パインコーン×女ドクター
壊れた空調で冷え切った執務室。
そんな日の、ちょっと暴走気味なパインコーンのお話。

もちもちふわふわしたパインコーン可愛い……
リーベリは種族特性で体温高めとかだと良いなって。湯たんぽか何かにしたい。

pixivとのマルチ投稿作品です。



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第1話

「へくちっ!」

 

今日の秘書であるパインコーンのくしゃみで、書類に集中していた意識が引き上げられる。

集中状態から解放された自分の視界に入るのは、雑多に書類が散らばらる机と、私物は少ないのに様々なオペレーターからの貰い物で満ちた執務室。

ロドスのドクターの、自分の執務室だ。

壁にかかったアナログ時計を見れば、もう終業間近という時間であった。

 

「あー、パインコーン。寒いなら暖房でも……」

 

目線をくしゃみの主に向けながら言いかけた矢先、集中が途切れたせいかやたら寒く感じる。

今日は記憶が正しければ比較的寒冷な地域を走っていたはずだ、日などとうに沈んでいる。

ならば、寒くなるのは必然と言えよう。

それにすら気付いてない程に集中していたらしい。

 

「いや、寒いな。暖房をつけよう」

「ですね……全然気づきませんでしたけどこの部屋とても寒いです」

 

パインコーンは返事をしながら二の腕をしきりに撫でていた。

防護服もかくやと言う私の格好に比べれば格段に寒く感じるだろう。

椅子から立ち上がり、背伸びをして凝り固まった体をほぐしながら歩き始める。

向かう先は部屋の入り口付近に備え付けられてる空調設備のコントロールパネルだ。

しかし、近づくにつれコントロールパネルの表示は暖房のそれになっているのに気が付いた。

室温はとても寒いとでも言うのに。

 

「あれ、故障か?」

「壊れてるんですか?」

 

ポロリとこぼした声にパインコーンの返事が飛んでくる。

気付けば隣まで歩いてきているようだった。

どこか不安気にこちらをうかがっている。

 

「空調動いてるか確認してもらえるか?」

「いいですよ」

 

パインコーンに空調が動いているかの確認をお願いする。

木工や修理が専門と言う事もあり、どう確認するのか少し期待していた。

私の密かな期待を受けた彼女は空調の送風口の目の前に立ち、両腕を伸ばしてはその身で風を感じようと小刻みに動いていた。

その光景に若干の落胆と、それをはるかに上回るほほえましさを感じる。

室温に反してどこか温まってきた心境で結果を待っていたが、じきに首を横に振った。

 

「駄目ですね……つめたい空気しか流れてこないです」

「ありがとう、パインコーン。空調が壊れたから急に寒くなったのか。とりあえずクロージャに連絡して修理を頼むとするか」

 

携帯端末を取り出し、クロージャへと発信する。

幸いにもさほど時間がかからずに通話がつながった。

 

「もしもし?」

『もしもーし。ドクター?どうしたの?そっちからかけてくるなんて珍しいじゃん』

「いや、執務室の空調が壊れてしまったみたいでな、修理を頼めないか?」

 

少し考え込んでいるようで返事がなかなか帰ってこない。

催促しようと声を掛けようとしたところで返事が返って来る。

 

『ん、準備は出来てるし、明日には修理が出来るよ』

「そうか、なら良かった。ありがとうなクロージャ」

「ま、それが私の仕事だしね」

 

彼女の単語選びに若干の違和感を抱きつつ、通話を終了する。

話している内容を聞くためだろうか、すぐそこまで近づいて来ていたパインコーンに声を掛ける。

 

「どうやら明日にでも修理が出来るらしい」

「そうですか、良かったです。長い間寒い中仕事するのも大変ですしね」

 

パインコーンはそっと胸をなでおろしていた。

苦笑を浮かべつつ、作業に戻ろうとした時、手元の端末がアラームをかき鳴らした。

簡単な操作でそれを黙らせながら時間を確認すれば、どうやら終業時刻を迎えたようだ。

特に急ぎの書類もなく、そもそもこの寒さの中で働きたくない。

ならばとパインコーンに声をかける。

 

