アークナイツ トロフィー「雪ウサギは春に遊ぶ」取得RTA 作:春雨シオン
彼女との出会いは今でも鮮明に思い出せる。まだあたしがちっちゃな子供で、何にも知らないころだった。父さんの墓参りに行った帰り道、変な奴らに囲まれた。全員手にボロボロの武器を持ってて、薄汚れた服を着てた。よく思い出してみたら体もガリガリだったような気がするけど、その時のあたしにそんなこと気にする余裕はなかった。ただただ怖くて、震えることしかできなかった。それでもそいつらがじゃりっと踏み込んで、一歩近づいてきたとき、ようやく大声が出た。キャー、なんて、今思えばダッサいもの。でも、そのおかげで、あいつに会えた。
さっと風が吹いたかと思うと、目の前にあいつがいた。刀を握って私の前に立ったあいつの紫色の髪と、元は綺麗だったんだろうな、という汚れた服が妙に頼もしかった。男たちは何かギャーギャー騒いでいたけど覚えていない。騒がしかったはずなのに、あいつが言った「目を閉じてて」という言葉はよく通った。
あいつが言うとおりに両目を掌でふさいだ。でもやっぱり気になってしまって、指の隙間から覗いてしまった。覗いてしまったんだ。あいつが、男たちを次々に斬り伏せるのを。圧巻としか言いようがなかった。一人を目にも止まらないスピードで斬ったかと思えば、回し蹴りで別の男の顎を打ち抜いた。持ってる刀を投げつけて、敵を串刺しにしたかと思えば、男が持っていた鎌を奪って、一瞬で喉を切り裂いた。
今になって思えば、なんつーグロ動画だよって感じ。まだあたし9歳の子供だったんだよ?トラウマになったらどうすんの、と他人事の様に思う。いや、トラウマになった方が、まだマシだったかな。
私は、
「ねえ、大丈夫だった?」
気が付くとすべては終わっていて、彼女が目の前にいた。その声はたどたどしい発音だったけど、暖かさに満ちていた。それであたしは…やっと安心して、その時やっと涙が出てきた。その時のあいつは目に見えておどおどしてて、なんだかちょっと気分がよかった。
それから、あいつが家まで連れてってくれるって話になった。その時は興奮して、いろんな話を山ほどした。あたしはその時、学校にも行けてなくて、同年代の子なんて初めて見たからだ。母さんくらいにしか見せることがないのに頑張ったおしゃれの話。母さんと二人っきりでしたお誕生日会の話。あたしが話してばっかだったけど、あいつは真剣に聞いてくれた。それが何より嬉しかった。だから思い切って、「私と友達になってくれる?」と聞いてみた。あいつはちょっと驚いたみたいだったけど、すぐに頷いてくれた。あたしは嬉しくって、そこからは手を繋いで歩いたっけ。
あいつはその日、家に泊まることになった。初めての友達、初めてのお泊り会。心が踊らないわけがなかった。母さんに叱られるくらいはしゃいで、一緒にお風呂に入って、一緒にご飯を食べて、一緒の布団に入った。明日は一緒に家を探検するんだって、約束をした。結果としてはその約束は、もっとずっと、いいものになった。
あいつがこれから一緒に暮らすんだって聞いたとき、本当に嬉しかった。改めて自己紹介をして、私たちは親友になった。あいつは母さんに剣術を教えてもらうことになったらしい。母さんに剣の心得があったなんて知らなかったけど、そんなことより、またあれが見られるかもしれない、という喜びのほうが勝った。そして私もああなりたいと思って、私も剣を始めた。
あいつ…桃が、学校に来ることになった。あたしは先輩としていろいろ教えてあげて、と言われた。剣ではまだまだ敵わなかった桃に、勝てる部分があるのは素直に嬉しかった。あいつは、そのころにはいろんなことを母さんから教わって、すぐみんなに溶け込んだ。頭もよくて、運動もできる。それで同じ女のあたしから見てもカワイイ容姿。あいつはすぐ、学校の人気者になった。でもあいつがいつも頼りにしてきたのはあたしで、とても気分がよかった。
中学、高校になっても、あいつはあたしと一緒だった。そのころにはあたしはちっちゃいころの純真さなんてどっかにおいてきて、めんどくさがりでマイペースな、まあ、普通のJKになっていた。桃はちっちゃい頃のまま、そのまんま大きくなったみたいな感じ。背はあたしよりちょっと大きくなって、胸もあたしと同じくらい。あたしたちが一緒にいるとオトコたちがチラチラ見てきてウザウザ、と思ったけど、桃は気にしてないみたいだった。だから、めんどくさかったけど、守ってやらなきゃな、と思ってた。それ以外にも桃は意外と天然で、ボタン付きの信号の前で何もせずずーっと待ってた時もあった。あたしがボタンを押してやると、なんだかすっきりした顔で、「ナイスタイミング」なんていうから噴き出した。
きっとあたしたちはこうやって生きていくんだろうなー、と漠然と思ってた。桃は強いし賢いけど、どこか抜けてる。だからあたしがそれをサポートしてやって、面倒事は桃と一緒なら大丈夫。そう、思ってた。
