ーーマジで唐突な話だけど、アタシには大好きな人がいる。
背が高くて、綺麗な瞳と髪色をしている年上の男の人だ。
いつから好きだったかといえば、まあ一目惚れだったわけだけど、同じ組織で過ごすにつれて外見以外のところもよく見えてきた。
例えば、振る舞いや言葉遣いなんかはすごく上品で王子様みたいで、しかも、責任ある組織の長だというのに新入りで、しかもほとんど役立たずのアタシなんかをよく気にかけてくれている。
何かを考えている時の横顔なんて、彫刻のように綺麗で胸が苦しくなる。
見つめれば見つめるほど愛おしい部分が生まれてくる。
…………でもあの人はきっと、アタシには振り向いてくれない。
自分で言ってて哀しくなってくるけど、そればかりは何となく分かってんだ。
あの人はきっと、何かが欠けてしまっている。
それが何なのかはアタシにはサッパリ分からないけど、それは確かだ。
そんな何かも分からない喪失を、アタシが埋められるなんて思えない。
でもだからって、何もせずに諦めるなんていうのもアタシの性分に合わない。
少しでも、アタシのことを異性として認めさせて、出来ることなら意識させたい。
その第一歩として、手始めに最高に美味しいバレンタインチョコレートを喰らわせてやろうという算段だ。
だがここで大きな問題がある。
アタシは料理がからっきしだ。
家庭科の調理実習なんて、何もせずに洗い物をしていた方が班の活動に貢献できていた。
そんなアタシがチョコなんて作ろうものなら、間違いなくこの世のものとは思えない劇物が完成する。
所謂ダークマターが爆誕する。
となると、協力者が必要になってくる。
それも、菓子作りにある程度精通している手練れの力が。
「ーーというわけで、チョコの作り方教えてくださいメルクスさん!!!」
2月14日の昼下がり、とある喫茶店の一席でスピカは相席に座るメルクスへ、ズガンという音と共に頭を下げる。
ちなみにこの音は勢い余って机に頭をぶつけただけだ、気にしないように。
流石に当日に頼むのは不躾が過ぎるか、なんて思いながらヒリつく額で恐る恐るメルクスの方に目を向ける。
すると、
「キハハハハ!! 面白い!! いいだろう!!」
メルクスは気持ちがいいほどの高笑いと共に快諾してくれた。
彼の言葉にスピカはガッツポーズと共に立ち上がる。
「ッッッしゃ! さっすがメルクスさん話が早い!!! ギルドのキッチン借りてるんで今すぐ行きましょう!!」
即断、即決。
こんな極めて雑な始まり方で、スピカの長い長いバレンタインは始まった。
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場所は移り、エーデルシュタインの調理室。
白乳色のエプロンとピンクの三角帽子のスピカの視線の先には、
「………それ私物なんですか?」
ハート柄とウサギがデコレートされたエプロンを身につけたメルクスの姿。
イメージに合わないにも程がある。
彼がつけてるエプロンは、こんなファンシーなものではなく、なんかヤバそうな毒物が書いてありそうなイメージだ。
だが妙に似合っているように見えなくもないのが不思議だ。
これも彼の人徳故だろうか。
「む、これかね? これはルナールクンがこの間プレゼントしてくれてね。 折角だから使っているわけだよ。」
「あ〜…成る程。」
確かにルナールとメルクスは仲がいい印象がある。
というか、ルナールに関してはスピカのアステルに対する気持ちと近しいものをメルクスに抱いている節がある。
でも、スピカと彼女は全然違う。
ルナールは積極的にメルクスと関わろうとしている。
それこそ、先ほどのエプロンのようなプレゼントを渡したりもしている。
だが、スピカはアステルに対して何も出来ていない。