「もう時間だし、今日はこのあたりにしておこうか。

また明日よろしく頼む。寒い中じゃあまり効率も上がらないだろうし、明日はクロージャの修理が終わり次第からかな。」

「はい!お疲れさまでした。」

 

ぺこり、と彼女がお辞儀するのを見届けて、さて夕食にしようか。ならば財布を、と一旦執務室奥の自室へ向かおうとしたところで。

小さな力で裾が引っ張られる。振り返ればパインコーンが不安げな表情でこちらを見上げていた。

 

「あの……ドクターはこれからどうするんですか?」

「これからか?んーまぁ食堂で夕食にでもしようかなと思ってだが……どうかしたか?」

「い、いえ……なんでもないです……。その、ご一緒してもいいですか?」

「なんだ、そんなことか。全然かまわない。じゃあ、財布を持ってくるから待っててくれ」

 

安心したように微笑むパインコーンを背に、自室へと入る。

執務室とは違って自分が色濃く映し出された部屋だ。比較的綺麗に整えられている部屋の奥にある金庫。

指紋認証式のそれを開く。中から財布を取り出し、手早くポケットへと突っ込んだ。

執務室へ戻れば、パインコーンは待っていてくれたようだった。

パインコーンと共に食堂の方に向かう。てっきり隣を歩く者だと思っていたが、何故かパインコーンは私の後ろをついて来ていた。

 

「あー、パインコーン?」

「なんですか?ドクター」

「いや、何でもない……夕食何にするのかなと思って」

 

後ろから熱心な視線を感じながら、歩き続け早数分。じっと見つめられている事に居心地が悪くなり始める。

それを咎めようかと声を掛けたが、パインコーンがいつも通りの声色である事に思わず気が引けて話を誤魔化してしまう。

 

「んー、いつもはD定食を頼んでますね。懐かしい味なんです」

「じゃあ今日はそれにしてみるかな」

「えーと、ドクターは普段何を食べているんですか?」

「昨日はエナジードリンクとエナジーバー。一昨日もそれで……先一昨日はそれとアズリウスのケーキを貰ったな」

「ドクター、そんな食生活してたら倒れますよ……?」

 

おかしい、いたって普通の食事とは言い難いが、それにしたって栄養バランスは問題ないはずだ。

なのに、パインコーンからは呆れかえったため息が飛んでくる。

気付けば、パインコーンは隣を歩いていた。幼子の鉱石病患者がするように、私の袖を掴みながら歩いている。

 

「そうか……アズリウスのケーキは美味しいんだが……」

「そっちじゃないですよ。ドクター」

 

そんなとぼけた会話をしている間に、食堂へ辿り着いた。

夕食には多少早い時間ということもあってか、ちらほらとオペレーターがいるだけでがらんとしていた。

数十分もすれば空いてる椅子を探すのも難しくなるほどなのだが。

 

「パインコーン、D定食でいいか?」

「大丈夫ですけど……どうしたんですか?自分の分くらい自分で払えますよ」

「いや、直にここも混むだろう?一応席を取っといて欲しくてな」

「なるほど、そういうことなら任されました」

 

どこか不満気な顔から一転、少し胸を張ったパインコーンが席を取ろうと歩き出す。

感情表現が豊かな彼女に愛おしさを感じながら受付カウンターの方まで歩いて行く。

とりあえず、代金は受け取らないと決心しながら。

 

 

◇◇◇

 

 

「ごちそうさまでした……今日も美味しかったですね」

「ごちそうさま。あぁ、そうだな。久々のまともな食事だからか、とても美味しく感じた」

 

パインコーンおすすめのD定食……クルビアで食べられているメニューの再現というその定食に舌鼓を打った。

龍門近くで活動していた時は味わえなかった味に感動していた。

もっとも、パインコーンには大げさだと言われてしまったが。

 

「ドクターもこの味が美味しく感じるんですね、安心しました」

「私を何だと思ってたんだ?」

「あんな食事でも大丈夫だって言うんですから、てっきり味覚が違うのかと」

 

