぞ。』
男が最後の一言を入れ、物陰から飛び出して走り出した。狙撃手からの逃げ方は教え込んだが、それでもあれは青すぎる。だが、その青さこそが脅威になる。
(自分の方に一直線に向かってくる敵だ。その恐怖はひとしおだろう。)
さあ、撃て。撃て。狙撃手同士の我慢比べ、最初の一つはどうかわす?
――――アンブリエルの、選択は。
(……ほう。)
『何だあこいつ!ちっとも手出してこねえじゃねえか!』
相手の狙撃手が決め込んだのは、無視。いくら数を減らしたとはいえ、ここもいずれはあの化け物どもであふれかえる。加えて今奴がいる場所……あのビルの屋上以上に、優れた狙撃ポイントは存在しない。故に場所を変えることはしないだろうと読んで、奴をあそこに向かわせたのだが…。
(接近戦に自信があるということか?)
だが、それは侮りだと感じた。狙撃手はあの男のことを、大局を見る力はないが、こと1対1においてはかなり高い能力を持っていると評価していた。はっきり言って
ならばどうする?このまま奴が首を取ってくるのを待つか?
否、である。
「……フッ!」
アーツを込めた矢が、ビルの外壁を削り取って飛んでいく。まだ奴の――あの天使の光輪の輝きも、羽根の放つ光も、スコープの反射も捉えられてはいない。故にこの狙撃は、ただ単純に奴を揺さぶるためのものだ。奴の意識をこちらに向ければ、その分男の接近戦に持ち込みやすくなる。
(さあて、どうする?)
近づいてくる刺客に備えて、立ち上がって戦闘態勢を取ろうとしたり、階段の方へ戻ろうとすれば、その瞬間に俺の矢が奴を貫き、闇が光をかき消すだろう。
(……やはり、渇望が止まらない。今すぐに、奴のような強者を喰らいたい!)
ウルサス軍にいた時からそうだった。ただ安全な場所から一方的に撃つよりも、身を焦がすような狙撃手同士の戦いに身を置いていたかった。敵には悪魔と呼ばれ、味方からは英雄と呼ばれる。もっともその栄光は、俺たちが困難な任務で見捨てられ、感染者になるまでの話だったが。命からがら生き延びた俺たちだったが、待っているのは祝福ではなかった。俺たちが感染していることを知った奴らは、文字通りの駆除を実行しようとした。俺たちは必死に逃げたが、一人また一人と数を減らし、しまいには俺一人になった。俺も感染が進行し、最近は動くことすら激痛を伴う。
(だが!ああ、だが!この瞬間、この時間だけはそれを忘れられる!)
突然俺の獲物を吹き飛ばした狙撃。それは数こそ少なかったが、精度は間違いなく一流のものだ。どんな相手かは知らないが、間違いなく強敵といえる。
奴を殺したい。―――ーあるいは、奴に殺されたい。
(俺の死に場所はウルサスだと信じていた。……だが、今は違う。この戦場こそ、俺の死に場所だ。)
そして願わくば。この感染者の死に、何かの意味があるといい。
「………!」
見つけた。あの、煌めくような輝きだ。俺が破壊したスコープの、予備に違いない。あの中心を狙う!今度は逃がさない!!
音もなく放たれた矢は、一部の狂いもなく輝きの中心部に吸い込まれ、悲鳴を上げる暇もなく絶命させる。
「……やっぱ、そーいうことね。」
シュパァアアアアァアアン!
天使の放った弾丸は男の首を貫き、後から聞こえてくる銃声は、激痛と共に終わりを告げに来た。首から流れる鮮血は、ゆっくりと男の体を包み、真っ赤なヴェールのように優しくその体を温めた。まさしくモラトリアム。死の前にほんの少しだけ許された、安らぎの時間。
(……何故だ?)
―――だが、安らぎの中にいてもなお、男の心は戦場にあった。何故、負けた?何故スコープを撃ちぬいたのに、奴は絶命していない?
最後の力を振り絞り、ボウガンも握れないままに、アーツも使えないままに、向かいのビルに目を凝らす。かすんでいく視界で、何とか判別したそれは。
(……ああ、そうか。あれは……ナイフか?)
