ラバウル六勇士 ~1944~ 戦場の軌跡   作:鷹と狼

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第9話 オアフの晩餐

 

 

 

西暦1943年 10月6日 早朝

 

ウェーク島近海にてアメリカ海軍の空母機動部隊が航行。空母エセックスの飛行甲板にて一人の黒人青年ことパトリック・フォードがスパナを所持、2機の胴体に鷲を描いた最新鋭戦闘機グラマンF6Fヘルキャットを油まみれでなりながら作業をこなしていた。

 

「んんっ……ふぅ~……」

 

「精がでるな、パンサー!」

 

「あっ!アイリッシュ大尉、五十嵐少尉。おはようございます!!」

 

飛行衣服を纏ったランスロー・W・アイリッシュ大尉とペアである日系人種のバッキー٠S٠五十嵐少尉が艦内から出てきた。

 

「いよいよだな、バッキー!日系人のお前が敵の日本人が搭乗する戦闘機を落とせるか?」

 

「いえ、……次は大丈夫!必ず戦ってみせます!」

 

昨日、アメリカ軍は反攻の一歩として小笠原諸島酉島の軍事施設の空襲を慣行した。ランスローの僚機としてのバッキーは初陣で、施設にいる同じ日本人を撃つのを躊躇っていた。

 

「五十嵐さん、……民族同士の戦闘がどの時代で繰り広げていますよ……かつての欧州対戦と今の大戦でも、白人同士の流血が……」

 

パンサーの言葉でランスローとバッキーは感づいた。

人類の有史大戦以来、有色人種の民族同士の戦いが相次いでいた。次第に肌と髪、目の色が違う民族の戦いが始まったのはローマ帝国やモンゴル帝国。イギリスによるアフリカ大陸の植民地化、阿片戦争もその例であった。

 

「パンサー……ありがとう!迷いがなくなった。」

 

バッキーは迷いが吹っ切ったのか、搭乗するヘルキャットに搭乗。アメリカ海軍の戦闘機部隊が向かう目標は、日本軍が占領しているウェーク島の空襲だった。

 

「ランスロー・H・アイリッシュ、出る!!」

 

「バッキー・S・五十嵐、ヘルキャット。出撃します!!」

 

ランスローやバッキーのヘルキャット戦闘機を始め、47機の戦闘機が空母の飛行甲板から出撃した。

 

「ランスローさん、バッキーさん。無事でいてくれよ……」

 

パンサーは飛行甲板の先端に居座り、二人が飛んで向かった空を眺めた。

 

夕暮れー、ウェーク島を攻撃した戦闘機部隊が帰投。

戦果は日本海軍の戦闘機部隊の全滅、アメリカ海軍の戦闘機部隊の損害はごくわずがだった。

酉島とウェーク島の空襲でアメリカ海軍空母部隊は勝利に酔いしれ、ハワイのオアフ島、真珠湾に帰投した。

 

真珠湾、アメリカ海軍基地。フォード島ー

 

空母部隊が基地に到着した頃、基地郊外でパイロットや整備員、空母乗員の友人、家族兄弟が歓喜しながら待っていた。その場にはランスローの友人、アメリカ海軍大尉PBYカタリナ機長ウィリアム・J・スパロウ。バッキーの弟、訓練生パイロットのトム・K・五十嵐が待っていた。

 

そして、整備員のパンサーは空母を降りても家族は居なかった。

 

「……はぁ……さて、どうするかな……」

 

パンサーはラッタルから降りる時だったー

 

「おぉーい、パンサー!!」

 

ランスローが手招きしながらパンサーを呼んでいた。

 

「大尉!?なんですか~?」

 

「今からウィリアムの家でホームパーティを始める。招待するから、お前も来い!」

 

「え……?いいのですか!?」

 

「いつも愛機のメンテナンスをしてくれているお礼だ。来い!」

 

「は……はい!!」

 

唖然としていたパンサーはラッタルから下り、ランスローに合流。そして4人はウィリアムが扱うジープに乗車。行き先はホノルルの住宅街、ウィリアムの妻のキャサリンが玄関で待っていた。