にへら、と言う柔らかい笑みにやられてしまったし、自分でも普通じゃない食事をしているという自覚がある。

結果何も言い返せずに手を挙げて降参を示すしかなかった。

 

「運んできてもらいましたし、私が片付けて来てしまいますね」

「ん、そうか。ありがとう」

 

二つ重ねたお盆に、二つずつ重ねた食器類。それを抱えてえっちらおっちらと運んでいく姿に癒しを感じる。

パインコーンの姿に癒されると言ってもそれは精神だけの話。

まさか体の癒しを彼女に求めるわけにもいかない。

シャワーを浴び、早めに眠ろうかと考えた時、ふと気が付く。

自室は執務室の奥にある。執務室の空調設備は壊れている。

ついでに、自室は執務室の空調を流用している。

寒い中眠るのに慣れていないわけではないが少しだけ憂鬱な気持ちになる。

思わずため息をこぼしていると、パインコーンから声を掛けられた。

 

「ドクター、どうしたんですか? ため息なんかついたら幸せが逃げてっちゃいますよ」

「ん?いいや、何でもない。ありがとうな、パインコーン。今度またD定食を食べることにするよ」

「気に入ってくれたんですか?なら、良かったです」

 

パインコーンのふにゃりとした思わず気が抜けてしまうような笑み。

思わず撫でてしまいそうになる手を自制して、言葉を出す。

 

「今日はありがとう。また明日。おやすみ、パインコーン」

「あ……はい。おやすみなさい、ドクター」

 

どこか残念がっているようにも感じたパインコーンの声を背に受けながら自室へと帰る。

シャワーは流石に壊れていないよな……?どこか不安な気持ちが心中に満ちてきている。

 

 

◇◇◇

 

 

21時を少し過ぎた頃。夕食以降は寒さに耐えつつ簡単な雑事を幾つかこなした。

寝る前の支度、いざ眠ろうとした時。

控えめに執務室の扉が叩かれた。

慌てて軽く身だしなみを整え、人前に出れる格好になる。

軽く鏡で姿のチェックを済ませた後。自室の扉を超え、執務室の扉を開ける。

その先に居たのは茶褐色の髪にリーベリ特有の冠羽。

自分より頭一つ半程小さい少女。今日の秘書であったパインコーンであった。

 

「あの、ドクター……えっと、その……」

「おや、パインコーン。何か忘れものでもした?」

 

やけに言葉を詰まらせていたので、彼女がこんな時間に来る理由の一つを提示したが、どうやら異なるらしく首を横に振られてしまった。

他の候補は何かと思考を巡らせ、次の案を口に出す前にパインコーンの口は言葉を紡いだ。

 

「その……ドクター、私の部屋で寝ませんか?」

 

やけに罪悪感で潤んだ瞳に見つめられて、私はただ狼狽える事しか出来なかった。

その狼狽えを如何受け取ったのかはわからないが、パインコーンは慌てた様子で言葉を続ける。

 

「あ、え、いや、その……空調が壊れて寒いんじゃないかと思って……だからですね、あったかい部屋で……寝た方が良いんじゃないかって……」

「そう、ありがとう。でも、流石にオペレーター個人の部屋にお邪魔するのもな……」

「だめ……ですか?」

 

力の抜いていた手を取られ、両手で握りしめながら潤んだ上目遣いで見つめられてしまえば、自らの理性に任せた拒否の言葉をこれ以上紡ぐことはできなかった。

 

「いや、ありがとう。悪い気もするけど、お邪魔させてもらうよ」

「えへ……ありがとうございます。じゃあ、行きましょう?」

「あ、いや。寝間着だけ持っていくよ」

「わかりました。ここで待ってますね」

 

ぽわぽわふにゃりとした笑みに当てられたことを自覚しつつ、寝間着を雑に紙袋に突っ込んで扉を出る。

心の内にふと芽生えた疑問は、楽し気に揺れるパインコーンの冠羽にかき消された。

 

「えへへ……行きましょう。ドクター」

「そうだね。行こうか、パインコーン」

 

