7月下旬、空母部隊が日本の呉軍港に帰投。
再度霞ヶ浦航空隊に戻り教員に復帰、進次郎たちはパイロット育成の為に日々、教え子を指導した。
霞ヶ浦、滑走路ー
「なんだ、この着陸方法は!!幾ら引き込み脚が丈夫と言えども、脚が折れるぞ!」
「すいません、沖田教官!!」
「罰として飛行場5周!!」
「次、練習機に搭乗!」
「はっ!!」
毎日の様に進次郎は一人でも多くのパイロットの育成に励んでいた。だが、その育成するパイロットたちが悲劇の作戦に投入されることは、まだ、誰にも分からなかった。
8月後半、厚木小隊は複数敏腕の練習パイロットを引き連れて呉軍港に停泊、改装を終えた瑞鶴に離発着訓練を繰り返した。
瑞鶴 飛行甲板ー
「パイロットたちも段々と筋が良くなってきたなぁ~」
「進次郎っ!」
進次郎を呼んだのは桜井洋介であった。その顔は真剣な表情であった。
「桜井さん…?」
「………実は…大事な役目をやって欲しい」
「は…?…大事な役目とは…?」
「仲人だ。…俺の…結婚のな…///」
洋介は赤面して、略帽の鍔を掴み深く被った。
「なっ…///!桜井さんのっ!!」
「……すまんが…引き受けてくれるか…?」
「未経験の素人ですが、…喜んで引き受けます!!」
「ありがとう。」
そう言って、甲板を後にした。すると、今度は十三がやってきた。
「なぁ、進次郎!」
「はっ厚木教官!何ですか?」
「近いうちに、オレはエンゲ(婚約者)と式が近い、良ければお前に仲人をやって貰いたい。///」
「はっ!?隊長の…!?///」
「そうだ、本来なら新一郎にやって貰いたいところだが、あいつは戦艦大和の勤務で忙しく、再び南方に遠征らしいからな。素人でありながらも仲間であるお前にやって欲しい。」
「……はいっ!あの、隊長の縁結びはいつ実行するのですか…?」
「まだ未定だ。次の戦場に行く前に一刻も早く済ましたい。」
「……わかりました!!ですが、…桜井さんの結婚式の仲人も担うことになっています…」
「ん…あいつもか、そう言えば…マリアナでエンゲ(婚約者)が言ってたな〜。うん、実にめでたいことだ、奴の式には出席せんとな!!」
「はい!」
幾日が過ぎ、進次郎たち3人は休暇を取り、式場となる呉の海軍指定の旅館に赴いた。だがー
「「 なんだってーっ!? 」」
「は…申し訳ありません…こちらの手違いで指定日が…」
旅館の従業員の手違いにより、9月17日しか開いて居らず、十三と洋介の日にちが重なった。
「…って…ことは…」
「…ぐぬぬ……」
十三と洋介は互いに睨み付け、腰に携えていた軍刀を掴み、旅館の表通りに出た。
二人は軍刀を抜いて、その路上で決闘が始まった。
「少しは腕を上げたな洋介よ…」
「くっ……隊長…」
二人の光景はまるでどちらかが新撰組と浪人の決闘だった。彼らの周囲は野次馬が囲み、注目の的だった。
「(あわわわ…隊長、桜井さん~)」
この期間で付き添った進次郎も流石に手の付けようがなかった。
「「(次で決める!)」」
「(あ…)」
群衆の中から二人の女性が出てきた。
「「 なにやってんの!? 」」
二人の女性は手刀で十三と洋介の頭部を強打、気絶させた。
「「 がはっ!? 」」
「…あれは…神矢さんと…あとの女性は?」
現れたのは看護婦の神矢雪と看護婦の外套を着た女性だった。
「あの人は?」
「そこのパイロットさん、この十三さんをそこの旅館に担ってくれませんか?」
「は…はい!」
