10月20日、迷彩塗装した瑞鶴を含む空母四隻の機動部隊が出航。
進次郎たち厚木小隊は大村基地から出撃、豊後水道にて瑞鶴に着艦した。
「ふぅ…」
「見事な手腕だな進次郎!」
「あっ、桜井さん!」
「この瑞鶴に乗艦するのは、4度目だな~」
「はい!」
洋介の言葉で進次郎は実感した。
初陣のソロモン海戦、南太平洋海戦。一旦本土に帰投した後でラバウル派遣の乗艦。マリアナ沖海戦で幾度の戦場で戦い、先輩パイロットの洋介と共に生き延びた。
「桜井、進次郎!」
「隊長!」
「俺は5度目だぞ!」
「「はっ、失礼しました!」」
進次郎と洋介は十三に謝罪した。
進次郎たちは飛行甲板で日が沈む夕暮れ、艦隊が沖縄-台湾近海を航行している海を眺めた。
「とうとう沖縄、台湾近海を航行してますね」
「あぁ…そうだな…」
「しかし10日前の沖縄と台湾が、米軍の奇襲を受けたそうだな…」
「隊長!」
「あっ…」
「……」
十三の発言で洋介は沈黙した。洋介の姉、桜井志帆は10月上旬、赤十字看護婦の関係で沖縄に派遣された。だが、10月10日の空襲により損害を受けた。
「…すまんな桜井…」
「いえ、…姉さんは大丈夫ですよ。あぁ見ても強運の持ち主です。ですが、一番気の毒なのが幸吉です…」
「そ、…そうだったな…」
「幸吉の故郷が…」
一番深刻なのが、ラバウルで共に戦った金城幸吉のもう一つの故郷が米軍空母の艦載機の攻撃に晒されたことだ。
国土と仲間の故郷を踏みにじり、台湾の航空部隊に引き続き、小澤治三郎提督率いる空母機動部隊は米軍空母機動部隊の殴り込みに出撃。
進次郎たちラバウルの仲間の夕食は飛行甲板で摂った。艦艇に接種する海原に光る夜光虫と瑞鶴と他の艦艇から漏れる舷窓の光り。
「………」
「どうしたんだ、進次郎?」
「隊長、空母搭載機の数が少なすぎます…それに…艦艇の舷窓がなぜ開けっぱなしなのか…潜水艦に発見されたら…」
だが、進次郎は四隻の空母の搭載に関してと、舷窓の灯りが漏れていることに疑問を呈した。
「…さっき小澤提督ら将官に聞いたが……我々は囮だ…」
「「 …囮…!? 」」
十三はラムネを甲板において今作戦の説明をした。先のマリアナ沖海戦、台湾沖航空戦の影響で航空部隊は壊滅に等しい被害を被った。
今回の出動可能な航空機として、空母艦載機、116機。比島滞在の陸海稼働機、各戦艦、巡洋艦搭載機、約600機。
対するアメリカ軍は1000機を越えていた。
この数では圧倒的差があり、その差を詰めるには敵空母を叩くか、空になった空母部隊は自ら囮となり、敵の攻撃を一手に引き寄せるということ。
その間隙を縫って戦艦など主力とする別動隊がフィリピンのレイテ島に上陸した米軍を攻撃するのだった。
フィリピンが、アメリカ軍に奪還されることになれば、日本と南方を結ぶ資源供給ルートは完全に断たれる。
石油を始めとする資源のない日本にとって死を意味する。
「そんな…」
進次郎の身体が震えた時、洋介が立ち上がった。
「戦おう…」
「「え…?」」
「隊長、俺は戦います!このフィリピンを守らねばなりません!日本の侵攻を抑え、そして、妻の雪を守り、弟がいつでも帰国できる様に戦います!」
「(桜井さん…)」
進次郎とトチローが注視した。
「はっはっは!!こりゃ洋介に先を越されたか!おれもだ。愛妻の柚子を守らねばな!!」
十三は洋介の肩を叩きながら大笑いした。その二人も結婚したばかりであり、意志も人一倍強かった。
「オレも、オレも戦います!日本と、ドイツにいる純子さんの為にも!」
「かっはっは!いいねぇ、パイロット組はカミさんと恋人がいてよぉ~」
その場にいたトチローはやや妬き気味でありつつ、立ち上がって格納庫へ向かった。
10月24日、11時30分。
「厚木十三、出撃する!!」
「桜井洋介、行きます!!」
「沖田進次郎、発進します!!」
瑞鶴から零戦16機、爆装零戦16機、彗星2機、天山1機(彗星と天山は誘導・戦果確認)が発進し、他三空母の32機と合計した攻撃隊はアメリカ機動部隊攻撃に向かった。
その途中、スコールが発生した空域に突入。何機かは編隊から誤落したが、厚木小隊と瑞鶴の部隊は離れなかった。
