1943年4月の夕暮れが沈む大西洋、シェルブールにて一隻の日本艦、伊号第155潜水艦が浮上。
本艦から一人の日本人少女、陸軍一等兵の豊田純子が潜水艦のハッチを開けて大西洋を眺めた。
「あぁ…あれが欧州なのね……」
純子は眼を輝かせながら欧州の一端、フランスを眺める時に戦車の車長、桜井勇介陸軍曹長と大賀晴香軍曹が梯子を昇り、外の空気を吸った。
「桜井車長、欧州です。もうすぐ着きますよ!」
「あぁ~もうすぐ…欧州か~……早く陸地に…着きたい…!」
勇介は潜水艦に酔いつぶれながらも、陸地にたどり着ける希望を持っていた。
伊号155潜水艦はドイツ占領下シェルブールの潜水艦隊基地で補給整備を受けた夜、純子は月が照らされる欧州のフランスに足を踏み入れた。
「フランスだ、車長!私はとうとう欧州の地に着いたのですね!!」
「確かにここは欧州だけど、月夜が照らされていると写真を撮るのは難しいねぇ~」
純子ははしゃぎ、晴香がカメラを所持して記念写真を撮ろうとした時刻は夜。残念な顔をしていた。
そして、勇介は酔いが醒め、彼が所持する軍刀『狼虎』を鞘から抜き、素振りをした。
「おいおいお前たち、俺たちはフランスに上陸したと言えども、観光旅行に来たんじゃないぞぉ~」
「わかってますよ!」
「車長こそ、今のうちに酔い醒ましの薬を補充したらどうですか!」
「うぅ…///返す言葉がないな~」
そう言って勇介は酔い醒ましの薬を補給しに潜水艦基地の医務室へ向かった。
翌日、早朝。伊号155潜水艦はドイツのキール港に向けて航海した。正午になる頃に本艦上空にドイツ空軍戦闘機メッサーシュミットが飛来、純子は護衛の戦闘機を見て呟いた。
「…進次郎さん……」
「なに戦闘機を見ているの純ちゃん!もしかして、沖田兵曹を考えているの?」
「っ!?///……そっそんな…///」
「顔に書いているわよ!」
「///……そう言う晴香姐さんに誰か想う人はいるのですか…?」
「いないけど、あたしには家族と兄がいるの」
「お兄さんが…いるのですか?」
大賀晴香には兄の大賀虎雄がいた。開戦前の当時、陸軍の特別見習いの晴香は佐世保の面会で陸軍の下士官に絡まれ、市街地で兄の虎雄と再会しながら、得意な柔道と空手で助けられた。
たが、陸海軍の関係で虎雄は左遷。遥か彼方のショートランド島で水上戦闘機パイロットとして配属された。
伊号155潜水艦はドイツ海軍艦艇が並ぶキール港に到着。到着した倉庫前の波止場に日本駐在武官の職員が並び、純子たちは勇介の後に続き、職員の前に整列した。
「帝国陸軍曹長、桜井勇介以下2名。只今を持ってドイツ第3帝国国防陸軍の戦車講義の留学に命ぜられ、只今着任しました!!敬礼!!」
純子と、指揮官の勇介たち留学生が敬礼する時、左端の人物が赴いた。
「よく、遥々日本からドイツに来られた桜井曹長。私が大使駐在武の副官、陸軍中佐の松本義孝だ」
「大変、感謝します!!」
「(このドイツで、車長たちと新たなる戦車技術を磨き、日本に)」
純子たちは勇介と晴香の三人で全く松本義孝の元で、ベルリンへ行くため汽車に乗車。
揺れ動く客車に乗車して、ドイツの風景を眺めながら数時間、一行はベルリン駅に到着した。だが、彼らが目の当たりにしたのは、駅のホームはドイツ兵の負傷病者が溢れて惨状だった。マレー・フィリピン攻略を経験した勇介ですら冷や汗を掻いていた。
「……なんてことだ、これは……」
ソビエト・ロシアの東部戦線ことスターリン・グラードの激しい攻防の末、ドイツ軍は大敗。そして、命からがら撤退したのであった。
日本駐在武館ー
「独ソ戦線でそんな事が……」
「広大な領土を持つロシアを侵攻するために2年前、不可侵を破ったドイツは軍は首都モスクワ郊外まで迫ったものの、かつてのナポレオン軍同様、冬将軍に破れた。」
松本中佐が掴んだ情報で、純子たちは息を呑み込んだ。
そして去年の夏、ペテルブルグことレーニン・グラードとスターリン・グラードを侵攻を再開。だが、冬までの長期戦でドイツ軍は再び冬将軍に破れた。
「明日、諸君らはドイツ式戦車技術の対戦車戦闘関連を徹底的に学び、必ず日本に帰国して広めるのだ!」
「「「 はっ!! 」」」
「(ロシアはいずれ、我々、いや、日本と戦うことになる。それまで何とかせねば!)」
松本は影で顔を吊り上げながら呟いた。
翌日、3人はドイツ陸軍、戦車育生学校に入った。
生徒はドイツ国内のドイツ人、日本人、ルーマニア、フィンランド、男女の性別を問わず、純子たちと変わらない若者が入隊。周囲に溶け込み、それぞれの科目を歩んだ。
