1945年1月1日
「…次郎…進次郎!」
「…はっ…」
フィリピンの首都マニラ、商店街BARのテーブル席にて小隊は正月休暇。進次郎は疲れの余りか寝込んでしまい、先輩パイロットの桜井洋介が起こした。
「あぁ…桜井さん、…すみません…」
「なぁに、謝るな。あんな惨めな作戦で、おれたちの精神に負担が掛かるのも無理がない…ここで新一郎と虎雄。トチローとトチコさんとクリスマスと正月の親睦会をしたかったな~…」
隊長の厚木十三が助言しながらグラスのウィスキーを一飲みした。
BARの明かりが消え、再び点灯。照らされたのは舞台に立つ、赤茶色髪のフィリピン人の女性歌手がマイクを手にして歌った。
「~♪~♪」
進次郎は女性歌手の美声に痺れ、心を奪われひっそりと聴いていた。
「…いい歌だ…他の仲間に聞かしてやりたいなぁ~♪」
「…全くだ…」
進次郎たちの隣のテーブル席に、進次郎と同じように心を奪われた三人のグループ客がいた。
「ん?あんたたちは?」
「あっ、これは失礼しました。」
隣の客が立ち上がり、互いに自己紹介した。
「僕は五十嵐勝です。」
「沖田進次郎です。」
「勝の兄の五十嵐賢一。フィリピンと内地で貿易を営んでいます。」
「僕は桜井洋介です。」
「私は厚木十三です。私たちは輸送船の乗員です。」
「私はフィリピン在住のランス・ホワイトです。」
最後の一人は外国人の紹介で終え、同じテーブルを囲んで飲み交流した。
「へぇ~、五十嵐さんらは開戦以前からフィリピンに移住してたんですか。」
「えぇ、それに厚木さん達三人はラバウルとトラック諸島を輸送船で航海とは、アメリカの潜水艦で苦労したんですね」
進次郎と洋介、そして五十嵐兄弟と意気投合、交流を深める時、十三とホワイトがカウンター席で四人以上に何かの親睦をしていた。
四人は二人の関係が気になったが、閉店により、退出した。
「では、皆さんさらばだ~」
「戦争が終わったら、また会いましょう~!」
両グループは商店街の路上で別れた。そして、厚木小隊は道路に駐車していた軍用トラックに乗車。十三と洋介は酒で酔いしれ、運転は進次郎に任された。
「…ふぅ~…しかし楽しかったな~洋介、進次郎~♪」
「…はい…しかし、隊長…なぜ、我々が輸送船の乗員と偽りを?」
進次郎は運転しながら十三の交流を疑問に質問した時、次にやや酔った洋介が十三に呟き質問した。
「…隊長…僕の感ですが、あの貿易を営んだ連中は…スパイ…ですか?」
洋介の言葉で、十三は酔いが覚めたかの様に口にした。
「…あぁ…相変わらず洋介の感は鋭いな、あいつはランスロー・ホワイト・アイリッシュ。俺が士官候補生時代、アメリカのハワイ留学していた友人だ。」
「「 え…? 」」
洋介と進次郎は、自信の隊長である厚木十三があの場にいたグループがスパイ、一人が友人がいたことに驚愕した。
マバラカット基地に帰隊して数日後。アメリカ軍がマニラに上陸。進次郎たちは一時、陸戦隊として地上戦に参加。
十三の装備は百式短機関銃と軍刀鬼無双。洋介は四式半自動小銃と軍刀鷹狼。そして、進次郎も航空機載銃を所持してアメリカ兵、現地ゲリラと戦った。
トラックで基地に帰投。厚木小隊から新たなる指示が下された。
「日本の厚木に転属ですか!?」
「そうだ、四ヶ月振りの日本に帰れるんだ!」
「「 やった〜! 」」
進次郎と洋介は喜びに溢れたが、その裏腹に残念な知らせを告げられた。それは、二人の愛機が特攻隊用の航空機に駐機されることだった。
「すまん…お前たち、エースパイロットは輸送機に搭乗することになった。すまん…」
十三は進次郎たちに謝罪した。
「なぁに、気にせんで下さい隊長!」
「そうですよ、隊長。しかし、隊長自ら護衛に駆って出るなんて…」
「はっはっは!俺も、少佐になっても戦闘機乗りだ。戦闘機があればそれに乗り、敵がくれば敵と戦う。ただ、それだけだ!」