いや、しようとは思っているが、いつも彼を前にすると頭が真っ白になって何も出来なくなってしまう。
自分にも彼女ほどの行動力と大胆さがあればなぁ、と本当に思う。
でも想いを伝えようと思っても、絶対に怖気付いてしまう。
遠回しなコミュニケーションだって、きっと厳しい。
だからせめて、今回をキッカケにもう少しマシになったらなと思う。
「……して、スピカクンはどんなチョコレートを作りたいのかな?」
「そうですね…イメージ的にはメルクスさんが去年作ってたカップケーキ、ですかね…。 材料はいちごチョコをベースにしたいです。」
「ふむ。 ワタシもレシピは覚えているのでそこは問題はナシ、か。 形はどうするのかね?」
「形…………形かぁ……。」
パッと頭に浮かんだのは、これもやはりメルクスが以前くれたホワイトデーのカップケーキ。
とても良くデフォルメされていて、スピカにそっくりだった。
だがそうすると問題もある。
・自分そっくりのチョコレートを渡す。
=自分の形のチョコレートを食べてもらう。
=アタシを食べて♡
的な意味で受け取られないだろうか。
それは……………まあ悪くはないかも知れないがいくらなんでも段取りをかっ飛ばしすぎだろう。
ならば、ここは無難に
「……ひとまず、ハート型ってことで…。」
顔を真っ赤にしながら、スピカは手元にあった大きめのハートの型を手に取る。
「……何故赤くなっているのかネ?」
「何でもないです!!! ほんっと何でもないです!!! さあさあ始めましょう!! あと他の型も少し借りますよ!!」
追及を強引に切り上げて、スピカは目の前の材料に向かい合う。
自分で買ってきていちごフレーバーのチョコ。
そしてボウルやヘラなとの調理器具が少々。
それらを前に、スピカは「ふっ…。」と小さく笑みを漏らす。
「ーーーーすいません初手から何も分かりません…………。」
スピカは膝から崩れ落ちる。
開始2秒で心が折れた。
目指すべき完成形は頭の中にあるが、それまでの行程が全く分からない。
下手に弄るとヤバくなりそうだ。
「う、うむ。 では先ず細かくしたチョコレートを湯煎するところからだな。」
「湯栓………?」
聞き馴染みのない単語をオウム返しする。
ゆせん、とはお風呂関係の何かだろうか。
でもここはキッチンだ。
お風呂の栓は関係ないはずだ。
この返答に、メルクスは珍しく苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……湯の熱でチョコレートを溶かす工程だ。」
「……あ! あのボウル2つ使うアレですか!」
「そう、それだ。」
料理動画で見たことがあるあの工程か、と頭の中で手を叩く。
それと同時にメルクスへの申し訳なさが心に芽生える。
こんな基本単語すら分からない料理初心者にこれから長時間付き合わせるなんて。
いつ嫌気が差してもおかしくない。
少なくともスピカなら速攻で見切りをつけるはずだ。
わざわざ貴重な時間を割いてくれる彼に報いる為にも、せめて作業だけは完璧にやらなければ。
そんな小さな決心を抱きながら、スピカはテキパキと湯を沸かしボウルでチョコレートを温める。
すると、ものの数分で甘い匂いと共にチョコレートが液状になり始めてきた。
「こんなもん、ですか?」
「うむ、いい塩梅だな。」
ボウルの中のチョコレートはすっかりとろみのある液体になっていた。
ヘラで掬っても、ダマも溶け残りも見当たらない。
さっきまで固形だったものが液体になるのは、何とも言えない気持ちよさがある。
それに、良い匂いがさっきからずっと鼻腔を刺激してくる。
もうこのまま冷やしても美味しいのではないか、と思っていたところ
「では、ここに隠し味に乳酸飲料を加えてくれ。 甘いだけではなく、酸味も出るはずだ。」
「りょ、了解です!」
流石料理上手は違う。
