亜瑠SIDE
依頼が来て3日が経ち、準備を整えた僕達は同時に潜入することになった。
そして相手は鉢柿組。
組長の鉢柿郷三郎を筆頭に、息子で幹部の鉢柿翔次郎、最年少であり女幹部である雨宮唯、そして配下十三名。
何より郷三郎は『剛拳の三郎』とも呼ばれるように尋常じゃない格闘センスを持ってるらしい
「……勝てんのコレ?」
「勝つのが目的じゃないって言ったでしょ?目的は裏金よ裏金、大分溜め込んでるらしいわよ」
「い、幾ら奪うの?」
「奪うなんて言わないの。脱税やらなんやらの金を納めてもらうだけよ、締めて500万円也」
「ご、ごひゃくぅ!?」
「そう500万円。それじゃ依頼開始ね」
そう言って師匠は何処かに消えた。
っつかマジで1人なの?
少々の不安を胸に抱えながら、頬を叩いて気合いを入れて商業マンション群の中のなんの変哲もない七階建てマンションに向かった。
まずはマンションの裏に行き、3階の開いている窓に向かって鉤の付いたロープを投げ入れる。
鉤は樹脂でコーティングしてあって、何に当たっても極力音がしないようになっている
おまけに狙っている窓は、数多く開いている窓の中でも三人しかいない女子の為の女子用トイレで、使用頻度は皆無(師匠調べ)
うん、完璧だ
「よし、とりあえず師匠のおかげで潜入成功っと」
そして誰もいない女子トイレに上半身をかけて部屋に入った。
「……いらっしゃい」
「お、お邪魔しま…す」
目の前には薄い水色の髪をした無表情の少女が銃口を向けていた。
「師匠ぉ、人いますけどぉぉ!!!!」
叫びながら入ってきた窓からロープを掴みながら飛び降りるが、左腕から全身に電流が走る。
なんとか意識を引き留め、ロープで振り子の様に動いて下の階の女子トイレにガラスを破りながら突っ込んだ。
すぐにその場で立ち上がりって、扉の上に乗って女子トイレの天井にある板をナイフで斬って、2階と3階の間にあるであろう通気用の小さな通路に出た。
通路の両端はファンが回っていて逃げ場はないがここなら暫くは安全なはず。
「はぁはぁ、スタンガンで助かった」
軽い痙攣を起こしている右腕に刺さっている小さな針を抜く。
「にしても、師匠がミスったのかな?いや、あの子が雨宮唯って人なら考えらんなくもないか。なんせ、十六人で百人単位の組とやりあってる組の幹部だもんね」
でも、これで一般の組員だったら…
「ないない、きっとあの子が雨宮唯なはず」
「……呼んだ?」
「へ?」
隣にはさっきの少女が座っていた。
なんで?。その言葉が口から出ることはなく、スタンガンにより僕は気を失った。
一真SIDE
亜瑠の師匠からの依頼をきいた時は驚いた。
俺は亜瑠の師匠である傭兵の森茜、森という姓なら織田さんにくっついている女の子が森蘭花という名前だったはずだが、森という名字はそれだけで人物を特定するほどマイナーな名前ではない。
兄さんに聞いても武偵は自分で調べろの一点張りで話にならねぇし…
「完全に手詰まりか。とりあえず保留だな」
「そうですね、今は目の前の依頼ですよ、一真様」
「マリアも教えてくれねぇしな」
「『武偵は自分で調べろ』です」
「いや、わざわざ声変えて言う必要ないぞ
ってか俺だけでやるんだろ?」
住宅街から少しだけ離れた一軒の家、粟野組組長の粟野吾郎宅で粟野吾郎を捕縛しながらマリアに確認した
「ええ、そうですよ」
「くそっ!?何なんだよ前らは!!」
「粟野悟郎だな?粟野組の『表』の組長で間違いないな?」
「な!?」
表という言葉に過剰な反応を見せる粟野。
「条件を出してやる。
お前の組の若頭の荒巻晋也と手を組んで三浦組を潰してやる、但しこの組を穏健派にすること。
お前の命を助ける、代わりにお前らの組の『裏』の組長を教えな」
すると粟野は押し黙った。
「沈黙か、なら別の事をきこう。『クレア・アレキサンダー』という名前に聞き覚えはあるか?」
「……俺は命が助かったらどうなる」
「数十年は服役してもらうことになるな」
「……家族は?」
「お前はそれなりに蓄えがあるはずだ、ならやっていけるはずだ」
「そうか…」
すると粟野はポツポツと話始めた。
「まず『クレア・アレキサンダー』という名前だったな。これについては聞いたことはない」
「そうか」
やはりそう簡単に事は進まないか…