それには少しだけ間違いがあった。アンブリエルがビルのへりに突き立てていたのはナイフではなく、サクラから貰った短刀だという事だ。刃をこちらに向けて突き刺さったそれは、飛んできた矢を真っ二つにしてなお、威風堂々と立っていた。
(やつは、見破ったのだな。……
男は、目に鉱石病を患っていた。その影響で、かつては『ウルサスの目』と称えられた彼の目は、自ら発光するようなものくらいしかまともに見ることが出来なかった。それでも彼は狙撃手として生きたいと、一つの方法を編み出した。
それが、スコープの反射を狙うというものだった。
特にウルサスは雪に覆われた地。雪の反射光を、さらにスコープが反射する。それを正確に射抜けば、スコープの先の眼球を貫通し、脳を破壊することが可能であった。
(だがやつは、それを逆手に取った。)
刃を突き刺し、あえて光を反射させることで。俺の狙いを誘い、罠にかかった獲物を捕らえた。言うは易し、行うは難し。姿を現した俺を狙うために、最初から体を露出する必要があったはずだ。……俺が、自分ではなく刀を狙うと信じて。
(そうか、だから……
光を反射させるだけなら、手鏡でもいい。狙撃手なら、像を移すことで周囲を確認する手鏡は必需品だが、やつはそれをしなかった。鏡ではなく、ナイフを選んだ。
(自分の命を、預けるために……か。)
俺はスポッターを信じて待つことが出来なかった。奴は――――おそらくは誰かの――――ナイフを信じた。
(結局のところ、それが敗因……か。)
全てを知ってなお、男の心に悔いはなかった。ああ、全てがわかった。完敗だ。なんと清々しい気分だろうか。
(……いや、待て。最後に一つだけ。)
……奴は、どんな顔をしているのだろうか?俺を殺す奴は、一体どんな顔をしているのだろうか?
急激に失われていく体温。かすんでいく視界。―――ーそれでも、最後の慈悲をくださった。急に視界がクリアになり、ぼんやりとしたピンク色の狙撃手の、顔がはっきり見えた。
「―――――良い、目だ。」
心からそう思った。殺されかけた怒りや、戦いに勝った喜びではなく。ただ、決意を―――。生きる意志をたぎらせた、美しい瞳だった。
(そう、だったな。“奴”もあんな目をしていた。近頃はすっかり、曇ってしまったが。)
最後に見た、この世でもっとも美しいものを決して忘れまいと、瞼の裏に焼き付けようとするかの如く、男は目を閉じた。
(願わくば、どうか……)
どうか“奴”も、最期くらいはあのように、綺麗な瞳で逝けますように。
主に陳情するかのように、男は安らかな旅へと歩き出した。男が最後に聞いた銃声は、門出を祝うファンファーレのように、いつ迄もいつ迄も、反響し続けるのであった。
―――――
「勝っ…た……。」
あたしは思わずその場にへたり込んだ。一発目の弾丸で首を貫き、その時点で既に勝っていたのだが、あいつはそれでも立ち上がった。もっともボウガンも持たずに、何かを確かめるみたいに立ち上がってきたんだけど。だからあたしも、『楽にしてあげないと』って素直に思えた。最初の方は、マジで殺意しかなかったのに。
「強かったよ。あんたはさ。」
今は違う。あたしとバチバチにやりあったあいつを、素直に尊敬するような心が生まれた。一発目、二発目と、完璧に光るものを撃ちぬいたから。そこに当たるのがまぐれじゃないって信用できたから。あたしはこの賭けに出られた。『相手は光るものを撃つ』って賭けることが出来た。
刃の大部分を布で隠しながら、こっそりビルのへりに突き立てる。あたしの方は蛍光灯とか羽根とかが目印にならないよう、めちゃくちゃ気持ち悪いのを我慢しながら、頭からすっぽりローブを被る。あとはタイミングを見計らって、短刀を覆う刃を外す。体を露出させながらだけど、絶対に外さないよう、必殺の構えで敵を待つ。……そしたら、やっぱり相手は短刀を撃った。
「……やっぱ、あたしの命を預けんならこれしかないと思ったんだよねー。」
