なんとか書き上げましたが…
「が……」
龍の腹に深い傷が出来る
名刀は容易く鞘を切り裂き、防刃であろう服すらも切り裂いた。
そして、膝立ちだった龍が力なく地に伏した。
『刻静寂』も手から落ちた
「は、はは。斬っちまった…。違う、違うんだ龍。俺は…」
倒れる前に見えた深い傷。
人を殺すってこういうことか?
こんなに血を……
しかし、龍の体からは一滴も血が流れていなかった。
過る千紗
「ま、さか…お前も紫紫色金の使者だなんて」
「違います」
聞き覚えのある声。玲愛だった
玲愛は俺に近付きながら説明を始めた
「『刻静寂』、島津家最高の刀は毒がありますわ。それは麻痺毒。
あまりに強力な麻痺毒は斬りつけた相手の流れ出る血を止め、感覚を麻痺させ、意識を消す。
斬られた対象は気がつくまで、まるで時間が止まったように感じる。
だから『刻静寂』」
「ってことは龍は?」
「安心してください。島津龍は生きています」
いつの間にか、伏した龍の側にマリアがいた
「お前ら、なんで?」
「あんな大爆発、来ないわけないですわ」
「言い付けは言い付けですが、今回は特例です」
そうか、ありがとう。
そして、良かった。龍が生きてて
我を忘れてたなんて言い訳にしかならないけど、殺していなくて良かった。
「お疲れ様です。これ、飲み物ですわ」
「ああ、玲愛。ありがとう」
良かった、良かった。
玲愛から受け取ったカバーのしてあるペットボトルに口を付けようとした時、マリアに横から取られた
「なにするんだマリア」
「玲愛さん、まずは貴方からお飲みになって下さい」
「何を言ってますの?それは一真さんのですわよ?」
マリアから返されたペットボトルを受け取った玲愛は、再び俺に渡す。
「ッ!?一真様『下がって』!!」
マリアのステルスによる音圧で体が吹き飛ぶ。
そしてマリアは玲愛のペットボトルを持っていた左腕をナイフで切り落とし、腹も同じナイフで切り裂いた。
「玲愛ぁ!!」
倒れた玲愛の体。
龍とは違い、傷口からはおびただしいほどの出血。
「マリア!!下がれ!!何をしているんだ!!」
マリアは怒声を無視して、足元の『刻静寂』を握りしめた
「寄らないで下さい。屑鉄」
「ふふっ…」
倒れた玲愛は頬を緩め、笑みを溢しながら立ち上がった。
「くふふ、あははっ!!良く分かりましたわね。操り人形」
斬られた玲愛は笑っていた。傷口から血を流しながらも笑っていた。
「玲…愛?」
「どうかなさいました?犯罪者モドキ。ふふふ、本当に愉快ですわ
貴女がいなければもっと愉快でしたのに」
「それはありがとうございます」
マリアを睨む玲愛。それはマリアも同じだった。
「待て!!、どういうことなんだよ!!」
「一真様、彼女…といって良いのか分かりませんが、あの出血は通常なら気を失うほどです。ですが彼女は笑っている」
「まさか…人じゃねぇのか?」
リミットアウトのおかげで回転の早い頭を回す。
「あらあら、ご名答ですわ」
「玲愛。お前はなんなんだ?」
「てめえが……屑がレアって呼ぶんじゃねえよ!!お付きの女がいなけりゃなんも出来ねぇ雑魚がよぉ!!」
口調が変わる。口調すらも…
「れ、玲愛?」
「お前の耳は飾りかよ?オレは玲愛じゃねぇ。クレアだ!!『クレア・アレキサンダー』だ」
アレキサンダー…
アレクサンドロス大王の末裔か?
「ヤクザも所詮、組から逃げたクズだから役にも立たねぇし。せっかく情報横流しにして武偵を付かせたのに、たかが超偵にビビってよ」
「まさか……はなから全部お前が」
あの黒服達も、武偵も、龍すらもアレキサンダーの…
「挙げ句に、女の為に逃げ出したAランクの馬鹿を使ってもこのザマ。笑えるぜクソが!!」
気を失っている龍を蹴り飛ばすアレキサンダー
「まぁいい、必要な情報は貰った。武偵の真似事も終わりだ…
次の標的もあるからな」
全部、全部…
「全部お前かよアレキサンダー!!」
「今更だろ?」
「全部嘘だったのかよ」
「ああ嘘だ、お前の強さ以外は全て計算通りだからな。
お前は弱すぎる。ステルス使って只の武偵と同じ…警戒して損ヲ………」
アレキサンダーの額に『刻静寂』が突き刺さっていた。
「一真様を侮辱しないで下さい。貴女のほうがよっぽど屑ですので」
「おいオい…セっカちだな……まぁイイ。ツぎは殺スからナ、操リニんギョ……う」
パン!