 

「ウィリアム、おかえりなさい♪」

 

「ただいま、キャサリン///」

 

「「「「 ………/// 」」」」

 

スパロウ夫婦が互いに抱き締めた時、4人は赤面してそっぽ向いた。その住宅の庭には何やら賑わいがあった。

 

「庭がちょっと騒がしいが、先客がいるのか?」

 

「えぇ♪あなたのお友だちが待っているよ♪」

 

「おぉっ♪」

 

キャサリンはパンサー達4人を庭に案内した。その庭では4人の先客が食事を摂りながら、スパロウ夫婦のエマとエミリーの双子の愛娘姉妹をあやしていた。

 

「「フィリップス!!」」

 

「「 ステラ!? 」」

 

ランスローとウィリアムの友人はアメリカ陸軍戦車部隊の一員で、日米のハーフ。フィリップス・W・エヴァンス大尉と乗員メンバーの一人、ネイティブアメリカのナバホ族のヴェン・タタンカ一等兵。

そして、フィリップスの妹。陸軍航空部隊のパイロット、ステラ・A・エヴァンス曹長。

同じ陸軍航空部隊、ステラに誘われた偵察隊員のマリー・熊井曹長。

ステラとマリーの友人であり、付き添いの医師、看護婦見習いのシャルロット・F・トラインも堪能していた。

彼らは別々のアフリカとニューギニア戦線で戦い、負傷してハワイの陸海軍病院で療養中。軽傷で早期退院して、途中に友人のウィリアムと数年振りに再会。訳があってウィリアムの家に誘われ、妹であるステラと戦車メンバーの退院したヴェンも誘ってくれる条件であった。

 

「久しいなランスロー!」

 

「久し振りだねバッキー、トム!」

 

ランスローは勿論、バッキーとトムは幼馴染みの関係で再会を喜んだ。そしてキャサリン主催のホームパーティでは室内から土台を持ち出し、土台の上に立った。

 

「皆さん!アフリカやニューギニア、中部太平洋戦線。そして病院での活動、ご苦労様でした。この激しい戦火の中で夫のウィリアムを始め、生き残った事を大変嬉しく思っています!戦争が終わるまで、再会して再びスパロウ家のホームパーティを始めます!グラスを持って下さい。」

 

パンサー達はドリンクが入ったグラスを手に取った。

 

「では、乾杯!!」

 

「「「 乾杯!! 」」」

 

スパロウ家の庭は陸海、看護婦と親と双子が飲み食い、中では日系人の兄弟と友人が互いの初陣と訓練で称え、3人の陸海士官は友人。ウィスキーが入っているグラスをぶつけながら騒いだ。

 

日米のハーフステラとフランス人のシャルロットは1936年ベルリンオリンピックの会場で知り合った欧州メンバーの1人、以降は文通しながらの交流。欧州でナチス・ドイツが宣戦を布告、大戦が勃発。アメリカへ亡命するために家族と脱出。客船で大西洋の航海時にうドイツ海軍のUボートの攻撃で沈没、シャルロットの両親は犠牲になり、彼女は一人になった。アメリカに到着してステラと再会するのは7年振りであったことを、親子は興味深々で訊き盛り上がっていた。

マリーは五人の両親が亡くなって、孤児。五十嵐家に引き取られ、兄妹同然に過ごした。

ヴェンは持参のインディアンフルートで奏でながら和みを出した。

その光景を見ていたパンサーは馴染めなかったのか、庭の柵に居座り、オアフの夜空を見上げた。

 

「馴染めない顔をしているな。ほれドリンクだ!」

 

陸軍の戦車兵、ヴェン・タタンカがパンサーの分のドリンクを持って近づいた。

 

「あ…ありがとう!」

 

「僕はヴェン・タタンカ。ナバホ出身で、戦車の通信士だ。」

 

「おいらはパトリック・フォード。航空機の整備員。パンサーと呼んでくれ!」

 

