狂っている。
最初はそう思った。
ハリアルドは手首から先がない右手を見た後に左手の手首から先も食いちぎったのだ。
「これで均等だなぁ…ほら、俺を磔にすんじゃねぇのか?」
「コイツ、狂ってるのか?」
「一真様、少し後ろに下がって下さい。一丁じゃ足りないようですので…」
マリアは優しく微笑むと、胸元からもう一丁のネイルガンを取り出した。
「腐れ吸血鬼さん、恨むなら自分の体質を恨んでくださいね」
二丁のネイルガンは激しい光と轟音を撒き散らしながらハリアルドに飛んでいき、10秒ほど経った時には蜂の巣になったハリアルドが壁に磔になっていた。
「ぐふっ…」
「死ねないなんて不便ですね」
「ふふっ……あー全く不便だ…」
「一真様、捕縛しましょうか?それとも害するようなら…殺った方がよろしいですか?」
「…バカな事を言うな。俺たちは武偵だぞ、殺せるわけないだろう」
穴だらけの壁と吸血鬼を見ながら否定する。
何より吸血鬼なんてもの、殺し方自体しらない
「一真様は別ですが…まぁ良いでしょう」
「別?」
「いえ、気にしないで下さい。じきに御当主様から知らされます」
「なら良いが…」
「それよりも時斗様を呼んでくださいますか」
「兄さんを?わざわざ何で?」
「アレを捕縛してもらいます」
アレって…
「捕縛くらい俺でもやれる」
「危険は最小限で押さえなければいけません。それに私のステルスのG(グレード)では太刀打ち出来ない程の超能力者です。時斗様を呼ぶのが最善です」
「…わかったよ」
何で兄さんに頼らにゃならんのだ。そう思いつつも、マリアの判断が正しいのも分かる。
俺はマリアを越えるステルスを持っているが、奴はそれを上回る。いくら弱点属性と言えど厳しいだろう。
色々考えながら携帯を取り出し、電話帳から兄さんの番号にかける。
そして気付いた。
「マリア、圏外になっている」
「まさか?ここは多少離れているとは言え住宅街ですよ?」
「クックク。ハハッ!!馬鹿じゃねぇの?細工なしにこんな体で来るわきゃねぇっつーの!お前らは一切の電子機器が使えねぇ状態だぜ」
「EMP…ですか。違和感はそれでしたか」
「…構わないだろマリア!!俺が捕まえる。それで解決だ!」
「良くありません。それでしたら私が」
「いつまでも守られてばかりのつもりはない!!」
マリアの言葉を遮って言い放つ。
「『水鋭斬』」
俺が唱えると、壁に磔になっているハリアルドの両手両足に向かって四対の水の刃が飛び、両手両足を切断した。
「ぐあぁぁぁぁぁ!!」
「『水牢球』」
さらに水の檻でハリアルドを拘束する。
「これでいいだろう。マリア、ワイヤーを寄越せ。」
「いえ、それは私が」
「良いから!!」
「…はい、申し訳ありませんでした」
マリアから受け取ったワイヤーを持ちハリアルドに近づいた。
「残念だったな吸血鬼、お前を公務執行妨害、殺人、傷害罪で逮捕する」
そしてハリアルドにワイヤーを縛ろうと最接近した瞬間だった
突如ハリアルドを捕まえていた水が異様にうねりだした。
「言ったじゃねぇか。俺は、不老不死だと!!!!」
刹那、全ての水が何百もの針のとなって鋭く伸びてきた。
「しまっ…「一真様!!!!」…え?…」
服を襟を後ろに引っ張られると同時に、マリアが視界に入ってきた。
そして3本の太い針に貫かれた
「流石の主従愛だなぁ」
嘘だ。マリア
「おい、マリア!!大丈夫か!」
そして思い出す。
かつて3本の槍によって失った彼女のことを…
「マリア!!止めろ逝くな!!頼む…また、1人になるのは嫌なんだ」
「か、ずま様。敵から…目を離…しては、いけませ…ん」
「知るか!今はマリアだ、大丈夫だな、まだ耐えられるか?直ぐに病院に運んでやる」
今は敵なんて知らない。千紗の二の舞になんてさせるか
倒れたマリアを背負い、既に半分廃墟になった豪邸を出ようと駆ける
「行かすかよ雑魚ぉ?」
「邪魔を、するなぁぁぁ!!」
「テメェが蒔いた種だろう?」
「うるさい!!80%解じ」
「『言うな』……ゴホッ!?」
マリアのステルスによって言葉が遮られる。そして反動で血を吐いてしまうマリア
「マリア!!」
「助けてやろうか?」
「なんだと?」
こんなときまでからかいやがって
「マリアが俺の眷属になれば不死になる。ただ、テメェの記憶は全て消えて俺の奴隷となる」
「ぐ、クソが」
どうすればいい。今から病院なんて車使ったって間に合う距離じゃない。敵の妄言を信じるしかないのか?
「オイオイ一真。お前俺の弟の癖に覚えてねぇのか?半吸血鬼は眷属を持てねぇってことを」
突然聞こえた声、紛れもない。兄さんだ
「住宅街の癖にこの辺の電波状況が変だと思って来てみれば。お前がいるとはな、ハリアルド」
「ふん、貴様に用など無い!!失せろ!!」
「兄さん、ソイツを倒してマリアを病院に運んでくれ、まだ兄さんのステルスなら間に合う」
「お前は反省しろ、愚弟」
「がふっ!」
いきなり正面に現れ、鳩尾に重い膝蹴りを受けて力を入れる間も無く意識を手放した。
「マリア…死なないでくれ…」
「残酷じゃねぇかよ次期当主ぅ」
「お前に言われたくないな、水神。世界でも指折りのRランクが何遊んでいる」
「俺は暇なんだ。水皇が死んだ今、俺と争う奴が居なくてな」
「お前には銀髪の嫁がいると聞いたが?」
「ありゃ嫁じゃねぇよ。いや、妻にしてぇが出来なかったってとこだ」
「まぁ世間話はこれぐらいにしておこう。どうする水神?」
「はっ、今の俺は分が悪ぃからな。遠慮しておくぜ」
いつの間にか体が治っていたハリアルドは自らのステルスで5メートル程の水の鳥を作り、それに乗った
「せいぜい今を楽しめよトール」
そう吐き捨てたハリアルドは鳥と共に空の彼方へ飛んでいった。