「お久しぶりですね沖田君、洋介君もお願いできる?」
「わ、わかりました。」
進次郎は雪ともう一人の看護婦、神山柚子の指示に従い、気絶した十三と洋介を担い、旅館に運び込んだ。
客室で二人は目が覚め、進次郎が状況を説明した。神山柚子に関しては厚木十三のエンゲ(婚約者)だったことに進次郎と洋介は驚いた。
「まさか、神山さんが隊長のエンゲだったとは…」
「…本当に…」
お茶を啜りながら式の訳を話した。その日以外の式の予定は無かった。
「困ったもんだ、このご時世だから困難だ…」
「ですよねぇ…」
十三は頭を抱え、洋介は片手で頭を支え悩んだ。
「…あの、非常に申し訳ないのですが…両方の式を挙げればいいのでは…」
「「「「 なるほど! 」」」」
進次郎の言葉に四人が注視して手をならした。彼らはやや不満気味であったものの、旅館の関係者に9月17日に二人の式を予約した。
9月16日、旅館。
「さぁ~お前らぁ~!!十三と洋介の独身最後の夜でぇ〜!朝まで飲み明かすぞぉ~♪」
「「「 おぉ~!! 」」」
司会はトチローが務め、主役の十三、洋介の独身最後の宴会が始まった。
トチローが用意した酒は呉の地酒やラバウルとトラック諸島など外地で入手した洋酒で飲み交わした。
「あはは~うめぇ~♪…ヒック…」
「相変わらずトチローさんは宴会の酒の入手が上手いですね~♪」
「あたぼうよ!!俺っちは江戸っ子だから手が早いってんでぃ!!」
「だがな、…江戸っ子ってのは口だけ、生まれは横須賀出身だからな~…」
「「 …意外ですね… 」」
「うるせぇ~十三~…俺っちの親父は純粋な江戸っ子だ~」
6月17日、朝ー
「総員起こ~し~!!」
「「「「 ぎゃっ~!! 」」」」
洋介の姉、桜井志帆が入室。すりこぎ棒でフライパンを叩き起こした。
「こらっ!!いつまで寝ているのよあんたたち!!隊長さん、洋介!!主役は早く着替えてきなさい!!」
「「 はっはい〜! 」」
「…ひぃ~…トチコよりおっかねぇ…」
「うぅ、頭痛てぇ~(桜井さんの姉さん、相変わらずだ~)」
四人は志帆の言葉と行動を恐れ、二日酔いの頭痛でよろめきながら動いた。
十三と柚子、洋介と雪の結婚式がやってきた。
十三と洋介は第二種軍服、柚子と雪は花嫁衣装を着て参列。
出席したのは彼の姉の看護婦、桜井志帆と西澤澪。整備士のトチローなど知人が出席、仲人は進次郎が務めた。
「たぁ~かぁ~さ~ご~や~こ~の~う~ら~ふ~ね~に~ほ~を~あ~げ~て~」
進次郎が最後まで仲人を務め、十三と柚子、洋介と雪は契りを交わし、そして、この場で両者は夫婦となった。
「ぎゃっはっはっはっ〜!めでてぇめでてぇ~♪」
トチローは式場の真ん中で酒ビンを持ってはしゃいでいた。
「全く、トチローさんの身体の構造はどうなっているのやら…」
進次郎は豪華な配膳を口にしながら小声で呟い、十三と洋介が座ったところを見ていた。
「(おれも、いつかあの席に座る時が来るのだろうか…)」
「進次郎!」
「進次郎!」
「はっ、隊長、桜井さん!」
十三と洋介が自ら赴き、自身の徳利を進次郎のお猪口に注いだ。
「進次郎、仲人を務めてくれてありがとう。ほんの気持ちだ。」
「はっ、頂戴します!…隊長、桜井さん。おれもいつか、この結婚式で出席してくれませんか?」
十三と洋介はキョトンとした。するとー
「「 ……はっはっはっ!! 」」
二人は大笑いした。
「当たり前だ!!」