「パンサーか、いいあだ名だな!」

 

パンサーとヴェンは年と階級が同じであり、意気投合した。パンサーは戦時徴兵を受けて、少しでも生存制を高める為と除隊後に社会に馴染める様に整備員になった。

ヴェンは、ナバホの戦士。陸軍通信学校の講座で戦車の走行に惹かれ戦車兵に志願した。

 

黒人のパンサーが差別を受ける中で、温かく思いやりの人達に出会い、人生の中で賑やかな夜を過ごした。

 

「「 ん……? 」」

 

パーティで堪能していたバッキーは二人の違和感に気づいた。

 

「どうしたんだ…?パンサー、ヴェン…ってどこに行くんだ!?」

 

バッキーの声を聞き入れず、二人は庭の柵を乗り越え駆けつけた。

 

「…………」

 

「おーい!」

 

周囲は薄暗く、静かさが戻った。そのあとからバッキーが追い掛けて来た。

 

「どうしたんだ二人とも……?」

 

「いえ……誰かに見張られた気配がしたのですが……」

 

「見張るのは当然だ!」

 

「「「 !? 」」」

 

闇夜から煙草をくわえ、左腕の黒腕章に白字のMP(憲兵)を着けた陸軍女性士官が出てきた。

 

「陸軍の憲兵大尉……」

 

「この戦時の真っ只中、私の見張りが無ければつまらないホームパーティは出来ないよ!特にジャップが混ざっているパーティは!」

 

「何だと!?」

 

女性憲兵の言葉でバッキーは睨んだ。

 

「抑えて下さいバッキーさん!」

 

「そうですよ!あなた達日系人の立場が危ないですよ!」

 

パンサーとヴェンは彼を抑えて着けた。

 

「ぐ……」

 

2年前、日本海軍による真珠湾攻撃でバッキーとトム、フィリップスとステラ、マリーはアメリカ国内で日系人とハーフが危険視されている。彼ら親族等は収容所に容れられた。彼らは親族を収容所から解放するために陸海軍に志願した。

 

5人は陸海軍の教育で日系人共々差別を受けながら辛い訓練を耐えて、トムを除いて正規兵になった。

陸軍の憲兵大尉の発言でバッキーは苦虫を噛んでいた。するとー

 

「おいっ!憲兵の大尉!この日系人のパイロットは俺の大事な仲間だ。不適切な発言は、例え味方でも許さん!!」

 

「ふんっ!私はアリス・ミラー、貴様たちジャップどもの本性を見せたらその場で処刑する。」

 

ランスローが現れて、女性憲兵の前で口で言い返した。女性憲兵は鼻息を鳴らし、この場を去った。

 

そして何事も無く、ウィリアムの家族と仲間による最初と最後のホームパーティは終了。

 

数日後、ホノルル港。

 

「じゃあな、フィリップス!」

 

「日系人部隊を育成する教官の立場と言えども、身体に気をつけろよ!」

 

「兄さん、気をつけてね!」

 

「フィリップスさん、アンタの妹のステラ。この身に変えても守るぜ!」

 

「ふっ、バッキー、トム。ランスロー、ウィリアム、ステラ、マリー。ありがとう!」

 

そう、フィリップスはアメリカ本国に戻り、日系人の兵士を育成する教官に務める指示を受けた。そしてタタンカも、ナバホの通信士育成の助教を務めるのであった。

 

「ヴェン、気をつけてな!」

 

「パンサーも、手紙をくれよな!」

 

パンサーとヴェンは互いに手を取り合う中で、輸送船の汽笛が鳴った。二人は急いで輸送船に乗船、デッキに他の兵士が溢れる中で身を乗りだし、パンサーとランスロー、ウィリアムたちに手を振った。

 

「ランスロー、ウィリアム、マリー、ステラ。元気でな!!」

 

「バッキーさん、トムさん、そしてパンサー!!負けるなよ!!」

 

「……ヴェン!!」

 