「『敵艦隊発見、攻撃に移れ!!』」
「『敵機来襲、迎撃せよ!!』」
「「『 了解!! 』」」
攻撃隊が攻撃態勢に移った時、敵戦闘機部隊が来襲した。
小隊の進次郎も敵機の迎撃に向かった。
「墜ちろ!!」
ダダダダダ ドカアァン
「よしっ!」
「『ガガ…後方に敵機…助けてくれ!!』」
「はっ…了解した!!直ちに向かう!!」
魚雷を投下した天山攻撃機に敵機が取り付き、知らせを聞いた進次郎が救援に向かった。
「やらせるか!!」 ダダダダダ ドゥン
「はぁ…はぁ…間に合った…そこの天山に告ぎます、この空域を離脱してください!!」
「『了解した!!』」 ギュイィィン
アメリカ空母を攻撃した爆撃機と攻撃機、戦闘爆撃機の爆弾と魚雷は至近弾以外、殆ど外した。
フィリピンから陸上の一機の爆撃機が空母プリンストンを撃沈した。
このアメリカ機動部隊の対決で空母艦載機と陸上機による最後の攻撃が終わった。
進次郎たちの小隊は1機でも多くの攻撃隊をフィリピンの基地か空母に逃がす為に殿を務め、多くの敵機と交戦した。
「(なぜ…あいつらが…マリアナで戦った連中がいないんだ…)」
十三、洋介はラバウル以前で戦ってきたランスロー、バッキー。進次郎は、マリアナのライバルであるトムの機体が飛んでいなかったと言った。
夕暮れ、至近弾を受けた空母エセックスの被害は軽微。
パンサーはその他メカニックマンと損傷を受けた本艦の応急措置を施していた頃、日本の戦艦部隊を空襲した部隊が帰投した。その中でランスロー、バッキー、トムは息を切らした。
「アイリッシュ隊長!バッキーさん、トムさん!…大丈夫ですか…?」
「…パ…ンサー…」
「くそっ!!」
応急作業で使用したバケツを蹴飛ばしたのは、イラついたランスローだった。
空母部隊を攻撃する部隊の護衛の任を命じられた彼ら小隊は待機したものの、偵察隊が発見せず、別動の戦艦部隊を発見。任務を変更して戦艦部隊を攻撃する指示を受けた。そして、戦艦部隊を攻撃する部隊を護衛の任務を受けて出撃、標的の艦隊に到達。だが、戦艦部隊の猛攻は激しかった。戦艦、巡洋艦による主砲の対空射撃、偵察隊の情報になかった護衛の航空機。だが、その護衛の航空機は艦艇搭載の水上戦闘・観測機。高速を誇るヘルキャット戦闘機ですら撃ち落とせず、逆に別の小隊の戦闘機と爆撃、雷撃機が落とされた。
ランスローとバッキーには見覚えがあった。あの、ラバウルで遭遇した機体であった。
そしてそれ以上に、巨大な二隻の戦艦。一隻に対して20以上の魚雷と爆撃を受けているにも関わらず、浮いていること。
「主力はどこだ…空母はどこだ…」
パンサーからの視点で、ランスローは右手を握り、歯噛みながら艦内に入ろうとした時だった。
「偵察隊の報告です!!敵空母部隊を発見しました!!」
「なんだって!?」
「…野郎共!!今すぐ全ての航空機のメンテナンスを終わらせろ!!」
「「「 おおっ!!」 」」
整備班長の指示を聞いたパンサーは直ぐに担当するランスローたち3人の愛機のメンテナンスに着手した。するとー
「おおーい、パンサー。手伝うよ!」
「え…?アイリッシュ隊長!?」
「俺もだ、ただじっとしちゃいられない性格だからな!」
「僕もだ、パンサーさん!」
身体がクタクタの三人は直ぐにパンサーと共に愛機ヘルキャットのメンテナンスを行った。
エンジンオイルの交換、燃料と機銃弾の補充。パンサーたちは油まみれになりながらも作業をやりこなした。
翌、25日早朝。エセックス飛行甲板には戦闘機と爆撃機、雷撃機が続々と格納庫から並べてあった。
「皆さん、ご武運を!!」
「ありがとう!ランスロー・アイリッシュ、出る!!」
「バッキー・五十嵐、出ます!!」
「トム・五十嵐、発進します!!」
パンサーは彼らが東の空から朝日が昇る日光を浴びながら大空へ飛んでいった。
エンガノ近海、瑞鶴の進次郎たち零戦9機が発進、直掩となるまた午前6時13分、爆装零戦5機、彗星1機、天山4機がフィリピンの陸上基地に向けて発進。
「厚木隊長、桜井さん!!敵機来襲!!」