何かが弾けた音と共に、アレキサンダーが倒れた。
「遠隔操作のロボットだったのかよ…」
「ええ、それよりも一真様は優那様を回収してください。私は島津龍を回収します」
「そうか、この臭い。アレは血じゃなくてオイル。
それにあのペットボトルから出た液体に触れた地面が焦げて煙を上げている。
何から何まで…完全に殺る気だったのかよ」
血のような赤いオイルからある程度離れると、アレキサンダーから小さな炎が上がり、瞬く間に燃え広がっていった。
「暑い…な…」
アレ?意識が…。
そうか、限界を…超えたか。
そのまま抱えた優那を下ろし、俺の意識は無くなった。
意識が戻る。
白い天井、よくある病室の風景だ。
「久しぶりの再開がこれってある意味武偵っぽいな」
そう聞こえた方を見ると、似合わない白衣を着た金髪の男が立っていた。
「凛、か。」
それは蓮井凛だった
「お前の入院の頻度高いな。東京行ったら死ぬんじゃないか?腕の立つ救護科は1人しかいないしな」
「1人?」
「ああ、矢常呂先生っつー有名な先生だ。昨日偶然ここにも来ていてな、島津龍って奴の手術を見たんだが…度肝抜かれた」
「龍!?無事な…うぐぅ!?」
体を起こそうとするが、頭に体験したことがない痛みがした。
「止めろ馬鹿。お前が今のところお前が一番重症なんだぞ」
「龍は?腹が切れてるはずだ……それよりもか?」
「ああ、お前は4月までベッドの上だ。島津は再々来週か来月迄には完治する、切り口が綺麗だったしな」
流石名刀の『刻静寂』……そうだった、アレをしなきゃな
痛む頭をおさえ、頭に付けている氷のうを下ろして上半身を起こした。
「ここに来て何日経った?」
「3日だな、」
「思った以上に情報が錯綜しているな…。
凛。紙と何か書くものあるか」
「あっても渡すか!お前脳が痛んでるんだぞ、傷こそ無いが…考えるのは禁止だ」
「それは困る。どうにかならないか」
「お前今高熱出てるんだぞ?それに、その熱は3ヶ月しなきゃ治らない。その間は絶対安静!!」
「しかしだな…」
「分かってるよ、お前のしたいことは。優那ちゃん、一真起きたよ」
凛が扉を見ながらそう言った…
するとガラリと病室のドアを開きながら、丈の短い着物を着た少女。優那が入ってきた
途端に俺は目を背けた。
俺に、優那と話してはいけない。優那を捨てたから
「俺は出ていく、身内同士の方がいいだろ」
「ありがとうございます蓮井様。
兄様。お話があります」
「俺はお前と話す権利はない」
「兄様。私の今の名前は命優那です」
みこと?なんで姓が?
「私はここ半年の記憶は飛び飛びになっていて、正直余り思い出せません。
でもその中でも兄様と龍の声が聞こえました。多分そのおかげで私は立ち直れました。
だから…、今回の事件は全部私が背負いました。私が龍を誑かして刀を奪わせて、兄様と引き合わせて、あの山で戦わせた。その罪で私は菅原家から勘当扱いになりました。
でも、秋月マリアさんと島津義治さんと夏希さんと時斗さん。この四人と義母様の働きかけて下さったおかげで勘当で済みました
だから、兄様に最後に1つだけ言わせて下さい。
今までありがとうございました。千紗お姉ちゃんも喜んでくれてます」
優那、違う、優那は悪くない。勘当なら俺がされてもいい。
「兄様、笑って?千紗お姉ちゃんはいつも言ってたよ。笑ってる時の一真君が一番大好きって。
大丈夫です、義母様から自立するまでのお金は貰いました。料理だって出来ます。
だから……
今までお世話になりました。私は兄様達が大好きでした」
そうして優那は会釈して去っていった。
俺には、優那を止めることは出来なかった。
なんと引き留めていいか分からなかった。
顔を合わすことすら出来ず、涙で滲む視界にはガラスに映った儚げな笑顔の優那をただ見ていることしか出来なかった。