その日、いつもみたいにあたしたちはショッピングモールにいた。あたしがいて、桃がいて、ほかの友達もいて。相変わらず桃はちょっとズレてて、館内マップをガン見してた。それを聞いたらあいつ、
「いや、大したことじゃない。ただ、どこでご飯を食べようか、と思っただけだ。」
だってさ。やっぱりどこか天然だ。食い意地張りすぎっしょ、と言ってみんなで笑って、私はノーマルだ、とぷりぷり怒る桃を見てごめんごめん、後でクレープおごってやるから、というと途端に目を輝かせる彼女は、やっぱり食い意地張ってるじゃん、と必死に笑いをこらえた。いつも通りの休日が、いつも通りに終わっていくはずだった。あたしのその考えは、唐突に響いた爆発音によって裏切られた。日常が、非日常に変わった音だった。
「わ!何、今の音!?すっごく大きかったよね?」
「わ、わかんない…。でも、多分なんかの花火とかだよ。もし事故だったとしても、アナウンスがあるはずでしょ、それを待とう?」
「そ、そっか…そうだよね、そうしよう。」
他の二人がそう話してる中、桃はずっと黙っていた。それが無性に気になって、声をかける。
「ねー桃、どうしたの?なんか具合悪いとか?」
「麻衣…。いや、そういうのじゃないんだ。ただ、何か…。頭の中で、ここで来たか!って…。いや、妙な考えだな。忘れてくれ。」
「ちょっと、ちょっと、気になるじゃんそんなの。何があったのさ。」
「本当に何でもないんだ。そんなことより、ホラ!アナウンスが流れだした。聞こえなくなったらまずいだろ?」
なんだか上手く逃げられたような気もするが、ひとまずはそれに従う。館内放送が何が起こったのかを告げる。
「あ、ああ。聞こえるだろうか。愛すべき非感染者諸君。我々は泥中の蓮、かつて君たちに虐げられていたものだ。」
は?なにいってんのこの放送?
「我々はこの腐った民たちに血の鉄槌を下すことを決定した。今後いかなる対話も行われることはない。非感染者を発見し次第、我らが同胞たちが裁きを行うだろう。だが、もし万が一、この場所に我らが同胞…つまり、感染者がいるのであれば、すぐに私たちの仲間に加え入れよう。我々は同胞を決して傷つけない。それどころか君たちに正しい力を与え、復讐の機会を与えよう。無論、我らの怒りに共感し、仲間に加わりたいと思う者も、我々は歓迎する。モールにある商品の機械には源石が使われているものが多くある。それを用いて、我らの仲間となるのであれば、だがね。」
「さあ諸君、選択の時だ。逆徒となり、裁きを受けるか。正義の使途となり、権利を行使するか。自由に選択するがいい。」
それだけ言って、放送はプツンと途切れる。ほんと何なの。ウザウザウザ。
「な、なんだったんだろ今の…?」
「さ、さあ…そういうイベとか…?」
友達二人と同じように、周りもざわざわしている。当然だ。あんな意味わかんないもの、どう考えたっておかしい。でも、そう思わない奴が一人、すぐそばにいた。
「麻衣、すぐにここを離れるぞ。」
「は?ちょっと桃、あんたまで何言って」
「いいから!手遅れになる前に早く!急いで一階へ行くんだ!」
桃があたしの手を引っ張って、無理やり移動する。二人も慌てて後をついてきた。エスカレーターに乗り、降りるのを待つのもじれったいのか階段を駆け下りる。すると、一階から、耳をつんざくような悲鳴が聞こえてきた。
「え?」
「な、何?今の声」
その質問に答える声はなかったが、一階の状況がすべてを物語っていた。そこには逃げ惑う人々と、それを襲う刀やボウガンで武装した黒づくめの奴ら。それと、そこら中に転がっている死体と血の海。これ以上なくわかりやすく、そして残酷な答えだった。
「速く!窓に向かって走れ!」
「!」
桃の鋭く飛んだ声が、あたしたちを現実に引き戻す。モールに窓なんてそうそうあるはずがない。それでも必死に探して、そこにたどり着く。だが、そこには。
「クソ、間に合わなかった!すでに封鎖は終わっていた!」
桃が悔しそうな声を上げる。小さな窓は完全にふさがれていた。何かの金属でコーティングされているみたいだ。
「こうしちゃいられない。すぐに非常用階段で上に上がるぞ!出口はダメだ、多分爆発でふさがれてる!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!桃の言ってること、よくわかんないよ!」
一人が声を上げる。当然だ。あたしにだって桃が何を言っているのかわからないんだから。
「一階の状況を見ただろ、奴らは私たちを皆殺しにする気だ。私が奴らなら一階から殲滅する。出入口を封鎖して、誰も出られないようにしてからな。だから上階に逃げるんだ。そこから警察に通報して、突入するまでを待つんだ。わかったらさっさと行くぞ!速く!」