あらかじめ冷やしておいたらしい乳酸菌ドリンクを手渡してきた。
3分クッキングで見たことある光景だ。
それはそうと、勢いよく注いでしまわないようにスピカはプルプルと手を震わせながら慎重に材料を混ぜ合わせる。
薄いピンク色だったチョコレートからさらに色素が抜けていき、昇り立つ匂いも変わった。
甘味と酸味の組み合わせを考えた人には脱帽ものだ。
これで味の方は完成したはずだ。
なら次は食感。
「……メルクスさん、アタシクランチチョコが好きなんですけど、ああいうザクザクした食感を出すにはどうしたらいいですか?」
「…ふむ、ならば砕いた胡桃かライスパフを入れるといいだろう。 幸い、どちらも冷蔵庫の保存してある。」
胡桃にライスパフ。
その発想は全くなかった。
この助力がなければ、危うく米粒でも入れてしまうところだった。
それにようやく19年の人生で合点がいくことが増えた。
クランチチョコのあの食感はライスパフのものだったのか。
だがライスパフだと何となく俗っぼくなってしまう。
ならばここは、
「ならなんかお洒落なんで胡桃にしてみます!!」
既に砕いてある胡桃をチョコレートに混ぜ込み、ヘラを使ってよく混ぜる。
全体的に滑らかになってきたので、きっとそろそろ完成なのだろうか。
そんな意図を持って、メルクスの方をチラッと見ると、スピカの考えを汲み取ってくれたのか静かに頷いた。
バンの上にアルミホイルを引いて、さらにその上に型を置く。
そして、溶けたチョコをお玉で掬って型に流し込む。
溢れないように、変な形に固まらないように。
ハートの型と星の型にチョコレートを流し込み終わり、それらを冷蔵庫にshoot。
超exciting!!
「よし、あとはこれを冷やして完成だな。」
「ふい〜…疲れた…。」
汚れに汚れた食器の前でスピカは大きく息を吐く。
やった作業はあまりないが、ミス出来ないという緊張感から汗ぐっしょりだった。
「キハハ、料理に不慣れな中よく頑張ったぞ。」
「あざます…。」
本当に慣れないことばかりで疲れた。
こんなにマトモに料理をしたのは生まれて初めての経験だ。
だが、同時に得難い経験ではあった。
家出同然の形でこの島に来たスピカには、今更実家の母に料理を教わることはハードルが高すぎる。
「それにしても、マスターにはいくつチョコレートを渡すつもりなのかね? 星型のものを5つほど冷やしていたようだったが。」
「それに関しては後でのお楽しみってことで…。」
〜30分後〜
頃合いになったので冷蔵庫に入れてあったチョコレートを取り出してみると、
「…わぁ…!」
想像よりも綺麗な形でチョコレートは出来上がっていた。
大きいハートが一つと、星形のものが4つ。
特にハート型は薄い紅色で、本物のハートみたいだ。
料理初心者の作品にしては、かなりの出来栄えだ。
それもこれも、全てメルクスの助力あってのものだ。
スピカは持参していた小包に星型のチョコレートをラッピングして仕舞いこむ。
「メルクスさん、ハッピーバレンタインです! 日頃の感謝と、今日のお礼です!!」
義理とはいえ、最大限の感謝を込めてチョコレートをメルクスに手渡す。
意表を突かれたのか、メルクスは少し驚いたような顔をした。
「キハハハ、そういうことだったか。 有り難く受け取っておくぞ。」
いつもの笑い方をしながらメルクスはチョコの小包を受け取ると、椅子に席を下ろした。
窓の外を見ると、もう夕陽が沈みかけている。
急がなければ、ギルドが閉まってしまう。
「それじゃアタシ他の人にチョコ渡してきます!!」
スピカは慌ててチョコを全て回収して調理室を飛び出す。
「スピカクン。」
「…なんですか!?」
メルクスの呼び止めにスピカは走り出そうとした足を急ブレーキで止める。
今は1分1秒が惜しいのだが!