「『とうとう来たか…』」
「『くそっ、空母を見殺しにしてたまるか!!』」
午前8時20分、アメリカ軍機約130機による第一波攻撃部隊が飛来。
たった九機の三個小隊、厚木小隊の十三と洋介、そして進次郎は倍以上の敵編隊に向かった。これが、日本海軍の空母艦載機による最後の戦いだった。
「おおっー!!」 ダダダダダ ドカアァン
かつて前線のラバウルから戦った六勇士の厚木小隊は一機、また一機の戦闘機と爆撃機、雷撃機を撃墜。海に落ちた時だった。
「『ぎゃあぁ…』」
「『刀マークの…』」
無線から悲鳴が聞こえた。善戦した別の小隊が全滅した。だが、全滅した小隊は後に小型艦艇に回収されて帰投した。
「…刀マーク…まさか!?」
「『進次郎、俺も行くぞぉ!!』」
「『二人共、待て!!』」
進次郎に続き、洋介と十三も小隊が全滅した空域へ向かった。
別方向から別動隊が来襲、瑞鶴など空母部隊を遅らせつつ、主要の空母と戦艦から新兵器のロケット弾を発射、次々と撃墜。何機か突破されて一発の爆弾が瑞鶴に命中した。
瑞鶴の飛行甲板にて、トチローが消火ホースを担い、消火に当たった。
「火事だぁ火事だぁ火事だぁー!!火を消せぇ~!!」
「班長、敵機来襲、雷撃機だ!!」
「てやんでぇっ!!これでも喰らえ~!!」
トチローはスパナを投げ、敵機の風防に当たり海に墜落した。投げたスパナはブーメランの如くトチローの元に戻ってきた。
「班長、すげぇ~」
「かっはっは!機械の盲点を付けばざっとこんなもんでい!」
上空ー
ダダダダダ ガシャッ カチカチ
「弾切れだ…」
「『こっちもだ…』」
「『へっ、オレもだ。当然、あちらの三機も弾が切れたんだろう』」
十三の言葉通り、交戦して、弾が切れたランスロー小隊は空域を離脱。
「『次の決着までお預けだな、ランスロー…』」
「「『 えっ? 』」」
「『何でもない。瑞鶴に着艦するぞ!』」
「「『はっはい!』」」
第二波の攻撃までは約1時間の時間があり、その間に厚木小隊の零戦の燃料、弾薬の補給を受け、再び発艦、艦隊の援護に戻った。
小沢機動部隊は囮の役目を果たすべく北上を継続した。瑞鶴の艦内では必死の修理を進めながら主力の戦艦部隊に敵部隊の誘導成功を連絡した。
第二、三波の攻撃部隊が来襲。空母部隊に止めを刺すかのように、瑞鶴と瑞鳳、千歳、千代田に爆弾と魚雷が命中して被弾。その中の千代田が艦隊から落伍。
13時頃、他の空母と艦艇が大破、沈没。そして、瑞鶴は14時前後、軍艦旗が降ろされ総員退艦の指示を発令された。
上空の進次郎たちはその中に、トチローの姿を確認し、短艇に乗挺。
14時20分、瑞鶴の沈没時に米軍の攻撃が止むまで上空を旋回、最後の最後まで援護しながら敬礼をした。
「…瑞鶴、…すまない…すまない…うぅ…」
真珠湾攻撃に参加した六隻の空母の生き残りである瑞鶴の最後は、栄光の日本空母部隊の最後であった。
進次郎が初陣の頃のソロモン海戦から共に戦った母艦が海中に没した。彼は海上の家であり、涙を流しながら心の底から謝罪した。
「『洋介、進次郎!これから基地へ向かうぞ!』」
「『はっ!』」
「隊長、どこの基地へ向かうのですか!?」
「『フィリピンのクラークフィールド、マバラカット基地だ!!』」
厚木小隊は残った燃料を配慮しながらマバラカット基地へ飛行した。
12時36分。サマール沖、栗田艦隊。戦艦大和上空ー
沖田新一郎中尉と金城幸吉二等飛行兵曹の零式水上観測機が対峙した敵護衛空母艦隊の砲撃を観測する。
大賀虎雄が扱う二式水上戦闘機が護衛しながら敵機と交戦した。
「また、一機…」
「『…っ!?なんだって!!新一郎さん、虎雄さん!』」
「「『 どうしたんだ幸吉! 』」」
「そ…それが…」
艦隊の旗艦大和からの連絡、反転命令が下りた。ブルネイ泊地に撤退した。多数の艦艇を失った連合艦隊は以後、組織的な戦闘は不可能となった。
だが、この激戦で十死零生、体当たり攻撃が終戦まで実用された。
5日間に及ぶ人類史上最大のレイテ沖海戦で、日本連合艦隊は事実上壊滅した。
生き残った進次郎は、暫くフィリピンのマバラット基地に駐屯するのであった。