狙撃手の矢を受けながら、それでもなお直立する短刀を引き抜きながら呟く。持ち手の部分は黒光りしててめっちゃ綺麗だし、そこに彫られてるピンク色の花柄はカワイイってより美しいって感じ。切れ味ヤバいって言ってたけど、まさか矢を真っ二つにするとは思わないじゃん。
「……サクラ……。」
刀を鞘に仕舞ったあと、それを抱きしめる。何の温度もないはずのそれは、なぜかじんわりと暖かいように思えた。サクラがあたしにくれたもの。今までにもたくさん大事なものをもらってきたけど、実物をもらったのは初めて。あたしが押し付けるように渡したものの代わりに、サクラがあたしにくれたもの。あの時の言葉は、今でも一言一句思い出せる。
『なら、代わりにこれをアンブリエルに挙げよう。私が小さい頃、ずっと私を守ってくれたものだ。きっとアンブリエルのことも守ってくれる。そういうおまじないをかけておいたからな。』
サクラが今、ここにいなくても。サクラのくれた刀が、あたしを守ってくれた。
「…よっし、もうひと踏ん張り、行きますか!」
こちらに近づいてくるであろう敵に備えて、改めて刀を握りなおす。サクラの刀に、あたしの親友……ウタゲっちが教えてくれた格闘術。負けるわけがないし、負けるわけにはいかない。そう体を強張らせていた時、通信が入った。
――――――
「クソっ、馬鹿が!だから最初っからこうすりゃよかったんだ。」
男はあの気に食わない狙撃手を思い出しながら吐き捨てるようにつぶやいた。今彼は、敵の狙撃手がいるであろうビルの階段を駆け上がっている。近づきさえすれば、狙撃手は無力だ。
『おい、奴が移動したようだ。』
突然入る通信。それは明らかに、今の今まで考えていた男の声だった。
「な、てめえ!生きてやがったのか!」
『勝手に殺すな。……それよりも、早く移動しろ。一つ隣に移動したのち、二つ後ろのビルに行った。』
「ちっ、了解。てめえもとっとと自分の仕事しやがれ!」
乱暴に通信を切り、苛立ちながら男は走る。気に食わねえ、気に食わねえと呟きながら。男が目的のビルに到着し、階段を上るとき。その時、ほんの少しでも彼が冷静であれば、違和感に気づいたかもしれない。あふれるような、死の気配に。だがそうはならなかった。今まで迫害されてきた恨み。自分をこき使う狙撃手への怒り。それらをすべて敵の狙撃手にぶつけなくては気が済まないと、それしか頭になかったからだ。
「オラぁ狙撃手!ぶっ殺してやるから出て……は?」
扉を蹴破った彼がみたのは、孤独に震える狙撃手ではなかった。虚ろな瞳でこちらを見つめる、化け物どもの群れ、群れ、群れ……。
『……騙して悪いけど、あの子に近づけさせるわけにはいかないの。ごめんなさいね。』
突然通信機から流れ出す女の声。明らかに男は、罠にはめられた。……だがそれは、まだ抜けられる深さだったはずだ。女の声はさらに続ける。より深みに、奈落に、突き落とすために。
『でも、あなたならそのくらい倒せるわよね?ねえ、レユニオンさん?』
「……クソがクソがクソがクソが!!やってやるよ!!!かかってきやがれクソ野郎ども!!!!」
……男は、確かに強かった。単純な膂力が強く、強化されているはずの特殊感染者たちを圧倒していた。……だが、数が違いすぎた。一人に組み付かれ、噛みつかれたのを皮切りに、あっという間に破壊の嵐に巻き込まれる。しばらくは男の絶叫が響いていたが、後に残ったのは血濡れの武器と、何かを咀嚼する音だけだった。
―――――――
『……と、いうわけであなたを追跡していた男は、今頃特殊感染者の巣でランチになっているころでしょうね。もう大丈夫、安全よ。』
……こわ~。通信はRaidianからのもので、内容をまとめるとこうなる。Raidianが敵の使ってる回線を発見してジャック、敵の狙撃手のふりをして男に指示をだし、バケモノどもの巣に放り込んだ。あとはそいつが逃げられないよう煽りに煽って、死ぬまで戦わせて少しでも数を減らした…。いやヤバすぎっしょ。絶対に彼女を敵に回さないようにしようと決意しながら、あたしは大の字になる。多分スカートの中とか丸見えだけど、まあ誰も見ていないからへーきへーき。