「…キミの想い、届くと良いな。」
「…………ですね。」
本当に、そうだったらいいな。
そう思いながら小さく笑みを浮かべながらスピカは部屋を跡にした。
〜side 紅砲〜
今日はエーデルシュタインのメンバーが全員揃っている日だ。
それはつまり、普段は揃うことが珍しい男性陣も全員ギルドに来ているということ。
今日に限ってそんなことになっているのは偶然か、それともスピカの日頃の行いが良すぎるのか。
何にせよラッキーこの上ない。
チョコを渡す前に誰も帰ってしまわないように、スピカはダッシュでギルド内を回った。
だが、中々見つかってくれない。
いろいろな部屋を回ったが、誰も見当たらない。
アステルともう1人はいる場所が大体分かっているが、他2人が見当たらない。
もうすぐ日が暮れる。
みんな帰ってしまうのではないだろうか。
困ったなぁ、と途方に暮れていたところ、
「あ、いたァ!!」
視界の先に紅い装束姿が見えた。
見違えるはずもない、紅砲だ。
「紅砲さん!!!」
「スピカか。 どうした、そんなに急いて。」
膝に手を置き、スピカは肩で息をしながら呼吸を整える。
ある程度落ち着いたので、怪訝そうな顔をした紅砲の前にチョコを差し出す。
「紅砲さん、これ! バレンタインチョコです!!」
「儂にか? …これは有難いな。 礼を言うぞ、スピカ。」
いつも無表情だった彼が固い笑顔だったが、確かに笑みを浮かべた。
そのことがなんだか嬉しくて笑顔になってしまう。
「おっす! 大事に食べてくださいね!」
出来ればもう少し話していたいが、今は時間がない。
そう言い残して、スピカは次の目的地に駆け出した。
〜side ブルーストーン〜
お次はブルーストーンだ。
彼は紅砲と違って何処にいるかは大体見当が付いている。
「やっぱここか。」
ラウンジの扉を開けると同時に強烈な酒気が漂ってきた。
この匂いの源を来年には呑める年齢になるのか、と考えると人間は変わるものだなと感じる。
部屋に入ると、机の上に空いた酒瓶や缶が大量に積まれていた。
さらに奥に進むと、青髪の大男が椅子に腰掛けていた。
「……いつから酒呑んでるんだよ……呑みすぎだろオッさん…。」
「おぉ、スピカか!!! 何か用か!!?」
スピカの小言を大声で掻き消したブルーストーンは尚も瓶の酒を喉に流し込んでいる。
あれだけ呑んだ形跡があったというのに、顔が赤くなっている様子もない。
全くこの人の肝臓はどうなっているのやら。
まあいい。
スピカはさっさとブルーストーンにチョコを差し出す。
「ほい、ブルーのおやっさん。 バレンタインチョコ。」
「おお! こんなオヤジにくれるのか!! ガハハハハ!!! 今夜の肴にさせてもらうぞ!」
チョコを受け取ったブルーストーンは、小包を机に置くと豪快に酒瓶を傾ける。
「いや普通に食べてくれよ…。 あとどんだけ呑むんだよ…。」
ウコンでもぶち込めば良かった、と心底思うスピカであった。
〜side マガネ〜
さあ最後の義理チョコ渡しだ。
ラストターゲットはマガネ。
いつもその辺をふらふらしてるはずだから、とりあえずスピカは走り回った。
すると、案外あっさり見つかった。
だが危ういことに、ギルドから帰ろうとしているところだった。
「お〜いメガネ!!」
いつもの愛称を叫びながら、スピカは出口まで走る。
「…マガネじゃ。 何の用け、赤いの。」
スピカの大声に、マガネもまたいつも通りの反応をする。
おまけにマガネの眉間にはいつもよりシワが寄っている。
きっと、これからカーバンクルに会いに行くところだったのだろう。
悪いことをしたな、と思いつつもチョコの小包を彼に差し出す。
「今日も辛気臭い顔してるからよ、バレンタインチョコやるよ!」
その行動に一瞬、マガネは驚いたような顔をしたが、小包を受け取るとすぐに踵を返して出口に向かってしまった。
「……………まあ、貰っとくけ。」
「おう! カーバンクルと一緒に食べろよ!」
スピカの言葉にマガネがどんな顔をしていたは分からないが、きっと満更でもなかったのではないだろうか。
うん、きっとそうだ。
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日没後、スピカはまだ薄らと橙色に染まる廊下でアステルを待っていた。
彼がいつも帰り道に通る通路で待機しながら、掌に『人』の字を書いて呑み込む。
これで通算7回目だが、胸の苦しさが消えるような兆しはない。
顔も熱くて仕方ない。
ドクドクと音がハッキリと聞こえるほど心臓が暴れている。
座ったり立ったり飛んだり色々な体勢を試したみたが、どれも効果はなかった。
ー遂に、本番だ。
今までの面々にチョコレートを渡す時は、こんなに心臓が暴れていなかった。
やっぱり、本当に好きなんだと改めて思い知る。
そんなことを考えていると、コツコツと靴が床を鳴らす音が聞こえてきた。
(ッ来た!! やばい…やばい…アタシ顔大丈夫かな…!? 髪型とか服装乱れてない!?)