車長たる勇介は、講堂で車長としての統率、気を配りながらの指示法、ドイツならではの通信機器、スロートマイクの扱いを必修。
砲撃手の晴香は、今までの射撃法を切り捨て、戦車の練習用のピストルグリップを握り、引き金を絞りながら照準機器を覗き、感覚を掴んだ。
そして、純子は訓練用の操縦席でシミュレーション。レバー操作とペダルギアの調整、装填速度方法で手こずっていた。
「(思ったより、レバーとペダルが固い……)あ、痛!これは、かなりの体力がいるなぁ~」
勇介がグランドで剣術の鍛練をする中、純子は体力を補う為に日々のトレーニングを開始した。
「はぁ…はぁ…曹長と晴香姐さんの様に鍛練を……(進次郎さん、……太平洋の戦線はどうですか…?)」
純子は、身体を西南西に向けて、進次郎の心配を呟いた。
ドイツに留学して一月、5月。戦車に乗車する日にちがやってきた。乗車訓練するドイツ戦車は、希少になった。松本中佐の情報によると、再びソビエト・ロシアの一大決戦が近い為に、主力戦車は当然、軽戦車と軽装甲車すら引き抜かれたのであった。唯一残っていたⅡ号戦車の搭乗に順番待ちにした時がやってきた。
晴香は砲塔の砲手座席に配置。そして純子は操縦席に配置。勇介は砲塔のキューポラの座席に座り、合図を出した。
「……パンツァーフォー!!」
「了解!!」
勇介のドイツ式戦車前進の合図で純子は操縦桿を倒し、前進した。
「凄い、軽戦車と言えども。九五式、九七式チハの性能と違うなぁ~」
東南アジアのマレー・フィリピン戦線で九五式、九七式戦車で乗車経験した勇介でさえ性能が違うことを実感した。
何回か乗車して、初めての休暇外出でドイツの街並みを見物。幾つかの観光を見物を終え、軍御用の喫茶店に入店した。その喫茶店で赤茶色髪の少女のピアノが奏でる中、珈琲を注文した。
「いい雰囲気の喫茶店だな。ススゥ…」
「うっぷ…この珈琲…何の味なんでしょう?」
「ん…タンポポの珈琲だな。悪くない味だが、このドイツでも珈琲豆の入手が困難か」
「えぇ、ここまでの戦いが続いていれば物資が枯渇しかねない……」
「……この代用品で士気が曖昧になりますよ…」
「全くですわね…」
「「「 ん…? 」」」
純子たちの会話の中で、ピアノを弾いていた少女が流暢な日本語で呟いた。
「失礼、ごめんあそばせ。わたくしはアリシア・A・フェアバンクです。通信部隊の曹長ですわ桜井勇介曹長、大賀晴香伍長、豊田純子一等兵。」
「「 !? 」」
「なんで、俺たちのことを……?」
「わたくしは通信情報員です。異国のおサムライさんたち、わたくしの身体に1/3ほど日本の血が流れています。みな様の武運をお祈りします。ご機嫌よう。」
アリシアはピアノの席から立って、純子に背を向けて喫茶店から出た。
「……なんとも、不思議な少女だな車長…」
「あぁ、まさかあの娘は日本とドイツのハーフか~」
「車長、ハーフは1/2、1/3はクォーターです!」
「あ……そうなんだ///……そろそろ…じ…時間…だから基地に戻ろう……///」
その言葉で勇介は赤くなり、腕時計を見ながら誤魔化して基地に帰還した。
「お前たち、この期間で物覚えが早いなぁ~」
「そんな事ないですよ、松本中佐殿」
「そうです!我々は単に、戦車の技術を学ぶ留学生であります」
月日が流れ、厳しい訓練でやり過ごしている時、ある少女が駆けつけに来た。
「松本中佐、失礼します!」
「ん…?君は!?」
「パウラちゃん!」
彼女はパウラ・M・オットー。日独のハーフで日本大使館、松本義孝中佐の姪でありながら身体を鍛え、オリンピックに出場できる夢見ながらドイツ国防軍の戦車隊員。そして、松本に電報を持参してきた。
「ありがとう……ドイツ軍がソビエト・ロシア軍と……クルスクにて一大決戦……!?」
この日、7月4日。クルスクでドイツ対ソビエト軍による史上最大の会戦が勃発した。両軍のあらゆる戦車や航空機を投入。草原と青空が鉄に溢れ、大地は血に染まった。
ドイツの名将のエルヴィン・ロンメルは病で本国に後退。アフリカ戦線では米英軍の反撃で相次ぎ後退。9月8日、日独の同盟国イタリアは米英軍の猛攻に怖れ、無条件降伏。ドイツに宣戦を布告した。
「この戦争………どうなるのかな……進次郎さん…」
純子は教育学校のグランドに立ち、空を眺めた。
欧州ドイツの地に足を踏み入れた純子たち3人。
留学生活の最中、関わりのある少女。
ソビエト・ロシアの激戦地スターリン・グラードで大敗、イタリアの降伏。
この暗雲が漂う欧州で、生き延びることができるのか…?
次回、以前奇襲を受けたハワイのオワフ島。人種を越えた軍人、軍属である家族と、一度きりの交流会。