夕方の少し袖をつまむだけのころと違い、しっかりと手を握ってくれた。

どこかそのことに安心感を覚えながらパインコーンの案内についていく。

時折こちらを振り向いてはにへらと、柔らかい笑みをこぼす彼女につい見惚れてしまう。

そういえば、と彼女に疑問を投げつける。

 

「パインコーン、1つ質問なんだけどさ」

「はい?なんですか?ドクター」

「パインコーンは私の性別どっちだと思ってる……?」

「えっ、えっと……声は中性的ですし、体格は服装でわからなくて……何となく女性だと思ってましたけど、違いました?」

「いいや、あってるよ。もし私が男性だと思ってたら、大変なことになってたしね」

 

私の言葉を受けて、パインコーンがはたと立ち止まる。

顔を真っ赤にして俯いてしまっている。

 

「どうした?パインコーン。大丈夫?」

「だ、大丈夫です!行きましょう!」

 

そう言ったきり勢いよく歩き出してしまう。

何かに気付いたようだったが、いったいどうしたのだろうか。

のんびり彼女の後を追いかけていく。

 

 

◇◇◇

 

 

やっとのことで追いついたのは、パインコーンの部屋の前だった。

何処か申し訳なさそうにする彼女が印象的だった。

彼女の謝罪を受け入れ、自室に案内される。彼女の自室は、見慣れぬ家具が多い。

どれも木製であるようだから、彼女の自作だろうか。私の自室よりも、部屋主の色が強い部屋だった。

暖房をつけていたのか、気持ち暖かい部屋だった。

 

「さて、着替えてきちゃうから洗面所を借りても良いかな?」

「うぅ、いいですよ……」

「ありがとう」

 

どこか意気消沈気味のパインコーンを尻目に洗面所へ入る。

まず、フードの下の変声機の電源を落として外す。

そうしたら服を脱いで、持ってきた寝間着に着替える。

変声機を外したことで別人だと疑われないか若干の不安が募るが、頭を振ってなかったことにする。

その時、ふと視界に鏡が映った。

そこに映し出されたのは美人とも、可愛いとも言いにくい中途半端な顔。

毛先だけが浅縹色の真っ白髪に、真っ赤な瞳。

ロドスでも中々知る人の少ない、(ドクター)の素顔。

パインコーンに嫌われないといいけれどと、思考が逸れつつも洗面所から出る。

 

「ごめんね、パインコーン。洗面所借りちゃって。」

「ドク、ター……ですか?」

「うん、そうだよ。普段とは声も口調も違うから違和感強いと思うけどね。」

「いえ、その……とっても綺麗でびっくりしちゃいました。」

 

パインコーンは彼女のベッドに腰かけて、私の事を待っていたようで。

扉を開けるとともにこちらに勢いよく振り向いてきた。

彼女の反応を見るに、嫌われてはいないようだ。良かった。

 

「わざわざ部屋借してくれてありがとうね、私はそこのソファーで」

「ダメです。普段から忙しくてまともに寝れてないんですよね?」

「う、そうだけど……」

 

声を遮るようにパインコーンの意見が飛んでくる。

余り休めていない事も、秘書として長いパインコーンには見抜かれていた。

そう言えば、さっき鏡を見た時に随分と隈がひどかった気がする。

 

「ですから、こっちに来てください。」

 

彼女がポンポンと叩いて示すのは彼女が普段使っているだろうベッドだった。

どこか不安気に、どこか期待に満ちた双眸がこちらを射抜く。

少しのため息と共に彼女の隣に座る。

その時、力強く腕を引っ張られる。狙撃オペレーターと言えど、前線で働いているオペレーターだ。

私なんかには抵抗も出来ず、布団の中に引きずり込まれてしまう。

 

「パインコーン……?」

 

私の問いかけには答えず、私を押し倒したパインコーンはごしごしと私の胸に顔が擦り付けた。

少し起き上がったと思えば布団を被り、リモコン操作で部屋の灯りを消した。

彼女が広げた羽が体をそっと包みこむように動かされる。

私の隣に収まったパインコーンが囁くように言う。

 

「おやすみなさい。ドクター」

「おやすみ、パインコーン」

 

満足げに頬擦りされている感触が体を襲う。

不思議と全く不快でないそれに心を任せ、ゆっくり、ゆっくりと眠りに落ちていった。

 