身だしなみを気にしているスピカを他所に、足音の主は段々近づいてきている。
最後に確認しなくては。
手鏡で真っ赤になった顔を確認。
これはもう変わらないので、ヨシ。
服装の整い具合、ヨシ。
ちゃんとチョコは持ってる、ヨシ。
なんかもう色々、ヨシ!!
現場猫魂で覚悟をキメる。
大きく息を吐くと同時に、曲がり角からアステルか出てきた。
「ッア、アアアアアステルさん!!!! こっこ…これッ!! バレンタインチョコです!!! 受け取って下さいッッ!!!!!!」
爆ぜる鼓動をなんとか抑えながら、スピカは勢いよくチョコの小包を差し出す。
「えっ!? …あ、ありがとう。」
突然のこと過ぎたのか、アステルは面食らっているようだった。
それはそうだ。
曲がり角を曲がったらいきなり大声と共に贈り物を渡されたら誰だって驚く。
やってしまったか、と思いながら恐る恐るアステルの顔を見ると、
「ーーーありがとう、大事に食べるよ。」
穏やかなはにかむ笑顔で、応えてくれた。
その表情と言葉だけで、今日一日の努力が報われた気がした。
「〜〜〜〜ッッはい!!!!」
ー嗚呼、卑怯だそんな笑顔。
もっともっと、好きになってしまう。
「そ、それじゃあアタシは帰りますね!」
「うん、また明日スピカちゃん。」
ヒラヒラと手を振っているアステルを背に、スピカは廊下の先を曲がって彼の視界から外れる。
「…………はぁ〜〜〜! 緊張、したぁ…。」
スピカは大きく大きく息を吐き出し、背を預けた壁にもたれかかる。
緊張の糸が切れたのか、足に上手く力が入らなくて座り込んでしまった。
ーー彼に気持ちは届いただろうか。
自分の思いの丈の1割でも伝わっただろうか。
彼が今日貰った数ある中の一つだとしても、ちゃんと存在感を放てているだろうか。
ほんのひと時でもいい。
スピカのことだけを、ちゃんと見てほしい。
そんな身勝手な願いは、伝わったのかな。
そんな女々しいことを考えながら廊下の先に目をやると、視界の端に白い影が走っているのが見えた。
「あれ、ルナちゃん? 何しに行くの?」
そちらを向いてみると、小包を抱えたルナールが足を止めていた。
なんだか、贈り物を運ぶ妖精みたいで思わず笑みが溢れる。
「…………秘密。」
そう短く告げたルナールの足は、調理室に向いていた。
今あそこにいる人物は1人だけ。
ーーああ、そういうことか。
全てを察すると同時にあることに気が付いた。
「ルナちゃん!」
振り返ったルナールに、スピカは手を合わせる。
「ごめんね、メルクスさん一日借りちゃって。」
「…………。」
スピカの言葉にルナールは頬を赤くすると、小走りで廊下の奥に消えていった。
果たして彼女のバレンタインは上手くいくだろうか。
それはスピカには分からない。
その顛末は当事者2人だけの思い出であるべきだ。
「…さて! 帰るか!!」
渡すものは全て渡し切った。
帰った後、パールに今日のことを話すとしよう。
見上げた月はいつになく綺麗で、弧を描いていた。
キャラ設定違ってたらごめんなさい!!!