その飛んできたモノが人だと気付いたのはすぐだった。
僕と橋田が吹き飛んだ時、僕と橋田以外に1つ違う唸り声が聞こえた。
吹き飛んだ後に確認するとそれは翔次郎だった。
「翔次郎さん!」
「うぐ、志摩武偵。唯は…」
翔次郎さんに言われて周りを見渡すと、ビッチ達が戦っていた場所には唯さんとビッチ達が倒れていた。
「ふん、手間取らせおって。だが翔次郎も花もまだまだじゃな」
「うるせぇよ。クソ親父」
「ふん。無様な格好で何を吠える。井上、いつまで呆けておる?女共を殺せ」
まさか!?
そう考えたが手遅れだった。
ビッチと戦っていた井上が拳銃を握り、唯さんを含む四人の女性を撃った。
しかしビッチ達三人は唯さんを庇うように立ち、その弾丸から身を呈して唯さんを守った。
「白川、由梨、加奈!!」
翔次郎さんの叫びもむなしく、三人は間も無く倒れた。
「落ち着いて!!翔次郎さん。出血量は少ないし当たりどころも悪くない、直ぐに病院につれてけばいい。唯さん!!動ける?」
「……うん」
「かなりキツいけど今すぐ三人を抱えて脱出して。そこの階段を使って!!」
僕は橋田が入ってきた扉を指して叫ぶ。扉を守っていた橋田は吹き飛んでいるから多分大丈夫。
「翔次郎さんは橋田と井上の相手出来る?」
「ああ、一応何度も模擬戦をしたから2対1でも足止め位ならできる。だが親父が、」
「安心して」
僕は倒れていた井上の部隊の1人から銃を三丁奪い両手で構える。
黒星(ヘイシン)の名前で知られるトカレフという銃。中国製のコピーが多いせいか比較的安価銃だったはず。正直銃の種類なんてあまり知らないけど、撃つのに差し支えはない
「僕がやる」
「ふっ。貴様が儂の相手か?片腹痛い」
「甘く見るな!!」
二丁の拳銃の引き金を引いた。走りながら何度も何度も。
「どこを狙っている小僧。全くもって当たらんぞ」
そうさ、知ってる。
一丁だけで撃っても当たらない時が多いのに投げ遣りな二丁撃ちが当たるわけないだろうね。
でも銃撃はあくまでも囮
「これだけ近づければ!!」
持っていた銃を投げつけ、殴りかかる
「小賢しいぞ小僧ぉ!!」
同じく叫びながら拳を振るう郷三郎。
勿論打ち合えば勝てない、体格差で言えば倍、腕の太さなんて三倍はある。なにより壁を砕く力なんてない。なら柔能(よ)く剛を制す。
ボーリングの玉よりも一回り大きい位の拳。
その拳を見切り、躱す。
「確かに当たれば致命傷だね。当たればね!!」
郷三郎の振り切った腕を掴み、逆上がりの要領で顎を蹴り抜く。
着地し、地面に手を着いて足の裏で僅かに仰け反った顎を渾身の力で蹴る。
遂にこの戦闘で初めて郷三郎の巨体は後ろに倒れた。
「更に!」
倒れた郷三郎の左腕を掴み十字固め。
「…甘いのう」
「え?」
郷三郎から声が漏れた。次の瞬間、僕は郷三郎の腕ごと持ち上げられ地面に叩き付けられていた。
「がはぁ!?」
「ふん、中々やった方ではあったが…やはりその程度だったか」
完全に緩んだ十字固めを解かれ、頭を鷲掴みにされる
「小僧。儂の仲間にならんか?小僧の腕なら儂を除いてこの中で最も強い。特別待遇じゃぞ?」
「……るよ」
「ん?なんだ?」
「喜んで入るよ……」
頭を掴み力が緩みはじめ、郷三郎の警戒心が解けてきた。
今だ!!
「んなわけないでしょうがぁ!!」
隠し持っていた拳銃を郷三郎の胸に撃つ。
「この距離なら外さない!!!!」
そして銃弾は郷三郎の胸に当り、
地に落ちた。
「え?」
確かに銃弾は郷三郎の胸に当たった。
でも貫かなかった。
胸の皮膚に当たって、銃弾はひしゃげて地に落ちた。
「残念じゃな小僧」
頭を掴んでいた力が強くなり、思い切り投げられた。
体が空を飛び、尋常じゃない衝撃が体を襲う。
だめだ。意識を飛ばしたらそれこそ殺されてしまう。
こんな所で殉職なんてゴメンだ
なんとか目を開くが体どうにも動かない
「ちっ、女共を逃がしてしもうたか。まぁよい、首謀者は翔次郎だ。翔次郎さえ粛清出来ればそれで解決じゃ」
「そういきませんよ組長!」
気付けば、橋田は郷三郎の胸と右腕に日本刀突き刺していた。
しかしまるで郷三郎はなにもなかったかのように橋田を殴りとばし刀を抜いた。
そして殴られた橋田はぐったりして動かなくなった。僅かに身体が上下しているおかげで何とか生きているのは確認できた。
そして郷三郎がこちらに一歩歩いた時に銃声が響いた。
しかし銃弾は僕と同じように貫かずに地面に落ちた。
「井上、なんのつもりじゃ?」
「組長。もう止めようましょう。こんなこと…花様は望んでません!!」
花様?たしか郷三郎も雨宮唯のことを花と呼んでいた。
それに井上は敵じゃなかった?