「そして『裏』の組長だが、名前はハリアルド…」
喋ろうとした粟野は次の瞬間には身体中から血液を吹き出して死んでいた。
「な!?」
「一真様、下がって下さい!!」
マリアは壁に視線を向けていた
「お約束だな、秘密を喋った部下は殺されるっつーのはよぉ」
突然壁が砕け、老父が歩いてくる。老父は杖をつきながら腰を曲げており、とても壁を砕くようには見えない
だが人は見かけによらない、クレア・アレキサンダーの件で散々学習した。
「珍しいなぁ、この姿を見て更に警戒心が増す奴は。ざっと10年ぶりくらいかぁ?」
「知りません!名を名乗ってください」
「おいおい、久しぶりの旧友にそれはねぇんじゃねぇの?せっかく会いに来てやったのによぉ」
旧友だと?俺じゃないとするとマリアだが、どうにもマリアの知り合いではないらしい
「何を言ってるんですか、私は名を名乗って下さいと言ったのですが」
「堅いなぁ。いつもの崩した口調で構わねぇぞ?イントネーションも私じゃなくアタシだろう?」
「『黙れ』!!!!」
激しいステルスの音圧により家財道具や粟野悟郎の死体が吹き飛ぶが、以前老父は笑っていた。
「どうにも私と誰かを勘違いしていませんか?」
「してねぇよ。幾ら迫ってもキスひとつしてくれねぇ身持ちの堅ぇ秋月マリア。違うか?」
「『吹き飛べ』!!。一真様構えて下さい」
「言われなくても『大水球』」
マリアの一声で吹き飛んだ老父がいる場所を瓦礫ごとバランスボール程の水球で撃ち抜く
「おいマリア。本当にあの老父の事何にも知らないのか?」
「ええ。あんな乱暴な言葉使いの老父、記憶に残らないはずがありません」
「なら死んだ父親とか」
「ありえません。それは絶対にありえません。それにあんな父親、絶対にグレます」
マリアが珍しく心底から嫌そうな顔をした。
「おいおい痛ぇじゃねぇか」
「……おいマリア。何なんだよアイツは!!」
「落ち着いて下さい」
落ち着いていられるか。
なんで吹き飛ばした老父じゃなくて、目の前で血を吹き出して死んだはずの
粟野悟郎が立っているんだよ!!!!
「困惑してるなぁ?ハハハ。そうだそうだ、過去にあったマリアは今のマリアじゃなくて未来のマリアだったなぁ」
「訳わかんねぇよ!!『水槍』」
俺の掌から出た水の槍は粟野悟郎を的確に貫いた。
なのに平然と話し出す
「お前が愛しのかずくんか?」
「お前…、名を名乗れ」
「俺か?俺はハリアルド・ブラッド。ハーフヴァンパイアだ」
ハーフヴァンパイア?半吸血鬼?ファンタジーかよ畜生。
「目的は?」
「お前が俺を探してたんだろうがよぉ?」
「お前は超能力者か?」
「イエスだ。能力は他人の身体に乗り移れる能力と、水の超能力を持っている。どうだ?ハンデにしちゃ軽すぎるかぁ?」
笑みを浮かべながらそう話すハリアルド
不愉快極まりないが、今は素直に情報を引き出す。
「問題ない、後でじっくり吐かしてやる」
「一真様!!」
「ハハハ!!良いだろう、来い!!俺を楽しませろぉ!!」
「『水球』!!」
「そらぁっ!!」
お互いが放った水の球はぶつかり、周囲に水を撒き散らして消えた。
「おいおい、まさかこの程度か?」
「黙ってろ!!『水鋭槍』」
「柔そうな槍だなぁっ!!」
右手から出た鋭い槍は、ハリアルドの出した水の塊を貫けずに同化した。
「はっ。返してやるよ!!」
「くっ、『水壁』!!」
ハリアルドは同化した水を球体に保ったまま投擲した。
俺は水の壁で防ごうとするが、規模が違う。
「ぐぁっ!!」
壁ごと吹き飛ばされた俺はマリアに受け止められた。
「一真様、ここは私がいきます。まだ万全ではないのですよ」
「分かってるよ。でも俺は負けたくない」
「意地だけでは……いえ、一真様はそうですよね。分かりました、ですが協力はさせてもらいます」
マリアは懐から見たことのない形状、赤い派手な色の巨大な拳銃に半径50㎝は有ろうかと言う巨大な円形マガジン。
それは原型となった物とは似ても似つかない巨大さ。
そして重量は40㎏〜50㎏もある。
その『巨大ネイルガン』を片手で軽々と持ちだした
「さて、どこから磔にしましょうか?一真様をいたぶった罪は想いですよ」
ガシュンと大きな音を立てて放たれた巨大な釘はハリアルドの手のひらを貫き、手首から先を引きちぎった。