波止場にいたパンサーが輸送船に向かって走り、それを見ていたランスローとウィリアム、バッキーとトム、ステラは追いかけた。

 

「「 フィリップス(さん)!! 」」

 

「兄さん!!」

 

「ヴェン!!戦争が終わったら、故郷に遊びに来い!」

 

「わかったよパンサー!!僕の方も、故郷のアリゾナへ、馬に乗ろう!!約束だ!!」

 

「あぁ、約束だ!!」

 

輸送船が太平洋の水平線から見えなくなるまで彼らは見送った。

これが、友人と兄妹が言葉を交わしたのが最後であった事、永久の別れだと誰も思わなかった。

数日後、アメリカ海軍基地にて空母エセックスに搭載する航空機、物資の搬入を行っていた。

 

「あと1時間、出航だ。」

 

「この荷物の搬入で最後です!」

 

「バッキーとパンサー、お疲れだな!それに……」

 

パンサー達が注視したのは、空母の飛行甲板に陸軍の戦闘機と爆撃機、大型飛行艇PBY-5カタリナが待機していたことだ。

 

「ウィリアム٠スパロウ少尉……」

 

「僕も、ランスローたちと南太平洋のポートモレスビーに前線配備になったからな。それに…」

 

「「 それに……? 」」

 

ウィリアムの言葉でパンサーとバッキーが傾いた時、艦橋の扉から二人の少女が艦内を見物しながら出てきた。

 

「この空母、凄いですわね~」

 

「うん、飛行機の格納庫は広いし…」

 

「秘密基地みたい~♪」

 

「ステラとマリーも前線に配備はともかく、シャルロットまで……」

 

「はぁ~」

 

ウィリアムは息を吐いた。軍病院で看護婦のシャルロットは、前線で負傷した人を助ける為に、自ら衛生部隊に志願した。

 

「まぁまぁウィリアム。最近の日本軍は攻める行動はなくなったから、敵からの空襲はないよ。」

 

「ランスロー!そんなこんなな保証はあるのか?」

 

「そのために、おれたち戦闘機パイロットがいる。」

 

ウィリアムはランスローたちに背をむけて呟いた

 

「制空権は、君たちに任せたぞ!」

 

「「 おう!! 」」

 

エセックスの汽笛が鳴り、波止場から多くの民間人が見送りに来た。中にはウィリアムの妻キャサリンと双子のエマとエミリー、バッキーの弟、トムの姿もあった。

 

「「 パパ〜!!がんばって~!! 」」

 

「ウィリアム、みんなぁ〜!!無事に生きるのよ~!!」

 

「兄貴〜!!ステラ〜!!しっかりなぁ~!!」

 

飛行甲板にいたウィリアムとバッキー、ステラは見送る彼らに手や帽子を振った

 

「キャサリン、エマ、エミリー〜!!いってきます!!」

 

「トム!!母さんを頼むぞ~!!」

 

「しっかりハワイを、キャサリンさんたちを任せたよ~!!」

 

5人はハワイが見えなくなるまで飛行甲板に居続けた。

そして、パンサーは配備先のポートモレスビーに到着するまで、ランスローやバッキー、ステラの愛機の戦闘機F6FヘルキャットとP-38ライトニング、ウィリアムのカタリナをメンテナンスを行った。

 

「……んん…」

 

「精が出ますねパンサー君。スパロウ機長のカタリナと陸軍のステラの愛機まで。」

 

「あ…シャルロットさん!!おいらは整備員ですので、みんなが生還出来るようにメンテナンスを……」

 

するとシャルロットが、彼のために差し入れのサンドイッチを渡した。

 

「行き先はまだ何日かあります。整備員のあなたのお身体を大事にしてくださいませ。」

 

「……シャルロットさん、ありがとうございます!」

 

励ましの言葉で、パンサーの片目から一筋の涙が流れた。

 

 

 

 




それぞれの任地に向かった彼らは、自身の運命を大きく左右するのであった。

パンサーが向かった先はニューギニアのポートモレスビー。44年から大きな激戦に発展することを、まだわからなかった。
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