「花は関係ない」
「いえ関係あります。なによりあんなに優しかった奥方様はそんなこと望むはずがありません!!」
「確か井上、貴様はあの事件の生き残りじゃったな。そんな貴様が死ぬのは残念じゃ」
「目を逸らさないでください!花様も由花様も優しく強い貴方が大好きだったんですよ!!」
「黙れ!!」
井上も殴り飛ばされた。
でも分かった。
分かったからこそなんとしても止める。
吹き飛ばされた井上がここまで滑ってきた。
「ぐふっ……武偵、意識はある…か?」
「多分貴方よりは」
「これ、は奥方様から頼まれた、ことだが貴様に託、す。組長を、救って、く…れ」
それだけ言って井上さんは意識を失った。
意識を失った井上さんの手を握って答えた
「任せてよ」
やっと立ち上がって、郷三郎を見る。
ちょうど翔次郎さんと殴りあっていた。
「親父!気付けよ!!母さんがこんなことを許すかよ!!」「死者の許可など不要」
「このわからず屋がぁぁ!!!!」
翔次郎さんが渾身の力で殴りかかったが、郷三郎には受け止められた。
「貴様では儂に敵わぬ」
翔次郎さんさえもが殴り飛ばされ、壁に激突した。
「ほう、武偵の小僧まだ立つか」
「当たり前だよ、頼まれたからね」
「なら貴様にチャンスをやろう。今から1分だけ待つ、武器を探すがよい」
チャンス。
きっと郷三郎は僕のナイフ術は知らない。なら勝てる。
「おい武偵!!これを…使え」
「翔次郎さん!?」
倒れていた翔次郎さんが二本のナイフを転がせた。
「はぁはぁ。俺じゃ無理だった、でもお前なら勝てるだろ?」
僕はそのナイフを受け取った。
「一本はそこの橋田のナイフだ。ソイツも一応こっち側だからな」
「わかったよ。翔次郎さんにも見せてあげるよ。僕のナイフ術を」
二本のナイフを逆手に持って、郷三郎と対峙する
「さぁ1分だ。こい小僧!!」
「いくよ!!」
郷三郎に向かって走る。
それに合わせるかのように郷三郎は腕を降りかぶり、振り抜く。
僕は郷三郎の目の前で急ブレーキをかけて後ろに飛び、郷三郎の拳の勢いを殺しつつナイフを突き刺して掴まる。
振り抜いた拳が止まり、拳に刺したナイフを足場に郷三郎の頭に飛びつく
それを見た郷三郎はヘッドバットをする
それを跳び箱の様に飛び越えて四つ足で着地して、再び背後から飛び付き背後を取った。
「動くな!!首が吹き飛ぶよ」
「動きが変わったのう小僧。じゃが惜しい」
郷三郎は後ろに倒れた
そのせいで僕は潰されないように退かざるをえなかった。
「おや、案外早く退くのか?動けば首を飛ばすんじゃ無かったのかの?」
「分かってる癖にね、武偵は人を殺せないって」
「随分と不便じゃな!」
「なんてことは無いさ!!」
飛んでくる郷三郎の拳を躱す
だがいつまでもこのままでは持たない。
少し危険だけどアレでいくか
飛んできた拳をしゃがんで躱した時にナイフを刺す、すると振り抜く勢いで皮膚を裂き血が流れ出す。
逆から飛んできた拳は背後に飛び、先ほど刺していたナイフを引き抜く。
そしてそのまま郷三郎の脈を切り裂く。するとまた血が流れ出した
「チマチマと鬱陶しいわ!!」
「ぐふっ」
拳に集中していた僕は、容易く蹴り飛ばされる。
そしてだめ押しに瓦礫を投げつけられる。
「かわ、せない…ぐあぁ!!」
そして瓦礫の直撃をうけた僕の身体は限界を迎え、動かなくなった。
たった1つの不注意で、ここまで追い詰められた。
「く、そ…」
「ふん、失血による気絶を狙っていたようじゃが…これで終わりじゃ。奥の手を使うまでも無かったのう」
「任務、失敗か…」
「任務より自分の命を心配したらどうじゃ?」
「命、は多分大…丈夫さ」
「遺言はただの強がりか…」
「僕は…『任務を放棄』、する」
「しつこいぞ小僧!!」
怒った郷三郎は僕に拳を振るうが、拳は僕に当たらなかった。
何故なら―――
「詰めが甘かったわね、亜瑠」
僕には師匠がいるから
そこには郷三郎の拳を片手で軽く止めている、師匠が立っていた。
2時30分ほど遅れました。