『本当にお疲れ様、アンブリエル。そのまま監視を…いや、交代した方が良さそうね。すぐに代わりの人員を送るから、その子とバトンタッチしてちょうだい。大丈夫、あなたと同じくらいの精鋭よ。』
マ?ナイスじゃんそれ。ガバっと跳ね起きて応答する。
「ねえRaidian。それってあたしこっからフリーってコト?」
『ええそうよ。よく頑張ってくれたからね。ロドス本艦に帰って、ゆっくりしててもいいわよ。』
ふふん、今までのあたしならそうしたかもだけど、今日のあたしは一味違う。これで堂々と、大手を振ってサクラの援護に行ける。なんつーラッキー。
「こっからは時間外労働です…。なんつって。」
読んだことないけど流行ってるらしい漫画のセリフを呟きながら、あたしはライフルを担いだ。さ、走ろう。あたしの義人が、あたしのことを待っている。
――――――
あれを撃ち落とすしかない。それしかみんなが助かる方法はない。それを理解したとき、私が頼ったのは刀ではなく、
「ねーサクラ。この守護銃、もらってよ。」
そんな軽い口調でアンブリエルが私に差し出したのは、一丁の古い拳銃だった。
「もらってよと言われても…大切なものじゃないのか?」
私がそう言って躊躇していると、アンブリエルは心配ないという風ににへらと笑った。
「じょぶじょぶ。あたしはもうこいつがあるし。いちおーそいつ接近戦の備えに持たされたんだけどさ。めっちゃくちゃ威力低いから、ラテラーノの管理官も目つぶってるんだよね。あたしが持ってるよりサクラが持ってたほうがなんか安心感あるし。まあとりあえずいろいろ見てみてよ。あ、弾はまだ入ってないから安心しておけー。」
ふぅんと呟きながら拳銃を受け取る。リスカムさんの使っていたものとは形が大きく異なり、真ん中にクルクル回る部分がある。
「サクラは銃の手入れとかしたことないっしょ?だったら簡単に分解できるリボルバー式がいいんじゃないかと思ったんだよね。その分6発しか入んないけどね。まあサクラなら斬っちゃった方が早いとは思ったけどさー。……やっぱ、重い?」
「いや、嬉しいよ。」
「え?」
「アンブリエルが私のためにくれたものだ、嬉しくないはずないだろう?戦いに使えるかとかじゃなくて、アンブリエルが考えて渡してくれたことが嬉しい。」
「…ふーん……そっか……。」
急に萎んだような声を出すアンブリエル。何かあったのだろうか。…そうか、お返しをしなくてはな!今私が持っているもので、アンブリエルに渡すのにピッタリのものがある。
「なあ、アンブリエル。お礼にこれを受け取ってくれないか?」
「え?何々……刀?」
手渡したのは、私の持っていた短刀だ。師匠から12の誕生日にプレゼントされたもので、私から刀が欲しいと言われたときは呆れた顔をしていたな。もともと私が実家から…本田の家から持ち出してきた父の形見の脇差と、まったく同じ長さをしている。体の小さかった私にはこれくらいの長さのものしか扱えなかったが、それでもよく一年ももってくれたものだと思う。今は鞘が傷だらけになって、師匠の家でゆっくりと休んでいる。その代わりに来たのがこいつというわけだ。
黒塗りの鞘に、サクラをかたどった可愛らしい刀。私がこれをもらったときは大喜びしたものだが、ウタゲはそれをどこかひいた目で見ていたな。すべて懐かしい思い出だ。一応持ってきてはいるものの、おそらく使う機会はないだろうと思っていた。今の私には『羅刹』があるし、虚をつくために使うなら完全に姿を隠せるもっと小さなナイフの方がいい。このまま埃をかぶるより、こいつも役にたちたいだろう。そう思って、差し出した。アンブリエルを、守ってくれるように。
「アンブリエルを守ってくれるよう、おまじないをかけておいた。この銃は接近戦の備えなんだろう?それなら、そいつを代わりに連れて行ってやってくれ。私も、アンブリエルが持ってくれるなら嬉しい。」
「…これを……あたしに……。」
俯いて震え出すアンブリエル。怒らせてしまったのかもしれない!