「すると、進次郎の相手さんは欧州のドイツに留学した豊田純子さんか!!」
「………///」
「お~♪聞き捨てならんな進次郎~♪」
洋介の言葉で進次郎は赤面した。トチローと進次郎は式の終わりまで飲み続けた。
「…うぅ…隊長~…トチローさぁ~ん…もう飲めませ~ん…」
「…ヒック…じゃあ…十三~洋介~…進次郎と…先に…基地に…帰るぞぉ~」
「…洋介~…十三さ~ん…柚子ちゃん、雪ちゃんとほどほどにね~♪」
「…柚子先輩~雪先輩~♪ごゆっくりしてくださいね~♪」
トチローは進次郎は酔い潰れた進次郎を背負い呉航空隊基地に帰投。
志帆と澪は広島の赤十字病院の寮に帰投した。
旅館に残った十三と洋介は、朝まで夫婦の時間を過ごした。この戦時でいつ、家族の命が尽きる前の一時をー
翌日、朝日が昇る頃、基地の前門に十三と洋介が帰投する。進次郎とトチローが二人を迎えにやって来た。
「進次郎、トチローさん!」
「ただいま進次郎、トチロー!」
「お帰り~十三、洋介!」
「お帰りなさい!隊長、桜井さん!」
四人は兵舎に戻り、今後の経緯を受けて任務に就いた。
9月23日、瀬戸内在泊の艦艇は映画撮影のために、参加。
訓練中の瑞鶴艦上でも撮影が行われた(他にも艦内の撮影で瑞鳳が、敵空母役で鳳翔などが協力している)。
厚木小隊も撮影に参加して、教え子の機体と共に艦艇上空を飛行した。
空母瑞鶴、食堂ー
「映画撮影の協力はラバウル以来ですね~」
「はっはっは!!そうだな、二度の撮影協力して役者の気分だ!!」
「と、言えども。恥ずかしいです~///」
「「ぷ…はっはっは!!」」
洋介の恥ずかしい言葉を聞いて、二人は大笑いした。
そして、進次郎は質問を変えた。
「あの…厚木隊長と桜井さんが式を受けて1週間。おれがこの戦争を生き延び、純子さんとの式に出席してくれますか?」
「「…………」」
「…え……?」
「当たり前だ!!」
進次郎の言葉で沈黙。その場にラムネを持ってきたトチローが赴いた。
「進次郎、オレたちラバウル六勇士は戦場で戦い、生還するのが鉄則だ!」
「はい!」
「お前の式には必ず、柚子と出席する!」
「オレっちも、妹のトチコと参列。旨い酒を持っていくぜ~♪」
「俺もだ進次郎。妻の雪とともに出席する。また、弟の勇介と澪さんの式にも参列を頼む。」
「……はい…皆さん!」
「うん、」
「それにな進次郎!新一郎と幸吉。虎雄、トチコとオレっちの式もわすれるな!」
「あぁ、そうだった!」
「「「………くっ…はっはっは!!」」」
十三と洋介、トチロー。進次郎は将来の式の約束を交わし、笑いあった。
広島、赤十字病院ー
「…勇介さん…」
「澪ちゃん?」
「あっ柚子先輩、すいません…」
「いいのよ〜♪それに澪ちゃんもいるの?婚約する相手が~♪」
柚子の言葉で澪は赤面した。
「なっ…///」
「うふふ~♪式には私の旦那と参列するわ」
「……はい!」
フランスの巴里、闇夜の郊外にて、一輛のパンターⅡがドイツに向けて撤退。
「「ん…?」」
「どうしたのでございますか?」
勇介と純子は空を見上げ、アリシアが気づいた。
「車長?純子さん…?どうか致しましたか?」
「いや、姉さんと兄貴はどうしているのかなとな…」
「すみませんアリシアさん。私も少しボーッと…」
二人は内心、母国にいる家族は勿論、想う人のことを考えていた。
いつか進次郎の式に出席することを約束した隊長の厚木十三と桜井洋介。
だが、祖国と主要人物たちの命運が分ける戦いが近づいた。