そう。十三はかつて、ラバウル基地から本土に転属した上官である天沼俊介大佐から昇進の電文が送られた。
「お前たちは俺の大事な仲間だ。俺も日本に帰投するまで、愛する柚子と…あ…新たなる命も…///」
「「 え…? 」」
「…いや、なんでも…///」
進次郎と洋介の前で、十三は珍しく赤面した。
2月1日、洋介と進次郎は零式輸送機に搭乗。そして、ただ一機の護衛機、隊長の十三は愛機の零戦に搭乗。輸送機と零戦が滑走路を走り、離陸した。
行き先は鹿屋基地経由、厚木基地へ向かう途中、南東から3つの機影が出現した。
「桜井さん、南東に……敵機です!!」
「なんだって!?隊長っ!」
気付いたのか、十三機が機体を反転させた。ただ一人だけ敵の群集に立ち向かった。
三機の内一機がはみ出し、その機体は進次郎と洋介にとって、忘れたことがない機体の左右の翼に白い線が描かれたグラマンF6Fヘルキャットだった。それがランスロー・W・アイリッシュ少佐だった。
マバラカット上空で、十三機とランスロー機による激しい空中戦が始まった。
終盤辺りで巴戦が始まった。二機は速度の激しいGにより身体と機体が悲鳴を上げた寸前に水平飛行。最後に正面でぶつかる勢いで機銃を放ち、ランスロー機の片翼がもがれて落下した。
「やった、隊長が勝った!」
「あぁ、さすが隊長だ…はっ…」
「『ガガ…洋介、進次郎…柚子とまだ見ぬ子供によろしく…さらばだ…サザー』」
空中戦が終え、輸送機の無線機から雑音と共に十三の疲れきった言葉が告げられた時
「「隊長…厚木隊長っどこへ…!?」」
十三機は急降下、無線のスピーカーから十三の歌声が響いた。歌いながら見渡す限りのジャングルに吸い込まれるように…
2月1日、フィリピンのクラークフィールド・マバラカット上空にて日本海軍少佐、厚木十三が戦死。
輸送機から見ていた進次郎と洋介はその光景を見て、涙を流した。
「…そんな…そんな…隊長!!厚木隊長っー!!」
「…厚木隊長…」
輸送機の両側に二機のヘルキャットが接近、本機体のパイロットは慌てたものの、ヘルキャットのパイロットが敬礼。直ぐに母艦に引き返した。
アメリカ海軍 空母エセックス
パンサーが待つ母艦エセックスに二機のヘルキャットが着艦した。だが、隊長機の姿は無かった。
「…バッキーさん…トムさん…隊長は…?」
「…パンサー…あぁ………」
「…日本の友人と、フィリピンで…共に歌を歌いながら……」
「……そうですか…」
アメリカ海軍少佐、ランスロー・W・アイリッシュはフィリピンの空に散って逝った。
バッキーとトムの兄弟は愛機を格納庫に収納した後、食事を摂らずに一晩部屋で休んだ。
日本、2月4日。厚木基地ー
進次郎と洋介は厚木基地、第302航空隊、第5中隊、第1小隊に配属した。
帝都防衛の要となる基地。幾つもの戦闘機が並べてあった。
だが、転属しても二人が搭乗する戦闘機が無く、格納庫に置かれているドラム缶に座りながらふて腐れていた。
「…桜井さん…」
「あぁ、……内地の防衛と言えども、外地からのパイロットが集まりすぎて、余分の戦闘機がない……」
カキイィン
二人が僻んでいると、瞬時、スパナで頭部を強打された。殴ったのはフィリピンのエンガノ沖海戦で別れた秋山敏郎兵曹長であった。
「洋介、進次郎!久し振りだなぁ~♪」
「痛てぇー!!あ、あんたは…トチローさん!」
「トチローさん!」
「たっはっは!今の愛機を持っていないおめぇらに、朗報だ!」
「「 朗報ですか…? 」」
「おぅよ!厚木基地司令である天沼のオヤジさんの命令だ。三沢基地で新型機を受領。今夜、青森行きの夜行列車に乗るぞ!」
「新型機ですか!?」
「しかも三沢に……列車で移動とは…」
トチローの指示で洋介とトチローは厚木から東京駅、青森行きの夜行列車に乗車した。