桃の焦る声なんて初めて聴いた。それが、本当にただ事じゃないんだって感覚にさせてくれて、あたしたちは必死に非常用階段を駆け上る。その間にも、悲鳴は聞こえ続けていた。階段にはまだ誰も来ていなかったのか、普通通りの景色で安心した。そこに来るまでに、普通のお客さんだけじゃなく、警備員の制服を着た死体まであったからなおさらだ。
ようやく2階まで上がってこれた。そのころには悲鳴はすっかり聞こえなくなっていて、そこにはざわついている人たちはいるけど、一つも死体はなかった。それにひどく安心して、体の力が抜け、へたり込んでしまう。でも桃は違った。
「みんな!早く上に上がれ!下には奴らがいる、上に逃げるんだ!」
手当たり次第そこらにいる人に声をかけて、避難を促したのだ。あたしがこんなんなってんのに、やっぱりあいつはすごい。でも。
「な、何いってんだよお前。頭おかしいんじゃねーの?」
「んなこと言うなよ、きっと怖がってんだろ?頭はおかしいかもだが、ケッコーカワイイ子じゃん?俺らと一緒にいかね?」
「バーカそんなメンヘラに構ってられるかよ。俺は先に帰るからな。」
「待て!そっちはヤバい!下に降りるな、死にたいのか!」
「ほらな、やっぱやべー奴じゃん。てめーに構ってる暇なんかねえんだよ。」
桃は…何か変なものを見る目で見られていた。それに気づいたとき、あたしはめちゃくちゃムカついた。あんたらの中に、桃を馬鹿にする権利のある奴なんているものか。誰よりも気高く、誰よりも正しい動きをしてる桃を。あたしは急に足に力がみなぎって、友達にケーサツに通報するよう頼んだあと、ヅカヅカと近づいた。そのままあんなやつらに桃が馬鹿にされるのが耐えられなくて、あたしは腕を引っ張った。
「桃、あんな奴らに構う必要なんてない。どうせケツに火がつかないと気づかないような奴らなんだから、ほっとけばいいんだよ。そんなことより、あたしたちも逃げよう?ほら今、あの子たちが通報してくれてるから。」
「…わかった。」
あきらかに渋々といったかんじだったが、桃は従ってくれた。そうだ、これでいいんだ。ようやくいつも通りのあたしになった気がした。あの二人の、青い顔を見るまでは。
「ま、まい…。ももっち…。」
「こ、これ。なんでかつながらないんだけど…。」
彼女たちがこっちに向けた画面。そこには普通なら見るはずのない、圏外という文字が踊っていた。ありえない。だって、ついさっきまで普通に使えてたんだ。こんなの、おかしい。なんで?なんで?なんで?何度もその言葉がリフレインする。頭の中がそれでいっぱいになってぐちゃぐちゃになったとき、その声が聞こえた。
「…ジャミングだ。どうやら奴らは、本気で私たちを逃がさないつもりだな。」
え?何、今の声?桃なわけはない。桃はこんな冷たい声なんて出す奴じゃないもん。そう思って振り返り、ゾっとした。
「3人とも、すぐに非常階段を上ってできるだけ上階まで行け。そのあとはどこかに隠れていろ。」
全身から黒いオーラが出てるように見えた。目は光を失い、声は氷のようだった。
「な、何言ってんの桃…?それに、あんたはどうするつもりなの…?」
震える声でそれだけ絞り出す。それを聞いても桃は眉一つ動かさず言った。
「やられる前にやる…それだけだ。」
次の瞬間、桃は眼前から消えるように走り出した。人ごみの中をすり抜けるように、滑らかに動く。一切、何の迷いもなく目的地に向かうようだ。その姿を見て、あたしもようやく踏ん切りがついた。
「あんたら、桃の言ったこと聞いてたでしょ。すぐに避難して。多分、四階の写真屋とかがいいから。そこに隠れてて。」
「ま、まい!?あんたまで何言ってんの!?それに、あんたはどうすんのさ!」
あたしがどうするかって?そんなの決まってる。
「あいつを…桃を追っかけるよ。そしたらあたしたちもそこに行くから。ね、頼むわ。」
そういったらやっと納得したみたいで、震えながらだけど確かな足取りで逃げていった。これでいい。
「さ、桃…。何するつもりかわかんないけど、絶対一人にはさせないからね…!」
あいつの様にうまくはいかなかったけど、人ごみをかき分け、必死に同じ方へ走る。ずっと遠くの背中の方で、悲鳴が聞こえた気がするけど、きっと気のせいだ。そう思って走り続けた。
信号待ちをしていた桃ちゃんは、走者がトイレタイムをとっていたため、すっきりした表情になっていました。あとがきで補足しないと伝わらない表現をする作者の屑。
評価、感想などなど、くれた人ありがとう!フラーッシュ!いつの間にか評価に赤色がついてて大興奮しました。これからもできるだけ早く投稿するのでマグロ(ご期待ください)。
次回作、どっちがいいんすか?
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