 

◇◇◇

 

 

目を覚ます。今日までに終わらせないといけない仕事を朧に思い返していると、懐に潜り込んでいるパインコーンが身動ぎをし始めていた。

ぼんやりと目を開けたかと思えばこちらを向いてへにゃりと笑みを浮かべる。

そっと腕を動かして彼女の頭を撫でれば、寝る前にそうしたように胸に顔を擦り付けてきた。

それに不快感を覚えていない自分が、思った以上に彼女に絆されていることを漸く自覚する。

なるべく優しく、驚かせないように声を掛ける。

 

「おはよう、パインコーン。よく眠れた?」

「んぇ……えっと……ドクター……? なんで……」

 

未だうとうとしているのか、半分しか開いていない眼でこちらを見つめている。

眼が覚めていないのか、情報を処理しきれていないのか、あるいはその両方か。

言葉は途切れ途切れで普段以上にぼぅっとしているようだった。

無理に起こそうとせず頭を撫で続ける。気持ちよさそうに目を細めるのが可愛らしく、撫でる手が止まらない。

徐々に眼が覚めてきたのか、こちらに声を掛けてくる。

 

「あ、の、ドクター……」

「どうしたの?」

「な、なんで……」

「やだなぁ、パインコーン。あんなに熱心にお誘いしてくれたのに」

 

惚けていたパインコーンの顔が、私の顔をみて徐々に紅潮していく。

その紅潮が頭のてっぺんまで来たところで、つい吹き出してしまう。

 

「冗談だよ。昨日はありがとうね。おかげで寒い夜を過ごさなくて済んだよ」

「そうですか、なら……よかったです。その、ご迷惑でしたか?」

「いいや、本当に助かった。また今度頼みたいくらいだ」

「…………そろそろ起きなきゃですね。」

 

パクパクと口を開閉した後、パインコーンはどこか苦い笑いを浮かべながら答えてくれた。

彼女と共にゆっくりとベットから降りる。

昨日と同じように洗面所を借りて顔を洗ってから服を着替えた。

真っ黒なマスクをつけて、変声機の電源を忘れずに入れる。ついでに端末で今日の予定を確認しておく。

 

「パインコーン、貸してくれてありがとうね。」

「不思議ですね、本当の声とは違うのにどこか聞きなれてるんですから」

「まぁ、自分を守るために変声機を使ってるからね」

「そうだったんですか…………」

「ま、普段から秘書として頑張ってもらってるからね、どこかで教えようとは思ってたんだけど。中々機会がなくてね。」

「ありがとうございます。その、いつか教えてくれようとしてくれてただけで嬉しいです。それに、教えてくれましたし。」

 

違和感にみちた表情をにへらと笑った彼女に笑い返す。

そのまま、片手に持った携帯端末を確認しながら、今日の予定を伝える。

真面目な表情になって予定の連絡を聞いてくれたパインコーンは一通りの説明が終わった後一つ質問をしてきた。

 

「えと、今日は午後からなんですか?」

「空調修理が昼前位になるって連絡があったからね、それまではゆっくりしてていいよ」

「そうですか……わかりました。じゃあ、お昼休みが終わったら執務室の方へ向かいますね」

 

すこし悲しげな表情を浮かべたパインコーンも、すぐに気を取り直して了承の言葉を飛ばしてくれた。

手袋に包まれた手で彼女の頭を撫でる。布一つ離れただけの、いつも通りの感触なのにひどく遠く感じる気がする。

少し名残惜しさを感じながら手を離して、声を掛ける。

 

「じゃあ、また昼頃に。ありがとう、久々によく眠れた気がするよ。」

「えへ、ドクターが休めたなら良かったです。」

 

屈託のない笑みを浮かべた彼女を背にして部屋を後にする。

手には着替えの入った紙袋がある。普段、1人で眠っている時よりもリラックスできた気がする。

もしかしたらと芽生えた感情に蓋をして、クロージャが修理をしようと待っている執務室へ向かった。

これは、きっと(ドクター)が抱いていて良い感情ではないのだから。

 

 




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