「洋介、進次郎。十三がフィリピンで散ったことは気の毒だなぁ」
「…トチローさん…俺は柚子さんに会わす顔がありません…」
当然、トチローは十三の戦死したことを知り、当然妻の柚子も訃報を知って嘆き悲しんだ。
「あいつの仇を取れと言わん、十三の分も戦い、生きるんだ。」
「「 はい!! 」」
進次郎と洋介は勢いよく返事をした。
翌日の早朝。三人の列車は本州北端で豪雪の青森駅に到着、駅前には軍用トラックが迎えに来ており、荷台に乗車。
向かうは三沢海軍航空隊基地。
三沢海軍航空隊基地ー
トチローは基地の関係者に受領印を終えた後、進次郎と洋介と共に新型機が納める格納庫に向かった。
「この格納庫だなぁ〜!洋介、進次郎。手を貸せ!」
「「はいっ!」」
三人は格納庫の扉を開けた。その機体は二機の零戦だった。だが、進次郎は顔をしかめ、不満気味であった。
「トチローさん、こいつはなんですかぁ~」
「零戦だなぁ」
「そんなことわかっています!!オレは桜井さんと厚木隊長と共に3年も乗ってきたんだ!今更零戦ですか!」
「これはおめぇらが使用する零戦でぃ!何か不満だな進次郎!」
「トチローさん、この機体じゃあアメリカ軍機じゃ抵抗できるのですか!?」
「トチローさん、進次郎!だが、新型機なのは間違いない…」
「そうなんですか…桜井さん…?」
二人が一触即発になり掛けた時、洋介は新型機に近づき、制止、接触。今まで搭乗した零戦と違っていた。
機体のプロペラ部分、発動機とカバーが一回り大きく、機首武装は廃止、代わりに気化器空気取入口が設置。両翼は20ミリ機銃と追加した13ミリ機銃。
トチローは改めて受領リストで名称を確認した。
「これは…零式艦上戦闘機64型だ…」
「64型?」
本来、四は死という意味で使わない数字。今となっては、四が縁起が悪いなどと言えないご時世だった。
零戦各型に搭乗、戦場で散って逝った幾千のパイロットの事を考えれば、死を意味する四を避けた事になんの意味もなかった。
金星62型エンジン、1500馬力。1130馬力エンジン搭載の零戦52型を遥かに凌ぐ速度と上昇を生み出す。
「…零戦64型…」
「乗ってみるか、洋介、進次郎!!」
タイミングがよかったのか、雪が止み、除雪が済んだ滑走路で、進次郎と洋介は新型の零戦64型に搭乗、津軽湾上空で試験飛行を行った。
「すげ~!!この64型、今までの性能と全く桁違いだ~!!」
42年時、進次郎が初めて搭乗した零戦22型甲以来、初めて赤トンボに搭乗した時の様に興奮した。
初陣のソロモン海戦からラバウルで幾つもの戦闘機や爆撃機を敵機を撃墜した。
そして44年から52型に機種変更。だが、戦いがなが引くに吊れて、本土で敏腕の職人が兵隊として徴兵されて、航空機の性能が曖昧になった。
新型の64型に搭乗、今まで旋回の性能が向上。操舵関係には電動式を採用。
外板には強度不足を補うため厚板を用いている。厚く、重量が増えたが、滑らかな仕上がりにより、速度が落ちることはない。
進次郎は今までの零戦と桁違いで驚愕した。
「(600、750キロ!これなら、どんなアメリカ軍機でも戦い、生きれる!!)あれ、桜井さんは…?」
洋介も進次郎と同様、64型に搭乗して興奮、彼は急上昇と急降下、左右旋回などの光景は鷹の如し。
三人の配属する厚木基地までの帰投は二手に別れた。進次郎と洋介は零戦64型を受領して空路。トチローは部品を列車に輸送して帰投した。
だが、桜井洋介がこの零戦64型を受領して、運命が変わることは、まだわからなかった。
沖田進次郎の隊長、厚木十三とライバルのランスロー・W・アイリッシュはフィリピンで散って逝った。
彼らに関わる生き残ったパイロットたちは、どんな道を歩むのか。君は、生き延びることができるのか…?