「す、すまんアンブリエル!そうだよな、刀をもらっても嬉しくないよな!あ、あとで化粧品とか見てやるから…!」
「違う、違うんだって。めっちゃ嬉しいの。義人からの刀とか、こんなんもう聖遺物もんでしょ…。」
アンブリエルは本当に刀を大事そうに抱え、恍惚としていた。よくはわからないが、喜んでくれたなら嬉しい。しばらくそうしていたあと、刀を懐に仕舞って顔を上げた。
「…よし、とりま訓練場いこっかサクラ!その銃の撃ち方教えてあげなきゃだし、あたしにも格闘教えてよ。」
「お、おおそうだな!それならウタゲにも声を」
「それはダメ。あたしら二人っきりでやるの。いい?」
「あ、ああ。」
アンブリエルの妙な迫力に負け、二人で訓練室に向かう。珍しく訓練室にいたウタゲとロープに見つかり、アンブリエルがひどく落胆したのは、また別の話。
(そうか、私に銃の撃ち方を思い出させるために…。ありがとう、アンブリエル。)
迫るミサイル、ようやく気付いた仲間たち。私のまわりの状況は刻一刻と悪くなっている。この一発を外せば、すべて終わりだ。…だというのに、私は何の不安も感じなかった。銃を握る手に震えはなく、もはや外す気がしなかったのだ。ゆっくりと、安心して。私は、引き金を引いた。
―――絶対の自信をもって。剣士の持つ銃から、弾丸が放たれる。その銃には剣士のものだけでなく、あの天使の祈りが込められていた。――どうか、この人を守ってくれますようにと。そんな魔弾が外れるはずもなく、正確にミサイルの撃針を撃ちぬき、空中で破裂させた。
「うわっ!な、なに!?何が起きたの!?」
突如響き渡る爆発音と銃声、それから寒波に困惑しつつも、すぐに警戒の体制に入るブレイズ。やっぱり彼女はすごい。
「サクラ!」
ウタゲの方はすぐに私に駆けよってきた。私より、ドクターの方に行ってほしいものだが。そう思いつつも、胸がじんわり熱くなったのは内緒だ。
「ドローン…!?皆、こっちだ!退避!」
ドクターは誰よりも早く状況を理解した。それだけでなく、すぐに最適解を導き出し実行。…やっぱり、この人には敵う気がしない。
「…大丈夫、どうやらあの一機だけだったらしい。」
ミサイルを撃ってきたドローンは、エネルギーが尽きたのかフラフラと落下していく。もうあれが脅威になることはないだろう。
私は持っていた銃をひっくり返し、グリップの底を見た。そこには、守護銃であることを証明するための単語が彫ってある。…この知識は全部、アンブリエルからの受け売りだが。
“Praesidium”
辞書でそれを探してみると、どうやら『保護』という意味らしい。しかしアンブリエルはそれよりずっといい意味があると言っていたし、私もそっちの方が気に入っている。
今、まさしくその意味を果たしたこいつを、褒めたたえるようにつぶやいた。
「『守り給え』か…。まったく、本当にいい意味だ。」
戦はいまだ続いている。刻一刻と変化し続け、死神は狂喜と共に跋扈し、弱いものから順に命を刈り取っている。それでも、どうか。どうか、守り給え。私の大切な仲間たちを。善性を忘れられぬ、哀れな感染者たちを。
―――未だ孤独に怯え凍える、あの白兎を。
守り給え。
えー、ハーメルンでssを漁っていたところ、一話が長い作品に憧れてしまった結果、こんなにも長くなってしまいました。許しは乞わぬ。
次回は普通にこれの半分くらいに区切って投稿頻度上げるから許し亭許し亭。
次回作、どっちがいいんすか?
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強面トレーナー、TSする。
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パワプロRTA北雪高校モテモテチャート